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2024年11月の記事

2024年11月30日 (土曜日)

プレヴィンの爽快ライヴ盤

ジャズとクラシックの「2足の草鞋を履く男」、アンドレ・プレヴィンのピアノを聴き直している。クラシック・ピアノをベースにした、流麗で端正でダイナミックでドライブ感溢れるスインギーなピアノは、プレヴィンの身上。クラシック出身のピアノでありながら、出てくる音は実に「ジャジー」。聴いていて、スッキリ爽快な気分になれる極上の「米国ウエストコースト・ジャズ」なジャズ・ピアノ。

Andre Previn『Live at the Jazz Standard』(写真左)。2000年10月のライヴ録音。Deccaレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、André Previn (p), David Finck (b)。ドラムレス、ピアノとベースのデュオ。プレヴィン71歳での録音になる。レジェンドの域に達した「2足の草鞋を履く男」の絶妙で爽快なジャズ・ピアノを聴くことが出来る。

NYでのライヴ録音。タイトル通り、従来のジャズ・スタンダート曲と、ミージシャンズ・チューンなスタンダード曲で固められた、小粋なライヴ録音。プレヴィンのジャズ・ピアノは、トリオ演奏が多いのだが、このライヴ盤では、デヴィッド・フィンクのベースとのデュオ演奏になっている。ドラムがいない分、プレヴィンのピアノがパーカッシヴなリズム楽器を代替していて、プレヴィンのジャズ・ピアノとしての能力の高さがよく判る。
 

Andre-previnlive-at-the-jazz-standard

 
プレヴィン独特の「クラシックとジャズの両性具有」の様なピアノを存分に楽しめる。プレヴィンのピアノは、ジャズをやる場合、あくまで「ジャズ・ピアノ」なフレーズを叩き出すのだが、速い弾き回しで流麗に展開する時、クラシックのタッチ&弾き回しが、ひょっこり顔をだす瞬間がある。これが、意外と「たまらない」のだ。他のジャズ・ピアニストにはない、プレヴィン独特の個性である。

スタンダード曲集とはいえ、全12曲中、超有名なスタンダード曲は「My Funny Valentine」「Chelsea Bridge」「I Got Rhythm」くらいしかない。残りは、どちらかと言えば「玄人好み」のスタンダード曲が選ばれている。が、超有名なスタンダード曲について穂、玄人好みのスタンダード曲についても、アレンジが秀逸で、とにかく全曲、聴いていて、とても楽しい。

とても趣味の良いジャズ・ピアノが主役のライヴ音源。ファンクネスは希薄、オフビートはしっかりジャジーなプレヴィンのピアノが良い方向に作用して、スッキリとした爽快感溢れる弾き回しで、演奏そのもの、楽曲そのものを、リラックスして楽しめる、極上のジャズ・ピアノのライヴ盤に仕上がっている。良い意味で耳あたりが良いので、ながら聴きにも最適。好ライヴ盤です。
 
 

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2024年11月29日 (金曜日)

ウエストサイド物語の良カヴァー

アンドレ・プレヴィンは、作曲家、編曲家、映画音楽、ジャズ・ピアニスト、クラシック・ピアニスト、指揮者。どちらかと言えば、クラシックに軸足がある。2019年2月に惜しくも89歳で逝去。我が国への関わりは、2009年から3年間、NHK交響楽団の首席客演指揮者として活躍。そんなクラシックな演奏家が、こんな洒落た小粋なハードバップ・ジャズをピアノ・トリオでやるなんて。彼の経歴をライナーノーツで読んだ時、とにかく驚いたことを覚えている。

「二足の草鞋を履く男」。アンドレ・プレヴィンは、クラシック・ピアニストであり、ジャズ・ピアニストでもある。そして、どちらのパフォーマンスも一流のレベルで、こんな音楽家はそうそういない。ここでは、ジャズ・ピアニストのアンドレ・プレヴィンにフォーカスを当てる。プレヴィンは、米国ウエストコースト・ジャズを代表するピアニストでもあるのだ。

André Previn『West Side Story』(写真左)。1959年8月24–25日の録音。ちなみにパーソネルは、André Previn & His Pals = André Previn (p), Red Mitchell (b), Shelly Manne (ds)。アンドレ・プレヴィンのピアノがメインのピアノ・トリオ編成。ベースに名手レッド・ミッチェル、ドラムに名手シェリー・マンが担当している。米国ウエストコースト・ジャズの最強のリズム隊である。

タイトル通り、レナード・バーンスタインのミュージカル「ウエストサイド物語」のオリジナルスコアから8曲を選び、ジャズ風にアレンジしている。これがまあ、なんと絶品。「ウエストサイド物語」のジャズ・ピアノ・トリオによるカヴァーは、オスカー・ピーターソンのものが有名だが、そのピーターソンのカヴァーよりも、このプレヴィンの方が内容が濃い。

プレヴィンのピアノは、強烈なドライブ感が身上なのだが、クラシック出身が故、ファンクネスは希薄。しかし、ジャジーなオフビート、ジャジーなコード進行はしっかりと存在する。タッチは切れ味よく硬質、速いフレーズも難なく破綻なく弾きこなす。
 

Andre-previnwest-side-story

 
ピーターソンとプレヴィンの違いは「ファンクネス」の濃淡とオフビートの強弱。ピーターソンのピアノは、ファンクネス濃厚、オフビートが強烈。その他の特徴はプレヴィンと同じなんだが、この「ファンクネス濃厚、オフビートが強烈」なところが、ミュージカル曲の様な流麗な旋律を持つ楽曲のカヴァーについては邪魔になる。流麗な旋律の「流麗さ」が、濃厚なファンクネスと強烈なオフビートに掻き消されてしまうのだ。

その点、プレヴィンのピアノは「ファンクネスは希薄、オフビートはしっかりジャジー」なので、ミュージカル曲の様な流麗な旋律を持つ楽曲のカヴァーに向いている。この「ウエストサイド物語」のプレヴィン盤を聴くとそれがよく判る。流麗な旋律を持つ「ウエストサイド物語」の挿入曲達のフレーズが、キラキラと輝くように耳に入ってくる。

そして、そんなプレヴィンのピアノを、名手レッド・ミッチェルのベース、名手シェリー・マンのドラムがガッチリ支える。これがまあ、素晴らしいベース&ドラムなのだ。ベースはブンブン胴鳴りし、弦はブンブン鋼の響き。ドラムは切れ味良く、弾ける様なパーカッシヴな打音。

しかも、さらに素晴らしいのは、この名手のベース&ドラムが、プレヴィンのピアノの邪魔に全くなっていない。逆に、プレヴィンのピアノが前面に浮かび上がってくるよう。米国ウエストコースト・ジャズのファースト・コールなベーシスト&ドラマー、恐るべしである。

「ウエストサイド物語」のジャズによるカヴァーとして、加えて、米国ウエストコースト・ジャズのピアノ・トリオとして、純粋に楽しめる名盤だと思います。プレヴィンのピアノ、ほんと、長年のお気に入りなんですよね〜。他のアルバムも聴き直したくなりました。
 
 

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2024年11月28日 (木曜日)

「CTIサウンド」のワンダレイ

今年はジャズ・レーベル毎の名盤・好盤を聴きなおすことをしているのだが、昨日から、その流れで「A&M, CTIレーベル」の名盤・好盤の聴き直しを進めている。A&Mレーベルから、CTIレーベル、いわゆる「クリード・テイラー」印のクロスオーバー&フュージョン・ジャズ盤には、今の耳で聴くと、意外と聴きもののアルバムが多くある。

Walter Wanderley『Moondreams』(写真左)。March 11, 12 & 13, 1969年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Walter Wanderley (org, el-harpsichord), Bernie Glow (tp, flh), Marvin Stamm (flh), Danny Bank, Hubert Laws, Romeo Penque, Jerome Richardson, Joe Soldo (fl), Jose Marino, Richard Davis, George Duvivier (b), João Palma (ds), Lulu Ferreira, Airto Moreira (perc), Flora Purim, Linda November, Stella Stevens, Susan Manchester (vo), Eumir Deodato (arr)。

ボサノヴァ・オルガンの第一人者、ワルター・ワンダレイの、『When It Was Done』(1968年) に続く、CTIレーベルでのリーダー作の第2弾。この盤でも、ワンダレイのボサノヴァ・オルガンが炸裂。CTIレーベルとして、ジャズ・オルガンをイージーリスニング・ジャズに応用して、聴き応えのある、ジャジーなラウンジ・サウンドをものにしている。

ワンダレイは、オルガンに加え、ハープシコードも駆使しながら、極上のボサノヴァ・オルガンを繰り広げる。ワンダレイのオルガンの音は「正統派」の音。イージーリスニング・ジャズ志向だからと言って、聴きやすく甘い音色で俗っぽい音にはならず、正統なハードバップ基調のオルガンで弾きまくっているところがこの「CTIのワンダレイ」の良さ。
 

Walter-wanderleymoondreams

 
ワンダレイのバックには、当時のクロスオーバー&フュージョン・ジャズ畑の優れたメンバーが大集合して、極上のクロスオーバー&フュージョンなパフォーマンスでワンダレイの演奏を支えている。ストリングスとフルートを上手く使って、ソフト&メロウな雰囲気を醸し出し、従来のクロスオーバー系のエレ・ジャズとは異なる、いわゆる「聴かせるエレ・ジャズ」を演出している。

アレンジはあの「デオダート」。ワンダレイのボサノヴァ・オルガンによるクロスオーバー&フュージョン・ジャズを、ラウンジ音楽に陥りそうなギリギリのところで、ジャズに軸足を留めている。

意外と以前より指摘されていないが、この盤でのデオダートのアレンジは、クリード・テイラーの標榜する「CTIサウンド」を、具体的に忠実に音にした一例だと感じている。いわゆる「CTIサウンド」の源の一つと言って良いだろう。録音は、あの伝説のレコーディング エンジニア、ルディ・ヴァン・ゲルダーの手によるもの。ソフト&メロウなイージーリスニング・ジャズでありながら、意外と骨太な音、適度で趣味の良いエコー。いわゆる、これも「CTIサウンド」の重要な一要素である。

イージーリスニング・ジャズを認めたくないと言う、ジャズ者の方々には決してお勧めしないが、このワンダレイ盤、イージーリスニング・ジャズ盤としては内容もしっかりした、極上のものである。「CTIサウンド」がお気に入りのジャズ者の方には一聴をお勧めしている。
 
 

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2024年11月27日 (水曜日)

ホールの「哀愁のマタドール」

結構、ハードなモダン・ジャズをシビアに聴き続けたらしく、耳がちょっと疲れた。と言うことで「耳休め」に、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの好盤を聴くことにする。今年はジャズ・レーベル毎の名盤・好盤を聴きなおすことをしているのだが、今日はその流れで「A&Mレーベル」の名盤・好盤の聴き直しを進めることにした。

Jim Hall『Commitment』(写真左)。邦題「哀愁のマタドール」。1976年6, 7月の録音。A&Mレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Jim Hall (g), Art Farmer (flh), Tommy Flanagan (p), Don Thompson (p, track 2 only), Ron Carter (b), Allan Ganley (ds), Terry Clarke (ds, track 7 only), Eroll Bennett (perc, track 3 only), Jane Hall (vo, track 5), Joan La Barbara (vo, track 3) Don Sebesky (arr, tracks 1, 3 & 8)。

ジム・ホールのギターは、繊細で透明感溢れる、しかし、力感もしっかりあって、奏でるフレーズがくっきり浮かび上がる、従来のジャズ・ギターの奏法を一歩二歩進めた、プログレッシヴなバップ・ギターである。そんなジム・ホールのギターに、アート・ファーマーの柔らかで流麗な、それでいて、しっかり芯の入ったフリューゲルホーンが良く合う。よほど相性が良いのだろう、ジム・ホールのギターとファーマーのフリューゲルホーンのユニゾン&ハーモニーは絶品である。
 

Jim-hallcommitment  

 
このアルバムは、この前年の発表された『Concierto(アランフェス協奏曲)』の大ヒットの後のアルバム。前作の代表的名演「アランフェス協奏曲」の雰囲気をそのまま踏襲した、3曲目の「Lament For A Fallen Matador(哀愁のマタドール)」が聴きもの。ジム・ホールのギターは意外に硬派なので、甘きに流れない。力感溢れるプログレッシヴなバップ・ギターが、こういった耽美的なメロディーを持つクラシックのカヴァーに向いている。「哀愁のマタドール」以外に「When I Fall In Love」「My One And Only Love」等のスタンダード曲もいい感じ。

ジム・ホール自身のお気に入りなミュージシャンを起用しての豪華なアルバムだが、この盤では、特にロン・カーターのベースが良い。当時のロンとしては珍しいことに、ピッチが合っていて、弦を弾くピチカート奏法もブンブン胴鳴りして、切れ味の良いジャジーなグルーヴを撒き散らしている。加えて、1曲目「Walk Soft」、3曲目「Lament For A Fallen Matador」、8曲目の「Indian Summer」におけるセベスキーのアレンジも良好。

A&Mレーベルのクロスオーバー&フュージョン・ジャズの名盤の一枚。イージーリスニング・ジャズ志向な演奏内容ではあるが、ジム・ホールの硬派でプログレッシヴなバップ・ギターや、アート・ファーマーのジェントルで流麗だが、意外とバップなフリューゲルホーンは、ハードバップ時代からの「純ジャズ」なパフォーマンスをしっかり維持していて、聴き応え十分。この盤、硬派でメインストリームな内容のクロスオーバー&フュージョン盤。意外と聴き応えがあって、長年の愛聴盤になってます。
 
 

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2024年11月26日 (火曜日)

ジョーヘンは申し分ないのだが.....

