僕なりの超名盤研究・32
この歳になると、なかなか「超名盤」について聴き直す機会が無いだけに、楽しみながらの聴き直しになっている。小川隆夫さん著の『ジャズ超名盤研究』を参考にさせていただきつつ、「僕なりのジャズ超名盤研究」をまとめてみようと思い立って、今回までで31枚の「超名盤」について聴き直して、聴き直した時点での感想をブログ記事に綴ってきた。そして、いよいよ、残すは3枚。
Chick Corea『Return to Forever』(写真左)。1972年2月の録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (el-p), Joe Farrell (fl, ss), Stan Clarke (b), Airto Moreira (ds, perc), Flora Purim (vo, perc)。チック・コリアのリーダーの伝説的ジャズ・バンド「リターン・トゥ・フォーエヴァー」のデビュー盤である。
マイルスのもとで、フェンダー・ローズをギュインギュイン言わせて、限りなくフリーに近いモーダルなフレーズをブイブイ言わせていたチック。マイルスの下を辞してからは、限りなくフリーに近いモードから、完全フリー&アブストラクトに走ったチック。
そんなチックが、ECMで録音したソロ・ピアノ・アルバムで、完全に音志向を変換。ソロ・ピアノで表現した、リリカルでメロディアスなユートピア志向な音を、バンド演奏に置き換えたのがこのアルバムである。
録音時点でのジャズの「演奏方式」や「演奏のトレンド」が的確に反映されている。モーダルなフレーズの嵐、フリーでアブストラクトな展開、スピリチュアル&ミステリアスな音の響き、エレクトリックな音作り、ロック・ビートの採用。
そして、従来からのジャズ演奏の定番である、バンド・メンバー全員による自由度の高いインタープレイ、よくアレンジされたユニゾン&ハーモニー、などなど、録音時点の、また、それまでのジャズの「良いところ」がしっかり反映されている。
そして、演奏全体を覆う、チック・コリアならではの、チック・コリア・オリジナルの音志向と個性「リリカルでメロディアスなユートピア・サウンド」。
この盤にはチックのサウンドと個性だけが反映されていて、このチックならではの音世界は、他のミュージシャンのアルバムには存在しない。そんな「唯一無二」な、チックだけが創造できるサウンドがこのアルバムに詰まっている。それが凄い。それがこのアルバムの凄いところ。この盤にはチックの音楽性の全てが反映されている。
加えて、演奏内容については、当時、マイルスが牽引していた「クロスオーバーなエレ・ジャズ」の完成形と言い切って良いくらいの、質の高い、内容の濃い、テクニックが伴い演奏全体が理路整然とした、エレクトリックなジャズ演奏の「極み」なパフォーマンスがこの盤に詰まっている。
フュージョン・ブームの先駆けとなった記念碑的名盤、と良く言われるが、それは違うだろう。この盤は、あくまで、マイルスやコルトレーンが追求してきたモダン・ジャズの、純ジャズの発展形であり、究極形の一つだと僕は思う。
この盤には、後のクロスオーバー&フュージョン・ジャズに聴かれる、聴衆にアピールするポップ&ファンクな要素は微塵も無い。それまでのモダン・ジャズが進化の過程で、新たに自家薬籠中のものとした「音の要素」を、理路整然としたコンテンポラリーなジャズとして昇華させた「最高の成果の一つ」である。
《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館 の更新状況》 更新しました!
★ AORの風に吹かれて
★ まだまだロックキッズ 【New】 2024.08.24 更新
・イタリアン・プログレの雄「PFM」のアルバム紹介と
エリック・クラプトンの一部のアルバム紹介を移行しました。
・チューリップ『ぼくが作った愛のうた』『無限軌道』の
記事をアップ。
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
東日本大震災から13年7ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
« 古澤良治郎 ”キジムナ” を聴く | トップページ | 僕なりの超名盤研究・33 »
コメント