« 初めて、エスコフェリーを聴く | トップページ | 小洒落たファンキー・ジャズ »

2024年8月 5日 (月曜日)

コーエンの「温故知新」な好盤

コロナ禍の影響だろうか、2021年以降、ジャズの新盤で、ソロやデュオの演奏が多くみられる傾向にある。ソロやデュオだとスタジオに入っても、あまり「密」な状態にはならず、感染防止に最適な演奏フォーマット、という判断もあったのだろう。そうそう、自宅のスタジオでも、いわゆる「宅録」のアルバムも結構あったなあ。コロナ禍は、ジャズの演奏フォーマットにも影響を及ぼしている。

Emmet Cohen & Houston Person『Masters Legacy Series, Volume 5: Houston Person』(写真左)。2023年の作品。ちなみにパーソネルは、Emmet Cohen (p), Houston Person (ts), Yasushi Nakamura (b), Kyle Poole (ds)。ピアニストのエメット・コーエンがレジェンドとプレイするレガシー・シリーズの5作目。レジェンドに、サックス奏者、ヒューストン・パーソンを選んでの録音である。

エメット・コーエンは、1990年、米国フロリダ州マイアミの生まれ。今年33歳のバリバリ若手のジャズ・ピアニストである。2011年に初リーダー作『In the Element』をリリース。以降、1年に1枚のペースでコンスタントにリーダー作をリリースしている。今年34歳、期待の中堅ピアニストの一人である。

コーエンはクラシック音楽にも造詣が深く、コーエンのピアノを聴いていると、確かにクラシックの影響が垣間見える。誰かに似ているなあ、と思ったら、そうそう、米国西海岸ジャズで、クラシックとジャズの「二足の草鞋」で活躍した、アンドレ・プレヴィンを想起した。だが、プレヴィンよりブルージーな響きで、ジャジーに弾き回す。

ヒューストン・パーソンは、1934年、米国サウスカロライナ州フローレンスの生まれ。米国ジャズのジャズ・サックス奏者で音楽プロデューサー。今年で90歳になる「現役のレジェンド」である。スウィングやハード・バップのジャンルで演奏し続け、1960年代以降、ソウル・ジャズの中で活躍した。リーダー作は相当数にのぼる。

しかし、我が国ではほとんど無名。リーダー作が1966年以降と、ジャズが斜陽になっていった時期のリリースで、恐らくセールスにならない、と安易に判断したのだろう。僕だって、21世紀に入ってから、このヒューストン・パーソンと出会い、その名を知ったのは、音楽のサブスク・サイトだった。
 

Emmet-cohen-houston-personmasters-legacy

 
そんなエメット・コーエンのピアノ・トリオが、1管フロントにヒューストン・パーソンに迎えたのが、今回のこの盤。特色ある小粋な音色と、表現力に富んだテナー・サックスが聴き心地満点。そんな硬派で正統派、メインストリームなパーソンのテナーを、コーエンのピアノが素敵に流麗にサポートする。

冒頭、パーソンの温かで印象的なテナーが魅力のゆったりとした「Why Not?」で始まる。流麗でバップな弾き回しで、パーソンのテナーをスッポリと包むようにサポートするコーエンのピアノ。決して古くない、新しい響きを宿した、伝統的なハードバップ演奏が実に良い。

4曲目の「Just The Way You Are(素顔のままで)」は、ビリー・ジョエルの名曲のカヴァー。原曲の美しい旋律をデフィルメすることなく、素直でシンプルなテナーでカヴァーするパーソンのテナー。アドリブ展開で「ジャズらしさ」を担うのは、コーエン・トリオのアドリブ展開。原曲のコード進行を借用しつつ、モーダルな展開で、この盤にネオ・ハードバップ志向の「新しい響き」を醸し出している。

5曲目のオールド・スタイルなバップ演奏を展開する「I Let A Song Go Out Of My Heart」。これが絶品。古き良き時代の4ビート・ハードバップを踏襲しながら、出てくる音は「新しい」。決して、懐メロに陥らない、コーエンのピアノのフレーズと、それにしっかりと乗っかるパーソンのオールド・スタイルなテナー。緩やかなミッド・テンポのリズム&ビートに乗ったインタープレイが見事である。

続く6曲目の「All My Tomorrows」の、パーソンのバラード・テナーが実に心地良い。そして、バッキングに回ったコーエンの耽美的で流麗でリリカルなピアノは聴きもの。パーソンの魅力的でオールド・スタイルなテナーを最大限に引き立てる。伴奏にも長けたコーエンの才能が、この演奏で確認できる。

4ビート・ジャズがメインの、ピアニストのエメット・コーエンがレジェンドなテナー奏者、ヒューストン・パーソンとプレイするレガシー・シリーズの5作目。これって古くないか、と聴く前に懸念を感じるのだが、その懸念は見事に裏切られる。新しい響きを宿した伝統的なハードバップ演奏。古さを感じさせない演奏とアレンジは立派。この盤を聴いていて「温故知新」という四字熟語を思い出した。
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館 の更新状況》 更新しました!

 ★ AORの風に吹かれて 

  ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

 ★ まだまだロックキッズ     【New】 2024.01.07 更新

    ・西海岸ロックの雄、イーグルス・メンバーのソロ盤の
   記事をアップ。

 ★ 松和の「青春のかけら達」 【New】 2024.01.08 更新

  ・チューリップ『ぼくが作った愛のうた』『無限軌道』
   の記事をアップ。

Matsuwa_billboard

★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。

★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。

東日本大震災から13年4ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。

Never_giveup_4 
 

« 初めて、エスコフェリーを聴く | トップページ | 小洒落たファンキー・ジャズ »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 初めて、エスコフェリーを聴く | トップページ | 小洒落たファンキー・ジャズ »

リンク

  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。           
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  

カテゴリー