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2024年6月の記事

2024年6月30日 (日曜日)

リトナーの1980年代の代表作

去る6月21日に、やっと梅雨入りした関東甲信地方。梅雨入り当初は、ドカ雨、梅雨の中休みの晴れ、が交互に来て、梅雨らしくないなあ、と思っていたら、この6月最終週半ばあたりから、とにかく湿度が高く、天気は愚図つく曇り空。そして、雨が降る時は「まとまって」降る。体調的にも堪える天候にへばっている。

こういう「へばった」状態になると、ハードなジャズはしんどくなる。フリーやスピリチュアルなんてもっての外。速いテンポもちょっとしんどいし、トランペットのハイノートなんて辛抱できない。よって、耳あたりの良い、ゆったりとしたテンポのジャズ盤を選びたくなる。そうなると、フュージョン&スムース・ジャズの好盤にも手が伸びたりする。

Lee Ritenour『Festival』(写真左)。1988年の作品。GRPレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、主だったところでは、Lee Ritenour (g), Robbie Kondor (syn), Dave Grusin, Bob James (key), Joao Bosco (g, vo), Marcus Miller, Anthony Jackson (b), Omar Hakim (ds), Paulinho da Costa (perc), Ernie Watts (ts), etc.。
 
この盤のテーマは「ブラジリアン・フュージョン」。パーソネルには、フュージョン畑とブラジル音楽畑のミュージシャンが大集合。エリア的には、ニューヨーク、ロサンゼルス、ブラジルのミュージシャンによるコラボレーション。

1960年代のボサノヴァ・ブームの折にも、こういったコラボ・セッションはあったが、意外と綺麗に融合せずに、どちらかの音楽性が勝ったりしていた。が、この盤の録音年は1988年。フュージョンの大ブームを経て、フュージョン&スムース・ジャズは進化〜成熟した。
 

Lee-ritenourfestival

 
この盤での「ブラジリアン・フュージョン」は、米国フュージョン・ジャズとブラジル音楽が何の違和感もなく、綺麗に融合し、「ブラジリアン・フュージョン」と呼べる、一つの演奏トレンドを確立している。

リトナーは、米国フュージョン・ジャズとブラジル音楽の融合に、ナイロン弦アコギで攻める。これが良い音してるんだよな。ブラジル音楽特有の「爽快感・清涼感」をリトナーのアコギが的確に表現している。

1970年代のデビュー当時と比較すると、リトナーのギターは進化している。アコギはニュアンスの表現が微妙に難しい楽器だが、リトナーはこの難物のアコギをバッチリ弾きこなしている。余裕あるフレーズの弾き回し。痺れる。

面白いのは「ブラジリアン・フュージョン」の音世界の中、リズム&ビートを司るリズム隊は、マーカス・ミラー、アンソニー・ジャクソン&オマー・ハキムの米国隊がメイン。そこに、ブラジル出身のパウリーニョ・ダ・コスタがパーカッションでサポートに入っている。米国隊がメインの「ブラジリアン・フュージョン」のリズム&ビート、これがまた違和感が全く無いから立派。

とにかくリトナーのアコギの弾き回しが凄く良い。ブラジル音楽の雰囲気を様々なニュアンスで表現し、しっかりとフュージョン&スムース・ジャズにアダプトしている。バックを司るメンバーも皆、良い音出していて、1980年代後半、その時代の最新の「フュージョンとブラジル音楽」の融合の成果がこの盤に記録されている。1980年代のリー・リトナーの代表作でしょう。良いアルバムです。
 
 

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2024年6月29日 (土曜日)

やっとのことで『Footloose !』

このところ、ポール・ブレイを掘り下げている。ポール・ブレイは、ブルースやファンキーな雰囲気が全く皆無な、現代音楽的な硬質で切れ味鋭いタッチと幾何学的で切れ切れなフレーズが特徴のピアニスト。2016年1月に惜しくも鬼籍に入ってしまったが、ブレイのピアノはユニーク。

基本は「余白」を活かしたリリカルで耽美的なピアノであるが、アドリブ部はモーダルに展開、突如フリーキーに転換し、アブストラクトにブレイクダウンする。この「落差」が堪らない。このダイナミックな展開が「即興演奏の魅力」に直結し、ブレイ独特の個性の発露に繋がる。

フレーズの作りは「幾何学模様的」で、スイングやブルースなどとは全く無縁。どちらかといえば、現代音楽に通じる雰囲気が強く、即興演奏の妙と、モーダル時々フリーなフレーズ展開が無ければ、ジャズのジャンルには入らないのでは、と思うくらい、従来のジャズからはちょっと離れたところにある。

例えば、セロニアス・モンク、ハービー・ニコルス、オーネット・コールマンなど、従来の4ビート・ジャズの基本から大きく外れた、それでいて「即興演奏と自由度の高い展開と唯一無二の個性」という点で、しっかりジャズのど真ん中にいる「異端なジャズマン」が存在するが、ポール・ブレイは、そんな「異端なジャズマン」の一人である。

Paul Bley『Footloose !』(写真左)。1962年8月17日、1963年9月12日の録音。Savoyレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Paul Bley (p), Steve Swallow (b), Pete LaRoca (ds)。50年以上に渡るブレイのキャリアの中で、ほぼ初期の、ブレイのピアノの個性と特徴がとても良く判るトリオ演奏。
 

Paul-bleyfootloose

 
冒頭の「When Will The Blues Leave」から、「異端なジャズマン」のピアノ全開。演奏フォーマットはハードバップだが、出てくるピアノのフレーズは、従来の4ビート・ジャズの基本から大きく外れた、ブレイのピアノの特徴である「美しくリリカルな」ものと、その合間に「激しいアブストラクトなブレイクダウン」と「思索的で静的なフリー・ジャズ」の交錯が展開される。

トリオ演奏自体はハードバップ風だが、出てくる音は、従来のハードバップな音からは大きく逸脱する。プレイのピアノは先にも述べた様に、基本は「余白」を活かしたリリカルで耽美的なピアノであるが、幾何学模様的なノリで、アドリブ部は突如フリーキーに展開し、アブストラクトにブレイクダウンする。そして、そのブレイの個性的な弾き回しを理解して、スワローが、これまた幾何学的なベースラインを叩き出す。

そして、特筆すべきは、ラロカのドラミング。ブレイのフレーズやリズム&ビートにクイックに反応しつつ、幾何学模様的なポリリズミックなドラミングを叩き出す様は痛快ですらある。このあまりに個性的な、どこかモーダルなドラミングはラロカのドラミングの独特の個性。しかも、そのラロカの独特な個性のドラミングが、ブレイのピアノにバッチリ合っている。

この『Footloose !』、ジャズ盤紹介本やブレイのリーダー作紹介に、ちょくちょくタイトル名が上がる、意外と有名なアルバムなんだが、Savoyレーベルからのリリースなのに、なかなかCDリイシューされない、サブスク・サイトに音源アップされないアルバムで、中古LPはあまりに高額。僕もなかなか音源が確保できなかったが、やっと最近、音源をゲットできた。

ブレイのピアノの個性と特徴が良く判るトリオ盤。やっとのことで、収録曲全部を聴くことが出来て、やっと溜飲が下がった。ブレイのピアノは「異端なジャズマン」のピアノが故に、一度ハマったら「クセになる」。ブレイのピアノを語る上では避けて通れない、ブレイのキャリア初期のトリオ名盤でしょう。良いアルバムです。
 
 

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2024年6月28日 (金曜日)

エリック・アレキサンダー健在

『The Heavy Hitters』という、ユニット名をタイトルにしたアルバムを聴いていて(2024年6月26日のブログ参照)、充実した内容の濃いテナー・サックスが気になった。パーソネルで名前を確認したら「Eric Alexander(エリック・アレキサンダー)」。1990年代半ば、日本のレコード会社がプッシュして何枚かのアルバムを国内でリリースしていた頃は、良い音出すテナーやなあ、と暫く着目していたんだが、いつの間にか、忘れてしまっていた。

Eric Alexander Quartet『Timing Is Everything』(写真左)。2023年4月9日、Van Gelder Studio での録音。ちなみにパーソネルは、Eric Alexander (ts), Rick Germanson (p), Alexander Claffy (b), Jason Tiemann (ds)。ゲストに、Jed Paradies (fl on 3), Rale Micic (g on 3), Stan Wetering (ts on 4), Alma Micic (vo on 8)。

『The Heavy Hitters』で、エリック・アレキサンダー健在、を確認して、タイムリーに、アレキサンダーの新リーダー作がリリースされていたので、即、聴いた。この『Timing Is Everything』は、アレキサンダーのテナー1管のワンホーン・カルテット。アレキサンダーのテナーが心ゆくまで楽しめる編成でのパフォーマンスである。
 

Eric-alexander-quartettiming-is-everythi

 
冒頭「After The Rain」から、ゆったりとした余裕ある、グッと締まった、ブリリアントで切れ味の良い、良い音をしたテナーが滑り出してくる。歌心溢れるフレーズ。そして、スイング感溢れるアドリブ展開。このリーダー作でも、エリック・アレキサンダーのテナー健在を感じて嬉しくなる。

リリカルな表現にも長け、テクニカルで速いフレーズにもしっかり対応する。モーダルな展開もいマージネーション豊かで、どこかで聴いた音、がほとんど無い。いわゆる、ネオ・ハードバップというカテゴリーでのジャズ・テナーの「新世代」なブロウが、この盤でしっかりと確認できる。ジャズ・テナーでよくある、いわゆる「懐メロ」っぽいところが無い。演奏内容もバップとモード、どちらにもしっかり対応していて、違和感は全く無い。

現代の先頭を行く「今」のジャズ・テナーの優れたパフォーマンスがこの盤に詰まっている様に感じる。歌心とスイング感をしっかり踏まえた、バップとモードの両刀使いの「ネオ・ハードバップなテナー」。これは聴きもので、アレキサンダーのリーダー作を遡って、確認する必要があるな、と思った。
 
 

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2024年6月27日 (木曜日)

スポルディングとハーシュの邂逅

「2023年度 Jazz Life グランプリ」も貴重な情報源。この月刊誌 Jazz Life のグランプリ記事も、雑誌ジャズ批評の「オーディオ・ディスク大賞」と並んで、昨年度のジャズの新盤の振り返りになり、落穂拾いにもなる。Jazz Life のグランプリも、ジャズ批評のディスク大賞も、コマーシャルな裏の事情など関係なく、評論家の方々やショップの店員さんが、忌憚ないところでアルバムを選出しているようなので、本当に参考になる。

Fred Hersch & Esperanza Spalding 『Alive at the Village Vanguard』(写真左)。2018年10月19–21日、NYの老舗ライヴハウス「Village Vanguard」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Fred Hersch (p), Esperanza Spalding (vo)。

その独特の奏法と創造のアイデアのユニークさで「ピアノの詩人」などと評され、1980年代以降のピアニストの中で、最もエヴァンスイズムを受け継いだと言われる。耽美的でリリカルなピアノの最右翼の一人「フレッド・ハーシュ」と、稀有な、唯一無二な若手女性ベーシスト&ボーカリストの「エスペランザ・スポルディング」のデュオ演奏。

ハーシュにとってビレバガでのライヴ録音は今回で6度目らしい。そして、ベーシスト&ボーカリストのスポルディングは、潔くヴォーカルのみの参加。女性ベーシストとして、かなりユニークな個性の持ち主なので、スポルディングのベースが聞けないのは残念だが、ボーカルに専念出来る分、このデュオ・ライブ盤でのスポルディングのボーカルは、さらに迫力と捻じ曲がり度合いが増しており、現代の新しい、最新の女性ボーカルというか、ジャズ・ボーカルの新しい響きが実に芳しい。
 

Fred-hersch-esperanza-spalding-alive-at-

 
スポルディングのボーカルはこれまでに無かったユニークなもの。その雰囲気は「枠に囚われない」「野趣溢れる」「アフリカン・ネイティヴな」ワールド・ミュージック志向のボーカル。その表現の自由度は高く、伝統的な女性ボーカルをこよなく愛する方々からすると、これは「由々しき」女性ボーカルなんやろうな、なんて思ったりする。とにかく「自由」、そして、時折、織り交ぜられる「小粋なワード」が、スポルディングのエンタテインメント性を引き立てる。

