向谷ならではのフュージョン盤
我が国を代表するクロスオーバー&フュージョン・バンドである「カシオペア」。結成時から1989年までの野呂一生・櫻井哲夫・向谷実・神保彰によるメンバーでの活動の第1期の中、常にカシオペアはグループとしての活動を優先した為、1985年〜1986年、当初から期間を厳格に定めてソロ活動を展開したが、そのソロ活動も各自のソロアルバムを制作するだけに留めている。
向谷実『Welcome To Minoru's Land』(写真左)。1985年の録音、1986年のリリース。ちなみにパーソネルは、向井実がただ一人。向谷が、YAMAHA KX88, YAMAHA DX7, TX816×2, RX11, QX1, グランド・ピアノ, ROLAND TR-707, SBX-80, KORG SUPER PERCUSSION,MINI MOOG,EMULATOR II などを担当し、一人多重録音で制作した、向谷のソロ・アルバム第一弾。
当時最新のシーケンサーとリズムマシンを組み合わせての一人多重録音のアルバム。これをクロスオーバー&フュージョン・ジャズの範疇の音楽と認識した良いか、という議論があったが、採用されたリズム&ビートは、打ち込みであれ、ジャズを基本としたものなので、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの範疇として、僕は取り扱っている。
ややもすれば、カシオペア・サウンドの中で埋もれがちだった、向谷の持つ音楽性とキーボード・テクニックの高さ、そして、シンセサイザー及びシーケンサー、リズムマシンに対する理解度と応用力の高さが、音となって示された、ユニークなソロ・アルバム。当時の電気楽器は、デジタルに対応したばかりで音が薄く、無機質な音質傾向にあったが、その弱点を克服する多重録音のテクニックと、木琴やピアニカ等の楽器を活用し、アナログ的な温かみを感じさせる工夫は見事である。
カシオペアの音世界の雰囲気を漂わせつつ、カシオペア・サウンドよりもポップでシンプルで柔軟な音とフレーズで、向谷独自のサウンドを展開している。2曲目の「ASIA」では、東南アジアをメインとした各国の音をサンプリングして、多重録音で音のコラージュを聴かせてくれる。3曲目の「Take The SL Train」は、鉄道ファンである向谷の面目躍如的な名演で、SLの音をサンプリングして、走行時のレールのつなぎ目音をリズムの基本にした音作りには思わず「ニンマリ」。
サンバ・フュージョンの「Road Rhythm」、アンビエントな「Kakei」、向谷と二人の子供達の会話を交えた、ほんわかアットホームでポップなフュージョン曲「Family Land」。一人多重録音で、ポップでシンプルで柔軟な向谷独自のサウンドに彩られた演奏が聴いていて、とても楽しい。向谷ならではのユニークなクロスオーバー&フュージョンの好盤だと思います。
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