ピアノ・トリオの代表的名盤 103
個性派の幻のピアニストの一人、ハービー・ニコルス(Herbie Nichols)。1963年、満44歳で没して、生涯4枚のリーダー作しか残さなかった。
どこが個性派なのかというと、まず、ブルーノートの『Herbie Nichols Trio』(左をクリック)を聴いてみると判る。音の響きは、まるで「セロニアス・モンク」。そのフレーズのノリはモンクと同じく「スクエア」で、ところどころ不協和音を配した、ちょっと前衛的な響きのする個性的なピアノ。
加えて、ピアノの鍵盤を叩き、弾く様に弾く。ピアノという楽器の打楽器的要素の部分をフレーズの真ん中に置いている。これもモンクと同じ。しかし、その打楽器的要素は、モンクのそれと比べると、それほど複雑では無く、哲学的では無い。ニコルスのそれは、平易で判り易い「打楽器的要素」。
右手の捌きは「ビ・バップ」。モンクの様に間を活かした幾何学的なフレーズの積み重ねでは無く、モンクの間を音符で埋めた様な、饒舌なビ・バップ的なフレーズの積み重ね。僕は、このハービー・ニコルスのピアノを「饒舌でビ・バップなモンク」と評している。
Herbie Nichols『Love, Gloom, Cash, Love』(写真左)。1957年11月の録音。ベツレヘム・レーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Herbie Nichols (p), George Duvivier (b), Dannie Richmond (ds)。ハービー・ニコルス最後のリーダー作である。ブルーノートの『Herbie Nichols Trio』は、1955年8月と1956年4月の録音だったから、それから1年半後のリーダー作になる。
このアルバムを聴いて面白いのは、ブルーノート盤『Herbie Nichols Trio』で見せた独特の個性が、聴き易いタッチとフレーズのバップ・ピアノになっているのだ。ブルーノート盤『Herbie Nichols Trio』では、個性を出し過ぎた、とニコルス自身が思ったのか、ベツレヘムのプロデューサー、 リー・クラフトがそう思ったのか、かなり聴き易いニコルスに変化している。
ニコルスの個性はそこかしこには残っている。しかし、ブルーノート盤『Herbie Nichols Trio』で見せた強烈な個性は、このベツレヘム盤には無い。ビ・バップなピアノとしての個性は残ってはいるが、演奏全体の雰囲気は上質なハードバップなピアノ。ちょっと雄々しくゴツゴツしたバップ・フレーズが癖になる。強烈な個性が後退した分、この盤のニコルスのバップ・ピアノはとても聴き易い。
独特の個性はフレーズのところどころにひっそりと残っているのだが、それが適度がゆえに、ブルーノート盤『Herbie Nichols Trio』で特徴的だったかなり過激な、スケールの大きい全音階の使用も、本作では意識的に抑えられてる。しかし、それが功を奏していて、この盤、ダンディズム溢れる、端正で硬派なピアノ・トリオ作品に仕上がっているのだから面白い。
耳当たり抜群に良くて、この路線で、時々、独特の個性を見せつつ、端正硬派なバップ・ピアノを弾き進めていったら、意外と人気ピアニストの仲間入りをしていたかもしれません。この盤、たった一枚ですが、ピアニスト、ハービー・ニコルスの存在証明の様な、ピアノ・トリオの佳作が残ったことは、生前、不遇だったニコルスとしては、唯一、幸せなことだったかと思います。
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