ジョー・ヘンダーソンは、5枚目のリーダー作『Mode for Joe』(1966年1月27日録音)で、ブルーノート・レーベルを離れる。まだ、総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンがプロデュースの実務を直接、取っていた時期にも関わらず、である。他の大手レーベルのオファーが金銭的にかなり魅力的だったのだろうか。とにかく、ヘンダーソンは、まずは、マイルストーン・レーベルに移籍する。

Joe Henderson『The Kicker』(写真左)。1967年8月10日と9月27日の録音。マイルストーン・レーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Joe Henderson (ts), Mike Lawrence (tp), Grachan Moncur III (tb), Kenny Barron (p), Ron Carter (b), Louis Hayes (ds)。リーダーのヘンダーソンのテナー、ローレンスのトランペット、モンカーのトロンボーンがフロント3管のセクステット編成。プロデューサーは、オリン・キープニュース。

前作『Mode for Joe』のセプテット編成から、ハッチャーソンのヴァイブを抜いて、ヘンダーソンのテナーとロンのベース以外の4人は異なるメンバーに交代したセクステット編成。基本的にはハッチャーソンのヴァイブを抜いただけだが、出て来る「ジョーヘン流のモード」の内容の充実度は、ブルーノート時代の諸リーダー作と比較すると、はっきり言って「落ちている」。
 

Joe-hendersonthe-kicker

 
演奏者毎に「ジョーヘン流モード」の理解度にばらつきがあり、当然、楽器ごとの「ジョーヘン流のモード」に対する適応度にもばらつきがある。この「ばらつき」が「ジョーヘン流のモード」の内容の充実度のレベルを落としている。加えて、ブルーノートの様な、本録音に先だった「充実したリハーサル」が不足しているのか、演奏自体が全体的に荒い。

リーダーのジョー・ヘンダーソンの「ジョーヘン流モード」の吹奏は申し分ないのだから、実に惜しい内容の6枚目のリーダー作になる。加えて、「ジョーヘン流モード」は硬派なモード・ジャズなのだが、甘いメロディーが 人気のハードバップの名曲「Nardis」、ボサノバの名曲「O Amor Em Paz (Once I Loved)」を選曲しているが、この2曲はどうにもモード奏法にあまりフィットしない曲の様で、この2曲の演奏には違和感が漂っている。

ジョーヘンのテナーについては申し分ないのだが、他の録音に参加したジャズマンの人選、アルバム・コンセプトにフィットする演奏曲の選曲、この2点について十分なプロデュースが出来なかった分、前作の名盤『Mode for Joe』の内容よりも一段、内容が落ちるところが実に残念なアルバムである。録音もジャケ・デザインもイマイチで、このアルバムは、逆説的に、ジャズにおけるプロデュースの重要性を我々に再認識させてくれる。
 
 

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2024年11月25日 (月曜日)

”ジョーヘン流モード” の充実形

ジョー・ヘンダーソン(Joe Henderson)。愛称は「ジョーヘン」。若い頃から今に至るまで「ジョーヘン」で通している(笑)。1937年4月生まれ。2001年6月に惜しくも鬼籍に入る。64歳。早過ぎる逝去であった。初リーダー作が1963年、26歳の時だったから、ちょっと遅咲きのテナーマン。ハードバップ後期から頭角を現し、1960年代前半での初リーダー作ということで、ジョーヘンは、バリバリ、新主流派の範疇のテナーマンである。

Joe Henderson『Mode for Joe』(写真左)。1966年1月27日の録音。ブルーノートの4227番。ちなみにパーソネルは、Joe Henderson (ts), Lee Morgan (tp), Curtis Fuller (tb), Bobby Hutcherson (vib), Cedar Walton (p), Ron Carter (b), Joe Chambers (ds)。うねうねモーダルなテナーマン、ジョーヘンの5枚目のリーダー作になる。ジョーヘンのテナー、モーガンのペット、フラーのボーン、ハッチャーソンのヴァイブの4楽器がフロントのセプテット編成。

さすが、リーダー作も5枚目になると、ジョーヘン流のモード・ジャズも洗練されて、ほぼ確立された状態なのが、この盤を聴くと良く判る。モーダルなフレーズ独特の「ウネウネ」感。ウェイン・ショーターのそれと同じ感じではあるが、ジョーヘンの「ウネウネ」感は、ショーターのそれよりも整然としていて流麗。捻れそうで捻れないストレートな音での「ウネウネ」フレーズの連発。ジョーヘンのモーダルなフレーズは滑らか。フレーズの音が飛んだり跳ねたりしない。聴けばすぐに「ジョーヘン流のモード」と判る独特の個性。
 

Joe-hendersonmode-for-joe

 
ジョーヘンのテナー、モーガンのペット、フラーのボーン、ハッチャーソンのヴァイブの4楽器がフロントを張るが、楽器ごとの「ジョーヘン流のモード」に対する適応度の違いは無い。フロント楽器の全メンバーが「ジョーヘン流のモード」を理解し、自分のものとし、自分の個性の中で「ジョーヘン流のモード」を表現する。リハーサルにも十分にコストと時間をかけて、演奏の精度と内容を向上させる、ブルーノートならではの演奏の充実度。

特に、モーガンのトランペット、フラーのトロンボーンの、ほど良く抑制が効いた、思索的でクールでエモーショナルな吹奏が素晴らしい。そして、管楽器の吹奏にパーカッシヴに絡み、「ジョーヘン流の」モーダルなフレーズをより印象的にする、モーダルなヴァイブの響き。そして、ウォルトン=ロン=ジョーチェンのリズム隊が供給する「ジョーヘン流のモード」に適したリズム&ビート、そしてグルーヴは聴きもの。

このジョーヘンの5枚目のリーダー作には、「ジョーヘン流のモード」への完全適用の演奏がぎっしり詰まっている。しかも、演奏全体はしっかりと理路整然と整っている。「ジョーヘン流のモード」が、直感に頼ったり、その時の気分によったり、感情に左右されたり、ファジーなモード・ジャズで無いことがよく判る。さすがはブルーノート・レーベル。そんな「ジョーヘン流のモード」の充実形をしっかりと記録している。
 
 

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2024年11月24日 (日曜日)

ブルーノートの ”先取気質” を聴く

ブルーノートの、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」。ブルーノートらしい内容、音、響き。そんな三拍子揃ったブルーノート盤の「ベスト100」。今日はその「第7位」。

Thelonious Monk 『Genius of Modern Music Vol.1』。1947年10月15日、1947年10月24日、1947年11月21日、1948年7月2日の4セッションからのピックアップ。パーソネルは以下の通り。

1947年10月15日は、Thelonious Monk (p), Idrees Sulieman (tp), Danny Quebec West (as), Billy Smith (ts), Gene Ramey (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、7曲目「Thelonious」、12曲目 「Humph」。

1947年10月24日は、Thelonious Monk (p), Gene Ramey (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、2曲目「Off Minor」、3曲目「Ruby My Dear」、5曲目「April In Paris」、10曲目「Well You Needn't」、11曲目「Introspection」。

1947年11月21日は、Thelonious Monk (p), George Taitt (tp), Sahib Shihab (as), Bob Paige (b), Art Blakey (ds)。演奏曲は、1曲目「 'Round About Midnight」、6曲目「 In Walked Bud」。

1948年7月2日は、Milt Jackson (vib), Thelonious Monk (p), John Simmons (b), Shadow Wilson (ds)。演奏曲は、4曲目「I Mean You」、8曲目「Epistrophy」、9曲目「Misterioso」。

セロニアス・モンクのピアノの強烈な個性をいち早く見出し、録音したブルーノート・レーベル。初録音は1947年に遡る。ブルーノート・レーベルの設立が1939年だから、設立後8年でモンクの音を記録している。

1947年と言えば、ビ・バップ創生期。そんな時代にあまりに個性的なモンクのピアノ。まだ、レーベル経営が軌道に乗っていない時期に、そんな「個性的でユニーク過ぎる」モンクの音を記録しているのだから、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンの慧眼と判断力&行動力「恐るべし」である。
 

Monkgeniusofmodernmusicvol1

 
モダン・ジャズの最高の奇才、セロニアス・モンク。モンクのピアノの個性は強烈かつユニーク。スクエアにスイングし、フレーズは幾何学的に飛ぶ。そして、独特のタイム感覚。休符の置き方、テンポ、どれもがユニーク。クラシックの理路整然とした音とは「正反対の音」。クラシックからの影響は微塵も無い。ジャズだけ、から生まれた、モダン・ジャズの最高の個性。

このブルーノート盤では、そんなモンクの強烈かつユニークな個性のピアノを確実に誠実に記録している。一曲一曲の収録時間は短い。しかし、モンクのピアノは既にその個性を確立していることが直ぐに判る。

4つのセッションの寄せ集めだが、この盤は「モンクのピアノだけを聴くべき」アルバムである。そういう意味では、どのセッションでも、モンクの個性は平準化されているので、セッション毎について、セッション間についての違和感は全く無い。モンクの強烈かつユニークな個性のピアノで、アルバム全体の統一感をバッチリ出している。

収録曲はモンクの自作曲で統一され、モンク独特のアレンジで統一されている。このモンクの自作曲が実に個性的で、ジャズ的に「美しい」。収録された自作曲を見渡すと、後のミュージシャンズ・チューンとなって、最終的にはスタンダード曲化する。この盤では、モンクの自作曲の中でも特に有名となる曲が軒並みチョイスされている。

そして、モンクの独特かつユニークな個性のピアノには、やはり、モンク自身のアレンジが一番映える。モンク自身が、自身の個性を理解しつつ、その個性を際立たせる、自身によるアレンジ。この盤は「モンクの作曲力とアレンジ力を聴くべき」アルバムでもある。

ただし、この盤に記録された、モンクの独特かつユニークな個性のピアノは、その出来栄えとしては「原石レベル」であり、これから磨きがかかってさらに輝きを増す直前の「原石レベル」の音の個性。モンクの決定的名演は、のちのリヴァーサイド・レーベルの諸作を待たなければならない。

セロニアス・モンクの最初期の名盤である。セロニアス・モンクの個性の原石を強烈に感じること出来る、ブルーノートの素晴らしい「お仕事」。この盤は、ブルーノート・レーベルが持つ、独特の「先取気質」を強烈に感じ取ることが出来る盤と言える。
 
 

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2024年11月23日 (土曜日)

ストックホルムのオーネット

ブルーノートの、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」。ブルーノートらしい内容、音、響き。そんな三拍子揃ったブルーノート盤の「ベスト100」。今日はその「第6位」。

Ornette Coleman『At the "Golden Circle" Stockholm vol.1』(写真左)。1965年12月3–4日、スウェーデンのストックホルムでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Ornette Coleman (as, tp, vin), David Izenzon (b), Charles Moffett (ds)。約3年ぶりに活動を再開した、オーネット・コールマンの欧州ツアーでの一コマ。

レココレ評者が選んだ、ブルーノート盤の「ベスト100」。今回は第6位だが、これまた難物なアルバムを選んだものだ。フリー・ジャズの祖とされるオーネット・コールマンであるが、僕はどう聴いても、オーネットの吹奏は「フリー・ジャズ」には聴こえない。

