聴くべきは古澤のドラミング
1970年代後半から80年代前半にかけて、我が国のジャズ・シーンは、フュージョン・ジャズの大流行に並行して、メインストリームな和ジャズが、クロスオーバー志向を強めた異種格闘技な演奏展開や、フリー&スピリチュアル・ジャズの強化、という、米国や欧州とは異なる、独自の深化と分化を遂げていたように思う。
『12,617.4km 古澤良治郎の世界ライヴ』(写真左)。1980年の作品。ちなみにパーソネルは、古澤良治郎 (ds), 高橋知己 (ts), 廣木光一 (g), 大口純一郎 (p), 望月英明 (b) のレギュラー・バンドに、ゲストとして、山下洋輔 (p), 森山威男 (ds), 川端民生 (b), 大徳俊幸 (p), 向井滋春 (tb), 渡辺香津美 (g), 本多俊之 (as), 明田川荘之 (p), 三上寛 (vo, g) が入るという、錚々たるメンバーでのライヴである。
不思議な音世界のライヴである。ジャズを中心に置いてはいるが、他のジャンルの音と積極的にクロスオーバーした「異種格闘技」風の中身の濃い演奏がてんこ盛り。広い意味で「クロスオーバーな純ジャズ」だが、正当な内容の厚い、完全フリーな演奏もあって、ここまでくると、クロスオーバーというよりは、純ジャズをベースにした異種格闘技なジャム・セッションと形容して良いかもしれない。
ロックと融合したクロスオーバー・ジャズな展開もあれば、モーダルなジャズの展開もあり、どフリーでスピリチュアルな演奏もあれば、グルーヴィーな響きもあり、遂には、フォーク界の人と思われる三上寛が参加して、エモーショナルなボーカルで叫ぶ。一体何なんだ、この音世界は。ただ、演奏するミュージシャンが一流どころばかりなので、破綻がない。自らの得意とするジャンルの音をバンバン出しているのだから、悪かろうはずがない。
一番感心するのは、純ジャズをベースにした異種格闘技なジャム・セッションの中、様々なジャンル、様々な演奏トレンドの、それぞれ全く異なる内容にも関わらず、古澤のドラミングは揺るがないこと。どころか、その様々なジャンル、様々な演奏トレンドに適したドラミングを叩き出し、演奏全体のリズム&ビートをコントロールし、フロント楽器を鼓舞する。そして、この古澤の揺るぎないドラミングのお陰で、様々なジャンル、様々な演奏トレンドが詰まったライヴながら、アルバム全体に統一感が充満している。
古澤の柔軟で適応力抜群な、それでいて、個性はしっかりキープした、揺るぎのないドラミングは見事。このライヴは確かに、異種格闘技風のバラエティー溢れるゲストのパフォーマンスも魅力だが、やはり、聴くべきは古澤良治郎の見事なドラミングだろう。和ジャズに古澤あり。このライヴ盤を聴きながら、そんなことを強烈に再認識した。
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