そんなスポルディングのボーカルに、寄り添うが如く、絡むが如く、ハーシュのピアノが疾走する。現代のジャズ・ピアニストの中でも「耽美的でリリカルなピアノの最右翼」とされるハーシュのピアノであるが、耽美的どころか、アグレッシヴで躍動感溢れるバップなピアノで、スポルディングのボーカルの伴奏をガンガンやっている。恐らく、スポルディングの自由闊達なボーカルに合わせた、ハーシュの職人肌的パフォーマンスなんだろう。

しかし、スポルディングのボーカルとハーシュのピアノが、こんなに相性が良いと思わなかった。最初は「水と油」かなあ、と思ったのだが、聴いてみて、あらビックリ。スポルディングのボーカルは従来からの個性的なものなんだが、その伴奏に回ったハーシュのピアノが半端ない。抒情的にしっとり展開したりするところあるが、基本的にはアグレッシヴで躍動感溢れるバップなピアノ。ハーシュの今までとは違った側面を聴くこと出来て、感心することしきり、である。

スポルディングの唯一無二の「今までにない」新しいボーカルと、ハーシュの「新しい引き出し」を聴くかの如き、スインギーでアグレッシヴなバップな弾き回し。一期一会の、奇跡のようなデュオのライヴ音源。現代の、今のジャズのトピック的アルバムの成果として、高く評価されるべき好盤である。
 
 

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2024年6月26日 (水曜日)

良い雰囲気 ’The Heavy Hitters”

今年も、雑誌ジャズ批評の「オーディオ・ディスク大賞」にノミネートされたアルバムを聴く季節がやってきた。「オーディオ・ディスク大賞」は毎年、雑誌ジャズ批評の3月号に掲載されるもので、昨年度のジャズの新盤の振り返りになり、落穂拾いにもなる、ジャズ盤コレクターの我々にとって、とっても有難い記事である。

『The Heavy Hitters』(写真左)。2022年5月8, 9日、Rudy Van Gelderスタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、Eric Alexander (ts), Vincent Herring (as), Jeremy Pelt (tp), Mike LeDonne (p), Peter Washington (b), Kenny Washington (ds), Guest: Rale Misic (g)。「The Heavy Hitters」は、この演奏ユニットの名前らしい。

アレキサンダーのテナー・サックス、ハーリングのアルト・サックス、ペルトのトランペットが3管フロントのセクステット編成(1曲だけギターがゲストで入る)。テナーのエリック・アレキサンダーは1990年代後半、我が国でもレコード会社がプッシュしていた時期があったが、あまり人気が出ず、いつの間にか忘れ去られた存在になっているが、米国東海岸では、コンスタントにリーダー作をリリースしている中堅ジャズマンである。
 

The-heavy-hitters

 
この盤でも、アレキサンダーのテナーは良い音を出している。そしてのフロントの相棒の一人、ヴィンセント・ハーリングのアルトもとても良い音を出している。フロント管で一番年下のペルトのトランペットもガッチリ健闘している。演奏内容、雰囲気は「ネオ・ハードバップ」。1960年代のハードバップを振り返ること無く、現代の感覚でハードバップ・フォーマットの演奏を展開している。

フロント3管の基本は「バップ」。ジャズの伝統にしっかり軸足を据えた「バップな吹き回し」をベースに、ブルージー&ジャジーなユニゾン&ハーモニー、流麗で聴かせるアレンジ、粋で鯔背なアドリブ・フレーズを基本とした「ネオ・ハードバップ」を展開している。現代のストレート・アヘッドな、モーダルな純ジャズ。ワシントン兄弟を擁したリズム・セクションも、明確に「現代のネオ・ハードバップ」らしい、リズム&ビートを叩き出していて立派だ。

フロント3管なので、どこか1960年代の3管フロント時代のアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズを彷彿とさせる週間もあって(それでも出てくる「音」は新しい感覚なんだが)思わずニンマリ。良いメンバーが集ったのであろう、真摯で誠実な「ネオ・ハードバップ」な演奏が実に爽やか。耳にもたれない、正統派「ネオ・ハードバップ」な演奏集。好盤です。
 
 

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2024年6月25日 (火曜日)

トミフラの個性を再認識する。

名盤請負人の異名を持つ、根っからのバップ・ピアニスト「トミー・フラナガン(Tommy Flanagan・以下「トミフラ」と略)」。1970年代後半から、ドイツのレーベル「Enja(エンヤ)」に7枚のリーダー作を残している。トミフラの、米国ジャズらしからぬ「流麗で典雅」な、テクニック確かなピアノの個性が、ホルスト・ウェーバーに響いたのだろう。

Tommy Flanagan『Confirmation』(写真左)。1977年2月4日と1978年11月15日の録音。リリースは1982年。ちなみにパーソネルは、Tommy Flanagan (p), George Mraz (b), Elvin Jones (ds, tracks 1, 2, 5 & 6)。1977年2月4日の録音は『Eclypso』セッションの未収録曲(tracks 1, 2, 5 & 6)でトリオ編成。1978年11月15日の録音は『Ballads & Blues』セッションの未収録曲(tracks 3, 4)でデュオ編成。

そう、この『Confirmation』は、トリオ名盤『Eclypso』とデュオ名盤『Ballads & Blues』の未収録曲を集めた「アウトテイク集」。リーダーのトミフラとベーシストのムラーツが、2つのセッションで共通ということで、約1年半程度離れたセッションだが、その演奏内容と雰囲気には違和感は無い。
 

Tommy-flanaganconfirmation  

 
『Eclypso』は、トミフラのバップ・ピアニストとしての「ハードなタッチがご機嫌なトリオ好盤」であったが、その『Eclypso』セッションの未収録曲「Maybe September」「Confirmation」「Cup Bearers」「50-21」は、『Eclypso』収録曲と同様に、溌剌とした、バリバリ弾きまくるバップ・ピアニスト、トミフラの面目躍如なパフォーマンス。

『Ballads & Blues』は、職人ジャズマン同士の素敵なデュオ。その『Ballads & Blues』セッションの未収録曲「How High the Moon」「It Never Entered My Mind」も同様に、ムラーツのベースがブンブンブンと小気味良い正確なビートを刻み、ピッチが合った唄うようなフレーズと弾き出し、ピアノのトミフラは気持ちよさそうに、バラードやブルースのスタンダードを小気味よく弾き綴っていく。見事なデュオ・パフォーマンス。

Enjaレーベルでのトミフラは、本来の「メインの個性」であるバップなピアノをバリバリと弾きまくっている。ムーディーな一面はどこへやら、「流麗で典雅」な雰囲気はそのままに、切れ味良く、明快なタッチでバップなピアノを弾きまくるトミフラ。Enjaレーベルのトミフラの諸作は、そんなトミフラの「メインの個性」をしっかりと伝えてくれる。
 
 

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2024年6月24日 (月曜日)

トミフラの「職人肌テクニック」

名盤請負人の異名を持つ「トミー・フラナガン(Tommy Flanagan・以下「トミフラ」と略)」。トミフラのピアノは伴奏に回ってこそ際立つ、なんて「ピントのズレた」評価もあるが、トミフラは元々はバップなピアニスト。ビ・バップからの流れを汲む「テクニック秀逸、ばりばりピアノを弾きまくる」が、フラナガンの本質。

加えて、トミフラは応用力抜群の職人肌テクニックの持ち主でもある。「伴奏に回ってこそ際立つピアノ」は、そのフロント楽器の個性や音色、フレーズに合った、そのフロント楽器の演奏が際立つフレーズを弾き進める応用力の高さの表れだし、そのセッションの「プロデュース志向にピッタリ合った雰囲気のピアノ」を弾き進めるところも、この職人肌テクニックの賜物である。

『The Tommy Flanagan Trio』(写真左)。1960年5月18日の録音。ちなみにパーソネルは、Tommy Flanagan (p), Tommy Potter (b), Roy Haynes (ds)。Prestigeの傍系レーベル「Moodsville」からのリリース。

「Moodsville」は、ジャズ・スタンダード曲をメインに収録、ムーディーな雰囲気の「聴かせるアルバム」の制作を目的としたレーベル。このトミフラのトリオ盤では「Moodsville」レーベルの音志向に忠実に、トミフラは、実にムーディーで洒脱なフレーズを繰り出して、しっとり聴かせるトリオ演奏を展開している。
 

The-tommy-flanagan-trio

 
その収録曲であるが意外と洒落ている。ジャジ・スタンダード曲が「In The Blue of The Evening」「You Go To My Head」「Velvet Moon」「Come Sunday」「Born To Be Blue」「In A Sentimental Mood」の6曲だが、有名な「ど・スタンダード曲」は選ばず、ちょっと小粋でマニアックなスタンダード曲を選んでいるところがニクい。そしてフランガンの自作曲「Jes' Fine」の全7曲。

ムーディーだからといって、トミフラのピアノは優しくはない。しっかりと芯の入った力強いタッチで、スタンダード曲のテーマを明快にメリハリ良く唄い上げる。それでも、うるさくならないのは、トミフラの職人肌テクニック。タッチは力強く、メリハリ良い弾きっぷりだが、音は耳障りにはならない弾き回し。トミフラのピアノテクニックに思わず「唸る」。

スローからミディアム・テンポの演奏で固められていて、実にムーディーで小粋なトリオ演奏である。これといった、大仕掛けな展開は無いのだが、曲毎のアレンジが良く練られていて、どの曲もじっくり聴かせる。特にアドリブ部の展開が洒脱で、コクのある香り高い珈琲を楽しむが如く、心地良い味のある小粋なピアノ・フレーズを楽しむことが出来る。
 
 

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2024年6月23日 (日曜日)

ジャズ喫茶で流したい・271

グローヴァー・ワシントンJr.(Grover Washington Jr.、以下「ワシントンJr.」と略)は、スムース・ジャズの父、フュージョン・ジャズにおけるサックスの帝王と呼ばれていたが、それ故、彼の名前を出すと「ああ、コマーシャルでソフト&メロウな、フュージョン・サックスね」と、結構、低く見られることが多かった。大体、そういう輩は、ワシントンJr. のサックスをちゃんと聴いていない。失礼千万である。

Grover Washington, Jr.『Then and Now』(写真左)。1988年の作品。ちなみにパーソネルは以下の解説の通り、3つのセッションに分かれる。

注目は、1曲目のロン・カーター作の「Blues for D. P.」、2曲目のハービー・ハンコック作の「Just Enough」、5曲目のワシントンJr.作の「Lullaby for Shana Bly」のセッション。ワシントンJr.のサックスのワンホーンに、ハンコックのピアノ、カーターのベース、スミスのドラムの、バリバリ純ジャズ系の超一流リズム・セクションがバックを固める。

そう、これが、素晴らしい、メインストリーム志向の純ジャズな演奏なのだ。力感溢れる、歌心溢れる、流麗で切れ味の良いサックス。これ、ワシントンJr. のリーダー作と知らずに聴いたら、この素晴らしいサックス、誰だ、となる。

そして、ばりばりとハードバップ風だが、新しい響き満載のバッキングを弾き進めるピアノ、これも、誰だ、となる。骨太のアタッチメントで増幅されたベース、これは、もしかしたら、ロン・カーターか、と思うが、そんなことは無いだろうと思い直す、そして、この新しい響きを宿したポリリズミックなドラム、これも、誰だ、となる。

この素晴らしい、メインストリーム志向の純ジャズな演奏のパーソネルは、 Grover Washington Jr. (sax), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Marvin "Smitty" Smith (ds)。1曲目の「Blues for D. P.」にだけ、Grady Tate (ds, track: 1) がゲストに加わる。

次に注目するのが、4曲目のトミー・フラナガン作の「Something Borrowed, Something Blue」、7曲目、デューク・エリントンの「In a Sentimental Mood」の、サックスとピアノのデュオ。これがまた、正統派ハードバップなデュオ演奏で、この洒脱で小粋でバップなピアノは誰だ、となる。そして、正統派ハードバップなサックスが、そんなピアノに相対する。堂々とした切れ味の良いサックス。これ誰だ、となる。
 

Grover-washington-jrthen-and-now

 
この素晴らしい、メインストリーム志向の純ジャズなデュオ演奏のパーソネルは、Grover Washington Jr. (sax), Tommy Flanagan (p)。