本人も語っているが、一応、本人が考案した「ハーモロディクス理論」というものに則った結果だというし、演奏を聴けば、必要最低限の「重要な何らかの決めごと」が演奏の底にあるのが判る。

つまり、フリー・ジャズではなく、ハードバップの弱点を克服し、ジャズの即興演奏の可能性を拡げ、発展させた「モード奏法」と同列の奏法、「ハーモロディクス理論」で、モード奏法と同じく、ハードバップの弱点を克服し、ジャズの即興演奏の可能性を拡げ、発展させたのが、オーネット・コールマンだと僕は解釈している。
 
Ornette-colemanat-the-22golden-circle22-
 
ただ、困ったことに、モード奏法はその音楽理論が理路整然と確立されているが、「ハーモロディクス理論」については、オーネットの精神的な言葉は残っているが、具体的な記述を残していない。これが、オーネットの演奏する、自由度の高いユニークな即興演奏を解釈しにくくしているし、正確なフォロワーが現れ出でない、大きな理由だろう。

さて、このブルーノートに残したストックホルムでのライヴ音源、オーネットの奏でる自由度の高いユニークな即興演奏の全貌がとてもよくわかる、大変優れたライヴ録音になっている。

それまでの伝統的なジャズが、やらないこと、やったことがないこと、やってはいけないこと、を全部やっている、それまでの伝統的なジャズに対する「アンチテーゼ」の様な演奏がギッシリ詰め込んだ、オーネット独特な自由度の限りなく高い「ハードバップ」が、ライヴ演奏という、一期一会な、究極の即興演奏という形で記録されている。

演奏によっては、内容が混乱したり、冗長になったりすることがあるオーネットだが、このライヴ盤には、それが全く無い。オーネットの個性的な「ハーモロディクス理論」に基づく即興演奏が、整った形で鮮度の良いイメージで記録されている。この辺りは、さすが。ブルーノートといったところ。優れたライヴ録音をモノにするプロデュース能力と録音技術については見事という他ない。

オーネット・コールマンの「ハーモロディクス理論」に基づいた、自由度の高いユニークな即興演奏を体感し、理解するには格好のアルバムである。そういう意味では、ブルーノート・レーベルほど、当時のオーネット・コールマンを理解していたレーベルは無かった、と言える。

ベスト100の「第6位」が妥当かどうかについては異論はあるが、ジャズ・レーベルとして、当時の優れたジャズを的確に捉え記録する「ジャズに対する感覚の鋭さ」については、確かに、ブルーノートらしいアルバム、である。こういった、異端に近いジャズを的確に捉えるという点では、ブルーノートがピカイチだろう。
 
 

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2024年11月22日 (金曜日)

チック流の ”バド・トリビュート”

チック・コリアは、僕のお気に入りのピアニストの筆頭。長々とチックのリーダー作の評文を、ブログに書き進めてきたが、やっとカウントダウン状態、評文の未アップのリーダー作は10枚を切った。さあ、ラスト・スパート、今日の対象は、チック流の「バド・パウエル・トリビュート」の企画版である。

Chick Corea & Friends『Remembering Bud Powell』(写真左)。邦題「バド・パウエルへの追想」。1997年の作品。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Kenny Garrett (as), Joshua Redman (ts), Wallace Roney (tp), Christian Mcbride (b), Roy Haynes (ds)。ケニー・ギャレットのアルト・サックス、ジョシュア・レッドマンのテナー・サックス、ウォレス・ルーニーのトランペットがフロント3管のセクステット編成。

チック・コリアのピアノをメインとしてリズム・セクションには、ベースにクリスチャン・マクブライド、ドラムにロイ・ヘインズが参加している。このリズム・セクションがなかなかの優れもの。この優れもののリズム・セクションを主宰しつつ、チックは「バド・パウエル」の楽曲にアレンジの才を発揮しまくっている。

そう、この盤、チック流の「バド・パウエル・トリビュート」だが、チックはバド・パウエルの様に弾きまくるのではない。バド・パウエルの楽曲の個性と特徴をしっかり把握し、そのバドの楽曲の良さ、バドのその楽曲に対するアプローチを前面に押し出し、バドの音世界をチック流のアレンジによって再構築する。そんな、意外に難度の高いアプローチに、チックは果敢に挑戦している。
 

Chick-corea-friendsremembering-bud-powel

 
珍しくフロントに3管、当時の中堅バリバリの有名ジャズマンが集結しているので、この版では、チックはあくまで「裏方」に徹している。このバックに回った時のチックのフロント管に対するバッキングは、意外とエグいものがあって、さすが、1960年代終盤、マイルス・バンドに所属して、優れたテクニックで、マイルスのバッキングでブイブイ言わせていただけある。

ギャレットやジョシュア、ルーニーが、チックのバッキングに煽られて、いつになくホットなアドリブを展開している。微笑ましい光景である。チックの「バド・パウエルの楽曲の個性と特徴をしっかり把握し、そのバドの楽曲の良さ、バドのその楽曲に対するアプローチを前面に押し出し、バドの音世界をチック流のアレンジによって再構築する」という、このアルバムのコンセプトをしっかり理解して、とても印象深いパフォーマンスを繰り広げるフロント3管は、実に頼もしい。

今の耳で聴き直してみても、この盤はなかなかの優れもの。チック流の「バド・パウエル・トリビュート」がとことん楽しめる。決して熱くない。クールでヒップな「バド・パウエル・トリビュート」。このクールでヒップなところは、フロント管のバッキングに回ったマイルス・バンドの時代を彷彿とさせる。意外とマイルスの薫陶による「賜物」かもしれない。

一部で酷評を目にすることのある、ブレることなく、チックの流儀を貫き通した、チック流の「バド・パウエル・トリビュート」。良い内容の企画盤だと思います。酷評については、このチックの「バド・パウエル」の解釈の中で、ビ・バップが見えない点を突いている、とは思います。が、アドリブ展開の中に、ビ・バップっぽいアプローチが散見されるので、意外とチックはアレンジの中で、ビ・バップを意識しているんだと感じてます。そんなこんなで、この盤のチックのアレンジは秀逸。チックの隠れ優秀盤だと思います。
 
 

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2024年11月21日 (木曜日)

これも名盤『Shades of Green』

ブルーノート・レーベルを代表するギタリスト、グラント・グリーン。彼のキャリアの晩年は、イージーリスニング・ジャズ志向の優れたリーダー作を連発している。

バックに、のちのクロスオーバー&フュージョン時代の有名みゅーじしゃんを配し、優れたリズム・セクションの演奏をバックに、骨太でパッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギをガンガンに弾きまくっている。

Grant Green『Shades of Green』(写真左)。1971年11月の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), Billy Wooten (vib), Emmanuel Riggins (el-p, clavinet), Wilton Felder (el-b), Nesbert "Stix" Hooper (ds), King Errisson (conga), Harold Cardwell (perc), Wade Marcus (arr, orchestra arrange)。

冒頭、ジェームス・ブラウンのメドレー「Medley: I Don't Want Nobody to Give Me Nothing (Open Up the Door I'll Get It Myself) / Cold Sweat」がキマッている。3曲目はアソシエーションの、1967年のヒット曲「Never My Love」、4曲目には、マイケル・ジャクソンの1971年のデビュー・ソロ・シングル「Got to Be There」、6曲目には、スティーヴィー・ワンダーの1971年のヒット曲「If You Really Love Me」と、R&Bの秀曲のカヴァーがズラリと並ぶ。
 

Grant-greenshades-of-green

 
もともと、グラント・グリーンは、骨太でパッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギ弾きである。R&B系、ソウル系の楽曲のカヴァーは得意中の得意。全編、充実度抜群の、ライトなジャズ・ファンク志向のイージーリスニング・ジャズが満載。全編、もう前のめりにノリノリである(笑)。

バックのリズム隊には、クルセイダーズから、ウイルトン・フェルダーのベース、スティックス・フーパーのドラムが参加している。粘りのある、重心低め、切れ味の良い、ファンクネス濃厚なリズム&ビートを叩き出していて、この二人を中心にコンガなどのパーカッションが絡んで、絵に描いた様な、ジャズ・ファンクなグルーヴを供給している。

そこに、グラント・グリーンの、パッキパキのシングル・トーン+ファンクネスだだ漏れのエレギが、曲の旋律を骨太に奏で、アドリブ・フレーズをファンクネスだだ漏れで弾きまくる。伴奏上手のバックのジャズ・ファンクなグルーヴが優れている分、グリーンのギターが、くっきり前面に映えに映える。

ジャケはもはや、以前のブルーノートの面影はなく、訳のわからんブランデー・グラスのイラストで損をしているが、この盤はれっきとしたブルーノート・レーベル盤で、内容的にもしっかりしていて、演奏自体もそのレベルは高く、ブルーノートの「ブランドの音」はしっかりと維持されている。この盤も、グラント・グリーンのライトなジャズ・ファンク志向のイージーリスニング・ジャズの名盤として良いかと思う。
 
 

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2024年11月20日 (水曜日)

グリーン後期の名盤『Visions』

ブルーノートのハウス・ギタリストだったグラント・グリーン。グリーンの活動後期は、ウエス・モンゴメリー同様、イージーリスニング・ジャズ志向のリーダー作をリリースしていた。

が、ウエスほど、というか、ウエスに全く及ばない人気の低さだった。ウエスは大手レーベルのヴァーヴ、グリーンは斜陽の中小レーベルのブルーノート、レーベルの営業力の差がそのまま人気の度合いに反映されたのかもしれない。

Grant Green『Visions』(写真左)。ブルーノートの4373番。1971年5月21日の録音。ちなみにパーソネルは、Grant Green (g), Billy Wooten (vib), Emmanuel Riggins (el-p), Chuck Rainey (el-b), Idris Muhammad (ds), Ray Armando (conga), Harold Caldwell (ds, perc)。

『I Want to Hold Your Hand』(1965年3月の録音)辺りから、当時のポップス&ロックや、R&B、ソウルのヒット曲のカヴァーを十八番としていたグリーン。この曲でも、人気の米国ブラス・ロック・バンド、シカゴの1970年のヒット曲「Does Anybody Really Know What Time It Is?(いったい現実を把握している者はいるだろうか?)のカヴァーを冒頭に持ってきている。

と思いきや、3曲目には「Mozart Symphony #40 in G Minor, K550, 1st Movement」、モーツアルト「交響曲第40番ト短調K.550 第1楽章」のカヴァー。有名クラシック曲のカヴァーを、パッキパキ硬質なシングルトーンで、ファンクネスダダ漏れてやるのだから、これは珍カヴァーといえば珍カヴァー。しかし、アレンジを含め、演奏の出来は上々だから面白い。
 

Grant-greenvisions

 
4曲目「Love on a Two-Way Street」は、1968年のR&Bのヒット曲のカヴァー。6曲目には、カーペンターズの1970年のヒット曲「We've Only Just Begun(愛のプレリュード)」のカヴァー。7曲目「Never Can Say Goodbye」はグロリア・ゲイナーの1971年のヒット曲。と、かなりリアリタイムに近い、ポップス&ロックや、R&B、ソウルのヒット曲のカヴァーを収録している。リアルタイムに近いにも関わらず、カヴァー・アレンジはどの曲も良好。

バックのリズム隊は、のちのクロスオーバー&フュージョン・ジャズにおける、定番ミュージシャンが担当していて、従来の4ビートメインのリズム&ビートでは無く、8ビートメインのファンキーでソウルフルなリズム&ビートを叩き出している。このクロスオーバー&フュージョン志向のリズム隊が、グラント・グリーンの、パッキパキ硬質なシングルトーンでファンクネスダダ漏れのエレギの音を引き立て、大いに映えさせる。

改めて聴き直してみて、内容良好のイージーリスニング・ジャズ。グリーンのギターはシングル・トーンでありながら、音がとても太いので、バックのリズム隊のリズム&ビートに負けることなく、逆に、バックのリズム隊のリズム&ビートに乗って、それぞれの曲の持つ旋律をくっきり浮き立たせ、アドリブ・パフォーマンスに耳を傾けさせる。

この盤の録音の際に、ルディ・ヴァン・ゲルダーが「こんな凄いプレイをするグリーンはいまだかつて見たことがない…」と呟いたとか。まさにその通り、この盤での、特にカヴァー曲での、グリーンのギターは素晴らしい。

ジャズに馴染みのない、ポップス、ロック、R&B、ソウルの楽曲の旋律をいとも容易く弾きこなし、ポップな8ビートに違和感なく乗る、キレキレのリズム感は見事と言う他ない。カヴァー曲メインに「引く」ことなく、耳にしてほしいグリーンの活動後期の名盤である。
 
