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2024年5月の記事

2024年5月31日 (金曜日)

ラージの傑作『Speak To Me』

現代のジャズ・シーンにおいては、ギタリスト人材が豊富に感じる。そんな中でも、突出した存在の一人が、ジュリアン・ラージ。数々の有望新人を発掘してきた、ヴァイブのゲイリー・バートンが新たに発掘した天才ギタリストである。

音の志向は、現代のコンテンポラリーなジャズ・ギターで、パット・メセニーの様な「ネイチャーな響き」もあり、ジョンスコに「くすんで捻れる」ところもあり、過去のレジェンド級のコンテンポラリーなジャズ・ギタリストのスタイルを踏襲しつつ、他のジャンルのエレギの音も積極的に融合して、ワン・アンド・オンリーな個性を確立している。

Julian Lage『Speak To Me』(写真左)。2024年3月、ブルーノート・レコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Julian Lage (g), Levon Henry (ts, cl, alto-cl), Patrick Warren (p, key), Kris Davis (p), Jorge Roede (b, vib), David King (ds)。ジュリアン・ラージのブルーノート・レコードからの4作目。

前作の『The Layers』は、全6曲のEPだったのだが、今回は、しっかり、全13曲のフル・アルバム。今回も、ホルヘ・ローダー (b)とデイヴ・キング (ds)とのレギュラー・トリオを中心に、適材適所のゲストを招聘している。プロデューサーは、アメリカーナ・ブームの立役者、ジョー・ヘンリー。
 

Julian-lagespeak-to-me

 
今回は、ラージがエレギよりもアコギの方を多く弾いている。郷愁を誘う様な、フォーキーなアコギの音が良い。これまでの「アメリカーナ路線」のジャズ・インプロビゼーションの音志向が、より濃厚になっている。ジョー・ヘンリーがプロデュースの効果なのか、どこか、サザン・ロック的な響きが色濃く漂っているのが良い。

加えて、エレギの音やフレーズの弾き回しに、ロック・ギターの雰囲気が漂う。そう、ジェフ・ベックのギターの弾き回しとか、ブリティッシュ・ロックの中のブルース・ロックの様な雰囲気。

ジャズが「演奏のど真ん中」にいるが、そこに、ロック、ブルース、カントリー、そして、フォーク、ゴスペル、オールド・タイムなどの米国ルーツ・ミュージックの音要素が引用〜融合されていて、「演奏のど真ん中」のジャズと絶妙のバランスを醸し出しつつ、レージ独特の「アメリカーナ」な音世界を展開している。

現代コンテンポラリー・ジャズの「アメリカーナ」なインスト・パフォーマンス。純ジャズな雰囲気は薄まって、少しポップで、米国ルーツ・ミュージックの音作り。それでも、ジャジーな雰囲気はしっかり演奏の底を流れていて、アメリカーナ・ジャズとでも形容できそうな、レージ独特の音世界。

フォーキーで、どこか懐かしい感じ、哀愁感漂う米国ルーツ・ミュージックの音要素を融合して、ジャズのフォーマットに乗せる。エレギの音はブルース・ロックやサザン・ロックの響きを湛えていて、「アメリカーナ」な雰囲気をより濃厚にさせる。この盤の「アメリカーナ」でジャジーな音世界、僕は好きやなあ。傑作です。
 
 

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2024年5月30日 (木曜日)

ボブ・ジェームスの飽く無き深化

ボブ・ジェームスは、クロスオーバー〜フュージョン〜スムース・ジャズにおける、僕の一番のお気に入りアーティスト。10歳代半ばから、ずっとリアルタイムで、ボブ・ジェームスを聴き続けている。彼自身のキャリアは、60年を越える。フォープレイが解散状態に陥ってからは、自身のピアノ・トリオでの活動が目立っていた感がある。

Bob James『Jazz Hands』(写真左)。2023年10月のリリース。ボブ・ジェームス名義のスタジオ盤としては、2013年の『Alone: Kaleidoscope by Solo Piano』以来10年ぶりになる。ちなみにパーソネルは、以下の通り。

Bob James (p), Ricky Peterson (Hammond B-3 org & Syn), Dave Koz, Andrey Chmut Tom Braxton (sax), David Marchione Sr., Will Patrick, Dwight Sills (g),Michael Palazzolo, Nathan Phillips (b), Carlos Camilo Perez (syn-b, drum programming), John Mahon (ds, perc), Ramon Yslas, Lenny Castro (perc), James Adkins, Jay Williams (ds),

演奏曲によって、適材適所なパーソネルで演奏されている様だが、ボブ・ジェームス作の楽曲、アレンジで固められているので、アルバム全体の一貫性は確保されていて、違和感は全く無い。

