チェットのボーカル名盤の一枚
米国西海岸ジャズの中で、人気ナンバーワンのトランペッターと言えば「チェット・ベイカー(Chet Baker)」。但し、ジャズ盤紹介本ではボーカリストとしてのチェットをクローズアップしているものが大多数。チェット・ベイカーと言えば「ボーカリスト」と認識しているジャズ者の方々も多いのではないだろうか。
『Chet Baker Sings』(写真)。1954年2月15日の録音。Pacific Jazzからのリリース。ちなみにパーソネルは、Chet Baker (vo, tp), Russ Freeman (p, celesta), Carson Smith, Joe Mondragon (b), Bob Neel (ds)。ラス・フリーマン率いるリズム・セクションをバックに、チェットがボーカルをメインに唄いまくる。チェット初のボーカル盤。
このアルバムが発売されるまで、チェットはほぼ楽器演奏のみを行っていた。母親は彼の歌声を気に入り、長年もっと歌ってほしいと頼んでいた (Wikipediaより)。ということで、チェットは、母親の要請を受けて、初のボーカル盤を録音している。なるほど、母親はチェットのボーカルの優秀性と個性を見抜いていた訳である。ただし、プロデューサーのディック・ボックは懐疑的だったそうだ(恐らく「中性的なボーカル」が好きではなかったのだろう...)。
チェットのボーカルは、男性ボーカルらしからぬもの。ヘタな女性ヴォーカルより、ずっと繊細で何処か退廃的な臭いが感じられる「中性的なボーカル」はチェットのボーカルの独特の個性。ジャズ・ヴォーカルにつきものの大胆なフェイクは使わず、メロディーをストレートに歌い上げるシンプルなスタイル。そして、まろやかな声で、耳元で囁くように、それでいて芯のあるボーカル。これが「癖になる」。
そんなチェットのボーカルが映えに映えるのが、チェットの代表的歌唱で有名な「My Funny Valentine」。この曲、チェットの歌唱ばかりが評価されるが、バックのラス・フリーマンのピアノ伴奏も見事。この見事なフリーマンの見事な歌伴に乗ってこそ、チェットの個性的なボーカルが映えに映える。チェットのボーカルとフリーマンの歌伴との「化学反応」が、チェットの「My Funny Valentine」の歌唱を最高のものにしている。
チェットの「中性的なボーカル」は、男性ボーカルではない、とする向きもあるが、それは「声色」についての好みの問題だろう。ただし、チェットのボーカルについては、テクニック・音程・歌心など、ボーカリストとして必要な資質・能力は高いものを保持していて、それを踏まえての「中性的なボーカル」なので、ボーカリストとしての力量は「一流」だと評価できる。まず、この盤では、チェットのボーカリストとしての優秀性をしっかりと確認したい。
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