 

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2024年11月19日 (火曜日)

好盤・八木のぶお ”Mi Mi Africa”

日本のクロスオーバー&フュージョン・ジャズは、米国や欧州とは異なる独自の深化を遂げてきた様に思う。まず、ファンクネスは皆無、もしくは、我が国独自の乾いた爽やかなファンクネス。演奏テクニックは高度。R&B志向、ソウル志向はほとんど無く、ジャズとロックとのクロスオーバー、ジャズとAORとのクロスオーバーがメイン。そこに、ソフト&メロウ&スムースが添加されると「和フュージョン」。

八木のぶお『Mi Mi Africa』(写真左)。1979年の作品。ちなみにパーソネルは、八木のぶお (harmonica), 村上ポンタ秀一 (ds), 高橋ゲタ夫 (b), 安川ひろし (g), 倉田 信雄, 小笠原 寛 (key), ペッカー (perc), Rockwell Allstars (cho)。我が国を代表するハーモニカ奏者「八木のぶお」の初リーダー作。

よく見れば、兵士が肩から掛けているベルトリンクには弾薬ではなく、タイプの異なるハープ各種。そんなジャケットを見たら、何を狙ったクロスオーバー・ジャズなのか、皆目、見当がつかない。タイトルを見れば、いわゆるアフロ志向のクロスオーバー・ジャズなのかな、と思う。アフロ志向のクロスオーバー・ジャズといえば、渡辺貞夫『Kenya Ya Africa』を想起する。あの頃の渡辺貞夫は、アフリカ音楽志向だったなあ、とぼんやり思ったりする。

さて、この盤、ネットでの紹介キャッチが「母なる大地アフリカをテーマにミュージシャンそれぞれが想うアフリカを表現した企画盤」とあるように、確かに、基本、アフロ志向のクロスオーバー・ジャズの好盤である。
 

Mi-mi-africa

 
出だしは、アフリカンなグルーヴ溢れるパーカッションが出てきて、「いかにも」って感じになるのだが、すぐに、和ジャズ独特の乾いた爽やかなファンクネスと、現代のアフリカのイメージなのか、どこかアーバンな洗練されたグルーヴに乗ったリズム&ビートに変わって、それをバックに、八木のハーモニカが入ってくる。演奏全体のイメージは、やはり「アフロ志向のクロスオーバー・ジャズ」。

この冒頭のタイトル曲「Mi Mi Africa」のアフロな躍動感溢れるリズム&ビートが、アルバム全体の音志向を決定つけている。全編に渡って、情熱的な八木のハーモニカが秀逸。印象的なベースのイントロから入る、メロウ・グルーヴの「愛のテーマ」などは「アフロ志向のフュージョン」と言った趣き。

村上ポンタ秀一 (ds), 高橋ゲタ夫 (b), ペッカー (perc) からなるリズム隊が効いている。よくよく聴き耳を立てると、アフロなリズムだけでなく、ラテンのリズム、サンバのリズムが織り交ぜられている。これが、このアルバムの音世界が、どっぷり、ありがちな「アフロなクロスオーバー」に浸りきることを押し留め、あくまで、フラットな和製クロスオーバー&フュージョンのパフォーマンスに仕立て上げている。

アフロは演奏への「色づけ」にとどめ、芯は「フラットな和製クロスオーバー&フュージョン」。こんな、内容の濃い、洒落たクロスオーバー&フュージョン盤が、1979年にリリースされていたとは改めて驚く。日本のクロスオーバー&フュージョン・ジャズは全く隅におけない。
 
 

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2024年11月18日 (月曜日)

ジャズ・ベース2本のデュオ名盤

技巧派ジャズ・ベーシストがよくやる裏技に「ボウイング」がある。「ボウイング」とは、弦楽器で弓を弦に当てて上げ下げして音を出す演奏技法。旋律楽器として、旋律を取りにくいベースという楽器で、滑らかな旋律を取る方法の一つ「ボウイング」。

しかし、この「ボウイング」が曲者で、かなり高度なテクニックと音感を要する。つまり、技巧派ジャズ・ベーシストのボウイングについては、押し並べて「良くない」。クラシックのチェロやコントラバスのボウイングの旋律は、ピッチが合っていて、ボウイングのテンポが合っている。これが「ボウイング」なのだが、ジャズ・ベーシストのボウイングは、ピッチが合っていなくて、ボウイングのテンポが外れている。

それなのに、技巧派ジャズ・ベーシストは「ボウイング」をやりたがる。思いついただけでも、ポール・チェンバース、ロン・カーター、この二人のボウイングは酷い。レイ・ブラウンについては可もなく不可もなく。ニールス=ヘニング・エルステッド・ペデルセン、ジョージ・ムラーツなど、欧州系のジャズ・ベーシストは、クラシックの影響もあるのだろう、ボウイングはまずまず良好。

とはいえ、総じて、ジャズ・ベーシストのボウイング、どう聴いても、クラシックのそれと比べて、あまりにも見劣りがする。

Christian McBride & Edgar Meyer『But Who's Gonna Play The Melody?』(写真左)。2024年の作品。ちなみにパーソネルは、Christian Mcbride, Edgar Meyer (b, p)。クリスチャン・マクブライドとエドガー・メイヤー、2 人のグラミー受賞ベーシストによる、ベーシストだけのジャズ演奏。

タイトルが良い。「But Who's Gonna Play The Melody?」=「だれがメロディを弾くんだい?」。ベーシスト2人だけのデュオ・パフォーマンス。ベーシスト二人、それぞれがピアノを弾くが、それも全15曲中、それぞれ2曲だけ。残り11曲は、純粋にベース2本だけのパフォーマンス。
 

Christian-mcbride-edgar-meyerbut-whos-go
 

ベース2本だけのパフォーマンスとしては、Niels-Henning Ørsted Pedersen & Sam Jones『Double Bass』(2012年7月11日のブログ記事・左をクリック)が浮かぶが、かなり珍しいデュオ・フォーマットであることは間違いない。

しかし、である。これが絶品なのだ。恐らく、ジャズ・ベーシストがメインのパフォーマンスの極上のもの。タイトル「But Who's Gonna Play The Melody?」=「だれがメロディを弾くんだい?」の問いに応える様に、マクブライドとメイヤーの2人が、ピッチ奏法でリズム&ビートを弾き出し、アルコ奏法(ボウイング)で旋律を奏でる。

二人とも、とりわけ優れたベーシストであり、ピッチ奏法は極上なのは当たり前。しかし、この盤で素晴らしいのは、二人のベーシストのボウイング。ピッチはバッチリ合っていて、ボウイングのテンポもバッチリ合っている。その上、弾き出されるリズム&ビートは躍動感溢れ、グイグイと推進力抜群。そして、ボウイングの旋律は歌心溢れ流麗至極。クラシックのボウイングと比べても全く遜色無い。

これだけ、優れた内容のジャズ・ベースのボウイングは聴いたことが無い。今回のこのアルバムが、ジャズ・ベーシストのパフォーマンスの中で、ピカイチの内容のボウイングだろう。いわんや、ピチカートによる旋律のつまびきについても絶品極まりない。バックに回ったウォーキング・ベースも素晴らしい推進力。

いやはや、素晴らしいベース2本のデュオ。両者ともテクニック、歌心、イマージネーション、いずれをとっても遜色ない。現代のジャズ・ベースのバーチュオーゾ二人の極上のパフォーマンス。ジャズ・ベースがリーダーの名盤として、上位にランクしても良い傑作だと思う。

タイトルの問い「But Who's Gonna Play The Melody?」=「だれがメロディを弾くんだい?」。その答えは、このデュオ盤そのものの中にある。
 
 

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2024年11月17日 (日曜日)

ブルーノートらしい「バレル盤」

創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レコード・コレクターズ誌の執筆陣が選んだ「ブルーノートのベスト100」。レコード・コレクターズ 2024年11月号に載った特集記事なんだが、これがなかなかに興味深くて、順に聴き直してみようと思い立った。今日は「第5位」。

Kenny Burrell『Midnight Blue』(写真左)。1963年1月8日の録音。ブルーノートの4123番。ちなみにパーソネルは、Kenny Burrell (g), Stanley Turrentine (ts), Major Holley (b), Bill English (ds), Ray Barretto (conga)。リーダーのバレルのギターとタレンタインのテナーがフロント2管の、コンガ入り、キーボードレスのクインテット編成。

やっと「第5位」で、何から何までブルーノート・レーベルらしいアルバムがランクインした。まずタイトルの「Midnight Blue」と、このタイトルを印象的なタイポグラフィーであしらった、デザイン・センス抜群のジャケット。タイトルもジャケットもとにかく、とても「ブルーノートらしい」。

アルフレッド・ライオンがブルーノートの総帥プロデューサーだった時代、ブルーノートのアルバムには必ず「ブルース曲」が入っていた。ライオンの指示である。ブルーノートの音の基本は「ブルース」。
 

Kennyburrellmidnightblue_1

 
このケニー・バレルのリーダー作には、「洗練されたブルース・フィーリング」が横溢している。そして、そのブルース・フィーリングが、伝説の録音技師、ルディ・ヴァン・ゲルダーの手になる「ブルノート仕様の音」に映えに映える。

ブルージーでアダルト・オリエンテッドなファンキー・ジャズ。バレルの漆黒ギターとタレンタインの漆黒テナーが、アーバンな夜の雰囲気を醸し出す。コンガが良いアクセントとなった小粋な曲もあって、アルバム全体を通して、大人のファンキー・ジャズをとことん楽しむ事が出来る名盤。

ブルーノートのハウス・ミュージシャンの二人、バレルのギターとタレンタインのテナーの相性が抜群で、このフロント2管の相乗効果で、漆黒ファンクネスがだだ漏れ。どこか洗練された都会的な雰囲気が底に流れている。都会の深夜のブルージーで漆黒な雰囲気がアルバム全体を覆っている。

ブルーノートらしい演奏良し、ブルーノートらしい録音良し、ブルーノートらしいジャケット良し。「三方良し」のブルーノートらしい、ブルーノートらしさ満載のケニー・バレルの名盤。「ブルーノートのベスト100」の第5位は納得、である。
 
 

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2024年11月16日 (土曜日)

ハンコックの「凄み」を引き出す

ブルーノートの、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」。ブルーノートらしい内容、音、響き。そんな三拍子揃ったブルーノート盤の「ベスト100」。今日はその「第4位」。

Herbie Hancock『Maiden Voyage』(写真左)。1965年3月15日の録音。ブルーノートの4195番。ちなみにパーソネルは、Herbie Hancock (p), Freddie Hubbard (tp), George Coleman (ts), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。邦題『処女航海』。マイルス・スクールで、直接、帝王マイルスの薫陶を受けた(ハバードは除く)若き精鋭達で構成されたクインテットの名演集。

この盤の評価については、アルバム紹介本で、雑誌で、ネットのブログなどで語り尽くされているので、ここでは語らない。ここでは、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」の第4位になった、この『処女航海』というアルバムのブルーノートらしさ、という切り口から考察してみたい。

この盤のパーソネルが面白い。ピアノのハンコック、ベースのロン、ドラムのトニーについては、当時のマイルスの「1960年代黄金のクインテット」のリズム・セクション。しかし、フロント管にマイルスとショーターはいない。当時のマイルスの「1960年代黄金のクインテット」の「ウリ」はモード・ジャズ。しかし、これは、マイルス&ショーターのモード・ジャズであって、ハンコック、ロン、トニーのモード・ジャズではない。

それでは、ハンコック、ロン、トニーの、当時のマイルスの「1960年代黄金のクインテット」のリズム・セクションのモード・ジャズはどうか。リズム・セクション主導のモード・ジャズはあり得るのか。モード・ジャズの個性を決定づける要素は何か。その答えが、この盤にあるように思える。

ブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンのフロント2管のメンバー選定が面白い。テナー・サックスに、若干、ショーターの様に吹けるコールマン、トランペットに、確実にマイルスの様に吹けるハバード。何だか、疑似マイルスの「1960年代黄金のクインテット」の様な布陣。
 

Herbiehancockmaidenvoyage_1

 
出てくる音は、モード・ジャズの「教科書の様な」演奏。フロント2管のパフォーマンスに化学反応は起きない。テクニカルで端正な、マイルス&ショーターの様な、マイルス&ショーターのモーダルなフレーズをフォローした吹奏。今の耳で振り返って聴くと、この盤のフロント2管の吹奏は、テクニックは凄く素晴らしいが、フレーズ的には「安全運転」。