残りの3曲目「French Connections」、6曲目「Stolen Moments」、8曲目の「Stella by Starlight」は、有名なジャズ・スタンダード曲。このスタンダード曲を、コンテンポラリー・ジャズ志向のフュージョンな演奏で、新しい解釈を表現している。これが意外と見事で、これって、純ジャズ復古後の「ネオ・ハードバップ」な演奏かな、と思う。誰がやってるんだ、となる。

このコンテンポラリー・ジャズ志向のフュージョンな演奏で、ハードバップやるパーソネルは、Grover Washington Jr. (sax), Igor Butman (ts), James "Sid" Simmons (p), Richard Lee Steacker (g), Gerald Veasley (5-string el-b), Darryl Washington (ds), Miguel Fuentes (perc)。

この『Then and Now』は、ワシントンJr. の純ジャズ盤である。メインストリーム志向の純ジャズな演奏で固められていて、その演奏も、当時の純ジャズ復古後の、新伝承派の新しいハードバップな解釈と比較しても、勝るとも劣ることのない、正統派な純ジャズな演奏が、コンテンポラリー・ジャズ志向のフュージョンな響きを前提で演奏されている。

これが、1960年代のモーダル演奏の響きに戻った、新伝承派の新しいハードバップの解釈とは正反対のアプローチで、フュージョン・ジャズの演奏スタイル、響き、要素を「正」と捉えて、ワシントンJr. は、メインストリーム志向の純ジャズを展開している。

今の耳で聴くと、これって「正解」なアプローチで、このフュージョン・ジャズの演奏スタイル、響き、要素を「正」と捉えているところは、現代の「ネオ・ハードバップ」に直結するところで、この盤に詰まっているスタンダード曲の演奏は、不思議と古さを感じない。

ワシントンJr. のサックスは正統派なもの。この盤に詰まっている、素晴らしいサックスの吹奏は、ワシントンJr. のサックスの実力の確かさを証明する。ワシントンJr. のサックスは、テクニックに優れ、歌心満載、特に流麗で爽快感のあるアルト・サックスは個性的でクセになる。この盤での、純ジャズなパフォーマンスは見事という他ない。

今までのジャズ盤紹介本でも、ジャズ雑誌でも、はたまた、ネットのジャズ記事でも、この盤の話題はほとんど見かけない。しかし、この盤は、ワシントンJr. が純ジャズに取り組んだ名盤だと僕は評価している。良いアルバムです。
 
 

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2024年6月22日 (土曜日)

ワシントンJr.の『Mister Magic』

フュージョン・ジャズとか、スムース・ジャズについて語ると、どうもウケが悪い。でも、ウケ狙いでブログ記事をアップしている訳では無いのだが、フュージョン・ジャズにも、スムース・ジャズにも「良い音楽」という類の好盤が沢山ある。我がヴァーチャル音楽喫茶『松和』では、フュージョン・ジャズ、スムース・ジャズも、きっちり「守備範囲内」なので、適宜、好盤をご紹介している。

グローヴァー・ワシントンJr.(Grover Washington Jr.、以下「ワシントンJr.」と略)。スムース・ジャズの父、フュージョン・ジャズにおけるサックスの帝王。ソフト&メロウなフュージョンの代表盤『Winelight』が大ヒットしたことから、軟弱ジャズ、商業主義ジャズと揶揄されることが多々あった ワシントンJr. だが、生前に残したリーダー作については、「良い音楽」の類の、水準以上の優れた内容のものばかり。

Grover Washington Jr.『Mister Magic』(写真左)。1974年の作品。ちなみにパーソネルは、Grover Washington Jr. (sax), Bob James (ac-p, Fender Rhodes, arr, cond), Eric Gale (g), Phil Upchurch (b, track:1), Gary King (b, track:2-4), Harvey Mason (ds), Ralph MacDonald (perc)。プロデューサーは Creed Taylor。 収録曲全4曲。トータル33分弱と収録時間は短いが、内容は濃い。

この『Mister Magic』は、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ志向なワシントンJr. を捉えたものだが、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ志向の「源」は、ボブ・ジェームスのアレンジと、バックバンドの演奏内容にある。それほど、この盤での、ボブ・ジェームスのアレンジは秀逸。メインストリーム志向のコンテンポラリー・ジャズとしても良い、軟弱ジャズや商業主義ジャズの欠片も無い、硬派で真摯で実直なアレンジはアーティステックですらある。
 

Grover-washington-jrmister-magic

 
ワシントンJr. のサックスは正統派なもの。スムース・ジャズの父、フュージョン・ジャズにおけるサックスの帝王なんてニックネームがあるので、「ワシントンJr. のサックスって、純ジャズの名手達と比べるに値しないんだろう」と思うジャズ者の方々も多いかと思うが、どうして、ワシントンJr. のサックスは正統派で確かなもの。テクニックに優れ、歌心満載、特に流麗で爽快感のあるアルト・サックスは個性的でクセになる。

ボブ・ジェームスの独特のフレーズと音の重ね方を伴ったローズが、そこはかとなく趣味の良いファンクネスを漂わせ、ゲイルのソウルフルで歌心溢れるフレーズとカッティングが、フュージョン・ジャズな雰囲気を増幅させる。メイソンの端正で余裕溢れるドラミングとマクドナルドのパーカッションが洒脱でアーバンな雰囲気を醸し出し、アップチャーチとキングのベースが、ソリッドでファンキーなビートを供給する。

アルバム全体の内容は「ジャズ・ファンク」の一言では括れない。スピリチュアル・ジャズな要素、R&Bな要素、ジャズ・ファンク&ジャズ・ロックな要素、ニュー・ジャズっぽいプログッシヴな響きを、効果的に交わり融合させた、クロスオーバー&フュージョン・ジャズ。当時として、新しい響き溢れる、メインストリーム志向のコンテンポラリー・ジャズである。

ちょっと趣味の悪い、ワシントンJr. のアップのジャケットで損をしているアルバムだが、ビルボード200で10位、R&Bとジャズのチャートででそれぞれ1位を獲得した、実績ある超人気盤。しかし、よくこのジャケットでこれだけ売れたなあ、と改めて思う(笑)。ジャケには我慢が必要だが、その他は文句無しのワシントンJr. 初期の名盤です。
 
 

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2024年6月21日 (金曜日)

”マルの考える” ピアノ・トリオ

漆黒ブルージーな、黒い情感のレジェンド・ピアニスト、マル・ウォルドロン。初期の「マル4部作」を聴くことで、マルの個性の基本部分が理解できる。そんな、マルの個性を理解する上で”便利”な「マル4部作」。今日は、そんな4部作のラスト盤を取り上げる。

Mal Waldron『Mal/4; Trio』(写真左)。1958年9月26日の録音。ちなみにパーソネルは、Mal Waldron (p), Addison Farmer (b), Kenny Dennis (ds)。サブタイトルに「Trio」と付いているだけあって、この盤はマルのトリオ演奏のみを収録した、マルのリーダー作。プレスティッジにしては珍しく、単一日のセッションの収録である。

思い起こせば、「マル4部作」の最初、『Mal-1』では、マルの作曲とアレンジの才にスポットが当てられ、続く『Mal/2』『Mal/3; Sound』も同一傾向のプロデュースに加えて、バッキング能力の高さにスポットが当てられ、『Mal/2』ではジョン・コルトレーン、『Mal/3; Sound』ではアート・ファーマーのフロント・パフォーマンスが見事に前面に押し出されて、マルのバッキング能力の高さが聴いて取れた。

で、やっと『Mal/4; Trio』で、マルのピアニストとしての個性にスポットが当てられた。ただ、不思議なのはパーソネル。プレスティッジの録音なので、ベースとドラムについては、もう少し、名の通った、人気ジャズマンを連れてきても良さそうなのに、かなり地味どころを引っ張ってきている。おそらく、マルの希望だったような気がする。
 

Mal-waldronmal4-trio

 
しかし、このベースとドラムが地味なお陰で、この盤は、マルのピアノの個性がとても良く判る内容になっているのだから、何が幸いするか判らない。この盤のベースとドラムは、ほぼリズム&ビートを正確に着実にマルに供給するだけの役割に徹していて、丁々発止とした、トリオとしてのインタープレイが展開される訳ではない。逆に、だからこそ、マルのピアノの個性だけが突出して把握できる。

但し、この盤では、マルのピアノはまだ「大人しめ」。アルバム内容については、ジャズマンの意向にほぼお任せのプレスティッジでの録音なので、マルも好きに出来ただろうに、まだ聴き手に合わせて、聴かせるトリオ演奏に軸足を残している。

それでも、マルのピアノの個性である「黒い情感と適度なラフさ」は良く判るから、聴いていて面白い。思いっ切り硬質で力感溢れるタッチ、歯切れの良いアドリブ・フレーズ、叩く様なコンピング、ブルージーなブロックコード。硬質なタッチの底に黒いブルージーな雰囲気と哀愁感が漂い、端正な弾きこなしの端々にラフな指さばきが見え隠れする。

「流麗さ」や「ロマンティシズム」は皆無。ダンディズム溢れ、そこはかとなく哀愁感漂う、硬派で純ジャズな、いわゆる「マルの考えるピアノ・トリオの演奏」が展開されているところが、この『Mal/4; Trio』の特徴だろう。
 
 

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2024年6月20日 (木曜日)

マルの「伴奏の能力」の高さ

マル・ウォルドロン(Mal Waldron)は、漆黒ブルージーな、黒い情感のレジェンド・ピアニスト。2002年12月に逝去しているので、逝去後、既に20年以上が経過したことになる。もう、そんなになるのか。

マルのピアノは個性的。硬質なタッチの底に、もやっとした黒いブルージーな雰囲気が横たわっている。そして、端正な弾きこなしの端々にラフな指さばきが見え隠れする。この「黒い情感と適度なラフさ」がマルのピアノの特徴。

一方、マルは曲作りとアレンジの才にも優れる。特にアレンジの才に優れ、マルの初期のリーダー作の中に、『Mal-1』『Mal/2』『Mal/3: Sound』『Mal/4: Trio』という4部作があるのだが、この4部作、マルの曲作りとアレンジの才にスポットを当てたリーダー作になる。どうも、マルって、ピアニストとしての個性よりも、曲作りとアレンジの才を評価されていたきらいがある。

Mal Waldron『Mal/3: Sound』(写真左)。1958年1月31日の録音。ちなみにパーソネルは、Mal Waldron (p), Art Farmer (tp), Eric Dixon (fl), Calo Scott (cello), Julian Euell (b), Elvin Jones (ds), Elaine Waldron (vo, tracks 4 & 5)。アート・ファーマーのトランペットがメインの、ワン・ホーン・カルテットに、フルートとチェロと女性ボーカルが入った7人編成。ボーカルのエレイン・ウォルドロンは、マルの細君。

プレスティッジ・レーベルの傍系「New Jazz」からのリリース。トランペットのワン・ホーン・カルテットに、フルートとチェロ、そしてボーカルが入っている。1958年というハードバップ全盛期に、このユニークな楽器編成は、明らかに、マルのアレンジの才能にスポットを当てている、と感じる。収録曲全5曲中、4曲がマルの自作曲なので、マルの作曲の才能にもスポットを当てているみたいで、サブタイトルに「Sound」とあるので、マル・サウンドを愛でる、というプロデュース方針の盤なんだろうな、と想像できる。
 

Mal-waldronmal3-sound  

 
確かに、全編に渡って、マルの優れたアレンジの賜物、フロントを張るファーマーのトランペットと、ディクソンのフルートが前面に押し出され、引き立っている。バンド・サウンド全体のアレンジも良いし、フロントのバックに回った、リズム・セクションとしての、マルのピアノのバッキングのテクニックの上手さもある。そして、ポリリズミックなダイナミズム溢れるドラマー、エルヴィンのクールに煽るようなドラミングが「キモ」になっている。

そして、チェロの響きが良い隠し味になっていて、演奏全体の響きが「斬新」に響く瞬間がある。これは、明らかにアレンジの工夫だろう。特に、女性ボーカルの入った曲に、チェロが効果的に響く。逆に、ボーカルの入っていない曲では、トランペットやフルートの音のダイナミックさに押されて、あまり目立たない。

