A&Mレコードのナシメント
A&Mレコードの 3000 series のカタログを見渡していて、感心するのは「ミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)の存在である。
A&Mレコードは、ハードバップ時代から第一線で活躍してきたジャズマンを重用、一流ジャズマンで固めたリズム・セクション、そして、バックに豪華なジャズオケやオーケストラを配備して、「上質でコンテンポラリーなイージーリスニング志向のジャズ」を目指していた。
しかし、である。その傍らで、ジャズの本質の一つである「融合」をキーワードに、ブラジル音楽と「上質でコンテンポラリーなイージーリスニング志向のジャズ」との融合を図っている。しかも、「ブラジルの声」と言われるミルトン・ナシメントを起用して、である。これには、総帥プロデューサーのクリード・テイラーの慧眼として、今でも感心する。
Milton Nascimento『Courage』(写真左)。1968年12月、1969年2月の録音。A&Mレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Milton Nascimento (vo, g), Herbie Hancock (p), Eumir Deodato (org, arr, cond), Jose Marino (b), João Palma (ds), Airto Moreira (perc) がメイン・メンバー。ベースとドラムのリズム隊はブラジル系。そして、豪華なオーケストラがバックにつく。いかにもA&Mレコードらしいパーソネルである。
アルバムは、メジャーへのデビューのきっかけとなった「Bridges (Travessia))」で幕を開け、続くは「Vera Cruz」。温和なアコギとクールなストリングスに、ナシメントの澄んだボーカルが融合した、耽美的なワールド・ミュージック風の美曲に思わず耳を奪われる。
3曲目「Tres Pontas」と、ラス前「Catavento」は、軽やかで爽快なフルートが絡むソフトでライトなサンバ曲。4曲目「Outubro」と8曲目「Morro Velho」は、これもワールド・ミュージック志向の幻想的な幽玄な曲。祈るようなスキャットが印象的な、6曲目「Rio Vermelho」など、ミルトン・ナシメントでしかなし得ない、唯一無二の音世界が全編に渡って展開されている。
米国マーケット向けに、ブラジル音楽の「アク」を上手にすくい取った、デオダートの考えたアレンジが、クロスオーバー・ジャズっぽい雰囲気を醸し出している。
即興演奏という点では「ニュー・ジャズ」と捉えることができる。ブラジルの大地や風を感じさせる繊細かつ壮大な音世界については、もはや「ワールド・ミュージック」と捉えても良いかもしれない。しかし、このナシメントの音世界は、広く捉えて「ジャズ」である。
こんなジャンルレスの「融合」なナシメントの音世界を、A&Mレコードの「上質でコンテンポラリーなイージーリスニング志向のジャズ」として捉え、この様な、ブラジル音楽と「上質でコンテンポラリーなイージーリスニング志向のジャズ」との融合の成果としてアルバム化し、リリースしたA&Mレコードは、素晴らしい仕事をした、と今でも感心することしきり、である。
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