しかし、面白いことに、フロント2管が安全運転な分、バックのリズム・セクションのバッキングの演奏の創造力は素晴らしい。安全運転なフロント・フレーズに相対する様な、創造的でバリエーションに富んだモーダルなフレーズの連発。特に、バッっキングに回った時のハンコックのピアノの創造性と革新性は素晴らしいのだが、ここでも、その「バッキングに回ったハンコック」の凄みが噴出している。

バックに回って、フロントにマイルスとショーターがフロント管にいない時、不思議なことに、ハンコックは凄まじい想像性と革新性に富んだモーダルなフレーズを叩き出す傾向にある。ハンコックは、マイルスがフロントの時は、マイルスのモードにピッタリ寄り添い、ショーターがフロントの時は、ショーターのモードにガッチリ適応する。しかし、他のフロント管のモーダルな展開のバッキングに回った時のハンコックは、ハンコックならでは、の個性溢れるモーダルなフレーズを連発する。

そして、そんなハンコックならでは、の個性溢れるモーダルなフレーズの連発に、ベースのロン、ドラムのトニーは的確に反応する。そして、三位一体となったハンコックなモード・ジャズを展開する。この盤でも、フロントのコールマンハバードのバックで、ハンコック流のモード・ジャズが展開されていて立派。

ブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンは、「他のフロント管のモーダルな展開のバッキングに回った時のハンコックは、ハンコックならでは、の個性溢れるモーダルなフレーズを連発する」という特性を理解していたのだろうか。

この盤は、テクニックが素晴らしい、教科書の様な、安全運転なフロント管のモーダルな展開の、バッキングに回った時のハンコックの、凄みある、創造性と革新性に富んだモーダルな弾き回しを愛でる為にあるアルバムだと僕は思う。

リーダー・ミュージシャンの個性と特性、長所を最大限に引き出し、音にして記録する。そんなブルーノート・レーベルの凄さが感じ取れるハンコックのリーダー作である。第4位はちょっとなあ、とは思うが、ブルーノート・レーベルの、レーベルの特徴が良く出たアルバムであることは間違いない。
 
 

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2024年11月15日 (金曜日)

ECMの個性は「ニュー・ジャズ」

ECMレコードの個性は「ニュー・ジャズ」。従来の4ビートがメインのモダン・ジャズではない、即興演奏と他のジャンルの音楽との融合をメインとした新しいジャズ。クラシック音楽や現代音楽を育み、国々での個性的な民族音楽が存在する欧州だからこそ生まれた「ニュー・ジャズ」。

Egberto Gismonti『Sol Do Meio Dia』(写真左)。1977年11月、オスロの「Talent Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Egberto Gismonti (8-string g, kalimba, p, wood-fl, voice, bottle), Naná Vasconcelos (perc, berimbau, tama, corpo, voice, bottle : tracks 2, 3 & 5), Ralph Towner (12-string g : tracks 1 & 5), Collin Walcott (tabla, bottle : track 2), Jan Garbarek (ss : track 5)。

タイトル『ソル・ド・メイオ・ディア』は、ポルトガル語で「真昼の太陽」。ブラジルの作曲家、ギタリスト、ピアニストのエグベルト・ジスモンチのアルバム。その内容は、典型的な「ECMのニュー・ジャズ」。楽曲はすべてジスモンチのオリジナル。出てくる音は、ワールドミュージック志向の静的な即興演奏。どこか現代音楽にも通じるクールで透明度の高い即興演奏。
 

Egberto-gismontisol-do-meio-dia

 
ECMでのジスモンチは「ジャズ的な奏者」に軸足を置いている。ギターやピアノを抜群のテクニックで奏でるジスモンチが、たっぷり記録されている。ジスモンチの曲も個性的で良いが、各曲、静的でスピリチュアルな即興演奏が聴きもの。曲ごとに、ECMの「ハウス・ミュージシャン」的ミュージシャンが充てられ、スリリングで耽美的なインタープレイが繰り広げられる。

ナナ・ヴァスコンセロスのパーカッションが静的なインタープレイに躍動感を与え、ラルフ・タウナーの12弦とヤン・ガルバレクのソプラノ・サックスがスピリチュアルな響きを増強し、コリン・ウォルコットのタブラがワールド・ミュージックな音要素を強調する。そこに、ジスモンチのギターやピアノが絡み、対話し、対峙する。

このアルバムは、エグベルトがアマゾンのシングー族と過ごした時間にインスピレーションを受けており、アルバムはシングー族に捧げられている、とのこと。確かに、ジスモンチのピアノやギターのフレーズが入ってくると、そこに「ブラジリアン・ミュージック」の響きが、ワールドミュージック志向の静的な即興演奏に滲み出てくる。ECMレコードならでは、のワールドミュージック志向の「ニュー・ジャズ」である。
 
 

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2024年11月14日 (木曜日)

ECMサウンドのモード・ジャズ

月刊誌レココレの2024年11月号の特集「ECMレコーズ」にある「今聴きたいECMアルバム45選」。この特集のアルバム・セレクトが興味深く、掲載されているアルバムを順番に聴き直し&初聴きをしている。どの盤にも新しい発見があって、実に楽しい。今回のアルバムは初めて聴く「初聴き」盤。

Arild Andersen『Shimri』(写真左)。1976年10月、オスロの「Talent Studios」での録音。ECMの1082番。ちなみにパーソネルは、Arild Andersen (b), Juhani Aaltonen (ts, ss, fl, perc), Lars Jansson (p), Pål Thowsen (ds)。ノルウェーのジャズ・ベーシスト兼作曲家アリルド・アンダーセンの2枚目のアルバムである。

典型的なECMサウンド。耽美的でリリカル、静的スピリチュアルな展開、力強くブリリアントな管の響き、切れ味良く透明度の高いリズム隊のリズム&ビート。リーダーのアンダーセンがノルウェー出身、サックス担当のアールトネンはフィンランド出身、ピアノ担当のヤンソンはスウェーデン出身、ドラム担当のトーセンはノルウェー出身。カルテットのメンバー全員が北欧出身だが、北欧ジャズ独特の響きとフレーズは希薄。
 

Arild-andersenshimri

 
ゆったりとしたミッド・テンポの演奏がメイン。演奏される展開はモーダル。演奏の雰囲気、響きはECM流のヨーロピアンな純ジャズ。そう、この盤の演奏は「欧州的なモーダルな純ジャズ」。ピアノのヤンソンのモーダルなアドリブ・フレーズは、どこか米国的。しかし、音の響きは「欧州的」。この盤の音世界は、米国的なモーダルな純ジャズを、ECMレーベルというフィルダーを通して、ECMサウンドを纏った「欧州的な響きのするモーダルな純ジャズ」に変換したが如くの音世界。

アンダーセンのベースは力感溢れる、しっかり「胴鳴り」のする、骨太なアコースティック・ベース。モーダルな演奏のベース・ラインをしっかりと押さえ、フロント楽器がアドリブ・フレーズを奏でる時は、しっかりと展開の底を支え、時に自らが前面に出て、印象的で骨太なアドリブ・ソロを聴かせる。ピッチもしっかりあって破綻が無い、いかにも「欧州ジャズ」的なアコベの音。聴き味抜群なベース音。

ECMレーベルのアルバムについては、即興演奏をメインとした、伝統的なジャズとはかけ離れた「ニュー・ジャズ」なアルバムが多数あるが、この盤は違う。この盤は、典型的なECMサウンドの中での欧州的なモード・ジャズ。静的でリリカルでクールで透明度溢れるモード・ジャズ。この盤では、ECMレーベルの中では、ちょっと異質な、伝統的なジャズが展開されている。とても興味深く、ECMとしてユニークな盤だと僕は思う。
 
 

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2024年11月13日 (水曜日)

Chris Potter『Eagle’s Point』

2024年、コロナ禍も下火になり、コロナ前の日常が戻ってきた中、ジャズも完全復活みたいで、コロナ禍の折には、編成を縮小したりして、振り返れば、抑制的、内省的、思索的な内容のアルバムがメインにリリースされていた印象があるが、2024年に入ってからは、以前の勢いあるジャズが戻ってきている印象が強い。そして、内容的にも、将来の名盤、そのジャズマンの代表作になるであろう、内容良好なアルバムが出てきているから、ジャズ盤鑑賞はやめられない。

現代のジャズ・サックス奏者の代表格の一人、クリス・ポッター(Chris Potter)。米国シカゴ出身、1971年1月1日生まれ。今年で53歳。ジャズ・サックス奏者の中堅。純ジャズのみならず、フュージョン、ファンク的なアプローチにも長ける、オールマイティーなサックス奏者。が、メインストリーム系の純ジャズを吹かせたら、現代ジャズ・サックス奏者の先頭集団に値するパフォーマンスを披露してくれる。

Chris Potter『Eagle's Point』(写真左)。2024年3月のリリース。ちなみにパーソネルは、Chris Potter (ts, ss, b-cl), Brad Mehldau (p), John Patitucci (b), Brian Blade (ds)。メルドー、パティトゥッチ、そしてブライアン・ブレイドという説明不要な、現代の現役ビッグネームを迎えた、ポッターのワンホーン・カルテット。

そんなクリス・ポッターの新作であるが、これがまあ、素晴らしい出来で、驚くやら嬉しいやら。少しだけ、ところどころでアウトするところが、まるで、ジャキー・マクリーン。しかし、マクリーンより遥に端正。余裕のある力感溢れるブロウ。力の入れ具合は8割程度、という感じが。バリバリ吹くというよりは、滑らかなフレージングでポジティヴに吹き進める、という感じ。テクニックは優秀だが、テクニックをひけらかすことはない。
 

Chris-pottereagles-point

 
とりわけ、ミッドテンポで、地に足をしっかり落としてテナーを吹き進めるポッターは実に良い。アブストラクトにちょっとフリーキーに吹き上げる瞬間がいくつかあるが、ポッターは変に「羽目を外す」ことは無い。この盤では、ポッターはテナーのみならず、ソプラノ・サックス、そして、バス・クラリネットも吹いている。特にバスクラが印象的。次作以降、もっとバスクラを吹いて欲しい。そんな正な期待を持たせてくれる、ポッターのバスクラ。

この盤の演奏が、一段の高みを実現しているのは、リズム・セクションのメンバーが相当に優秀だから。ピアノにメルドー、ベースにパティトゥッチ、そして、ドラムに我がジャズ・ヒーローの一人、ブライアン・ブレイド。

名前を見ただけで、出てくる音の期待だけで「クラクラ」するほどの、有名、かつ力量のあるリズム・セクションがバックに控えているのだから、ポッターが、何の気兼ねもせず、ただひたすら、ポッターのサックスをバスクラを吹きまくるのは、当たり前と言えば当たり前。ポッターのサックス&バスクラは当然のことながら、このバックのリズム・セクションを聴くだけでも、「おかわり」したくなる様な、素晴らしいパフォーマンス。

この盤は、ポッターの代表作に、また、現代のサックスの名盤に、将来、なっていくであろう、クールでヒップでエクセレントな、内容の充実度の高さ。ポッターのワンホーン・カルテットという編成もグッド。いやはや、とんでもないサックス名盤候補がリリースされたもんだ。
 
 

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2024年11月12日 (火曜日)

コーエンの新盤『Vibe Provider』

現代のジャズ、今のジャズも面白い。ジャズは年々「深化」している。1920年代から1970年代にかけて、ジャズは新しい演奏スタイルや演奏トレンドが出現して、ジャズは「進化」していた。が、1980年代以降、純ジャズ復古の時代以降、過去の演奏スタイルや演奏トレンドを振り返り、深化させるムーヴメントがメインとなり、ジャズは「進化」から「深化」に転身した。

Emmet Cohen『Vibe Provider』(写真左)。2024年1月2-3日、NYのSear Sound録音。ちなみにパーソネルは、Emmet Cohen (p), Philip Norris (b), Kyle Poole (ds on Tracks 1-4, 8), Joe Farnsworth (ds on Tracks 5, 6, 7, 9), Tivon Pennicott (ts on Tracks 3, 4, 9), Bruce Harris (tp on Tracks 3, 4, 9), Frank Lacy (tb on Tracks 3, 9), Cecily Petrarca (koshkah on Track 3)。

