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2024年7月 1日 (月曜日)

ペッパーの復活直前のライヴ音源

さて、いよいよ、後期のアート・ペッパーのリーダー作を記事に上げていこうかと思う。

アート・ペッパーの活動時期は大きく2つに分かれる。1960年代後半、薬物中毒者の為のリハビリテーション施設シナノンで過ごしたブランクの時期を境に、1950年代~1960年代前半の「前半のペッパー」とする。そして、麻薬禍からの復活、後半のカムバック後、1970年代~亡くなる1982年までを「後半のペッパー」としている。

Art Pepper 『I'll Remember April : Live at Foothill College』(写真左)。1975年2月14日、Los AltosのFoothill Collegeのジムでの録音。ちなみにパーソネルは、Art Pepper (as), Tommy Gumina (polychord), Fred Atwood (b), Jimmie Smith (ds)。アート・ペッパーのワンホーン・カルテット。ペッパーのパフォーマンスの様子が良く判る演奏編成。

1960年代の終わりには、麻薬禍からの回復ステージに入ってはいたが、現在、正式盤として残された音源は、1968年11月録音の『Live at Donte's, 1968』。その後、この1975年の『I'll Remember April』まで、6年以上、残された録音は無い。このロスアルトスのフットヒル・カレッジのジムでの録音は、コンテンポラリー・レコードと契約する直前のライヴ録音になる。

まだ、有力なジャズ・レーベルと契約していない状態。ペッパー自体、ジャズ・シーンからも忘れられた存在なので、バックのメンバーはほぼ無名のミュージシャンばかり。よって、バッキングの演奏レベルは酷くは無いが中程度。
 

Art-pepper-ill-remember-april-live-at-fo  

 
キーボードはシンセで弾きまくっていて、1970年代の純ジャズの悪いところが揃っている。そして、録音場所が大学のジムらしく、録音状態は良くない。雑音が、というよりは、音がモワンと変に広がって、変なエコーがかかっている状態。

しかし、である。フロント1管のアート・ペッパーのアルト・サックスのパフォーマンスが素晴らしく良いのだ。やはり、シャバの空気はウマかったのか(笑)、覇気に満ちたノリノリの吹奏を聴かせてくれる。但し、活動時期の前半、ウエストコースト・ジャズのマナーに則った、流麗で歌心溢れる、聴いていて心地良く、心地良くスイングするペッパーの吹奏では全く無い。

覇気溢れアグレッシヴ、硬派で力感溢れるアドリブ展開、そして、時々、フリーにアブストラクトにブレイクダウンし、スピリチュアルな響きを振り撒いたりする。これを、以前では「コルトレーンの物真似」と切り捨てられているが、それは極端な評価だろう。フリーにアブストラクトにブレイクダウンはするが、そのフレーズもコルトレーンとは異なる。加えて、特にテーマ部の吹奏では、活動期前半の流麗で歌心溢れるフレーズもしっかり出てくる。

コルトレーンの物真似、というよりは、プレイする時点での感性に正直に従い、硬派にアグレッシヴに、フリーにアブストラクトに展開する側面を、活動期前半の「流麗で歌心溢れる、聴いていて心地良く、心地良くスイングする」ペッパーにアドオンしたとした方がしっくりくる。コルトレーン流に宗旨替えしたのではなく、アルト・サックス奏者としてアップグレードして、表現の幅が大きく広がった、と評価すべきかと思う。

そして、1975年8月、コンテンポラリー・レコードと契約し、活動期後期の最初のスタジオ録音盤『Living Legend』をリリースし、ペッパーは、やっと麻薬禍からの復活を遂げることになる。
 
 

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