人選の基本方針は、昔のフュージョン・ジャズの手だれの名手を起用するより、現代のスムース・ジャズ畑とクラブ・シーンの優れたアーティストを選ぶ方向で人選している様だ。例外として、ディヴ・コズの様なビッグネームも参加しているのだが.... 。
 

Bob-jamesjazz-hands

 
豪華絢爛なパーソネルでのセッションの数々だが、それぞれのセッションの中心にいるのは、ピアノのボブ・ジェームスとアコースティック・ベースのマイケル・パラッツォーロ、ドラムのジェームス・アドキンスの「ボブ・ジェームス・トリオ」。そうすると、ジャジーなピアノ・トリオ+αのネオ・ハードバップな演奏を想起するのだが、ボブ・ジェームスの場合、単純にはそうはならない。

3曲目のタイトル曲「Jazz Hands」では、ラップもこなすR&Bシンガーでプロデューサー/サウンド・クリエイターのシーロー・グリーンを、8曲目の「That Bop」には、ヒップホップ・シーンの重鎮DJ・ジャジー・ジェフをフィーチャーしている。この音世界は、スムースなコンテンポラリー・ジャズとクラブ系ミュージックを融合させた様な音世界。単純なスムース・ジャズでは全く無い。曲のリズム&ビートに、ジャズ、ハウス、テクノ、トランス、ヒップ・ホップなどが見え隠れする。

ボブ・ジェームス自身のパフォーマンスも極上。今までのキャリアからくる、ボブ・ジェームスならではの手癖や決まりフレーズが出てきそうなものだが、音の重ね方、フレーズの展開など、今までのボブ・ジェームスにありそうで無かった、新しい響きのボブ・ジェームスの音が散りばめられている。それでも、アレンジの調子というか、展開というか、アレンジの個性がしっかり、ボブ・ジェームスしているところがニクい。

ボブ・ジェームスは、現在、84歳。これまでの輝かしいキャリアに安住することなく、新しいボブ・ジェームス・サウンドを生み出している様は尊敬に値する、と僕は思う。この盤には「深化」するレジェンド、ボブ・ジェームスがしっかりと「いる」。豪華絢爛なパーソネルのセッションだが、この盤の音の中心には、ボブ・ジェームスがしっかりと「いる」。
 
 

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2024年5月29日 (水曜日)

自在で多様性溢れるトリオ演奏

今までなら中堅どころだった、40〜50歳代の「ニューフェース」。ヴィジェイ・アイヤー(Vijay Iyer)もそんな「ニューフェース」の一人。

ヴィジェイ・アイヤーは、1971年10月生まれ。初リーダー作が1995年。アイヤーが24歳の頃。以降、アイヤーのリーダー作は、20枚以上を超える。が、我が国では、なかなか人気が出ない。僕は全く知らなかった。アイヤーの名前を知るようになったのは、2014年からはECMレーベルに移籍して、ECMからのリリースで、アルバム音源がサブスク・サイトにアップされ、ネットにも、アイヤーのニューリリースの記事が出だしてからである。

2014年といえば、アイヤーが43歳。ECMレーベルの前の、ACTレーベルの時でさえ、リーダー作をリリースしたのが2009年だから、アイヤーが38歳の頃。スティーヴ・キューン、キース・ジャレットなどの「耽美的でリリカルで現代音楽風なジャズ・ピアノ」の系譜をしっかりと受け継いだヴィジェイ・アイヤー、全くの遅咲きのピアニストである。

Vijay Iyer『Compassion』(写真左)。2022年5月、NYでの録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Vijay Iyer (p), Linda May Han Oh (b), Tyshawn Sorey (ds)。ECMでの2019年リリースの前作、トリオ作『Uneasy』と同じ面子でのトリオ編成。ヴィジェイ・アイヤー、51歳時の録音になる。

ピアノはヴィジェイ・アイヤーで米国出身、ベースにマレーシア出身のリンダ・メイ・ハン・オー(1984年生まれ)、ドラムスにニュージャージー出身のタイショーン・ソレイ(1980年生まれ)という国際色豊かなトリオ。ベースとドラミは、アイヤーと10歳以上離れている。それでも、リンダ・メイ・ハン・オーは録音当時、38歳、タイショーン・ソレイは録音当時、42歳。アイヤーが51歳だから、全く脂の乗り切った、中堅どころの名手のトリオ演奏になる。
 

Vijay-iyercompassion

 
ほぼ、レギューラー・トリオに近い演奏なので、聴いていて安心感がある。硬軟自在、変幻自在、緩急自在なインプロビゼーションが素晴らしい。打てば響く、丁々発止としたインタープレイも見事。そんなリズム隊をバックに、アイヤーは様々なニュアンス、様々なバリエーションのピアノを弾き進める。

