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2024年6月16日 (日曜日)

好盤『Abercrombie Quartet』

ジョン・アバークロンビー(以降「ジョンアバ」と略)のリーダー作のディスコグラフィーと、このブログでのジョンアバのリーダー作の記事化の有無をチェックしていて、あるパーソネルのECMレーベルでのリーダー作のみが廃盤になっているのに気がついた。ジョンアバは長年、ECMレーベルのハウス・ギタリストの位置付けだっただけに不思議なことである。

どうも、よくよく見てると、リッチー・バイラークが入っているパーソネルのリーダー作が廃盤で欠落している様なのだ。ECMレーベルの総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーと、ピアニストのリッチー・バイラークとの喧嘩が原因らしい。

バイラークは、ECMレーベルで『Eon』『Hubris』『Elm』という耽美系ピアノ三部作をリリース。この耽美系ピアノ三部作は、アイヒャーの美意識をそのまま音に置き換えた、そんな「沈黙に次いで最も美しい音」を具現化している。

しかし、バイラークは耽美的でリリカルなピアニストではあるが、多弁でモーダルなピアニストでもある。バイラークがアイヒャーに「私はもう十分貴方のやりたいことはやった、次は自分のやりたいことをやらせてくれ」と言ったことが発端で喧嘩になったらしい。

John Abercrombie『Abercrombie Quartet』(写真左)。1979年11月の録音。ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g, mandolin), Richie Beirach (p), George Mraz (b), Peter Donald (ds)。このジョンアバのカルテット編成での2作目。この盤は、前作『Arcade』と同様の、ECMらしい耽美系カルテット。
 

John-abercrombieabercrombie-quartet

 
透明感と浮遊感、静謐感と適度なテンション、漂う様な緩やかなビートに乗った、自由度の高いインタープレイ。リッチー・バイラークは、まだ耽美的で透明感溢れるピアノを弾いていて、ジョンアバのギターにぴったりと寄り添う。

ムラーツのベースは淀みやブレの全く無い、強靱で柔軟なベースラインをバンド全体に供給する。このすこぶる安定したムラーツのベースが、この盤を覆う透明感と静謐感溢れる、それでいて、切れ味良くソリッドなリズム&ビートをしっかりと支えている。

前作『Arcade』よりも、ダイナミックでソリッドな面が強調されて、ECMらしさが少し薄れた『Abercrombie Quartet』。それでも、この盤の音世界は「ECMらしい耽美系カルテット」。リズムが明快な分、アイヒャーの美意識から少し外れた感が無きにしもあらずだが、ジョンアバのギターとバイラークのピアノの相性の良さと相まって、この盤は、ジョンアバの初期の代表作の一枚に数えても良い内容だと思う。

しかし、サイドマン参加のバイラークと喧嘩したからと言って、このジョンアバのリーダー作を廃盤するって、アイヒャーもちょっと大人気ない、と思うなあ。最近『The First Quartet』と題して、ECMから、このカルテットの全音源がリリースされているみたいだが、当初のアルバムの形ではリイシューされていない。

このあたりにも、アイヒャーの大人気の無さを感じてしまうんだなあ。音源をリリースするなら、アルバム形式でリイシューするのが、プロデューサーとして、ミュージシャンというアーティストに対する最低限の礼儀だと思うんだが....。とにかく、このアルバムとしては廃盤状態の『Abercrombie Quartet』は好盤です。
 
 

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