エメット・コーエンは、1990年、米国フロリダ州マイアミの生まれ。今年33歳のバリバリ若手のジャズ・ピアニストである。クラシック音楽にも造詣が深く、コーエンのピアノを聴いていると、確かにクラシックの影響が垣間見える。2011年に初リーダー作『In the Element』をリリース。以降、1年に1枚のペースでコンスタントにリーダー作をリリースしている。

ピアノでジャズの歴史を駆け巡る男、現代のジャズ・ピアニストの代表格の一人、エメット・コーエンの12枚目のリーダー作。エメット・コーエンについては、数年前から、僕のお気に入りのピアニストの仲間入りを果たしていて、この新盤については、腰を据えて、じっくりと聴かせてもらった。まず感じたのは、収録された曲がどれも良い。コーエンのオリジナルと「Surrey with Fringe on Top」「Time on My Hands」などのスタンダード曲を、「ジャズの歴史を駆け巡る」個性で弾きまくる。
 

Emmet-cohenvibe-provider

 
それぞれの曲におけるコーエンのピアノのスタイルについては、コーエンの最大の個性である「ジャズの歴史を駆け巡る」スタイル。ラグタイム〜ストライド〜デキシーランドなどの「オールド・スタイルなピアノ」から、ガーランドの風のブロック・コードからモダン・ジャズとしてのバップ&モードまで、メインストリームなジャズの凡そのスタイルをさりげなく織り込んで、耽美的でクリアなピアノを弾きまくっている。

また、この盤では、リリカルで耽美的なピアノ表現に磨きがかかっていて、どこかキース・ジャレットやエンリコ・ピエラヌンツィを想起させる響きが、そこかしこに感じられる。が、コーエンのリリカルで耽美的なピアノ表現には、バップな要素が見え隠れしていて、決して、キースやエンリコのコピーになっていないところが「ニクい」ところ。

ピアノ・トリオを基本とした演奏と、トランペットとテナー・サックスがフロント2管のクインテットを基本とした演奏とが混在しているが、トリオもクインテットも、どちらの演奏も優秀。トリオの場合は、フロントを張るコーエンのピアノと玄人好みの通なリズム・セクションが楽しめるし、クインテットでは、伴奏に回った時の、コーエンのピアノをメインとした「伴奏上手」なリズム・セクションを楽しめる。

トータルの演奏時間が43分とCDの時代としては短いが、これってLPの時代と同じようなトータル時間で、飽きたり疲れたりする前、耳が元気なうちに全体の演奏を聴き終えることができるので、これはこれでアリかなとも思っている。録音についても、各楽器について、適度な音量、躍動感あふれるクリアな音質で録れていて申し分ない。「曲が良し、演奏が良し、録音も良し」の「三方よし」のコーエンの新盤です。
 
 

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実質の「マイルス盤」が第3位!

レココレ 2024年11月号」に掲載された「ブルーノート・ベスト100」。この「ブルーノート・ベスト100」は、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった、1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」が掲載されている。この「ベスト100」のアルバムを1位から順に聴き直していこう、と思い立っての3日目。

Cannonball Adderley『Somethin' Else』(写真左)。1958年3月9日の録音。ブルーノート・レーベルの1595番。ちなみにパーソネルは、Cannonball Adderley (as), Miles Davis (tp), Hank Jones (p), Sam Jones (b), Art Blakey (ds)。アルト・サックスの個性的な達人、キャノンボール・アダレイのブルーノートでの唯一のリーダー作である。

が、実質のリーダーは、ジャズの帝王「マイルス・デイヴィス」。この「実質のリーダー」の件には訳がある。

歴史を遡ること、1950年前後、マイルスは「ジャンキー」であった。マイルスは麻薬中毒の為、レコーディングもままならない状態に陥っていた。しかし、彼の才能を高く評価していたブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレット・ライオンは彼を懇切にサポート。1952年より1年ごとに、マイルスのリーダー作を録音することを約束。実際、1952年〜1954年の録音から、2枚のリーダー作をリリースしている。

しかし、1955年、麻薬中毒から立ち直ったマイルスは、大手のコロムビア・レコードと契約をした。契約金が半端なく高額だった。生活がかかっていたマイルスについては、このコロムビアとの契約は仕方のないところ。しかし、この契約により、ブルーノートへの録音は途切れることになる。
 

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が、マイルスは「ライオンの恩義」を忘れていない。自らがオファーして、このキャノンボールのリーダー作にサイドマンとして参加したのである。当然、ライオンは狂喜乱舞。当時の録音テープには「マイルス」の名前を記していたという。

この盤は、先にご紹介した、ブルーノートでの唯一盤『Blue Train』のコルトレーンと同じく、プロデュースはライオンだが、メンバー選びや選曲などはマイルスに一任されている。が、マイルスの対応は一味違う。マイルスは「ライオンの音の好み」を勘案して、メンバーを選んでいる。

他のレーベルとの専属契約があったので、ブルーノートでの録音は、したくても叶わなかったであろう、当時、新進気鋭のアルト・サックス奏者のキャノンボール・アダレイを選出。ピアノに流麗なバップ・ピアノの名手、ハンク・ジョーンズ。ベースに堅実骨太のサム・ジョーンズ。ドラムに名手アート・ブレイキー。このリズム・セクションの人選が渋い。

内容の素晴らしさについては、既に様々なところで語り尽くされているので、ここでは書かない。が、この盤は、恩人アルフレッド・ライオンに向けての、マイルス・ディヴィスがプロデュースの「ブルーノート盤」であることは確かである。

コーニー(俗っぽい)な曲を嫌い、コーニーな演奏を嫌うライオンに対して、マイルスは、冒頭、実に俗っぽい有名スタンダード曲「「枯葉(Autumn Leaves)」を持ってきている。しかし、この「枯葉」の演奏が絶品かつ、素晴らしくブルーノートっぽい演奏なのだ。ブルージーでファンキーで気品溢れる、アーティステックなアレンジと演奏。これには、恐らく、ライオンも感嘆したに違いない。この1曲だけでも、この盤は「ブルーノートらしい」。

この盤が「ブルーノート・ベスト100」の第3位である。キャノンボール・アダレイの唯一のブルーノートでのリーダー作だが、実質リーダーはマイルス・ディヴィスと言う「変化球」の様な超名盤。ブルーノートらしさは色濃いが、徹頭徹尾、ストレートにブルーノートらしいか、と問われれば、ちょっとひいてしまう。が、そこは、人情味溢れる、義理堅いマイルスに免じて、これは明確に「ブルーノートのアルバム」と言って良いだろう。
 
 
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2024年11月10日 (日曜日)

唯一のコルトレーン盤が第2位

「レコード・コレクターズ 2024年11月号」に掲載された「ブルーノート・ベスト100」。この「ブルーノート・ベスト100」は、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった、1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」が掲載されている。

John Coltrane『Blue Train』(写真左)。ブルーノートの1577番。1957年9月15日の録音。ちなみにパーソネルは、John Coltrane (ts), Lee Morgan (tp), Curtis Fuller (tb), Kenny Drew (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。テナーの聖人コルトレーンがブルーノートに残した唯一のリーダー作である。

この盤は「ブルーノート・ベスト100」の第2位。ふむむ、『Blue Train』が第2位かぁ。1950年代後半のコルトレーンは筋金入りのジャンキー。ブルーノートの総帥プロデューサーのアルフレッド・ライオンは、大のジャンキー嫌い。しかし、コルトレーンのアルバムは録音したい。この盤の録音時期は、コルトレーンが、約5年間在籍したマイルス・デイビスの元を離れて独立、自分の名前でジャズ・シーンでの歩みを開始した時期。

この盤は、リアルタイムでは、この盤が2枚目のリーダー作。この時、コルトレーンはプレスティッジと契約中。プレスティッジから初リーダー作をリリースしたが、ライオンの要請に従い、なんとかブルーノートからリリースの流れらしい。従って、このブルーノート版には、"courtesy of Prestige Records" とクレジットされている。
 

Blue_train

 
しかも、この盤、プロデュースはライオンだが、メンバー選びや選曲などはコルトレーンに一任されている。つまり、この盤はブルーノートらしさが希薄な盤と言える。つまり、どのレーベルでリリースしてもこの内容になった、ということ。しかし、ジャケのデザイン、ルディ・ヴァン・ゲルダーの手になる「ブルノート・サウンド」による録音。この2つのブルーノートならではの要素が、この盤をブルーノート・レーベルの名盤の一枚、に留めている。

加えて、この盤については、評論のほとんどが「コルトレーンは素晴らしい」の一点張りだが、この盤は、演奏に参加したメンバー全員が素晴らしい演奏をしている。ブルーノートはリハーサルにもギャラを払う。記録によると、ブルーノートは2〜3日間のリハーサルを積んで、本録音に望んでいる。当然、演奏内容は素晴らしい。これもブルーノートならでは、である。

演奏も素晴らしい。曲も素晴らしい。しかし、この盤はアレンジが秀逸。アレンジャーのクレジットがないので、恐らく、2〜3日間のリハーサルの中でのヘッド・アレンジだと思うが、どの曲も、このアレンジが素晴らしい。この優れたアレンジの則って、しっかりリハーサルを積んだ、端正でメロディアスでファンキーで骨太の演奏が「ブルーノートらしさ」をこの盤に付加している。

それぞれのメンバーの演奏の素晴らしさ、曲毎の作りの素晴らしさについては、既に様々なところで語り尽くされているので、ここでは書かない。コルトレーンだけではない、演奏メンバー全員が素晴らしい。アレンジも良い、ジャケも良い、録音も良い。モダン・ジャズの、ハードバップのアルバムとして、全ての面で、切り口で素晴らしい、コルトレーンの、というよりは、ハードバップの名盤、と言った方が座りが良い。

もっと他に、ブルーノートらしさが滴り落ちるような名盤があったようにも思うが、我が国のジャズ・シーンは、コルトレーン信奉者がまだまだ多いとみえる。ブルーノートらしさが少し希薄な、ブルーノートに一枚だけ残した、コルトレーンのこの盤が、「ブルーノート・ベスト100」の第2位である。少しだけ違和感を感じる。
 
 

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2024年11月 9日 (土曜日)

この盤が第1位とは意外である

「レコード・コレクターズ 2024年11月号」に珍しくジャズの特集が載った。「ブルー・ノート・ベスト100」。

ブルーノート・レーベルは、1939年にアルフレッド・ライオンによって始められたジャズ・レーベル。1950〜60年代のハード・バップを中心としながらも幅広いスタイルのジャズのアルバムを多数リリース。「1950〜60年代のジャズの変遷を知るなら、ブルーノートを聴けば良い」と言われるくらい、ジャズ史の中で、超重要なレーベルである。

そんなブルーノートの、創立以降、ジャズの潮流が変わりつつあった1968年までにリリースされたアルバムから、レココレ誌の執筆陣が選んだ「ベスト100」が掲載されている。今回、この「ベスト100」を指針として、ここヴァーチャル音楽喫茶「松和」で、順に聴き直してみようと思い立った。100枚相手の聴き直し。一年位、かかるかな。結果は右下のカテゴリー欄に「Blue Noteの100枚」としてアーカイブしていくので、よろしくお願いします。

Eric Dolphy『Out to Lunch』(写真左)。1964年2月25日の録音。ブルーノートの4163番。ちなみにパーソネルは、Eric Dolphy (b-cl, fl, as), Freddie Hubbard (tp). Bobby Hutcherson (vib), Richard Davis (b), Tony Williams (ds)。当時、先進的な、先鋭的なジャズを牽引していた精鋭クインテットである。

この盤が「ブルーノート100」の1位に選ばれている。うむむ、どこに焦点を当てるか、によるが、よりによってこの盤か、との想いが頭をよぎる。この盤は、一言で言うと「難解盤」。1位だといって、決して、初心者向けの盤では無い。ジャズの歴史と様々な奏法を聴いてきた、中級から上級向け。なんせ、聴き心地の良いものではない。

リーダーのエリック・ドルフィーのアルト・サックスは、ジャズの伝統に根ざした「前衛志向」。決して、前衛ではないし、フリージャズのリーダーでも無い。ジャズの伝統に根ざした、限りなく自由でユニークなアルト・サックス。マイルスが「コードからの解放」を示唆し、モード奏法を導入して、ジャズの即興演奏の自由度を飛躍的に高めた。そのベクトルの先の、ちょっと外れたところに、ドルフィーはいる。
 