アイヤーのピアノは耽美的でリリカルだが、その展開はダイナミックでメリハリがあるのが個性。このダイナミズム溢れる耽美的でリリカルなピアノで、様々な曲想の楽曲を自由自在に弾き回す。自作曲を弾きまくるキース・ジャレットに似ているか、とも思うんだが、キースよりも演奏が流麗で、音のエッジがキースよりラウンドしていて温かみがある。

フレーズを弾き回しや、右手の硬質なタッチは、その流麗さ、現代音楽に通じる切れ味は、キースというよりは、チック・コリアやミシェル・ペトルチアーニに近い。チックやペトのピアノからラテン・フレーヴァーとロマンチシズムを差し引いた感じ、とでも形容したら良いか。

スティービー・ワンダー作の名曲「Overjoyed」では、チックの残したピアノを弾いて、故チックに敬意を表している。「Maelstrom」「Tempest」「Panegyric」は、コロナ禍のパンデミックの犠牲者のイベントのために書かれた曲。リリカルで耽美的なモーダルな演奏もあれば、フリーでアヴァンギャルドな展開もあり、静的なスピリチュアルな響きもそこかしこに感じる。

ピアノ・トリオのパフォーマンスとしては、現代ジャズの最高峰の位置に近い、色彩豊かな、バリエーション豊かな演奏が素晴らしい。聴けば聴くほど、様々な感じ方、様々な発見があって、なかなか奥の深い、濃い内容が詰まった好トリオ盤。

ヴィジェイ・アイヤー、良いですね。そろそろ、キャリアを遡って、リーダー作を聴いてみたいと思っています。
 
 

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2024年5月28日 (火曜日)

”TRIO GRANDE” ver.2.0 の音

コロナ禍をやり過ごし、現代のジャズについては、順調にニューリリースを継続している。安堵である。この5年ほどの傾向として、今までなら中堅どころだった、40〜50歳代の「ニューフェース」の好盤リリースが目につく。

そんな「遅れてきた」ニューフェースなジャズマン達は、20歳代後半から30歳台にも、コンスタントにリーダー作をリリースしたりと、ジャズの第一線で活動していた。が、その情報が何故か埋もれていたみたいで、最近、やっとサブスク・サイト等で積極的に紹介されるようになって、やっと陽の当たるところに出てきた格好である。

Will Vinson, Gilad Hekselman & Nate Wood『Trio Grande: Urban Myth』(写真左)。2023年1月27-28日、NYブルックリンの「Figure Eight Recording」での録音。ちなみにパーソネルは、Will Vinson (as), Gilad Hekselman (g), Nate Wood (ds)。イギリス生まれのサックス奏者、ウィル・ビンソン、イスラエル出身のギタリスト、ギラド・ヘクセルマン、米国出身のドラマー&マルチ・インストゥルメンタリスト、ネイト・ウッドの「TRIO GRANDE」の新作。

これまでの「TRIO GRANDE」のドラムはアントニオ・サンチェスだったけど、本作ではドラムとベースを同時演奏しながらシンセまで操作できるネイト・ウッドに代わっている。このウッドの存在が、「TRIO GRANDE」の音を大きく変化させている。
 

Will-vinson-gilad-hekselman-nate-woodtri

 
「TRIO GRANDE」の音は、創造的で柔軟で情緒豊かなコンテンポラリー・ジャズ。サウンド的には、ギラッド・ヘクセルマンのギターがリードしている感が強い。サウンドの基本は「イスラエル・ジャズ」。クールで躍動感溢れる、ちょっとくすんで捻れたヘクセルマンのギターが演奏全体をリードしていく。この「TRIO GRANDE」の音の基本は変わらない。

しかし、冒頭の「Urban Myth」で、ガツンとやられる。ベースの重低音とシンセの太いプログレッシヴな音色のアンサンブルが、独特なグルーヴ感を生み出し、ヘクセルマンのくすんで捻れたエレギの音と混じり合う。従来の「TRIO GRANDE」のイスラエル・ジャズ風であり欧州ジャズ風な従来の音世界に、最先端のコンンテンポラリーなエレ・ジャズ、そして、プログレッシヴ・ロックに至るまでの、新しい音世界との融合を実現、バンド独自のゴージャズな音世界を創造している。

2曲目「Ministry of Love」以降の音世界も、そんな現代の最先端のコンテンポラリーなエレ・ジャズ志向は変わらない。特にネイト・ウッドの参加、特に、ベースとシンセの音は、「TRIO GRANDE」のオーケストレーションを大きく進化させている。しっかりと地に足のついたスローな演奏から、弾けるダンサフルな演奏まで、幅広でバリエーション溢れる音世界は前作を上回る。

アントニオ・サンチェスがネイト・ウッドに代わった「TRIO GRANDE」。「TRIO GRANDE」の音世界は確実に進化していて、「TRIO GRANDE」ver. 2.0 と呼んで良い、そのバージョン・アップした、現代の最先端のコンテンポラリーなエレ・ジャズは、迫力満点、創造的で柔軟、情緒豊かでボーダーレス。我がヴァーチャル音楽喫茶『松和』ではヘビロテ盤になっている。好盤です。
 
