阿川の ”フュージョン・ボーカル”
フュージョン・ジャズの時代、インスト中心のアルバム作りが主流で、ボーカルがメインのアルバムは少なかった。ボーカル入りのアルバムはあったが、どちらかと言えば、ファンクネスな要素の彩りが欲しい時の「ソウル、R&B志向のボーカル」で、フュージョン・ジャズとして、「ボーカリストの歌を聴かせる」盤は希少だった。
阿川泰子『Lady September』(写真左)。1985年6~7月、東京での録音。ちなみにパーソネルは、バック・バンドとして、当時の阿川泰子のレギュラーバンドだった「松木恒秀グループ」、ブラジルから迎えたグループ「カメラータ・カリオカ」、吉田和雄率いる「スピック&スパン」が分担して担当している。
ボーカルはもちろん、阿川泰子。アレンジは野力奏一、吉田和雄、小林修が担当。このアルバムのメイン・コンセプトは「ノスタルジックなボサノバ」をメインとした、ブラジリアン・フュージョン。
バック・バンドの演奏は、フュージョン・ジャズど真ん中な演奏で、完璧フュージョンなバック・バンドのサポートを得て、阿川泰子が気持ちよさそうに、ボサノバ曲を唄い上げていく。
耽美的で流麗なシンセの前奏が、いかにも1980年代半ばの「フュージョン・ジャズ」という雰囲気がとても良い、アコギやベースを従えての、冒頭のイヴァン・リンスの「Velas(September)」が、このアルバム全体の雰囲気を代表している。
2曲目「When You Smiled At Me」は、8ビートな爽快感溢れるボサノバ&サンバなグルーヴが心地良いアップ系だが、ファンクネスはほとんど感じられない、それでいて、小気味の良いオフビートが、演奏全体の疾走感をさらに増幅させる。典型的な「和フュージョン」な音作りで耳に馴染む。
3曲目の「Voo Doo」は、どこかディスコ・フュージョンっぽいアレンジがユニーク。4曲目「If You Never Come To Me」は、スローなボサノバ曲で、アコギの伴奏が。アコギのソロが沁みる。8曲目の「I’m Waiting」でも、松木恒秀の印象的なアコギ・ソロが聴ける。この盤の伴奏、アコギの音色が実に印象的。
フュージョンど真ん中のバック・バンドの演奏だが、テクニックに優れ、内容は濃い。伴奏だけに耳を傾けても、十分にその伴奏テクニックを堪能できる優れもの。そこに、ライトな正統派ボーカルの阿川泰子がしっとりと力強く唄い上げていく。聴き応え良好。収録されたどの曲でも、阿川のボーカルが映えに映える。アレンジ担当の面々の面目躍如であろう。
阿川のライトなジャズ・ボーカルの質、バックバンドの演奏の質、そして、その二つを効果的に結びつけるアレンジの質。この「3つの質」がバッチリ揃った、フュージョン志向の「ボーカリストの歌を聴かせる」盤として、優秀なアルバムだと僕は評価してます。
バブル全盛時代にリリースされた、美人シンガーの「フュージョン・ボーカル」盤なので、何かと「色眼鏡」で見られるが、内容はしっかりとしている。ながらジャズに最適かな。いやいや、対峙してジックリ聴いても、聴き応えのある好盤です。
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