続『At The Deer Head Inn』
今、キースはどうしているのだろう。2度の脳卒中を起こし、音楽活動の復帰が困難な状況にあることを米『ニューヨークタイムズ』紙が報じたのが、2020年10月。キースいわく、1年掛けてかなりリハビリしたものの、片手でしか演奏できず、「両手演奏のピアノ曲を聴くと、非常にもどかしく感じる」。
ちょっと調べてみたら、ニュージャージー州、オックスフォードの自宅で療養生活を送っているとのこと。以前のように弾けなくとも、とにかく元気でさえいてくれれば…、と願ってやまない今日この頃。そんなある日、キースの新譜リリースの報が流れてきた。
Keith jarrett『Old Country: More from The Deer Head Inn』(写真左)。1992年9月16日、ペンシルベニア州デラウェア・ウォーター・ギャップ地域にある「Deer Head Inn」にてのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Paul Motian (ds)。かつてのキースのホームグラウンド「Deer Head Inn」での「里帰り」ライヴの音源。
キースの2022年リリースの『ボルドー・コンサート』以来の新譜は、1994年リリースのライヴ録音作品『At The Deer Head Inn』の続編である。いや〜驚いた。元々この、1994年リリースの『At The Deer Head Inn』は、キースのトリオ作の中でもお気に入りの作品。このライヴ音源がまだ残っていたとは思わなかったので、リリースのニュースに触れた時には「狂喜乱舞」。
1992年9月16日、この『At The Deer Head Inn』のライヴ録音は、ドラムにジャック・デジョネットの「スタンダーズ」の音よりも、しっかりテンションを張っているのだが、どこかジェントルで、どこか寛いだ雰囲気が漂う、「スタンダーズ」より、音のエッジがラウンドした、柔軟でフレシキビルなトリオ演奏が特徴だった。
「この日の夜は、ポコノ山脈の暖かく湿った雨の降る秋の夜だった。部屋には人でいっぱいで、外のポーチではもっと多くの人が網戸越しに聴いていた」ー キース・ジャレット。
今回の続編でも、その雰囲気はしっかり踏襲されている。というか、よりジェントルで、より寛いだ雰囲気が漂う、暖かい雰囲気が加味されたトリオ演奏。前のライヴ盤は、どこか「スタンダーズ」に繋がる部分があったのだが、今回の続編は、明らかに「スタンダーズ」とは異なる雰囲気。これはこれで、実に魅力的な「全く別のスタンダーズ」である。
キースのピアノは「スタンダーズ」と変わらないのだが、やはり、ドラムが変わっているのが、この「全く別のスタンダーズ」の音を生み出しているのだろう。
ダイナミックで切れ味良く挑みかかる様なポリリズムが身上のデジョネット。かたや、このライヴ盤では、ポール・モチアンの品のある変幻自在の柔軟なドラミング。このポール・もちアンのドラミングが、キースに一時の「気分転換」をもたらして、原点回帰なリリカルで透明度を湛えた、キース独特のバップ・ピアノを聴かせてくれる。
キースがプロ・デビューする以前にずっとライブ活動をしていた古巣の「The Deer Head Inn」。そして、16年ぶりのポール・モチアンとのライヴ・セッションということで、キースの「原点回帰」な、切れ味良くリリカルだが、どこか寛いだピアノが聴ける、全曲スタンダードのライヴ音源。
今回のライヴ盤は、当然、1994年リリースの『At The Deer Head Inn』と併せて聴くことをお勧めする。すると、元々の1994年リリースの『At The Deer Head Inn』がもっと好きになり、このライヴ盤の魅力も倍増すること請け合いです。しかし、このシンプルすぎるジャケだけは、どうにかならなかったのだろうか。
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