 

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2024年5月27日 (月曜日)

現代ジャズの新しいブルースの音

ジャズの楽器の中での「絶滅危惧種」の一つ、ヴァイブ(ヴィブラフォン)。スイング時代には、ライオネル・ハンプトン。ハードバップ期には、ミルト・ジャクソンがモダン・ジャズ・ヴァイブを確立した。

エディ・コスタ、デイブ・パイク、ヴィクター・フェルドマン、レッド・ノーヴォらが後に続く。そして、ハードバップ後期には、レム・ウィンチェスター、ゲイリー・バートン、ボビー・ハッチャーソンが継ぎ、ジャズの多様化の時代には、ロイ・エアーズ、マイク・マイニエリが頭角を現した。

その後が続かなかった。1990年代に入って、ベテランの域に入った、ゲイリー・バートン、ボビー・ハッチャーソン、マイク・マイニエリが頑張っていたが、21世紀に入ると、さすがに活躍のペースが落ちる。新しいジャズ・ヴァイブ奏者が現れることは無かった。

しかし、2019年になって、新しい有望なヴァイブ奏者が現れ出でたのである。ジョエル・ロス(Joel Ross)。名門ブルーノート・レコードからデビューした若き天才ヴィブラフォン奏者。シカゴ生まれ、現在はNYブルックリンをベースに活動。トレードマークのドレッドヘアー、スタイリッシュなファッション。現代の若きジャズマン。

Joel Ross『Nublues』(写真左)。NYブルックリン「The Bunker Studio」での録音。2024年2月のリリース。ちなみにパーソネルは、Joel Ross (vib), Immanuel Wilkins (as), Gabrielle Garo (fl), Jeremy Corren (p), Kanoa Mendenhall (b), Jeremy Dutton (ds)。ジョエル・ロスの4枚目のリーダー作になる。
 

Joel-rossnublues

 
ほぼ毎年1枚のペースでリーダー作をリリースしているロス。ロスのヴァイブは、順調にジャズ者の皆さんに受け入れられているようで、これは喜ばしいことである。

で、この最新作であるが、ロスのオリジナルが6曲、ガロとの共作で1曲、参加ミュージシャンの大半がクレジットされる共作が1曲。それに、コルトレーン作の曲が2曲、モンクの曲が1曲、で全10曲。タイトルでも分かる通り、ブルースをテーマにしている。

ロスをはじめ、メンバーの自作曲でのパフォーマンスは「ニュー・ジャズ」の類。モーダルな展開を基本に、即興演奏の妙を全面に押し出しつつ、時々、対位法や現代音楽風の展開を交えた「ニュー・ジャズ」の中でのブルース。21世紀の新しいジャズの、ブルースの音が満載である。

どこか、ミルト・ジャクソンとジョン・ルイスが所属していた「モダン・ジャズ・カルテット」の実験ジャズを想起する瞬間があって、ちょっとハッとする瞬間がある。

そして、コルトレーン曲とモンク曲の演奏が良い。21世紀のネオ・ハードバップ、ネオ・モードを前提とした、コルトレーンとモンク。伝統に根差した、それでいて、新しい響きのエネルギッシュな「ニュー・ジャズ」の中でのコルトレーンとモンク。新鮮な解釈に思わず耳を奪われる。

ネオ・ハードバップ、ネオ・モード、ニュー・ジャズとは言いつつも、しっかりとジャズの伝統に根差した響きも漂う、ロスのレギュラー・グループの演奏はなかなか聴き応えがある。好盤です。
 
 

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2024年5月26日 (日曜日)

D・バードの活動前期の名盤です

ドナルド・バードは、ジャズ・トランペットのレジェンド。バードのトランペットは、端正で流麗でブリリアント、ピッチやフレーズにブレは無く、アドリブ・フレーズのイマージネーション豊か、ジャズ・トランペットの教科書の様なパフォーマンスが個性。

この端正で流麗で「教科書の様なパフォーマンス」が良くないらしく、我が国では、ドナルド・バードの人気はイマイチ。綺麗すぎる、うますぎる、破綻がなくて面白くない、と、何だか、ピアノのピーターソンが、我が国で人気がイマイチな理由と同じ。

しかし、僕は、この偏った評価は以前から「疑問」である。ブラウニーもそうじゃないか、と思うのだが、ブラウニーは早逝した悲劇のトランペッターだから良いのだそうだ。偏った評価も甚だしい(笑)。

Donald Byrd 『Free Form』(写真左)。1961年12月11日の録音。ブルーノートの4118番。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), Butch Warren (b), Billy Higgins (ds)。リーダーのドナルド・バードのトランペットとウェイン・ショーターのテナーが2管フロントのクインテット編成。バックのリズム隊は、ハービー・ハンコックをピアノに、新主流派志向。