それより、女性ボーカル入りの曲で感心したのは、マルのピアノとエルヴィンのドラムの伴奏テクニックの見事さ。女性ボーカル自体は取り立てて優れてはいない、普通レベルのボーカルなんだが、伴奏に回ったマルのピアノのバッキングの妙と、エルヴィンの繊細なドラミングによる、アクセント良好なリズム&ビートの供給。

こうやって聴いていると、マルはアレンジの才能は確かにあるが、それを上回る、フロント楽器やボーカルに対する「伴奏の能力」の高さが、強く印象に残る。

このリーダー作を聴いて思うのは、マルはやはり「ピアニスト」なんだな、ということ。確かに作曲とアレンジの才もあるが、そんなに他を凌駕するほど突出したものでは無いと思う。

しかし、このリーダー作を聴くと、マルのバッキング、伴奏のテクニックの素晴らしさが突出している。早逝の天才女性ボーカリスト、ビリー・ホリデイの最後の伴奏ピアニストだったことは伊達では無い。
 
 

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2024年6月19日 (水曜日)

ラスト盤の『Out of the Loop』

ブレッカー兄弟が立ち上げ、エレ・ジャズ・ファンクの代表的バンドとして、一世を風靡した「ブレッカー・ブラザーズ」。1994年にて活動を停止、2007年には、弟のマイケルが骨髄異形性症候群から進行した白血病によって逝去。このマイケルの逝去によって、「ブレッカー・ブラザーズ」は永久に活動停止となった。

The Brecker Brothers『Out of the Loop』(写真左)。1992年4月〜8月の録音。ちなみにパーソネルは、Michael Brecker (sax,,EWI), Randy Brecker (tp, Flh), George Whitty (key), Dean Brown (g), James Genus (b), Steve Jordan (ds), Steve Thornton (perc) 辺りが主要メンバー。ここに、Chris Botti (key), Eliane Elias (key, vo), Larry Saltzman (g), Armand Sabal-Lecco (b), Shawn Pelton (ds), and more が、ゲストとして入っている。

ブレッカー・ブラザーズの実質上の最後のアルバムになる。1982年に一旦、活動を停止し、ソロ活動を展開。しかし、1990年初頭に活動を再開、1992年に『Return of the Brecker Brothers』をリリース。そして、次いでリリースしたのが、この『Out of the Loop』になる。

活動再開後のブレッカー・ブラザーズの音志向は「硬派な大人のファンキー・フュージョン」。この『Out of the Loop』では、前作のファンキー・フュージョンな雰囲気から、メインストリーム・ジャズ志向が強くなって、ファンキー・フュージョンというより、ライトでポップ、クロスオーバー志向の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」に深化している。
 

The-brecker-brothersout-of-the-loop

 
聴いていて面白いのは、ランディのトランペットが入ってくると、思わず、1980年代の、マイルスのカムバック後の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」を想起させる雰囲気にガラッと変わるところ。そこにマイケルのサックスが入ると、さらに、マイルスのカムバック後の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」な雰囲気がより濃厚になる。

と言っても、マイルスのカムバック後の「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」は、硬派で純ジャズなエレ・ファンクなんだが、ブレッカー・ブラザーズの方は、1990年代仕様の、ライトでポップ、大衆的でクロスオーバー志向のエレ・ファンク。と言って、単純にフュージョン・ジャズでは括れない、コンテンポラリーで、メインストリーム志向のアレンジが実に硬派で正統派。

このアルバムは、最優秀コンテンポラリー・ジャズ・パフォーマンスと最優秀インストゥルメンタル作曲(African Skies)の2つのグラミー賞を獲得しているのも頷ける、洗練されたアーバンでポップな「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」志向の内容。1970年代のブレッカー・ブラザーズの発展形。

ブレッカー兄弟って、マイルスが好きだったんやないのかなあ、とこのアルバムを聴いていて、ふと思った。マイルスの逝去が1991年9月28日。この『Out of the Loop』の録音が1992年4月〜8月の録音。ブレッカー兄弟として、マイルスライクな「コンテンポラリーなジャズ・ファンク」がやりたかったんやないかなあ。と僕は想像しています。
 
 

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2024年6月18日 (火曜日)

日野皓正の名作『Daydream』

そろそろ、日野皓正の「渡米後」のフュージョン・ジャズからコンテンポラリー・ジャズについて、このブログでコメントせんとなあ、と最近、思い始めた。和フュージョン・ジャズを語る上では、日野皓正のフュージョン・ジャズ盤は避けて通れない。

日野皓正『Daydream』(写真左)。1980年の作品。ちなみにパーソネルは、日野皓正 (cor, flh), Dave Liebman (ts), John Tropea (g), Bob James (key), Anthony Jackson (b), Steve Gadd (ds), Nana Vasconcelos (perc), 菊地雅章 (key), Leon Pendarvis (key, arr) and more。日野皓正の渡米後、フュージョン・ジャズ盤の第二弾。

日本制作のNYフュージョンの名作とされる。が、和フュージョンとは、内容と雰囲気が異なる。この『Daydream』、前作の『City Connection』同様、どこから聴いても、米国東海岸フュージョン・ジャズの内容と雰囲気。「和」な雰囲気は無い。パーソネルも、米国東海岸フュージョンの人気ジャズマンが大集合。当然、出てくるリズム&ビートは「米国東海岸フュージョン」。
 

Daydream

 
演奏される曲は、どれもが前作の『City Connection』と同じ雰囲気の演奏とアレンジ。この『Daydream』は、前作『City Connection』と併せて、一気聴きした方が違和感がない。というか、この『Daydream』で、日野の「アーバンで洗練された」米国東海岸フュージョンは成熟している。

冒頭「Still Be Bop」はリズム隊の叩き出す、切れ味の良いバップなリズム&ビートが印象的。そして、続く「Late Summer」は、ミディアム・スローな、絶品のバラード曲。これ、雰囲気抜群。ボブ・ジェームスの印象的なアコピが実に良い。そして、サントリーのウィスキーのCM曲だった軽快なカリプソ・ナンバーは、5曲目「Antigua Boy(アンティーガ・ボーイ)」。

他の曲も出来は良く、米国東海岸フュージョン・ジャズの名作の一枚としても良いかと思う。完全に米国東海岸フュージョンに同化した日野皓正。次なるアルバムはどうするんだろう、と、当時、ちょっぴり不安になったことを思い出した。
 
 

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2024年6月17日 (月曜日)

初代ジョンアバ4の幻の好盤『M』

初代「John Abercrombie Quartet」について、昨日の続きを。

ECMレーベルの総帥プロデューサー、マンフレッド・アイヒャーとリッチー・バイラークとの喧嘩の件、この双方が最終的に決別したのが、初代「John Abercrombie Quartet」の3枚目のアルバムの録音時のことであったらしい。

John Abercrombie Quartet 『M』(写真左)。1980年11月の録音。改めて、ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g, mandolin), Richie Beirach (p), George Mraz (b), Peter Donald (ds)。アイヒャーとバイラークの決定的喧嘩があった、いわくつきのセッションの記録。

ちょっとネタバレ的になるのだが、どうも、リーダーのジョン・アバークロンビー(以下「ジョンアバ」と略)の失恋がきっかけらしい。ジョンアバの失恋ショックはかなり重症で、まともなパフォーマンスが出せない。そこで、バイラークやムラーツがアップテンポで軽快な曲を持ち寄ってセッションをしたところ、ジョンアバ、元気を取り戻し、なかなかの内容の演奏が出来たそう。

しかし、その演奏内容、切れ味の良い、趣味の良いダイナミズムを伴った、アグレッシヴでテンポの良い内容で、ECM独特の深いエコーがかかって無かったら、ECMレーベルのアルバムだとは思えない。深いエコーがなければ、これって米国ジャズって感じの演奏もあったりで、ECMレーベルの総帥プロデューサー、アイヒャーには、酷くお気に召さなかったらしい。

アイヒャーいわく「ECMに米国ジャズはいらない」。バイラークいわく「これも我々のジャズだ。たまには良いだろう」。しかし、当時のアイヒャーには、自らの信じる音志向に関する反論に対する許容量が足らない。これで決定的に決別、となったらしい。

そのいわくつくのセッションの記録が、この『M』に収録されている。確かに冒頭の「Boat Song」のジョンアバの暗ばくたる、幽霊の様に漂う様な、暗いエレギの音はヤバい。
 

John-abercrombie-quartet-m

 
前述のエピソードを知らなければ、これって、ちょっと暗めのECMの耽美的な幽玄な演奏だ、という評価で落ち着くのだろうが、実際はジョンアバの失恋のショックはかなり酷かったことが、この「暗〜い」サスティーン満載のジョンアバの暗ばくなるエレギを聴けば良く判る。

2曲目以降のバイラークとムラーツの自作曲は、確かに印象がガラッと変わる。前述の「切れ味の良い、趣味の良いダイナミズムを伴った、アグレッシヴでテンポの良い」演奏で、どう聴いてもECMっぽく無い。しかし、これが良い。コンテンポラリーな純ジャズという面持ちで、有機的な変幻自在なインタープレイ、自由の高いモーダルな即興展開、そして、出て来るパフォーマンスは基本的に「多弁」。

主にバイラークの個性の一つ「多弁でモーダル」が、演奏全体を牽引しているのだが、ジョンアバのギターも、ムラーつのベースも、ドナルドのドラムも、実に気持ちよさそうに、演奏を楽しんでいる様がよく判る。初代「John Abercrombie Quartet」の「陽」の部分のベスト・パフォーマンスがここに記録されている。

ECMレーベルの総帥プロデューサー、アイヒャーは、このバイラークの「多弁でモーダル」な個性ばかりで無く、ピアニストとしての存在をも否定し、バイラークの参加したECMのアルバムを全て廃盤にした訳だが、この『M』については、今の耳で聴くと、かなりレベルの高いコンテンポラリーな純ジャズが展開されていて、演奏の精度と純度が高い分、この初代「John Abercrombie Quartet」の「陽」の部分の演奏も、十分に「欧州ジャズ」であり、異色のECMジャズとして捉えても違和感が無い。

結局、この『M』のセッションでのアイヒャーとバイラークの喧嘩がもとで、初代「John Abercrombie Quartet」のレコーディングはこの『M』で打ち止めとなる。しかも、バイラークとの喧嘩のとばっちりで、この初代「John Abercrombie Quartet」のオリジナル・アルバムは未だに廃盤状態。アイヒャーも罪作りなことをしたもんだ、と思う。でも、この『M』というアルバム、初代「John Abercrombie Quartet」の好盤の一枚であることは間違いない。

ちなみに、この『M』は、オリジナル・アルバム仕様としては未だ廃盤状態だが、サブスク・サイトやCDで『The First Quartet』と題して、この初代「John Abercrombie Quartet」の全音源が、ECMからリリースされているので、このボックス盤から聴くことができる。
 
 

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2024年6月16日 (日曜日)

好盤『Abercrombie Quartet』

ジョン・アバークロンビー(以降「ジョンアバ」と略)のリーダー作のディスコグラフィーと、このブログでのジョンアバのリーダー作の記事化の有無をチェックしていて、あるパーソネルのECMレーベルでのリーダー作のみが廃盤になっているのに気がついた。ジョンアバは長年、ECMレーベルのハウス・ギタリストの位置付けだっただけに不思議なことである。

どうも、よくよく見てると、リッチー・バイラークが入っているパーソネルのリーダー作が廃盤で欠落している様なのだ。ECMレーベルの総帥プロデューサー、マンフレート・アイヒャーと、ピアニストのリッチー・バイラークとの喧嘩が原因らしい。

バイラークは、ECMレーベルで『Eon』『Hubris』『Elm』という耽美系ピアノ三部作をリリース。この耽美系ピアノ三部作は、アイヒャーの美意識をそのまま音に置き換えた、そんな「沈黙に次いで最も美しい音」を具現化している。

しかし、バイラークは耽美的でリリカルなピアニストではあるが、多弁でモーダルなピアニストでもある。バイラークがアイヒャーに「私はもう十分貴方のやりたいことはやった、次は自分のやりたいことをやらせてくれ」と言ったことが発端で喧嘩になったらしい。

John Abercrombie『Abercrombie Quartet』(写真左)。1979年11月の録音。ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g, mandolin), Richie Beirach (p), George Mraz (b), Peter Donald (ds)。このジョンアバのカルテット編成での2作目。この盤は、前作『Arcade』と同様の、ECMらしい耽美系カルテット。
 