Eric-dolphyout-to-lunch

 
この盤のドルフィーは、完全に「ドルフィー流のモード・ジャズ」。一定のルールと規律に基づいた、ジャズの伝統の枠内で、最大の自由を追求した様な演奏。だが、その自由度溢れるフレーズはドルフィー独特なもの。しかし、その「独特」なフレーズの凸凹と揺らぎが「癖になる」。癖になればドルフィー大好きだし、嫌になればドルフィー嫌いになるほどの強烈な個性。

演奏メンバーそれぞれ、このドルフィー独特の自由度溢れるモーダルなフレーズを踏襲する。まず、モーダルな先鋭的ヴァイブが個性のハッチャーソン。ドルフィー独特のフレーズの雰囲気を踏襲しつつ、ハッチャーソンの個性を踏まえたフレーズを叩きまくる。ドルフィー志向のハッチャーソンのヴァイブといった風情がユニーク。

トランペットのハバードは、テクニックが超優秀が故、ドルフィーのフレーズの「優れた物真似」志向で、「こんな感じでどう」という感じで、ドルフィーのコピー志向のモーダルなフレーズを吹く。創造性と独創性に欠ける嫌いがあるが、バカテクが故の仕業なので仕方がない。ピアノレスなので、このフロント3人のフレーズ展開の自由度はかなり高い。

リチャード・デイヴィスのベースと、トニー・ウイリアムスのドラムは、フリー&アブストラクトにも完全対応する、優れものなリズム隊なので、ドルフィーの、ジャズの伝統に根ざした「前衛志向」の演奏については、全く問題なく対応する。

しかし、このドルフィーの『Out to Lunch』が、「ブルーノート100」の第1位だったのには、ちょっと戸惑った。ジャズ者初心者にはちょっと荷が重いこの盤。確かにジャズ者ベテランからすると、聴いて面白い盤ではあるんだが。でも、やっぱり趣味性が高いかなあ。ジャケットもシュールで、マニアからするとたまらない逸品。とにかく、ブルーノートの名盤の一枚ではある。
 
 

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2024年11月 8日 (金曜日)

プログレとクロスオーバーの融合

聴くたびに思うんだが、英国では、プログレッシヴ・ロック(プログレ)とクロスオーバー・ジャズの境目が実に曖昧である。プログレも変則拍子や即興演奏はお手のもので、プログレの有名ミュージシャンが、結構、内容のあるクロスオーバー・ジャズのバンドのリーダーをやったり、演奏をやったり。当時、プログレのミュージシャンのテクニックは優秀で、クロスオーバー・ジャズでも、全く問題なく対応できた。

Bill Bruford『One Of A Kind』(写真左)。1979年1-2月の録音。EGレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Bill Bruford (ds, perc), Allan Holdsworth (g), Dave Stewart (key, syn), Jeff Berlin (b)。プログレの有名バンド、イエス、キング・クリムゾンのドラマーを務めた、ビル・ブルーフォードのリーダー作。

Bill Bruford(ビル・ブルーフォード)。僕たちがイエスやキング・クリムゾンなどの有名プログレ・バンドをリアルタイムで聴いていた頃は「ビル・ブラッフォード」というカナ読みだった。しかし、2012年に発行された自伝「Bill Bruford The Autobiography」の日本語版で、「ブルーフォード」の表記が採用されたことで、以降「ブルーフォード」が正式カナ読みとなった。実際の発音も同じ響きだそうだ。
 

Bill-brufordone-of-a-kind

 
閑話休題。このアルバムは、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ。決して、プログレではない。リズム&ビートが明らかにジャジーで、オフビートが強調されている。ホールズワースのギターは、エレもアコも超絶技巧フュージョンの流れを汲むものだし、ジェフ・ベルリンのベースのビートはジャズ。しかし、スチュワートのキーボード、特にシンセサイザーの使い方は、どこかプログレしていて、この盤は、一言で言うと「プログレとクロスオーバーの融合」なアルバムと形容することが出来る。

全編に渡って、ブルーフォードのドラミングが効いている。お得意の変則拍子ドラミング、ポリリズミックなドラミングが炸裂する。ブルーフォードのドラミングは重心が低く重厚。決して高速なドラミングではないが、芯の入った重心の低い、密度の濃いドラミングで、演奏全体のボトムが堅牢で、演奏全体がとても分厚く感じる。そこに切れ味良い、疾走感溢れるホールズワースのエレギが乱舞し、スチュワートのシンセが、キーボードが練り歩く。

プログレの要素を色濃く湛えた、ジャズロックというよりは「プログレとクロスオーバーの融合」によるクロスオーバー&フュージョン。ジャズロックとするほど単純ではない、意外と自由奔放で複雑な音作り。このバンドの音世界は、英国の音楽シーンだからこそ成し得た、プログレ)とクロスオーバー・ジャズの境目が曖昧だからこそ成し得た、独特の個性的な融合サウンドである。一聴の価値はある。
 
 

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2024年11月 7日 (木曜日)

隅に置けないウエスの名盤の一枚

僕のジャズ・ギタリストの大のお気に入りの一人、必殺オクターブ奏法のギター・レジェンド、ウエス・モンゴメリー。ウエスの単独名義のリーダー作の聴き直しもあと3枚となった。昨日に続いて今日も、ヴァーヴ・レコードに移籍後の「イージーリスニング・ジャズ」の時代のウエスのリーダー作の名盤を聴き直す。

Wes Montgomery『Goin' Out of My Head』(写真左)。1965年11,12月の録音。ちなみにパーソネルは、Wes Montgomery (g) に、リズム・セクションとして、Herbie Hancock, Roger Kellaway (p), George Duvivier (b), Grady Tate (ds), Candido Camero (congas). そして、バックにサックス4本 (Phil Woodsなど), トランペット4本 (Donald Byrdなど), トロンボーン4本 のブラス・セクションが付く。アレンジは、Oliver Nelson(オリヴァー・ネルソン)。

演奏の編成は、ヴァーヴ・レコード移籍後から変わらない「イージーリスニング・ジャズ」仕様。今回はバックにブラス・セクションが付いていて、弦は付いていない。それもそのはずで、R&B/Soul・ボーカル・グループ、リトル・アンソニー・アンド・ザ・インペリアルズの、1964年のヒット曲である「Goin' Out of My Head」を冒頭に収録している。つまり、R&B/Soulのジャズ・カヴァーに弦はいらない、ということだろう。
 

Wes-montgomerygoin-out-of-my-head

 
この盤は、R&B/Soulから、ブルースから、ボサノバ、ムード音楽まで、様々なジャンルの曲をカヴァーしている。ごった煮の収集のつかないイージーリスニング盤ではないのか、という懸念が頭をよぎるが、聞いてみてよく判るが、前作で確立した「ウエスのオクターヴ奏法による、切れ味の良い、スリリングなテーマ提示と、バックのブラス・セクションをリズム&ビートの供給に特化させ、その上をウエスがバップなギターを弾きまくる」という、ウエスのジャズ・ギターを最大限に活かすアレンジが踏襲されている。

いわゆる、メインストリームで硬派なイージーリスニング・ジャズに仕立て上げられている。今回はブラス・セクションをリズム&ビートの供給に特化させているところが、バッチリはまっていて、演奏全体の雰囲気はジャジーでファンキー。ウエスのギターは「バップなギター」で弾きまくる、いわゆるイージーリスニング志向の純ジャズな演奏に昇華しているところが一番の聴きどころ。

この盤は大ヒットし、100万枚近い売り上げを記録したとのこと。ビルボード誌のR&Bチャートで最高位7位。第9回グラミー賞では 『Goin' Out of My Head』が最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム(個人またはグループ)を受賞している。確かに、良質のモダン・ジャズの雰囲気をしっかり踏まえたイージーリスニング・ジャズで、今の耳で聴いても古さは感じない。逆に新しい発見があったりして、21世紀になっても隅に置けないウエスの名盤の一枚である。
 
 

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2024年11月 6日 (水曜日)

ヴァーヴ時代のウエスの好盤。

必殺オクターブ奏法のギター・レジェンド、ウエス・モンゴメリー。彼のキャリアは20年弱と短かったが、大きく2つに分けて、一つはリバーサイド・レコードでの「バップ・ギタリスト」の時代。もう一つは、ヴァーヴ・レコードに移籍後の「イージーリスニング・ジャズ」の時代。どちらの時代も、ウエスの、超絶技巧、歌心抜群、必殺「オクターヴ奏法」の3点セットで弾きまくるギターは変わらない。

Wes Montgomery『Bumpin'』(写真左)。1965年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Wes Montgomery (g), Bob Cranshaw (b), Grady Tate (ds), Roger Kellaway (p), Candido Camero (bongos, congas), のコンガ入りクインテットに、ストリングスとハープが入る。アレンジと指揮はドン・セベスキー(Don Sebesky)が担当している。ヴァーヴ移籍後、2枚目のリーダー作である。

ヴァーヴのウエスは「イージーリスニング・ジャズ」の時代。しかし、その内容は「甘くない」。ストリングスとハープが入っているので、聴き始めは「イージーリスニングかぁ」と身構えるのだが、ウエスのギター・フレーズが出てくると、思わずノリノリで聴き込んでしまう。この盤でも、ウエスの、超絶技巧、歌心抜群、必殺「オクターヴ奏法」の3点セットで弾きまくり、は健在。
 

Wes-montgomerybumpin

 
セベスキーによるアレンジなれど、譜面通りに弾く必要があった。しかし、ウエスは生粋の「バップ・ギタリスト」。譜面通りに弾く窮屈さに大苦戦。しかし、そこは名アレンジャーのセベスキー、ウエスの「オクターヴ奏法」による、切れ味の良い、スリリングなテーマ提示と、弦楽器をリズム&ビートの供給に特化させ、その上をウエスが「バップなギター」を弾きまくる、という、名アレンジを確立させる。

そんなウエスのバップ・ギターを最大限に活かしたアレンジの好例が、「The Shadow Of Your Smile(いそしぎ)」の名曲・名演に聴くことが出来る。イージーリスニング・ジャズ志向の演奏なんだが、テーマ部は骨太な切れ味の良い「オクターヴ奏法」が炸裂する。そして、アドリブ部がちゃんと用意されていて、弦によるリズム&ビートに乗って、ウエスがバップなギターでバリバリとアドリブを展開する。

加えて、このヴァーヴ時代のウエスは、骨太なイージーリスニング・ジャス志向の演奏に、アーバンなブルース感覚を織り交ぜていて、これが「大人のムーディーさ」というか、節操のない、聴き心地だけが良い、俗っぽいイージーリスニングに陥ることなく、一本筋の入った、硬派で骨太なイージーリスニング・ジャズとしているところが見事である。ヴァーヴ時代のウエスを侮ることなかれ。イージーリスニング・ジャズの名盤です。
 
 

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2024年11月 5日 (火曜日)

ウエスのバップ・ギター最終盤

朝一番のジャズ盤として、最近は「Wes Montgomery(ウエス・モンゴメリー)」のリーダー作を順に聴いている。ウエスのギターは、僕の大のお気に入りで、ウエスのギターであれば「何でも通し」である(笑)。ウエスのリーダー作には「ハズレ」は無い。どのアルバムでも、ウエスの超絶技巧な、歌心抜群な、必殺「オクターヴ奏法」を伴って、素晴らしいパフォーマンスを聴かせてくれる。

Wes Montgomery『Guitar On The Go』(写真左)。1959年と1963年10月から11月に録音された曲が収録されている。1966年のリリース。ちなみにパーソネルは、Wes Montgomery (g), Melvin Rhyne (org), George Brown (ds on 1-4, 6), Jimmy Cobb (ds, on 7), Paul Parker (ds, on 5)。ドラムは3人で分担、基本は「ギター+オルガン+ドラムス」のトリオ編成。

ウエスがヴァーヴと契約する前にリバーサイドでリリースした最後のアルバムである。リバーサイドでの最後のアルバムだからと言って、ウエスは手を抜かない。バンバン、バップなギターを弾きまくっている。冒頭の「The Way You Look Tonight」2連発を聴けば、それが良く判る。超絶技巧、歌心抜群、必殺「オクターヴ奏法」の3点セットを駆使して、ギターを弾きまくる。
 

Wes-montgomeryguitar-on-the-go

 
リバーサイド時代のウエスは、スタンダード曲と自作曲を、バップなギターでバンバン弾きまくる。この盤も例に漏れず、バップなギターを弾きまくる。バップなギターにオクターヴ奏法が加わると、演奏の迫力倍増。アドリブ・フレーズが圧倒的な迫力を持って我々に迫ってくる。ウエスのハードバップなギターを聴くには、「リバーサイド」である。