この盤は、ジャズロックなファンキー・チューンから、静的でジャジーなバラードから、バリバリ硬派なハードバップから、新主流派モード・ジャズから、ライトなフリー・ジャズまで、それまでのメインストリームなジャズの演奏スタイルを網羅した、バラエティーに富んだ内容になっている。
 

Donald-byrd-free-form

 
そんなバラエティーに富んだ演奏スタイルを、ドナルド・バードは、いともたやすく、しっかりと吹き分けていく。しかも、どのスタイルでも「端正で流麗でブリリアント、ピッチやフレーズにブレは無く、アドリブ・フレーズのイマージネーション豊か、ジャズ・トランペットの教科書の様なパフォーマンス」は変わらない。ドナルド・バードのトランペットの力量とテクニックの高さがよく判る。

バックの新主流派志向のメンバーは、といえば、このドナルド・バードのリーダー作の「それまでのメインストリームなジャズの演奏スタイルを網羅した、バラエティーに富んだ内容」にしっかりと追従している。

感心するのは、新主流派志向のメンバーなので、ジャズロックだろうが、硬派なハードバップだろうが、どの演奏のアドリブ部では、モーダルな演奏に走りそうなものだが、そんな無粋なことは絶対にしない。どの演奏スタイルでも、その演奏スタイルならではのパフォーマンスで、リーダーのドナルド・バードのトランペットに追従している。さすが、若手の中でも一流の「選りすぐり」のメンバーである。

特に、フロント管の相棒、若きウェイン・ショーターのテナーが絶好調。どの演奏スタイルでも吹きこなす適応力はさすが。得手不得手の差は全く感じられない。そして、どの演奏スタイルでも、統一の個性で演奏スタイルを弾き分ける、伴奏ピアノの達人の面目躍如、ハービー・ハンコックのバッキングが素晴らしい。どの演奏スタイルでも、的確で、フロントを引き立てる、絶妙のバッキングを供給している。見事である。

我が国では、謂れのない理由で、人気イマイチのドナルド・バードであるが、この盤を聴けば、ジャズ・トランペッターとして一流であり、一目置かれる存在であることが良く判る。

この盤は、飛び立つ鳩をあしらったジャケがジャズっぽくなくて損をしているけど(笑)、これまでのD・バードの、トランペッターとしてのパフォーマンスの集大成の様な構成で、彼の活動前期の名盤としても良い内容である。
 
 

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2024年5月25日 (土曜日)

ドナルド・バードの初リーダー作

ドナルド・バード(Donald Byrd)は、デトロイト出身のモダン・ジャズ・トランペッターのレジェンド。ハードバップ初期から頭角を表し、1958年には、バリトン・サックス奏者のペッパー・アダムスと共同でレギュラー・グループを持っている。ハードバップから始まり、ファンキー・ジャズ、ソウル・ジャズ、ジャズ・ファンクと演奏スタイルを変えつつ、ジャズ・シーンの第一線を走り続けた。

バードのトランペットは、端正で流麗でブリリアント、ピッチやフレーズにブレは無く、アドリブ・フレーズのイマージネーション豊か、ジャズ・トランペットの教科書の様なパフォーマンスが個性。生涯、この教科書の様なパフォーマンスを貫いた、モダン・ジャズ・トランペッターのレジェンドである。

Donald Byrd 『Byrd Jazz』(写真左)。1955年8月23日、デトロイトの「New World Stage Theatre」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Donald Byrd (tp), Bernard McKinney (euphonium), Yusef Lateef (ts), Barry Harris (p), Alvin Jackson (b), Frank Gant (ds)。ドナルト・バードの初リーダー作。出身地のデトロイトでのライヴ録音。
 

Donald-byrd-byrd-jazz

 
ジャズにおいては、初リーダー作で、そのリーダーの個性と特徴の全てが判る、というが、このドナルド・バードの初リーダー作もその例に漏れることは無い。バードのトランペットについては、「端正で流麗でブリリアント、ピッチやフレーズにブレは無く、アドリブ・フレーズのイマージネーション豊か」という個性と特徴が、このライヴ音源に詰まっている。

録音がちょっとナローなので、ライヴ音源としては大人し目なのだが、若き日の溌剌としたバードのトランペットはバッチリ捉えられている。フロント管のラティーフのテナーもよく唄い、ジャズには不向きなマッキンニーのユーフォニウムも、なかなか健闘、そんなフロント管パートナー達と、楽しげにハードバップをやるバードのトランペットはブリリアント。

