« 僕なりの超名盤研究・32 | トップページ | 僕なりの超名盤研究・34 »

2024年10月18日 (金曜日)

僕なりの超名盤研究・33

小川隆夫さん著の『ジャズ超名盤研究』を参考にさせていただきつつ、「僕なりのジャズ超名盤研究」をまとめてみようと思い立って、今回までで32枚の「超名盤」について聴き直して、聴き直した時点での感想をブログ記事に綴ってきた。そして、いよいよ、残すは2枚。今回はキース・ジャレットの登場。

 Keith Jarrett『The Köln Concert』(写真左)。1975年1月24日、当時の西ドイツ、ケルンの「Opera House」でのライヴ録音。ECMレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (p) のみ。そう、このライヴ盤は、キースのソロ・ピアノの記録であり、キースの生涯、最大のヒット・アルバムである(LP2枚組のボリュームにも関わらず、である)。

実は、この「ケルン・コンサート」のキースの弾き回しは、他のキースのソロ・ピアノの弾き回しと比べて、ちょっと異質である。「ケルン・コンサート」のパフォーマンスだけが、特別なニュアンスとテクニックで弾き回されている。明らかに、他のキースのソロ・ピアノとは違う。というか、この「ケルン・コンサート」だけが突出している。

キースの耽美的でリリカル、クラシック志向な流麗なフレーズの使用は他にもあるが、ここまで、徹底して、耽美的でリリカルなフレーズとクラシック志向な流麗なフレーズを多用したソロ・パフォーマンスは他に無い。何か、特別な事情があったのではないか、と常々思っていた。

このライヴ盤の研究が進み、他のソロ・ピアノとの比較が進むにつれ、この「ケルン・コンサート」での、ある事件が、この「特別なニュアンスとテクニックで弾き回された」パフォーマンスを生み出した、と解釈されるようになった。その事件とは、Wikipediaから要約させていただくと以下の様になる。

”ライヴに使用するピアノは、当初、キースの要望通り「ベーゼンドルファー290インペリアルコンサートグランドピアノ」を用意するはずだったのが、スタッフの混乱により、ベーゼンドルファーのピアノ(はるかに小さなベビーグランドピアノ)にすり替わってしまった。コンサート直前に間違いに気がついたが、交換にかける時間的余裕も無く、そもそも、外は悪天候で交換用のピアノを搬入することは叶わなかった。しかも、この小型ピアノは調律が満足ではなく、高音域はチープで薄く、低音域は弱く、ペダルは適切に機能しなかった。キースは、この劣悪な状態の小型ピアノを弾かざるを得ない状況に陥った”
 

Keith-jarrettthe-koln-concert

 
しかし、キースはこの劣悪な状態の小型ピアノでソロ・ピアノを敢行すると決意した後、途方もないテクニックと創造力を駆使して、素晴らしいパフォーマンスを実現する。その内容は、

”ジャレットは、演奏中にオスティナートや左手のリズムの揺れ方を使ってベース音を強くした効果を出し、キーボードの中央部分での演奏に集中した。アイヒャーは後に「おそらくジャレットがそのように演奏したのは、良いピアノではなかったからだろう。その音に惚れ込むことができなかったので、最大限に生かす別の方法を見つけたのだろう」と語っている” (Wikipediaから引用)

キースは、この劣悪な状態の小型ピアノを前提に、最高のパフォーマンスを発揮するにはどうしたら良いか、を考え、それを実現した、ということ。いわゆる「弘法筆を選ばず」である。キースが、この劣悪な状態の小型ピアノを使って、最高のパフォーマンスを実現したら、この「ケルン・コンサート」の音になったということで、その結果「特別なニュアンスとテクニックで弾き回された」パフォーマンスを生み出したと思われる。

加えて、このコンサートでのキースの体調は劣悪で、睡眠不足と背中の痛み、コンサート会場にギリギリに着いたので、食事のろくにしていなかった。そんな体調で、劣悪な状態の小型ピアノに向かって、途方もないテクニックと創造力を駆使して、最高のパフォーマンスを披露する。恐らく、キースは「ゾーンに入った」状態にあったのではなかろうか。とにかく紡ぎ出されるフレーズ、ニュアンスは、極上のものばかりである。キースも時々「歓喜の雄叫び、歓喜の唸り声」をあげている。

つまり、この「ケルン・コンサート」の特殊性は、劣悪な状態の小型ピアノと劣悪なキースの体調を前提にした、キースの途方もないテクニックと創造力の賜物、だと言える。当然、キースのソロ・ピアノの中でも、唯一無二、一期一会のパフォーマンスであり、奇跡のパフォーマンスの記録である。

「ケルン・コンサート」のパフォーマンスだけが、特別なニュアンスとテクニックで弾き回されているので、他のキースのソロ・ピアノ盤を聴くと、違和感を感じジャズ者の方々が多くいる。それは当然で、「ケルン・コンサート」が生み出された前提である「劣悪な状態の小型ピアノと劣悪なキースの体調」は、他のソロ・ピアノのパフォーマンスには無いからだ。

しかし、この「ケルン・コンサート」を聴いて判るのは、キース・ジャレットが、途方もないテクニックと創造力を持ち合わせた、不世出のジャズ・ピアニストだった、という事実である。ピアノという楽器を知り尽くし、そのピアノという楽器の能力を最大限に引き出し、自らイメージするフレーズを忠実に音に表現できる。キースはそんな「レジェンド級」のジャズ・ピアニストである。
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館 の更新状況》 更新しました!
 
  ★ AORの風に吹かれて 

   ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

 ★ まだまだロックキッズ     【New】 2024.08.24 更新
 
   ・イタリアン・プログレの雄「PFM」のアルバム紹介と
         エリック・クラプトンの一部のアルバム紹介を移行しました。

   ★ 松和の「青春のかけら達」

  ・チューリップ『ぼくが作った愛のうた』『無限軌道』の
   記事をアップ。
 

Matsuwa_billboard
 
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
 
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
 
東日本大震災から13年7ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
 
Never_giveup_4 
 

 

« 僕なりの超名盤研究・32 | トップページ | 僕なりの超名盤研究・34 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 僕なりの超名盤研究・32 | トップページ | 僕なりの超名盤研究・34 »

リンク

  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。           
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  

カテゴリー