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2024年9月21日 (土曜日)

グラスパーの ”Code Derivation”

ロバート・グラスパー(Robert Glasper)は、米国ヒューストン出身のアメリカ人のジャズ・ピアニスト。1978年4月5日生まれだから、今年で46歳。ジャズ界の中では中堅も中堅。一番脂が乗った、一番充実した年頃である。

僕はこのグラスパーについては、2012年の第55回グラミー賞で最優秀R&Bアルバム賞を受賞したアルバム『ブラック・レディオ』で出会っている。内容的には明らかに21世紀の「ニュー・ジャズ」。

ジャズをベースに、R&B、ヒップホップ、ラップ、ネオソウル、ゴスペル、ブルースなど、米国ルーツ・ミュージックから、ストリート・ミュージックまでの音楽要素を融合した、独自の「グラスパー・サウンド」を確立している。

Robert Glasper『Code Derivation』(写真左)。2024年9月のリリース。ちなみにパーソネルは、以下の通り。

ジャズ・サイドとして、Robert Glasper (p, key), Walter Smith III, Marcus Strickland (sax), Keyon Harrold (tp), Mike Moreno (g), Vicente Archer (b), Kendrick Scott (ds)。

ラップ、ヒップホップとサンプリング・サイドとして、Jamari (rap), MMYYKK (rap), Oswin Benjamin (rap), Taylor McFerrin (vo, prod), Hi-Tek (prod), Black Milk (prod), Kareem Riggins (prod), Riley Glasper (prod)。

宣伝のキャッチを見ると「ジャズとヒップホップの違いと両者に共通する遺伝子にフォーカスしたアルバム」とある。
 

Robert-glaspercode-derivation

 
グラスパー曰く「ジャズは文字どおり、ヒップホップの原点なんだ。だから“Derivation(起源)”という言葉をアルバム・タイトルに使った。俺はこの2つのジャンルの巨匠たちとプレイしてきた。だから、自分のバンドで、友人たちと書いたジャズの曲を、友人であるドープなプロデューサーたちにサンプリングしてもらうというプロジェクトをやりたかったんだ」。

そんな理屈はともかく、このアルバムの基本は明確に「ジャズ」。現代のエレクトリックで静的で「スピリチュアル」なジャズの「縦横に広がる音世界」をバックに、モーダルなフレーズが展開され、ヒップホップをメインとした音要素とボーカルが有機的に融合した「グラスパー・サウンド」が展開されている。

現代の最先端を行くリズム&ビートを伴いつつ、サックス、トランペットの奏でるフレーズは、どこか懐かしい、1960年代のモーダルな響き、クロスオーバー・ジャズな、少しサイケでスピリチュアルな響き。サンプリングを駆使した音作りらしいが違和感は全く無い。しっかりとした、現代のコンテンポラリーな「ニュー・ジャズ」が展開されている様で、しっかりとした聴き応えを感じる。

クールでスピリチュアルなリズム&ビートが良い。とても充実している。やはり、ジャズの命は「リズム&ビート」。この「グラスパー・サウンド」独特のリズム&ビートが、この盤の音世界の「キモ」。

各楽器の響きとフレーズは明らかに「ジャズ」。そこにラップやヒップホップが絡むのだが、これがまあ「違和感ゼロ」。グラスパーの言う「ジャズは文字どおり、ヒップホップの原点」という意味が、このアルバムの演奏の数々を聴いて、実に良く理解できる。

実験的な側面を持つ企画盤であるが、そんな「実験臭さ」は全く感じない。僕は、このアルバムを、21世紀の、現代のコンテンポラリーなニュー・ジャズと聴いた。ジャズの最大の特質である「融合」を最大限に生かして、新しい「融合ジャズ」の音世界を聴かせてくれる。
 
 

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コメント

聴きました!
格別な刷新感はありませんが、グラスパーワールドが少しづつ進化している事は伺えます。本作は聴きやすくて、グラスパーが初めての人にも勧められる感じです。おしむらくは、この流れを業界が上手く繋げてくれないこと。雑誌や制作会社は相変わらずコルトレーンだマイルス、エバンスと鬼籍に入ったレジェンドを使い回しているし、世界の最新作は日本に僅かしか伝えられないし、国内のプレイヤーはその日暮らしのままだし、なんとかならないのかなぁ、と思います。

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