渋いバップ・ピアニスト、バリー・ハリスを中心とするリズム隊も、明確にハードバップなバッキングを供給していて、バードは、どこかクリフォード・ブラウンを想起させる様な、端正で流麗でブリリアントで溌剌としたアドリブ・フレーズを吹きまくる。バードのトランペットの個性と特徴の「源」を確認するには、格好のライヴ盤。以前は「幻の名盤」扱いでしたが、今では、サブスク・サイトでも聴くことができます。有難いことです。
 
 

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2024年5月24日 (金曜日)

面倒な『The Jazz Message of』

さて、ハンク・モブレーの「録音リアタイ〜アルバム化」の盤については「あと1枚」。最後の一枚はサヴォイ盤。しかも、モブレー単独のリーダー作ではない。モブレーと無名に近いアルト・サックス奏者との、やっつけ感満載のカップリング盤で人気が無い。恐らくこの盤が、モブレーのリーダー作コレクションのラストになるだろうと、ずっと気にかけていたのだが、なかなか入手できなかった。

『The Jazz Message of』(写真左)。1956年1月30日と2月8日の録音。ちなみにパーソネルは、1月30日の録音が、John LaPorta (as), Donald Byrd (tp), Horace Silver (p), Wendell Marshall (b), Kenny Clarke (ds)。2月8日の録音が、Hank Mobley (ts), Donald Byrd (tp), Ronnie Ball (p), Doug Watkins (b), Kenny Clarke (ds)。

サボイ・レーベルの録音の記録を見てみると、1956年1月30日の録音が「ケニー・クラークがリーダーで、バードとラポルタの2管フロントのクインテットのセッション」となっている。実はこのセッション、たった3曲しか録音してない様で、これでは一枚のアルバムにするには全く「録れ高」が足らない。

よって、2月6日に、ホレス・シルヴァーのピアノをロニー・ボールに代えて、「ケニー・クラークがリーダーで、バードとラポルタの2管フロントのクインテットのセッション」を追加で録音している。このセッションは全6曲を録音し、ケニー・クラークのリーダー作『Klook's Clique』として、全曲リリースされた。

ということで、ホレス・シルヴァーがピアノの1956年1月30日の録音の「ケニー・クラークがリーダーで、バードとラポルタの2管フロントのクインテットのセッション」の3曲が余ってしまった。

そこに、2月8日の録音の「モブレーがリーダーで、バードとの2管フロントのクインテットのセッション」が録音されるのだが、このセッションが、これまた、一枚のアルバムにするには全く「録れ高」が足らない中途半端なセッションで、この後、「モブレーがリーダーで、バードとの2管フロントのクインテットのセッション」が追加録音されることは無く、このモブレーのセッションの音源も余ってしまった。
 

The-jazz-message-of

 
この盤は、そんな一枚のアルバムにするには全く「録れ高」が足らなかった、2月8日の録音の「モブレーがリーダーで、バードとの2管フロントのクインテットのセッション」と、1月30日の録音の「ケニー・クラークがリーダーで、バードとラポルタの2管フロントのクインテットのセッション」を、LPのA面、B面に分けて収録した、やっつけ盤である。

ネットなどのアルバム紹介の記事などによると、この盤を『The Jazz Message of Hank Mobley』として紹介しているケースが散見されるのだが、この盤の正式なタイトルは『The Jazz Message of』である。ジャケットには、このタイトルの右下に、2つのセッションに参加したジャズマンをずらり並べてある。ジャケからして、やっつけ感が満載である。

この盤が、ハンク・モブレーのディスコグラフィーに、リーダー作の第2弾として紹介されているのが多いので、モブレーのセッション部分、LPのA面、CDで言うと、1曲目から4曲目までをじっくりと聴いてみると、意外や意外、かなり充実した内容のハードバップ・セッションが記録されているから面白い。

若いジャズマンを育て、励ましてきた人格者、ドナルド・バードがフロントのパートナーだったことが、モブレーにとって安心安定の大きな「要素」だった様で、このセッションでのモブレーのテナーは堂々として、テクニックは確か、骨太でジャジーなブロウで吹きまくっている。その横で、バードのトランペットが、モブレーを支え、鼓舞するように、ブリリアントで端正なトランペットを吹きまくっている。

このモブレーとバードの2管フロントの活躍が素晴らしい、2月8日の録音の「モブレーがリーダーで、バードとの2管フロントのクインテットのセッション」。もう少し、録れ高があって、一枚のリーダー作としてリリース出来ていたら、とモブレーの初期の名盤になっていたのではないか、と思うくらい、充実したモブレーのテナーである。

ちなみに、この『The Jazz Message of』のLPのB面、1月30日の録音の「ケニー・クラークがリーダーで、バードとラポルタの2管フロントのクインテットのセッション」は、といえば、明らかに、ジョン・ラポルタのアルト・サックスが軽くて弱い。