John-abercrombieabercrombie-quartet

 
透明感と浮遊感、静謐感と適度なテンション、漂う様な緩やかなビートに乗った、自由度の高いインタープレイ。リッチー・バイラークは、まだ耽美的で透明感溢れるピアノを弾いていて、ジョンアバのギターにぴったりと寄り添う。

ムラーツのベースは淀みやブレの全く無い、強靱で柔軟なベースラインをバンド全体に供給する。このすこぶる安定したムラーツのベースが、この盤を覆う透明感と静謐感溢れる、それでいて、切れ味良くソリッドなリズム&ビートをしっかりと支えている。

前作『Arcade』よりも、ダイナミックでソリッドな面が強調されて、ECMらしさが少し薄れた『Abercrombie Quartet』。それでも、この盤の音世界は「ECMらしい耽美系カルテット」。リズムが明快な分、アイヒャーの美意識から少し外れた感が無きにしもあらずだが、ジョンアバのギターとバイラークのピアノの相性の良さと相まって、この盤は、ジョンアバの初期の代表作の一枚に数えても良い内容だと思う。

しかし、サイドマン参加のバイラークと喧嘩したからと言って、このジョンアバのリーダー作を廃盤するって、アイヒャーもちょっと大人気ない、と思うなあ。最近『The First Quartet』と題して、ECMから、このカルテットの全音源がリリースされているみたいだが、当初のアルバムの形ではリイシューされていない。

このあたりにも、アイヒャーの大人気の無さを感じてしまうんだなあ。音源をリリースするなら、アルバム形式でリイシューするのが、プロデューサーとして、ミュージシャンというアーティストに対する最低限の礼儀だと思うんだが....。とにかく、このアルバムとしては廃盤状態の『Abercrombie Quartet』は好盤です。
 
 

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2024年6月15日 (土曜日)

『View with a Room』の続編

ジュリアン・ラージの『View with a Room』は傑作だった。ラージとフリゼールのギター2本の絡みが素晴らしく、官能的な「くすんだ音色」と「前のめりでアグレッシブなフレーズ」というラージのギターの独特な個性全開。

フォーキーで、どこか懐かしい、哀愁感漂う米国ルーツ・ミュージックの音要素を融合して、ジャズのフォーマットに乗せる「アメリカーナ」でジャジーな音世界は見事だった。

Julian Lage『The Layers』(写真左)。2023年4月のリリース。ちなみにパーソネルは、Julian Lage (g), Jorge Roeder (b), Dave King (ds) と『View with a Room』同様のトリオに、Bill Frisell (g) が、全6曲中、5曲にゲスト参加している。

全6曲収録のミニ・アルバム仕様(収録時間は約24分)なので、じっくり聴かずに置いておいた訳だが、先日、ジャケを見て、このミニ・アルバムって、『View with a Room』との類似性があるのかな、と思いながら、じっくり聴き直してみた。

出てくる音世界は、明らかに『View with a Room』との類似性が高い。調べてみたら、『View with a Room』と同一セッションでの演奏集で、いわゆる『View with a Room』のアウトテイク集。というか、演奏内容は『View with a Room』の収録曲と全く引けを取らないので、アウトテイクというよりは、『View with a Room』に入りきらなかった曲集、いわゆる「続編」と言った方がしっくりくる。
 

Julian-lagethe-layers

 
収録された曲は、どれもが『View with a Room』同様、フリゼールと合わせて、ジャズをはじめ、ロック、ブルース、カントリーなど、米国ルーツ・ミュージックの音要素を引用されていて、ラージ独特の音世界が展開されている。

フォーキーで、どこか懐かしい感じ、哀愁感漂う米国ルーツ・ミュージックの音要素を融合して、ジャズのフォーマットに乗せる。エレギの音はブルース・ロックやサザン・ロックの響きを湛えていて、「アメリカーナ」な雰囲気をより濃厚にさせる。この盤の「アメリカーナ」でジャジーな音世界。

ラージもインタビューで、このミニ・アルバム『The Layers』について、以下の様に述べている。「この作品は『View with a Room』の前日譚のようなもの。ビルとのデュオ、ホルヘとのデュオ、より広がりのある楽曲、デイヴとホルヘの素晴らしいリズムとオーケストレーションのセンスなど、前作の試金石となる音楽の種をすべて含んでいる」。

この『The Layers』の方が、『View with a Room』に比べて、アコギの割合が多い。その分、やや内省的で哀愁感漂う、ジェントルな雰囲気の演奏が多く印象的。

『View with a Room』と「ニコイチ」で聴いた方がしっくりくる『The Layers』。その音世界は傑作『View with a Room』と同様、「アメリカーナ」でジャジーな音世界は見事という他ない。
 
 

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2024年6月14日 (金曜日)

1966年のドナルド・バード

ドナルド・バードは「機を見て敏なる」トランペッターだった。トランペッターとして、テクニックは優秀、端正でブリリアントで理知的な吹奏。破綻無く、激情に駆られて吹きまくることなく、理知的な自己コントロールの下、常に水準以上のバップなトランペットを吹き上げる。

そんなドナルド・バード、ハードバップ初期の頭角を表し、ハードバップの優れた内容のリーダー作を幾枚もリリース、その後、ファンキー・ジャズに手を染め、モード・ジャズにもチャレンジする。そうこうしているうちに、ジャズロック、ソウル・ジャズに移行し、最終的にはジャズ・ファンクを推し進める。常に時代毎のジャズのトレンド、流行を敏感に察知して、その音志向を変化、転化させていった。

Donald Byrd『Mustang!』(写真左)。1966年6月24日の録音(ボートラは除く)。ブルーノートの4238番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Sonny Red (as), Hank Mobley (ts), McCoy Tyner (p), Walter Booker (b), Freddie Waits (ds)。リーダーのバードのトランペットと、珍しいソニー・レッドのアルト・サックス、そして、モブレーのテナー・サックスの3管フロントのセクステット編成。

録音年は1966年。ジャズの多様化が進み、ビートルズのアメリカ公演後、大衆音楽としてジャズが下降線を辿り出した頃である。冒頭のタイトル曲「Mustang」はジャズ・ロック。当時、ヒットしたらしい。パーソネルを見渡すと、ハードバップど真ん中からモード・ジャズが得意なメンバーだが、なかなかノリの良いジャズ・ロックをかましている。ソニー・レッドの作曲とはちょっと驚く。

ジャケの雰囲気からして、この盤、ジャズ・ロック集か、と思いきや、2曲目からは、硬派でメインストリームな純ジャズが展開されている。2曲目の「Fly Little Bird Fly」は、出だしからマッコイ・タイナーのピアノが、バンド演奏全体を牽引するスピード感溢れる演奏。
 

Donald-byrdmustang

 
3曲目の「I Got It Bad And That Ain't Good」はスタンダード曲。タイナーのピアノが美しいフレーズを弾き進めていて立派。タイナーの優れたバッキングの下、ドナルド・バードのトランペット、ハンク・モブレーのテナー・サックスが、美しく味わい深くリリカルなバラード・フレーズを吹き上げていく。やはり、なんといっても、タイナーのピアノが素晴らしい。

以降、LPのB面の1曲目、CDでは4曲めの「Dixie Lee」は、再び、こってこてのジャズ・ロック。こちらは、ドナルド・バードの作曲。ノリの良いキャッチーなフレーズの連発で、思わず、足が動き、体が揺れる。俗っぽいが、聴いて楽しいジャズ・ロック。

続く「On The Trail」は、グローフェの「グランド・キャニオン組曲」の中の1曲で、スタンダード化された秀曲。ユニゾン&ハーモニー、コール・アンド・レスポンスにチェイス、小粋でセンスの良い3管フロントのパフォーマンスが良い。特にレッドとモブレーが元気に飛ばしまくっているのが印象的。

ラストは「I'm So Excited By You」で、明確にストレート・アヘッドなハードバップ・チューン。このハードバップな、流麗な演奏を聴いていると、ハードバップな演奏って、この時点では既に洗練し尽くされ、極められ尽くされた感を強く感じる。

改めて、この盤を振り返ってみると、1966年という録音年で、ジャズ・ロックと洗練されたハードバップのカップリングな内容というのが面白い。ハードバップな演奏には、ファンキー・ジャズな雰囲気は見え隠れするが、モード・ジャズは影も形もない。まあ、このパーソネルだと、タイナー以外、モーダルな演奏は苦手そうなんで、この演奏構成が一番フィットしたんだろう。

今の耳で聴いて、単純に楽しく聴ける佳作だと思う。難しいことを考えずに「古き良きジャズを感じることが出来る」好盤です。
 
 

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2024年6月13日 (木曜日)

ジョンアバの「ギター・シンセ」

ジョン・アバークロンビー(以降「ジョンアバ」と略)のギターの音世界が好きで、1970年代から、ずっとジョンアバのアルバムを追いかけている。

欧州ジャズらしい、彼しか出せない叙情的なサスティーン・サウンドが、とにかく気持ち良い。特に、ECMレーベルでの、ECM独特の深いエコーに乗ったジョンアバのギターシンセには、聴くたびに惚れ惚れである。

John Abercrombie『Current Events』(写真左)。1985年9月の録音。ちなみにパーソネルは、John Abercrombie (g, g-synthesizer), Marc Johnson (b), Peter Erskine (ds)。ジョン・アバークロンビー(以降「ジョンアバ」と略)のギターがフロントのピアノレス・トリオ。

ベースにニュー・ジャズ志向ベースの名手マーク・ジョンソン、ドラムには、これまたコンテンポラリー・ジャズ志向ドラマーのピーター・アースキン。バックのリズム隊は磐石。そんな磐石なリズム隊をバックに、ジョンアバが気持ちよさそうに、個性的なギターを弾きまくる。
 

John-abercrombiecurrent-events

 
ジョンアバは「ギター・シンセ」の名手でもある。1970年代から、ギター・シンセに手を染めて、ずっとギター・シンセの技を磨いてきた。そして、この『Current Events』では、そのギター・シンセの技が「極み」に達した感のある、素晴らしいパフォーマンスが記録されている。

ジョンアバのギター・シンセの音がメインのこのアルバム、全体の雰囲気は「プログレッシヴ・ロック(プログレ)」志向。もともと「プログレ」は英国を中心とした欧州ロックの十八番。そのプログレの雰囲気をジャズに融合させて、「プログレッシヴ・ジャズ」とでも呼べそうな、コンテンポラリーなクロスオーバー&ジャズ・ロックな音世界を現出している。

冒頭の「Clint」が圧巻のパフォーマンス。ジョンアバのギター・シンセが乱舞する16ビートの、プログレ志向のコンテンポラリーなクロスオーバー・ジャズ。マーク・ジョンソンの重低音ベースもソリッドに響き、アースキンの変則拍子ドラミングが凄い。続く「Alice In Wonderland」の美しいジョンアバのギター・ワークがこれまた見事。

米国ジャズでは全く聴くことの出来ない、欧州ジャズ&ECMレーベルならではの「プログレッシヴ・ジャズ」とでも呼べそうな、コンテンポラリーなクロスオーバー&ジャズ・ロック。ジョンアバのギター&ギターシンセのベスト・プレイの一つがぎっしり詰まった名盤です。
 
 

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2024年6月12日 (水曜日)

チックの異色盤『Septet』です

僕は「チック者」である。チックを初めて聴いたのが、1970年代半ばだったから、2021年2月9日に逝去するまで、かれこれ既に半世紀、チックをずっとリアルタイムで聴き続けてきたことになる。

よって、チックのリーダー作については、当ブログで全てについて記事にしようと思っている。現時点で、あと十数枚、記事にしていないアルバムがある。今日は、その中の「異色作」について語ろうと思う。

Chick Corea『Septet』(写真左)。1984年10月、L.A.の「Mad Hatter Studios」での録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Steve Kujala (fl), Peter Gordon (french horn), Ida Kavafian, Theodore Arm (violin), Steven Tenenbom (viola), Fred Sherry (cello)。

チックのピアノ、クジャラのフルート、ゴードンのフレンチ・ホルンに加えて、弦楽四重奏が入った七重奏団=「Septet」。ECMレーベルらしいコンセプト盤だが、この盤のプロデューサーは、ECMの総帥マンフレート・アイヒャーでは無く、チック・コリア自身。録音スタジオは、チックの「マッド・ハッター・スタジオ」。

