マイケル・ブレッカーの「遺作」
マイケル・ブレッカーの遺作になる。マイケルは、骨髄異形成症候群によって健康状態が悪化、2005年に活動を停止した。懸命の治療により、2006年、状態は小康状態となり、その機会を捉えて、同年8月に本作を録音。しかし、マイケルは、2007年1月13日に57歳で逝去。このアルバムは、マイケルの逝去の後、4か月後に遺作として発売されたアルバムである。
Michael Brecker『Pilgrimage』(写真左)。2006年8月の録音。邦題『聖地への旅』。ちなみにパーソネルは、Michael Brecker (ts, EWI), Pat Metheny (g, g-syn), Herbie Hancock (p, Fender Rhodes tracks 1, 5, 8, 9), Brad Mehldau (p, tracks 2, 3, 4, 6, 7), John Patitucci (b), Jack DeJohnette (ds)。
2006年9月、パット・メセニーは「まさにマイク(マイケル・ブレッカーの愛称)の新時代の夜明けを告げる、啓示のような作品だ」(Wikipediaより引用)とコメントしているが、まさにその通りの音世界である。
マイケルのテナーとパットのギターの2フロントが新鮮な響き。ハンコックのローズのアグレッシヴな響き、メルドーの力強くリリカルな個性的なピアノ。パティトゥッチのベース、デジョネットのドラムのリズム隊の推進力が半端ない。
興味深いのは、錚々たるメンバーでの録音なんだが、それぞれが過去の自分の個性的な音に拘らず、この時点のマイケルとパットのフロントの音に合った、フロントの音をひき立てる、新しい音を創出しているところ。全く古い響きがない、2006年時点のコンテンポラリーな純ジャズである。
マイケルのテナーが個性的。ロリンズやコルトレーンといった、過去の伝説のテナー・マンの音とは異なる、マイケル独自のテナーが凄い。基本はモードなんだが、フレーズの吹き回し、フレーズの作り、フレーズの滑らかさ流麗さ、ロリンズでもなければ、コルトレーンでもない。
聴いていてふと思ったのは、一番近しいイメージは「マイルス・デイヴィス」。アコースティック・マイルスの、モード全盛期のマイルスのアドリブ・フレーズの雰囲気に近い(と言って、模倣でも無いし、フォロワーでも無いのだが)、マイケルの吹き回し。
心地よいテンション、芯のある力感溢れる吹上げ、囁く様なバラードの吹奏。マイケルのマイケルによるマイケルの考えるモーダルなテナーがこの盤に溢れている。
全員マイケルの病状のことはよく知っており、マイケル自身も含めて、これがマイケルの遺作になるかもという予感もありながらの演奏だった様だが、この盤を聴いて思うのは、この盤に溢れているのは「遺作=終着点」では無く、次を見据えた、良い意味での「発展途上」な雰囲気。マイケルの考える「コンテンポラリーな純ジャズ」が、初めて「音」になった、そんな感じを強く感じるアルバムである。
このマイケルの考える「コンテンポラリーな純ジャズ」が、発展〜深化されなかったことを、僕は「無念」に感じている。マイケルの逝去には「無常」を感じた。このマイケルの考える「コンテンポラリーな純ジャズ」が、発展〜深化は、マイケル自身でしかなし得ないことで、マイケルが逝去して、この盤で「発展〜深化」が途絶えたのは仕方ないことではある。
マイケルが最終ミックスにゴーサインを出したのは亡くなる4日前だったという。目前に「死」を強く感じながら、自らの録音を客観的に評価し判断を下す。凄い克己心である。マイケルは責任感を強い人だったのだろう。だからこそ、この録音が「遺作」として世に出た訳で、今でも、このマイケルの考える「コンテンポラリーな純ジャズ」を繰り返し愛でることができるのだ。
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