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2024年8月 8日 (木曜日)

ディメオラの異色の秀作です。

振り返ってみれば、アル・ディ・メオラ(Al Di Meola・以降「ディメオラ」)は、超絶技巧なクロスオーバー&フュージョン・ジャズ志向のギタリストで、その演奏スタイルは変わらないのだが、リーダー作の「音の志向」については、定期的に変化している。常に「バリバリ弾きまくっている」訳ではない。

Al Di Meola『Cielo e Terra』(写真左)。1985年の作品。ちなみにパーソネルは、Al Di Meola (ac-g, Synclavier-g), Airto Moreira (perc, tracks: 1, 3, 7, 9)。ディメオラのソロと、ディメオラとパーカッション担当のアイアート・もレイラとのデュオの二本立て。基本は「ディメオラのストレンジなギター・ソロ」の世界。ちなみに、邦題は「天地創造」。思わず「何じゃこりゃ」な邦題です(笑)。

アコギとギター・シンセサイザーを弾き分けながら、多重録音で紡がれる、幽玄でフォーキーでネイチャーで、少しエスニックな音世界。クロスオーバー&フュージョンというよりは、現代の「静的なスピリチュアル・ジャズ」な雰囲気が濃厚。

超絶技巧なテクニックは相変わらずだが、しっかり自己抑制を効かせていること、そして、アコギを活用することで、その高速弾き回しテクニックが耳につかない。逆に、たっぷりエコーの効いた多重録音が良い効果を生んでいて、透明度の高いピッキング音と併せて、演奏全体に絶妙の幽玄感や浮遊感を醸し出している。

1970年代の「スパニッシュ・フレーバーな超絶技巧なエレギ」はマンネリ気味だったので、1980年代に入って、演奏の「音志向」をガラッと変えたディメオラ。そんなイメチェン・ディメオラの第2弾。
 

Al-di-meolacielo-e-terra

 
前作は「テクノ・ミュージックと、英国プログレと、フュージョン・ジャズの融合」だったが、今回は再びガラッと変わって、幽玄でフォーキーでネイチャーで、少しエスニックな音志向」なアルバムに仕上がっている。

ディメオラの超絶技巧が良い方向に出ている。アコギとギター・シンセのシンプルな音が、多重録音を通じて、流麗で切れ味の良い音世界を現出している。

スムース・ジャズとも取れるが、スムース・ジャズの様に、聴き心地優先ではない。かなり硬派で切れ味の良い速弾きフレーズは、流れる様な流麗さで、深いエコーを湛えた幽玄でフォーキーな、そして、どこかエスニックな、不思議な雰囲気を醸し出している。

フレーズはどれも切れ味良く流麗で幽玄。ディメオラ独特の、ディメオラしか出せないフレーズ&ピッキングの数々に、聴き手に迎合しない、ディメオラのアーティストとしての矜持を感じる。

このディメオラの1980年代の「音志向の劇的変化」については、「停滞期の音」という酷評もあるが、僕は「聴き手に迎合せず、自分が表現したい音をリーダー作を通して世に問う」という、超絶技巧でラテン・フレイバーなエンターティナーから、自らが表現したい音の表現者、への変革だと解釈しているので、僕はこの『Cielo e Terra』には好感を覚えます。

クロスオーバー&フュージョン全盛期の音の余韻が残っていた時代に聴いた感覚より、現代の静的なスピリチュアル・ジャズを経験した「今」に聴いた感覚の方が優っていて、僕は、この『Cielo e Terra』は、ディメオラの異色の秀作、と解釈しています。
 
 

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