アルバムのコンセプトはECMの理念に沿う、しかし、その音作りはチック自身に任せる。アイヒャーとしては思い切ったことをした。
 

Chick-coreaseptet

 
しかし、この盤に詰まっている音は、明らかに「ECMミュージック」であり、アイヒャーイズムの音作りである。逆に、チックの自己プロデュース能力の高さを再認識する。

さて、その内容であるが、弦楽四重奏が入っているので、雰囲気は明らかにクラシック。しかし、それぞれの曲には、チック独特のフレーズ、チックらしい硬質でメロディアスなタッチが随所に聴くことが出来て、伝統的なクラシックの七重奏という雰囲気では無い。

とにかく、チックのピアノが映えに映えていて、この盤の七重奏は、チックのソロ・ピアノに、フルートとフレンチ・ホルンと弦楽四重奏がクラシックなバッキングをすることにより、よりチックのソロ・ピアノが引き立つ、そんな感じの音作り。クラシック風ではあるが、純粋なクラシックでは無い。

チックの個性を反映した、チックの優れた「作曲&編曲」の才能の成果がこの『Septet』。クラシック寄りの即興のピアノ・ソロに一捻り加えた、チックの考える「ECMミュージック」がこの盤に詰まっている。

ECMレーベルだからこそ成し得た、チックの考える「ECMミュージック」。アイヒャーの期待に応えたチックの「作曲&編曲」の才能。一期一会、唯一無二な音世界。チック者にとっては、外すことの出来ない「異色盤」です。
 
 

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2024年6月11日 (火曜日)

チック名盤『Children’s Songs』

チック・コリアのリーダー作の「落穂拾い」。当ブログに、まだ記事化していないチックのリーダー作を順に聴き直している。意外とソロ・ピアノ集が多く、記事化されていない。あまり興味が湧かなかったかとも思ったのだが、聴き直してみると、どのアルバムもチックの個性が散りばめられていて、聴き応えのあるものばかりである。

Chick Corea『Children's Songs』(写真左)。1983年7月の録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p) のみ。チック・コリアのソロ・ピアノ集。ラストの「Addendum」にのみ、バイオリニストのイダ・カヴァフィアンとチェロ奏者のフレッド・シェリーが参加している。

チック作の優れた小曲「Children's Song」を一枚のアルバムに集めた企画盤。チックいわく「子供の精神に表れる美しさとして、シンプルさを伝えること」を目指した小曲が「Children's Song」。"No.1"から"No.20"まで、全20曲。

うち、ゲイリー・バートンとのデュオ盤『Crystal Silence』に1曲、同じ曲のグループ演奏バージョンは、Return to Foreverの『Light as a Feather』にも収録、続いて『Duet』に4曲、収録されている。また、"No.5"と"No.15" のグループ演奏バージョンは、チックの『Friends』に収録されている。
 
そして、”No.3”は、Return to Foreverの『Hymn of the Seventh Galaxy』の「Space Circus Part I」のモチーフであり、”No.6”は、Return to Foreverの『Where Have I Known You Before』の「Song of the Pharoah Kings」のメインとなるフレーズ。”No.9"は、チックのソロアルバム『The Leprechaun』の「Pixieland Rag」として収録されている。
 

Chick-coreachildrens-songs
 

つまり、全20曲中、半数の10曲が、このチックのソロ・ピアノ盤『Children's Songs』に収録以前に、チックのアルバムに収録された曲のベース、もしくはモチーフになった、チックの個性を彩る、独特のフレーズの「源」となっている。つまり、この小曲集は、チックの個性を理解する上で、重要な意味を持つソロ・ピアノ集である。

ラストの、バイオリンとチェロとの「Addendum」は、明らかにクラシック音楽の範疇の演奏になるが、対位法を活用した、チックの卓越した、弦楽のためのスコア作成能力が遺憾無く発揮されている。これは、後のアルバム『Septet』に繋がる演奏になっている。
 
バルトーク・ベーラを大きな影響を受けたと語るチック。この「Children's Song」と名付けられたそれぞれの小曲は、バルトークの「ミクロコスモス」シリーズの、チックなりの解釈、とされる。

確かにそう感じるが、そんな難しい解釈無しに、このチック独特の美しい旋律に彩られた小曲は、チックの様々なニュアンスを湛えた、耽美的でリリカルな、硬質で切れ味の良いタッチで、美しく唄うが如く、淡々と弾き進められていく。

未だ色褪せないチックのソロ・パーフォマンス、そして、チックの作曲能力。この『Children's Songs』、チック者には必須アイテムだと再認識した次第。ピアノ・ソロの名盤の一枚です。
 
 

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2024年6月10日 (月曜日)

セクステットのための抒情組曲

チック・コリアのピアノとゲイリー・バートンのヴァイブは凄く相性が良い。ジャズ特有のファンキー色を限りなく押さえ、ブルージーでマイナーな展開を限りなく押さえ、硬質でクラシカルな響きを前面に押し出し、現代音楽の様なアブストラクトな面を覗かせながら、メロディアスで流麗なフレーズを展開する。楽器は違えど、音の性質は同類の二人。

Chick Corea & Gary Burton『Lyric Suite For Sextet』(写真左)。1982年9月の録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Gary Burton (vib), ここに「弦楽四重奏団」がバックにつく。ECMレーベルらしい、即興演奏をベースにした、欧州ジャズらしい、透明度の高いリリカルな「ニュー・ジャズ」志向のデュオ演奏。

邦題が「セクステットのための抒情組曲」。これがいけない。バックに「弦楽四重奏団」がついているので、余計にクラシック音楽の匂いがプンプンする。僕も最初、このアルバムがリリースされた時には、コリア&バートンのデュオはクラシックに手を染めたのか、と思った。よって、リリース当時はこのアルバムを聴くことは無かった。

が、リリース後10年。やっと聴いたら、あらまあ、しっかりと、コリア&バートンの「ニュー・ジャズ」志向のデュオ演奏が展開されている。
 

Chick-corea-gary-burtonlyric-suite-for-s

 
「弦楽四重奏団」は、コリア&バートンのデュオ演奏をさらに引き立てる、優れたアレンジによるサポートの役割を担っている。この「弦楽四重奏団」のサポートが非常に優れていて、コリア&バートンのデュオ・パフォーマンスを更なる高みに誘っている。

パート1〜7まで、7つのパートに分かれた「組曲」風の収録曲も、クラシック音楽を想起させて、これもいけない。しかし、何か確固たるテーマを持った、一連の曲の連続という風でも無い。

チックの手になる、バートンとのデュオを前提とした秀曲の数々。どう聴いても、クラシックの「組曲」を想起するものではないだろう。透明度の高いリリカルな「ニュー・ジャズ」志向のデュオ演奏を引き立てる秀曲揃い。

ECMレーベルだからこそ成し得た、即興演奏をベースにした、欧州ジャズらしい、透明度の高いリリカルな「ニュー・ジャズ」志向のコリア&バートンの優れたデュオ演奏。

欧州ジャズらしい、というところに、「クラシック」っぽい響きを感じるかもしれないが、このデュオ演奏は、ECMレーベルの「ニュー・ジャズ」のジャンル内の優れたパフォーマンスの記録。意外と好盤です。
 
 

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2024年6月 9日 (日曜日)

向井滋春 ”スペイシング・アウト”

向井滋春は、和ジャズを代表するトロンボーン奏者の一人。1976年に初リーダー作『For My Little Bird』でデビュー。当初は、コンテンポラリーな純ジャズがメイン。しかし、1979年、約1年間、NYに在住した折にフュージョン・ジャズに触発される。そして、いきなり、フュージョン・ジャズに転身する。

向井滋春『Spacing Out』(写真左)。1977年9月28日、日本コロムビア第1スタジオにて録音。ちなみにパーソネルは、向井滋春 (tb), 清水靖晃 (ts, ss), 元岡一英 (p), 大徳俊幸 (clavinet), 渡辺香津美 (g), 川端民生 (b), 古澤良治郎 (ds), 横山達治 (conga) による8人編成。渡辺香津美をはじめ、一癖も二癖もある、マニア好みの名うての名手達が集っている。

出てくる音は、コンテンポラリーな純ジャズ、コンテンポラリーなスピリチュアル・ジャズ。冒頭の組曲風の力作「Dawn~Turbulence(黎明~乱気流)」が、その代表的な演奏。和ジャズの代表的ジャズマンである、渡辺貞夫や日野皓正らも手に染めたコンテンポラリーなスピリチュアル・ジャズの世界。

しかし、どこかで聴いたことがある音世界。元岡のピアノの左手がガーンゴーンとハンマー打法を繰り出し、右手はモーダルなフレーズを流麗に弾き回す。これって、1970年代のマッコイ・タイナー風のスピリチュアル・ジャズな音世界。タイナーからファンクネスを差し引いた、シンプルで爽やかなハンマー奏法。そこに、骨太でオフェンシヴな向井のトロンボーンが、変幻自在に疾走する。
 

Spacing-out

 
和ジャズらしい、コンテンポラリーなスピリチュアル・ジャズ。マッコイ・タイナーのワールド・ミュージック志向のアフリカンでモーダルなスピリチュアル・ジャズから、アフリカ志向とファンクネスを引いた様な、モーダルなスピリチュアル・ジャズ。日本人でもこれくらいは出来る、って感じの熱演。

ところどころ、フュージョン・ジャズの萌芽的演奏も出てくる。向井の芯の入った力感溢れる、柔和で丸く流麗なトロンボーンが印象的な、ボッサ調の「Just Smile」。軽快で切れ味の良い渡辺香津美のギターが爽快なブラジリアン・フュージョン志向の「Cumulonimbus(入道雲)」、電気的に増幅したトロンボーンの音色がクロスオーバー志向な「Forcus Express」、クラヴィネットの音が、乾いたファンクネスを醸し出すタイトル曲「Spacing Out」。

いずれも、フュージョン・ジャズ志向な演奏だが、まず「ソフト&メロウ」していない。かなり真摯で硬派なコンテンポラリーな演奏がベースにあって、ボッサ調とか、ブラジリアンな演奏とか、ファンキーな演奏とか、どこかフュージョンっぽく感じるが、演奏自体は決して「甘く」ない。硬派なコンテンポラリーな純ジャズがベースなところが「良い」。

このアルバムは、様々なジャズの「融合」の要素をベースとした演奏がてんこ盛り。フュージョンっぽいが、根っこは「硬派なコンテンポラリーな純ジャズ」がベース。「硬派なコンテンポラリーな純ジャズ」時代の向井の最後のリーダー作である。
 
 

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2024年6月 8日 (土曜日)

向井滋春 ”ヒップ・クルーザー”

月刊誌「レコード・コレクターズ」2024年6月号の特集、「フュージョン・ベスト100 邦楽編」を眺めていて、向井滋春のアルバムが目に入った。懐かしい。和フュージョン全盛時、もともと、トロンボーンの音色が好きなこともあって、向井滋春のフュージョン盤はよく聴いた。意外とトロンボーンって、フュージョン・ジャズに向いているんですよね。

向井滋春『Hip Cruiser』(写真左)。1978年10月2~6日の録音。1979年のリリース。ちなみにパーソネルは、向井滋春(tb), 植松孝夫(ts), 元岡一英(p, el-p, key), 渡辺香津美, 橋本信二(g), 真鍋信一(b), 古澤良治郎(ds, perc), 山木秀夫(ds), 横山達治, 吉田和雄, 三島一洋(perc), ベラ・マリア(cho), 大貫妙子(cho)。「異業種」から、ブラジル人シンガーのベラ・マリア、Jポップ畑から大貫妙子がコーラスで参加しているのが目を引く。

純ジャズ、メインストリーム路線を突っ走っていた向井が、フュージョン路線に転身、フュージョン・ジャズ全開の好盤。和ジャズの、それも、メインストリームな純ジャズで活躍していた名うての名手達が、こぞって参加して、ご機嫌なフュージョン・ジャズをやっている。これがまあ、やっぱり上手い。一流は何をやらせても一流、である。

ラテン・フュージョン&ブラジル・フュージョンがメインの充実の和フュージョン。こうやって聴いていると、和ジャズのジャズマンって、ラテン・ミュージックや、ブラジル・ミュージックに対する適応度がかなり高いことが判る。
 