フレーズの展開も単純で平凡、ブリリアントで端正なバードのトランペットのブロウが溌剌としている分、明らかに見劣りがする。ケニー・クラークがリーダーのセッションなので、ラポルタを除く、残りの4人の演奏が優れているので、なんとか、内容的に水準レベルを維持している程度。ケニー・クラークのリーダー作をまとめる上で、このセッションの3曲が切り捨てられたのは至極納得、である。
 
 

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2024年5月23日 (木曜日)

奥ゆかしいモブレーのテナー

ハンク・モブレーのリーダー作の「落穂拾い」。録音リアタイ〜アルバム化の盤については「あと2枚」。一枚はサヴォイ盤でなかなかCDで入手できなかった、僕にとっての難物。もう一枚は、プレスティッジ盤なのだが、ハンク・モブレーとしては、マイナーな存在みたいで、なかなか現物を見つけることができなかった難物。どちらも、今ではやっと音源確保できて、時々、引きずり出して来ては聴く「好盤」。

Hank Mobley『Mobley's 2nd Message』(写真左)。1956年7月27日の録音。ちなみにパーソネルは、Hank Mobley (ts), Kenny Dorham (tp), Walter Bishop (p), Doug Watkins (b), Art Taylor (ds)。リーダーのモブレーのテナー・サックスと、ドーハムのトランペットがフロント2管のクインテット編成。プレスティッジ・レーベルとしては、なかなかまともな人選、なかなかまともなリズム・セクションを選定している。

モブレーは結構人見知りで、特に年上の先輩ジャズマンが苦手みたいで、パーソネルの人選によって、テナーの好不調が左右されたりすることが多い、結構、メンタル面で「難しい」テナー・マンだったらしい。モブレー自身のテナーと共同でフロントを張るジャズマンにも、モブレー独特の「相性」があったみたいで、トランペットの場合、先輩トランペッター、ドナルド・バードを選ぶことが多かった。
 
しかし、この『Mobley's 2nd Message』では、哀愁のバップ・トランペッターのケニー・ドーハムが参加している。モブレーは1930年生まれ、ドーハムは1924年生まれ。ドーハムはビ・バップの時代から第一線で活躍してきた、モブレーにとっては「大先輩」トランペッター。
 

Hank-mobleymobleys-2nd-message

 
しかも、アルバム録音における、モブレーのリーダー・セッションについては「初見」に近い。この盤でのモブレーは、大先輩ドーハムのトランペットの雰囲気の合わせている。中音域をメインに淡々とバップなトランペットを吹き上げるドーハムに合わせて、神妙に哀愁感溢れる小粋でバップなテナーを披露している。

どうも、モブレーは人が良いのか、根性が無いのか(笑)、自らのリーダー作であっても、共演するジャズマンに、相当、気を使うことろがあるみたいで、フロントの相方の先輩ジャズマンの雰囲気に合わせたり、先行のソロを譲ったりで、どうにも人が良い。というのか、共演者のジャズマンに影響されることが多い。

この盤では、ドーハムのトランペットの個性に寄せた、「哀愁感漂う、優しくラウンドした音のエッジと流麗なフレーズの吹き回し」のモブレーのテナーが聴ける。抑制が効いていて、ハードバップな「バップなテナー」にしてはちょっとおとなしいが、音の芯はしっかりしていて、テクニックも申し分ない。

ドーハム先輩のトランペットに寄り添い、決して邪魔することなく、存分に引き立てる。そんな奥ゆかしいモブレーのテナーが聴ける、異色のリーダー作だと僕は思う。
 
 

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2024年5月22日 (水曜日)

充実の『Hank Mobley Sextet』

しっかりと芯の入った骨太なブロウ。テクニック良く流れる様なアドリブ・フレーズ。ハンク・モブレーは、フレーズの密度が濃い、バップなテナー・マンだった。

そんな愛すべきバップなテナー・マンのハンク・モブレーのリーダー作の「落穂拾い」をしている。正式にリリースされたリーダー作の中で、まだ、当ブログの記事でご紹介していないものが3枚。1972年以降、引退後、発掘リリースされた盤が6枚。今年中には全9枚を記事にして、モブレーのリーダー作をコンプリートしたい。

Hank Mobley Sextet『Hank Mobley With Donald Byrd And Lee Morgan』(写真左)。1956年11月25日の録音。ブルーノートの1540番。ちなみにパーソネルは、Hank Mobley (ts), Donald Byrd (tp), Lee Morgan (tp), Horace Silver (p), Paul Chambers (b), Charlie Persip (ds)。

さて、正式にリリースされたリーダー作の中で、まだ、当ブログの記事でご紹介していないもの、の一枚。ハンク・モブレーとして6枚目のリーダー作、かつ、ブルーノート・レーベルでの、30㎝LPでのリリース第一弾。

