ジャズ喫茶で流したい・301
現エストニアのタリンでのライヴ録音。タイトルは「イン・ロシア」だが、これは正確ではない。正確を期すなら「イン・USSR」もしくは「イン・エストニア」だろう。録音時は1974年。まだまだ冷戦真っ只中。どういう経緯で、当時のソヴィエトでのライヴ公演になったのだろうか。
Oscar Peterson Trio『Oscar Peterson In Russia』(写真左)。1974年11月17日、当時のソヴィエト連邦、現エストニアのタリンでのライヴ録音。パブロ・レコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Oscar Peterson (p), Niels-Henning Ørsted Pedersen (b), Jake Hanna (ds)。
このライヴ盤を聴く限り、タリンの聴衆はモダン・ジャズをちゃんと理解して、有名スタンダード曲の時など、拍手が一層大きくなったり、ソロの展開の時もしっかりと聴き、ソロが終わると大きな拍手を送る。ソヴィエト占領下のタリンとはいえ、モダン・ジャズの理解は素晴らしいものがある。
ここでのピーターソンは、もともとのピーターソンの持つ実力を遺憾なく発揮している。この頃のピーターソンは、ベテランの域に達し、しかし米国のジャズは凋落の一途。ライヴによっては、独りよがりに、ハイ・テクニックの限りを尽くして、ピアノを勝手気ままに弾きまくって、顰蹙を買うこともしばしばだったが、ここでの、ソヴィエトでのピーターソンは違う。
共産圏の聴衆に対して、アートとしてのモダン・ジャズを聴かせよう、と思ったのだろうか、このライヴ盤でのピーターソンは、実にアーティスティックで、実にジャジーで、弾き回しは、ダイナミズムはちょっと控えめに、適度に上品で端正、バリバリ勝手気ままに弾きまくること無く、「抑制の美」を身を持って示したような、上質でアーティステックなピーターソンのピアノがこのライヴ盤にてんこ盛り。
「抑制の美」を纏ったピーターソンは無敵である。気品漂う、小粋なフレーズを、ほど良く抑制、コントロールされたダイナミズムで、クラシックばりの途方もないテクニックで弾き回す。「これが、ジャズ・ピアノだ」と言わんばかりの上質でアーティスティックでジャジーな弾き回し。タリンの聴衆に対して、最高のジャズ・トリオのパフォーマンスのひとつを、誠実に格調高く弾き進めるピーターソン・トリオは立派だ。
選曲も共産圏の聴衆向けに、有名中の有名スタンダード曲や、ピアノ・トリオで映える小粋なスタンダード曲などが選曲されていて、聴いていて、とても楽しい。アレンジもいつになく優秀で、バックを司る、ペデルソンのぶんぶんアコベも良い音だして絶好調、ハナのドラミングもハードバップな堅実ドラミングで好調を維持。トリオ演奏として、水準以上を行く、1970年代のピーターソン・トリオの代表的演奏の一つがこのライヴ盤に記録されている。
面白いのはジャケット写真の「ピーターソンの服装」。定番の黒スーツではなく、カントリー調のデニム・ジャケットを纏ったラフな服装。クラシックではない、ジャズのピアノ演奏なんだと、デニム・ジャケットでアピールしたかったのだろうか。でも、意外と似合っている、と思っているのは僕だけだろうか。とにかく、このライヴ盤は好盤。ピーターソン者の方々は必聴でしょう。
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