Hip-cruiser

 
リズム&ビートにも違和感が無く、ちょっと「ダル」なフレーズも難なくこなす。しかし、どこか「生真面目」な雰囲気が漂っていて、ラテンをやっても、ブラジルをやっても、演奏自体が俗っぽくならない。

ちゃんと一本筋の通ったジャズ、と言う一線はしっかり確保していて、ユニゾン&ハーモニー、そして、アドリブ展開、どれをとっても、演奏の底に「ジャズ」がいる。これが「和フュージョン」らしいところ、日本人のフュージョン・ジャズの面目躍如である。

ブラジリアン・メロウなタイトル曲「Hip Cruiser」、ブラジル人シンガーのベラ・マリアのボイスがバッチリ効いたブラジリアン・ジャズ・サンバなチューン「Nimuoro Neima」、ばっちりハマったブレイクがむっちゃカッコ良い「Manipura」。ライトなノリのディスコ・フュージョン「 V-1 Funk」、大貫妙子がスキャットで参加したクロスオーヴァーなフュージョン曲「Coral Eyes」など、格好良くキマッたラテン・フュージョン&ブラジル・フュージョンな演奏がてんこ盛り。

和フュージョンだから、と敬遠することなかれ。演奏のクオリティーは高く、十分にジャズ鑑賞の耳に耐える。テクニック確か、適度に脱力した、ブリリアントでラウンドで柔らかい、向井のトロンボーンの響きが、ラテン・フュージョン&ブラジル・フュージョンにバッチリ合っている。和フュージョン・ジャズの好盤です。

ちなみに、表ジャケ(写真左)は平凡なデザイン。しかし、裏ジャケ(写真右)は「斬新?」なデザイン。どういう発想でこんな裏ジャケになったんだか .....(笑)。
 
 

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2024年6月 7日 (金曜日)

和ラテン・フュージョンの名盤

月刊誌「レコード・コレクターズ」2024年6月号の特集、「フュージョン・ベスト100 邦楽編」に挙がったアルバムを聴き直している。当時、ヘビロテで聴いたアルバムも多くある。当ブログに記事としてアップしていないアルバムも結構ある。当時の耳で聴いた感覚と今の耳で聴いた感覚、意外と変わらないのが面白い。

松岡 直也 &ウィシング 『The Wind Whispers』(写真)。1979年の作品。ちなみにパーソネルは、Naoya Matsuoka (key), Kazumi Takeda, Kenji Nakazawa (tp), Tadanori Konakawa (tb), HidefumiI Toki (sax), Takeshii Itoh (ts,fl), Kenji Ohmura, MasayoshiTakana (g), Shuichi “PONTA” Murakami (ds), Osamu Nakajima, Pecker (perc)。

パーソネルを見渡すと、錚々たるメンバーである。当時の「和フュージョン」の名うての強者どもが大集合。ビッグ・ネームとして主だったところでは、ホーン・セクションにサックスの土岐 英史、ギターに大村 憲司&高中 正義、ドラムに村上 "ポンタ" 秀一、パーカッションにペッカー。今から振り返って見て、やっぱり、錚々たる面子である。

出てくる音は、一言で言うと「ラテン・フュージョン」。日本のラテン・ジャズ・フュージョンの「草分け」的名盤である。「ラテン」とは言っても、本場のこってこての「ラテン・ミュージック」では無く、「和」でリコンパイルした「ラテン」。よって、我々の耳にスッと馴染むフレーズとアレンジ。
 

The-wind-whispers

 
そんな「和ラテン・フュージョン」が、この盤にギッシリ。「ラテン」だからと言って、俗っぽくも無くチープでも無い。上質に洗練された「ラテン」が見事。

ホーン・セクションのアレンジとパフォーマンスが良い。この「和ラテン」なホーン・セクションの熱い活躍が、この盤の「キモ」。そして、大村&高中のギターの「和ラテン」なフレーズの嵐、ポンタ秀一が叩き出す「和ラテン」なリズム&ビート、がもう一つの「キモ」。

そして、やっぱり主役は、リーダーの松岡のパーカッシヴで切れ味抜群な「和ラテン」な熱気溢れるピアノ。爽快でシャープで、心地良い熱気溢れる「和ラテン・フュージョン」な名曲、名演がてんこ盛り。 タイトル曲「The Wind Whispers」が美しい。「A Season of Love」と「The Myth of Egypt」は、確か、ウルトラクイズのBGMに使われていたのではないだろうか。そんな記憶が蘇ってきて、懐かしいことしきり。

今の耳で聴いても、新鮮な響きが溢れている「和ラテン・フュージョン」の名盤。和フュージョン・ジャズの面目躍如の一枚。ちなみに高中の名盤『TAKANAKA II』で鮮烈な「和ラテン」なピアノを弾きまくっていたのは、他ならぬ、この「松岡 直也」。至極納得。
 
 

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2024年6月 6日 (木曜日)

マントラの隠れ名盤『Pastiche』

1973年の再結成後、順調に内容のあるアルバムを2枚、リリースしてきた、マンハッタン・トランスファー(The Manhattan Transfer=以下「マントラ」と略)。そろそろ「マントラの音志向」を確立するタイミングでもあった。

The Manhattan Transfer『Pastiche』(写真左)。1976年12月から1977年9月の録音。1978年のリリース。ちなみにパーソネルは、Tim Hauser, Laurel Massé, Alan Paul, Janis Siegel (vo) 以上が「The Manhattan Transfer」。

前作、前々作同様、バックのバンドには、当時のクロスオーバー&フュージョン畑の有名ジャズマンから、ハイテクニックなスタジオ・ミュージシャンまで、多数の面子が参加して、マントラのコーラスをバックアップしている。特に、この盤では、ジャジーな音志向を強化していて、バックに豪華なビッグバンドが控えている。

ビッグバンドをバックにした、ジャジーな4人組コーラス。マントラ独特のコーラス・ワークを引き立たせるビッグバンド・アレンジが見事。ややもすれば、コーラス・ワークの邪魔になりそうな、ビッグバンドの重厚なユニゾン&ハーモニーなんだが、この盤でのビッグバンドのユニゾン&ハーモニーは重厚かつダイナミックだが、ユニゾンは効果的に抑制を効かせ、ハーモニーはコーラスの邪魔にならない、逆にコーラスを引き立たせる様な音の重ね方が上手い。
 

The-manhattan-transferpastiche

 
このアルバムを聴いていて、マントラの音作りって、往年の「ウエストコースト・ジャズ」がベースにあるのかな、と感じた。いわゆる、小粋なアレンジを施し、ハイテクニックだがお洒落に抑制を効かせて、じっくり「聴かせるジャズ」。マントラのアルバムの根底には、この「聴かせる」というキーワードがしっかりと「ある」。

まず、どの曲でも、マントラのコーラス・ワークのアレンジが見事。マントラならではのユニゾン&ハーモニーの個性を外さすに、原曲のニュアンスをしっかりと踏襲し、時に上回る。どこから聴いても「マントラ」を感じるコーラス・アレンジは見事という他ない。

選曲も良い。後にマントラの代表曲になる、ジミー・ジェフリー作の「Four Brothers」、エリントン作「In a Mellow Tone」、ヴィッド・バトー作「Walk in Love」。ルパート・ホルムズ作の「Who, What, When, Where, Why」。個人的には、ゴフィン=ゴールドバーグの「It's Not the Spotlight」。どの曲もアレンジが秀逸で、マントラのコーラス・ワークが映える。というか、アレンジが秀逸であれば、マントラのコーラス・ワークが映える曲を選んでいる様に見える。

この盤もマントラの数あるアルバムの中で、そのタイトルが特別に上がるアルバムでは無い。しかし、このジャズ・スタンダード曲からポップスの佳曲までを、ジャジーでライトなフュージョン・ジャズ風のアレンジでカヴァーした内容は、マントラのコーラス・アレンジの優秀さと演奏全体のアレンジの見事さを再認識させてくれる。

マントラの音志向が確立された感のある「マントラの隠れ名盤」だと僕は思う。
 
 

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2024年6月 5日 (水曜日)

マントラの「華麗なる開花」

1973年、一旦解散したマンハッタン・トランスファー(The Manhattan Transfer=以下「マントラ」と略)。その後、まもなく、リーダーのティム・ハウザーは、ローレル・マッセ、ジャニス・シーゲルと出会う。そして、アラン・ポールを紹介され、新生マントラを立ち上げることを決意、『The Manhattan Transfer (Atlantic, 1975) 』(左をクリック)で再デビューを果たす。

The Manhattan Transfer『Coming Out』(写真左)。1976年の作品。邦題「華麗なる開花」。ちなみにパーソネルは、Tim Hauser, Laurel Massé, Alan Paul, Janis Siegel (vo)、以上が「The Manhattan Transfer」。バックのバンドには、当時のクロスオーバー&フュージョン畑の有名ジャズマンから、ハイテクニックなスタジオ・ミュージシャンまで、多数の面子が参加して、マントラのコーラスをバックアップしている。

マントラとしては3枚目、新生マントラとしては2枚目のアルバム。マントラのデビュー盤が、カントリー調の楽曲が中心の、米国ルーツ・ミュージックの音要素をメインにしたアルバムだったが、この『Coming Out』は、ジャズ以外のポップス、ロックやオールディズで占められたアルバム。再デビュー盤『The Manhattan Transfer』 (Atlantic, 1975)の内容が、かなりジャジーだったので、この正反対に振れた様な音作りにはビックリ。
 

The-manhattan-transfercoming-out

 
わざわざ「カントリー調の楽曲」は避けたみたいで、全11曲、当時のロック&ポップス曲がメインだが、ところどころに。ジャズ風のバラードや、ラテン調の楽曲、シャンソン風のコーラスありと、バラエティーに富んでいる。ただ、曲調や曲想が変わろうが、原曲がロックだろうがポップスだろうが、マントラのコーラスとしては全くブレがない。どんな元曲でも、マントラが唄えば、マントラのコーラスの響き、ボーカルの響きになっているから立派。

ジャジーな「コンテンポラリー・ジャズ・コーラス」なマントラ、ジャズ曲がメインだが、他のジャンルの曲についても、どこまで。マントラのコーラスは有効なのか、元曲のジャンルの幅を広げて、マントラ・コーラスの適応度を試してみた。そんん、あ少し実験的な匂いがしないでもない内容。ただ、アレンジが優れているので、陳腐な結果にはなっていない。ポップス、ロックやオールディズは、マントラの守備範囲として、十分「イケる」ということが、この盤でよく判る。

マントラの数あるアルバムの中で、恐らく、一番地味なイメージのアルバムで、マントラの紹介記事などには、この『Coming Out』というアルバム名は見たことが無い。しかし、マントラの音志向の広がりの限界点を理解する上で、このポップス、ロックやオールディズの楽曲カヴァーは、なかなか実験精神に満ちた内容で聴き応えがある。好盤です。
 
 

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2024年6月 4日 (火曜日)

「5人組マントラ」のデビュー盤

マンハッタン・トランスファー(The Manhattan Transfer=以下「マントラ」と略)は、1969年にティム・ハウザー(Tim Hauser)が中心となり結成したジャズ・コーラス・グループ。

マントラと言えば、1973年にティム・ハウザーをリーダーとして、アラン・ポール、ジャニス・シーゲル(1979年からシェリル・ベンティーン)、ローレル・マッセーの4人組という印象だが、これは再結成後の編成。マントラは、最初、リーダーのティム・ハウザー以外、全く異なるメンバーの5人組で結成され、1枚のアルバムを残して、1973年、一旦解散している。

The Manhattan Transfer『Jukin'』(写真左)。1969〜1971年の録音。ちなみにメンバーは、Tim Hauser, Erin Dickins, Marty Nelson, Pat Rosalia, Gene Pistilli の5人。結成当初の5人組マントラでの唯一のアルバム。

このアルバムは、カントリー調の楽曲が中心。もともと、マントラは、ジャズを基調とした楽曲が中心のはず。しかし、このマントラのファースト・アルバムは、ジーン・ピスティリの音楽志向が大きく反映されたものらしい。リーダーのティム・ハウザーの音楽志向は、ジャズやスウィング調の楽曲。しかし、ジーンの音楽志向は、カントリーやウェスタン、R&B、メンフィス・サウンド。全く、志向の全く異なるメンバーでのコーラス・ワーク。
 

