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2024年9月26日 (木曜日)

トニーの先進的なフリー・ジャズ

トニー・ウィリアムスのドラミングがお気に入りだった。純ジャズのドラミングも、クロスオーバーでのドラミングも、どちらも僕にとっては「お気に入り」。超ハイテクニックで叩きまくるが、どれだけ速く叩こうが、複雑に叩こうが、リズム&ビートはしっかりとキープされ、独特のデジタルチックなグルーヴもしっかり確保されている。フロント楽器によって、叩き方、叩く内容を変化させる器用さも素晴らしい。

The Tony Williams Lifetime『Emergency!』(写真左)。1969年5月の録音。ちなみにパーソネルは、John McLaughlin (g), Tony Williams (ds, vo), Larry Young (org)。早逝のウルトラ・テクニカルなレジェンド・ドラマー、トニー・ウィリアムスが立ち上げたトリオ「Lifetime」のデビュー盤。

ギターに、ジョン・マクラフリン。マハヴィシュニヌ・オーケストラを立ち上げる前の「ライフタイム」への参加である。オルガンに、ラリー・ヤング。「オルガンのコルトレーン」と形容された、オルガンで、シーツ・オブ・サウンドとモーダルなフレーズを弾きまくる猛者である。ドラムには、もちろん、トニー・ウィリアムス。

ところで、この盤、「フュージョン・ジャズの先駆け」とか、「クロスオーバー・ジャズの発祥」などと評価されているが、僕は違うと思う。

まず、聴き手のニーズに合わせて、ソフト&メロウを基調とした、R&Bなどと融合したフュージョン・ジャズの先駆け、とは全く異なる内容だと思う。このライフタイムの演奏は、ソフト&メロウなんて論外だし、R&Bの影のかけらもない。何をもって、フュージョン・ジャズの先駆けと評価するのか、全く理解できない。

そして、基本ジャズとロックの融合がメインのクロスオーバー・ジャズの発祥、については、エレギを使用しているところはロックに似ているが、演奏全体のリズム&ビートは「ジャズ」の域を出ていない。それぞれの楽器のフレーズだって、ロックっぽいものは全く無い。ジャジーなフレーズがてんこ盛りである。
 

The-tony-williams-lifetimeemergency

 
冒頭のタイトル曲「Emergency」を聴くと、この演奏って、フュージョン・ジャズでもなければ、クロスオーバー・ジャズでも無い。この演奏は、電気エフェクトがかかったエレギとオルガンをフロントにした「先進的なフリー・ジャズ」である。

トニー・ウィリアムスのフリーなドラミングには、一定のリズム&ビートとグルーヴがキープされていて、このトニーのドラミングのビートに乗ってフリーに演奏することが「最低限のルール」のようで、トニーのドラミングがしっかりしているので、意外とフリー・ジャズな演奏に聴こえないのだが、この盤全体の演奏は「フリー・ジャズ」である。

そして、そんなトニーのドラミングに乗って、ギターのマクラフリンも、オルガンのヤングも「フリー・ジャズな演奏」を展開するが、二人のフリーな演奏は、限りなく自由度の高いモーダルなフレーズからスタートして、その延長線上の先でフリーに展開する手法に則っているので、意外とメロディアス。聴き通すことに「苦痛は伴わない」。

激情に駆られて、無手勝流に吹きまくる、馬の嘶きの様なフリーキーな吹奏とは一線を画する、マクラフリンとヤングならではのユニークなもの。

フリー・ジャズな演奏が基本なのだが、ビートとグルーヴがしっかりしているのと、フロント楽器のフレーズがモードから派生してフリーに展開する手法をとっているので、「聴かせる音楽」として成立しているのが、このライフタイムのフリー・ジャズの特徴であり個性である。

しかし、当時、これだけ尖った内容の電気エフェクトがかかったエレギとオルガンをフロントにした「フリー・ジャズ」をアルバム化したなあ、と感心する。

そして、このアルバムを制作&リリースしたのは、1950年代から、聴き手のニーズに合わせて「聴かせるジャズ」「聴いて楽しいジャズ」を制作してきた、大手ジャズ・レーベルの「ヴァーヴ」というから、驚きである。

しかし、よくヴァーヴがこんなに尖ったフリー・ジャズな盤を制作したなあ。当時の「時代」がそうさせたのだろうか。
 
 

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