オルガンが大健闘している。メルヴィン・ラインは1936年にインディアナポリス生まれ。インディアナポリス繋がりで、1959年、ウエスのトリオに加わる様、要請されている。ラインのオルガンは、ウエスのトリオ盤で聴くことが出来るが、意外とダイナミックで端正でファンキーなオルガンで、ウエスのギターの向こうを張って、ガンガン、弾きまくっている。このラインのオルガンも聴きものである。

ウエス以外、馴染みのないミュージシャンなんだが、どうして、なかなか聴き応えのあるハードバップな演奏がてんこ盛り。ウエスは安定の、超絶技巧、歌心抜群、必殺「オクターヴ奏法」の3点セットで弾きまくり。バップなウエスを聴くなら「リバーサイド」。そのリバーサイドからリリースされた最後のアルバム。やっぱり、ウエスのアルバムには「ハズレ」無し。
 
 

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2024年11月 4日 (月曜日)

ECM流クロスオーバー・ジャズ

John Abercrombie『Night』(写真左)。1984年11月20日、NYでの録音。ミックスはオスロ。ECM 1272番。ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g), Michael Brecker (ts), Jan Hammer (key), Jack DeJohnette (ds)。

ECMのハウス・ギタリスト、ねじれのジョン・アバークロンビー(略して「ジョンアバ」)、当時、若き精鋭テナーマンのマイケル・ブレッカー、伝説のロック・ギタリストのジェフ・ベックとの共演歴もある「キーボードの怪人」ヤン・ハマー、そして、ポリリズミックなレジェンド・ドラマーのジャック・デジョネットの変則カルテット。

よく見るとベーシストがいない。が、演奏を聴いていると、ベース音が無い方が明らかに、この盤の演奏の音世界に向いているので、ECMの総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーがリハの段階でベースをオミットした可能性がある。ハマーがエレクトリック・キーボードでありながら、ベースペダルでベースラインも弾いているので、演奏全体として、ベースラインは必要最低限でキープされている。

そして、よくよく振り返ってみると、アルバム『Timeless』のトリオに、マイケルのテナーが参加したイメージの音世界である。マイケルのテナーが入ったことによって、『Timeless』よりジャズ色が強まり、このアルバムについては、ECM流ジャズロック&クロスオーバー・ジャズな音世界が個性的。
 

John-abercrombienight

 
ジョンアバは、従来通り、ECM仕様の浮遊感とねじれとシャープな、ちょっとディストーションのかかったエレギの音でガンガン攻める。そんなECM仕様のジョンアバのギターに習って、モーダルにフリーに振れながら、浮遊感を漂わせながらストレートなマイケルのテナーが突入してくる。極上のフロント楽器の、官能的なインタープレイは見事。

ハマーの不思議で変態チックなフレーズを連発するエレクトリック・キーボードは実に印象的で、ジョンアバとマイケルとはまた違った、浮遊感を伴った、どこかエキゾチックな、どこか不思議にモーダルに捻れるフレーズを繰り出している。ここまでは、どこか、英国のプログレッシブ・ロックに通じる雰囲気が見え隠れするところが個性的。

しかし、デジョネットのポリリズミックなドラミングが、とてもジャジーで、このデジョネットのドラミングが、この盤の音世界の軸足を「ジャズ」に残している、と感じる。変幻自在、硬軟自在、緩急自在な、即興性溢れるドラミングは明らかに「ジャズ」で、このドラミングによって、この盤の音世界は、ECM流ジャズロック&クロスオーバー・ジャズな音世界に落ち着いている。

ロックっぽいところが、ECM流のジャズロックとも捉えることができて、この盤は、ECMのカタログの中ではちょっと異質な内容なんだろう。このジョンアバの「ECM流ジャズロック&クロスオーバー・ジャズ」といった内容のアルバムは他にない。ECMらしからぬ、極上のエレ・ジャズの世界。「一聴もの」であることは確かである。
 
 

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2024年11月 3日 (日曜日)

聴くべきは古澤のドラミング

1970年代後半から80年代前半にかけて、我が国のジャズ・シーンは、フュージョン・ジャズの大流行に並行して、メインストリームな和ジャズが、クロスオーバー志向を強めた異種格闘技な演奏展開や、フリー&スピリチュアル・ジャズの強化、という、米国や欧州とは異なる、独自の深化と分化を遂げていたように思う。

『12,617.4km 古澤良治郎の世界ライヴ』(写真左)。1980年の作品。ちなみにパーソネルは、古澤良治郎 (ds), 高橋知己 (ts), 廣木光一 (g), 大口純一郎 (p), 望月英明 (b) のレギュラー・バンドに、ゲストとして、山下洋輔 (p), 森山威男 (ds), 川端民生 (b), 大徳俊幸 (p), 向井滋春 (tb), 渡辺香津美 (g), 本多俊之 (as), 明田川荘之 (p), 三上寛 (vo, g) が入るという、錚々たるメンバーでのライヴである。

不思議な音世界のライヴである。ジャズを中心に置いてはいるが、他のジャンルの音と積極的にクロスオーバーした「異種格闘技」風の中身の濃い演奏がてんこ盛り。広い意味で「クロスオーバーな純ジャズ」だが、正当な内容の厚い、完全フリーな演奏もあって、ここまでくると、クロスオーバーというよりは、純ジャズをベースにした異種格闘技なジャム・セッションと形容して良いかもしれない。
 

126174km

 
ロックと融合したクロスオーバー・ジャズな展開もあれば、モーダルなジャズの展開もあり、どフリーでスピリチュアルな演奏もあれば、グルーヴィーな響きもあり、遂には、フォーク界の人と思われる三上寛が参加して、エモーショナルなボーカルで叫ぶ。一体何なんだ、この音世界は。ただ、演奏するミュージシャンが一流どころばかりなので、破綻がない。自らの得意とするジャンルの音をバンバン出しているのだから、悪かろうはずがない。

一番感心するのは、純ジャズをベースにした異種格闘技なジャム・セッションの中、様々なジャンル、様々な演奏トレンドの、それぞれ全く異なる内容にも関わらず、古澤のドラミングは揺るがないこと。どころか、その様々なジャンル、様々な演奏トレンドに適したドラミングを叩き出し、演奏全体のリズム&ビートをコントロールし、フロント楽器を鼓舞する。そして、この古澤の揺るぎないドラミングのお陰で、様々なジャンル、様々な演奏トレンドが詰まったライヴながら、アルバム全体に統一感が充満している。

古澤の柔軟で適応力抜群な、それでいて、個性はしっかりキープした、揺るぎのないドラミングは見事。このライヴは確かに、異種格闘技風のバラエティー溢れるゲストのパフォーマンスも魅力だが、やはり、聴くべきは古澤良治郎の見事なドラミングだろう。和ジャズに古澤あり。このライヴ盤を聴きながら、そんなことを強烈に再認識した。
 
 

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2024年11月 2日 (土曜日)

「元曲」の良さで盤の魅力倍増

米国ウエストコースト・ジャズは「聴かせる」ジャズである。優れたアレンジをしっかり踏まえ、聴き味の良い、流麗な弾き回しとアンサンブル。クールで小粋なアドリブ・パフォーマンス、切れ味よく端正なリズム&ビート。このウエストコースト・ジャズは、例えば、優れたフレーズを持つミュージカル曲やドラマの挿入曲を「元曲」にジャズをすれば、その個性と特徴がさらに輝きを増す。

『Shelly Manne & His Men Play Peter Gunn』(写真左)。January 19 & 20, 1959年1月19, 20日の録音。ちなみにパーソネルは、Shelly Manne (ds), Conte Candoli (tp), Herb Geller (as), Victor Feldman (vib, marimba), Russ Freeman (p), Monty Budwig (b), Henry Mancini (arr)。

「Peter Gun」とは、アメリカの古いTV番組で、1958年から61年にかけて毎週月曜日の夜9時から放送されていた「探偵もの」のドラマ。ドラマの挿入音楽は有名なヘンリー・マンシーニが担当、内容は立派なジャズ・ベースな楽曲だったそうで、その楽曲を、シェリー・マン率いるヒズ・メンが、ウエストコースト・ジャズとしてカヴァーする企画盤がこの盤である。
 

Shelly-manne-his-men-play-peter-gunn

 
もともとマンシーニの作曲&編曲の「元曲」が、ジャズ志向の佳曲ばかりで、ジャズ志向の佳曲を、当時流行していたウエストコースト・ジャズ流のアレンジで、マンシーニ自身が再アレンジして、良好な内容のハードバップっぽい演奏に仕上げている。元曲の良さを活かしつつ、ウエストコースト・ジャズのアレンジの個性が、元曲の良さをさらに引き出している様な演奏は聴き応えがある。否、元曲を知らなくても大丈夫。純粋にウエストコースト・ジャズの好演として聴いても全く違和感は無い。

マンの、様々なニュアンスのリズム&ビートを叩き出しながら、しっかりフロントを引き立て、クールに鼓舞する、「聴かせる」ウエストコースト・ジャズに最適なドラミングは相変わらず。トランペットがコンテ・カンドリ、アルト・サックスがハーブ・ゲラー、ヴァイブがヴィクター・フェルドマン。その3人のフロントの演奏が、マンのドラミングに乗り、鼓舞されて、なかなか充実した、ウエストコースト・ジャズらしからぬ、ホットなアドリブを展開している。

「元曲」の良さがそうさせるのだろう。ウエストコースト・ジャズの個性と特徴はしっかり踏まえつつ、いつになく、ウエストコースト・ジャズらしからぬ、ちょっとホットな演奏は聴き応え十分。クールで端正で流麗、聴き心地の良いユニゾン&ハーモニーはそのままに、少し「熱い」インプロビゼーションを繰り広げる。モダン・ジャズの好盤です。
 
 

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2024年11月 1日 (金曜日)

マンのドラミングが映える好盤

これまで我が国では、米国のウエストコースト・ジャズについては、正当に評価されてない様に感じる。大人しい、熱気がない、印象が薄い、など、東海岸ジャズとの比較に中で、東海岸ジャズの長所と「反対の特徴」を、西海岸ジャズの欠点として捉えて、低い評価を与えられている傾向が強い。しかし、その「反対の特徴」を、西海岸ジャズの長所として捉えれば、正当な評価につながっていくのだから面白い。

Shelly Manne and His Men『More Swinging Sounds』(写真左)。1956年7, 8月の録音。ちなみにパーソネルは、Shelly Manne (ds), Stu Williamson (tp, valve-tb), Charlie Mariano (as), Russ Freeman (p), Leroy Vinnegar (b)。ネコのイラスト・ジャケが印象的な、シェリー・マン主宰の「Shelly Manne and His Men」シリーズのVol.5。

1956年の録音。米国ウエストコースト・ジャズの全盛期の入り口、アルバム全体にウエストコースト・ジャズの良いところがギッシリ詰まった好盤。西海岸独特の、切れ味良く、端正で流麗なスイング感がたまらない。その魅力的で爽快なスイング感は、リーダーのシェリー・マンのドラミングが推進エンジンになっている。そして、そんなマンのドラミングの「底」を、レロイ・ヴィネガーの味わい深い、オーソドックスなベースがしっかりと支えている。
 

Shelly-manne-and-his-menmore-swinging-so

 
この西海岸独特の雰囲気は、この盤で唯一のスタンダード曲、チャーリー・パーカー作のミュージシャンズ・チューンの「Moose the Mooche」を聴けば良く判る。西海岸独特の洒落たアレンジで、このビ・バップの名曲を「聴かせる」ジャズに仕立て上げている。ウォームで軽快スインギーなリズム&ビートに乗って、流麗なアドリブ・フレーズを奏でるフロント2管。

ステュ・ウィリアムソンのトランペットの好演が光る。東海岸の様に熱気溢れる、迫力満点なブロウでは無いが、テクニックに優れ、流麗なフレーズは、これはこれで、優れたジャズ・トランペット。そして、マリアーノのアルト・サックスも健闘している。スチュのトランペットの向こうを張って、素敵なフロント2管を形成している。

リーダーのマンのドラミングが一番の聴きもの。テクニック抜群、様々なニュアンスのリズム&ビートを叩き出しながら、しっかりフロント2管を引き立て、クールに鼓舞する。「聴かせる」ウエストコースト・ジャズに最適なドラミング。優れた「モダン・ジャズ」がここにもある。ジャズの裾野の広さ、ジャズの深化、をバリバリに感じる、ウエストコースト・ジャズの好盤の一枚である。
 
 

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