The-manhattan-transferjukin

 
しかし、このアルバムを聴くと、このカントリー調のマントラが失敗だったとは思えない。ティム・ハウザー以外、メンバーは全く異なるとは言え、コーラスのアレンジ、コーラスの響き、コーラスのノリ、どれもが、再結成後のマントラに通じるものがあって、コーラス・ワークのレベルは高く、マントラとしてのコーラスの個性はしっかりと確立されている。

今、流行の「アメリカーナ」な音世界、ロック、ブルース、カントリー、そして、フォーク、ゴスペル、オールド・タイムなどの米国ルーツ・ミュージックの音要素が引用〜融合が評価を得ている「今」の耳で聴けば、この『Jukin'』というアルバム、意外と現代の「アメリカーナ」なジャズを先取りしている様な内容で楽しく聴ける。

確かに、再結成後のジャズを基調としたマントラの音と比較すると、再結成前のカントリーを基調とした音はポップで軽い。純ジャズなコーラスかと問えば、答えは「No」。しかし、フュージョンなコーラスかと問えば、答えは「Yes」。結成後のライトでポップな純ジャズ志向のコーラスでは無いが、カントリー基調のフュージョン・ジャズなコーラスと言えば納得の内容。

再結成前の唯一枚のアルバムだが、マントラとしてのコーラスの個性、アレンジはしっかりと確立されていて、結成後のマントラと並べてみても、違和感は余り無い。現代の「アメリカーナ」なジャズの先駆けの「フュージョン・コーラス」として聴けば、意外と楽しめる。
 
 

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2024年6月 3日 (月曜日)

聴かせる好企画盤『カルメン』

シビアで硬派で「即興が命」の純ジャズを聴き続けた合間、耳休めにウエストコースト・ジャズを聴くことが多い。

ウエストコースト・ジャズは、1950年代後半から1960年代全般にかけて、米国西海岸、ロスアンゼルス、サンフランシスコを中心に流行ったジャズの演奏トレンド。ハイテクニックを駆使して流麗で聴き心地の良いパフォーマンス、聴き手に訴求するキャッチーなアレンジ。「聴かせる」ジャズを旨とした、ジャズの演奏トレンドの一つ。

Barney Kessel『Modern Jazz Performances From Bizet's Opera Carmen』(写真左)。1958年12月の録音。ちなみにパーソネルは、Barney Kessel (g, arr), André Previn (p), Victor Feldman (vib), Joe Mondragon (b), Shelly Manne (ds)。ここに、8人編成の管楽器がメインのコンボが付く。ジャズ白人3大ギタリストの一人、ウエスコースト・ジャズの代表的ギタリスト、バーニー・ケッセルのリーダー作。

ウエストコースト・ジャズを代表するメンバーで、オペラでお馴染みビゼーの「カルメン」をカヴァーした作品集である。ビゼーの「カルメン」からの編曲は、ケッセル自身が行っている。収録曲は以下の通り。

1)闘牛士の歌(Swingin' The Toreador)
2)セギディーリャ(A Pad On The Edge of Town)
3)お前、おれが好きなら(If You Dig Me)
4)恋は野の鳥(Free As A Bird)
5)行進曲(Viva El Toro!)
6)花の歌(Flowersville)
7)あんたのために踊るは(Carmen's Cool)
8)母の様子を教えておくれ(Like There's No Place Like)
9)ジプシーの歌(The Gypsy's Hip)
 

Barney-kesselcarmen  

 
こうやって、ジャズ化された曲を並べてみると、このビゼーの「カルメン」には、キャッチーなメロディーを持った、魅力的な曲が沢山あることが判る。また、これらをジャズに編曲した、ケッセルのアレンジ能力も素晴らしい。

演奏全体の雰囲気は明るくて楽しい内容。どこかで聴いたことのある、親しみのある、キャッチーなメロディーがジャズに乗って、演奏される。結構、俗っぽいメロディーを持った楽曲もあるのだが、優れたアレンジと演奏で、そんな俗っぽさをカバーしている。

この「カルメン」のカヴァー盤は、あくまで、ギターがメインの、ギターがフロントのパフォーマンス。管楽器のコンボがバックに付くが、ケッセルのギターの音は骨太でメロディアスなので、管楽器のコンボの音に、ケッセルのギターの音が埋もれることは無い。

プレヴィンのピアノの伴奏フレーズの妙が素晴らしい。フェルドマンのヴァイブは流麗で躍動感溢れメロディアス。マンの職人芸的、変幻自在のドラミング。バッキングを受け持つ、ウエストコースト・ジャズの名うての名手たちの演奏も優秀だが、あくまで、ケッセルのギターをサポートし、引き立てる役に徹していて立派だ。

1950年代には、米国の東西ジャズで、ミュージカルやクラシック、映画スコアのジャズ化が行われ、我が国では「キワモノ」として、硬派なジャズ者の方々からは敬遠される向きもあるが、このケッセルの『カルメン』は、キワモノとして、聴かず嫌いで敬遠するには惜しい、充実した内容をキープしている。

印象的なイラストのジャケットも良し。ハイテクニックを駆使して流麗で聴き心地の良いパフォーマンス、聴き手に訴求するキャッチーなアレンジ。「聴かせる」ジャズを旨とした、ジャズの演奏トレンド、ウエストコースト・ジャズの「好例」の一枚として、一聴をお勧めしたい好企画盤です。
 
 

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2024年6月 2日 (日曜日)

バイラークのエヴァンス追悼盤

リッチー・バイラークはNY生まれ。当初、クラシック音楽とジャズの両方を学び始め、バークリー音楽大学に入学。1年後、バークリーを離れ、マンハッタン音楽学校に移り、彼はマンハッタン音楽学校を音楽理論と作曲の修士号を取得して卒業した才人。確かに、バイラークのアレンジは、学者然とした「理詰め」の雰囲気が強い。

ピアノの個性は、リリカルで耽美的、そして「多弁」。ハイテクニックを駆使して、多弁なフレーズを弾きまくる。音符を敷き詰めた様に「多弁」なフレーズを弾きまくる。タッチは「耽美的でリリカル」。しかし弾きっぷりは「シーツ・オブ・サウンド」と言って良いくらい「多弁」。

Richie Beirach Trio 『Elegy For Bill Evans』(写真左)。1981年5月12日、NYの「Sound Ideas Studios」での録音。日本のレーベル、トリオ・レコードからのリリース。邦題「エレジー ~ ビル・エヴァンスに捧ぐ」。ちなみにパーソネルは、Richie Beirach (p), George Mraz (b), Al Foster (ds)。

タイトルは「エレジー = 挽歌」。「挽歌」とは、死者をいたむ詩歌。1980年9月に他界したビル・エヴァンスを悼む、ビル・エヴァンスのトリビュート盤。

さぞかし、鎮魂歌の様な、センチメンタルで情感溢れる演奏なんだろうな、ということで最初は敬遠していた。が、ピアノを弾くのが、バイラークということで、どんな鎮魂歌を、どんな追悼歌を弾くのか、という興味が芽生えて、当時はLPで入手した。
 

Richie-beirach-trio-elegy-for-bill-evans

 
収録曲だけを見れば、ビル・エヴァンスにまつわる有名曲ばかりがズラリと並んでいる。これは、やっぱり甘々な追悼盤なんだろうな、日本のレーベルの企画盤やしな、とあんまり期待せずに針を下ろしたら、あれまあビックリ。

耽美的でリリカルな弾きっぷりが似合う曲を、バリバリ「多弁」に弾きまくっている。センチメンタルな気分や、情感溢れる悲しみのフレーズなど、どこにもない。ビル・エヴァンスにまつわる有名曲を、ハイテンションで、硬派にストイックにシビアに、「多弁」なタッチで弾きまくる。「多弁」なタッチで耽美的でリリカルに弾きまくる、これがバイラークの考える「挽歌」なのか。

ビル・エヴァンスを想起させるフレーズやタッチは全く無い。徹頭徹尾、バイラークの「多弁」ピアノの音世界。ここまで、ビル・エヴァンスの追悼盤という企画に構うことなく、バイラークの個性だけで弾きまくる。もう、これは潔い、清々しい、爽快感抜群、である。

プロデュース的に、録音前から意図していたのかは判らないが、耽美的でリリカルなバップ・ピアノが個性のビル・エヴァンスにまつわる有名曲を、バイラークの個性だけで弾きまくることで、ビル・エヴァンスのピアノとの対比、という観点から、バイラークのピアノの個性、耽美的でリリカルで「多弁」なピアノがとても良く判る、そんな追悼盤になっているのが面白い。

ビル・エヴァンスの追悼盤だが、バイラークの個性が手に取るように判る、ということで、バイラークの代表作の一枚、バイラークの名盤の一枚としても良い、と僕は思う。
 
 

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2024年6月 1日 (土曜日)

ケントのアステア・トリビュート

ジャズ・インストを聴き続けた合間、耳休めに女性ジャズ・ボーカルを聴くことが多い。

もともとジャズ・ボーカルは得意では無い。流石に、レジェンド級の、低めの声で唸るような、こぶし豊かな、日本で言う「演歌系」のような本格派の女性ボーカルは得意では無い。聴くには聴くが、申し訳ないが、ジャズ・ボーカルの勉強の為に聴くことがほとんどで、ジャズ・インストの合間の「耳休め」に聴くことは無い。

合間の「耳休め」は、ナチュラルな歌い方で、ちょっとコケティッシュで、ちょっとキュートで、それでいて仄かに色気漂う女性ボーカルに限る。それも、どっぷり「ジャズ」していなくて、ちょっとポップでアーバンなボーカルが良い。

今晩は「ステイシー・ケント」。米ニュージャージー州出身、英ロンドンを拠点に活躍しながら、2007年ブルーノート・レコードと契約、国際レベルで活躍している。今晩は遡って、2000年3月リリースの彼女の4枚目のリーダー作を聴く。

Stacey Kent 『Let Yourself Go: Celebrating Fred Astaire』(写真左)。2000年の作品。ちなみにパーソネルは、Stacey Kent (vo, arr), Jim Tomlinson (cl, as, ts, arr, producer), David Newton (p), Colin Oxley (g), Simon Thorpe (b), Steve Brown (ds), Simon Woolf (arr)。伝説の「史上最高のポピュラーミュージックダンサー」、ダンサー兼歌手のフレッド・アステアのトリビュート盤である。
 

Stacey-kent-let-yourself-go-celebrating-

 
全曲、楽曲がかつてのミュージカル映画からのものなので、そもそも曲が良い。そこに、しっかりとしたアレンジが施され、その整ったお膳立ての中で、ステイシー・ケントが、ナチュラルにポップにキュートに、本格派ボーカルを聴かせてくれる。

彼女の透き通ったピュアな声、完璧なフレージング、そしてエレガントなスウィング感、実にムーディーにスインギーに、フレッド・アステアにまつわる秀曲を唄い上げる様に、どっぷりと「癒される」。

バックの伴奏が、これまた良い。正統派な純ジャズ志向のバッキング。デヴィッド・ニュートンのピアノ、コリン・オクスリーのギターが良い音を出している。この伴奏上手なピアノとギターが素敵なバッキングをしている。思わず聴き惚れる。サイモン・ソープのベースとスティーヴ・ブラウンのドラムの正確で味のあるリズム&ビートは、ケントのボーカルに、小粋な躍動感を供給する。

そして、ケントのボーカルに寄り添う様に、語りかける様に、ケントの夫君、ジム・トムリンソンがリード楽器を吹き上げる。このトムリンソンのサックスが良い。小粋で絶妙の伴奏リード楽器。ケントのボーカルの良き相棒、リード楽器で唄いかけるトムリンソンの名演が光る。

良い雰囲気の女性ボーカル盤。バックの純ジャズ志向の演奏だけでも、十分にジャズを楽しめる。そんな優れた純ジャズ志向の演奏をバックに、ケントがナチュラルにポップにキュートに、本格派ジャズ・ボーカルを聴かせてくれる。 採用した楽曲の良さも相まって、極上の「癒し」の女性ボーカル。ジャケも趣味が良い。現代の女性ボーカルの名盤の一枚。
 
 

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