ブルーノートの総帥プロデューサーの気合いを感じる。モブレーを全面的に売り出したい、そんな気合いをガッツリ感じられるのが、このパーソネル。
 

Hank-mobley-with-donald-byrd-and-lee-mor

 
ダブル・トランペットに、バードとモーガン、ピアノにシルヴァー、ベースにチェンバース、ドラムにパーシップ。当時のブルーノートの、名うてハウス・ジャズマンでガッチリ固めている。

名うてのジャズマンで固めるのには理由があったみたいで、モブレーの書いた楽曲の出来が相当に良く、この相当に内容のある楽曲の優秀性をダイレクトに聴き手に届けるには、優れたジャズマンの、優れた演奏が必須。そういう観点でのこのパーソネル。当時のブルーノート・レーベルが、いまだにリスペクトされる所以である。

モブレーのリーダー作だけあって、モブレーのテナーは好調の部類。と言って、絶好調ではない。パーソネルに、錚々たる先輩ミュージシャンの名が連なっているので、モブレーにとっては結構しんどかったのでは、と感じている。それでも、バックの先輩ミュージシャンが、そんなモブレーを慮って、モブレーを支え、優しく鼓舞するサポートが、なかなか味わい深い。

セクステット編成の演奏なので、曲とアレンジの良し悪しが、アルバムの出来不出来のカギを握るのだが、この盤については、まず、モブレー作曲の曲の出来が良く、その曲を踏まえたアレンジがバッチリ決まっている。典型的な良好なハードバップな演奏がぎっしり詰まっている「隠れ名盤」としても良い、充実したハードバップ盤である。
 
 

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2024年5月21日 (火曜日)

日野皓正の『City Connection』

月刊誌「レコード・コレクターズ」2024年6月号の特集が「フュージョン・ベスト100 邦楽編」を眺めていて、久しぶりに「日野皓正」の存在に気がついた。

元々は、限りなく自由度の高いモード・ジャズ志向のエモーショナルなバップなトランペットで、ブイブイ言わせていたのだが、いきなり、NYに渡って、思いっきりイメージチェンジ。フュージョン・ジャズに転身して、何枚かのヒット盤をリリースした訳だが、そういえば、当ブログで、日野皓正の盤については、しばらく扱ってこなかった。

日野皓正『City Connection』(写真左)。1979年の作品。ちなみにパーソネルは、主だったメンバーとして、日野皓正 (tp, cornet, flh), David Spinozza (g), Leon Pendarvis, Harry Whitaker (p, rhodes), Anthony Jackson (el-b), Howard King (ds), Naná Vasconcelos (perc, conga) 他。

アレンジはハリー・ウィタカーとレオン・ペンダーヴィス。共にロバータ・フラックのブレーンとして知られる黒人キーボード奏者&アレンジャー。バックを固めるミュージシャンは、NYのフュージョン・シーンを彩る名うての名手たち。上質の、演奏レベルがかなり高い、爽快でキャッチーなフュージョン・ジャズが展開されている。

そんなバックの演奏に乗って、日野皓正がとても気持ち良さそうに、トランペットを、コルネットを、フリューゲルホーンを吹き上げていく。この日野のフュージョン盤を聴いて再認識したんだが、日野のトランペット、コルネット、フリューゲルホーンそれぞれ、かなりのハイレベルの吹奏。歌心溢れ、テクニックも超優秀。改めて、日野皓正の演奏の上手さを、このフュージョン・ジャズ盤で再認識した。
 

City-connection  

 
そんな歌心溢れ、テクニックも超優秀なトランペットで、ソフト&メロウなフュージョン・ジャズ志向のフレーズを吹き上げていくのだ。悪かろうはずがない。米国フュージョン、和フュージョンを合わせた中でも、この『City Connection』は上位に位置する名盤だと僕は思う。

冒頭の「Hino's Reggae」から、ソフト&メロウな、しっかりと芯の入ったフリューテルホーンがいかにも「フュージョン」な雰囲気濃厚。2曲目の「Stay in My Walking Heart」は、ボーカル入りでお洒落でソウルフル。3曲目の「City Connection」は、サントリー・ホワイトのCMソングに起用された、キャッチーでライトなジャズ・ファンク。これがまた洒落ている。

LPではB面に入って、「Send Me Your Feelings」は、ボーカル入り、優しいソウルフルでブギーなフュージョン。続く「High Tide-Manhattan Ecstasy」は日野のフリューゲルホーンがリリカルで爽快、ちょっとライトなジャズ・ファンク。

ラス前の「Samba De-la Cruz」はハンドクラップが印象的な高速サンバ。これもCMソングに起用されたのではなかったか。そして、ラストの「Blue Smiles」は、このアルバムを制作した年に亡くなったトランぺッター「ブルー・ミッチェル」の追悼曲。日野のフルーゲルホーンをはじめ、静謐で寂寞感溢れる演奏が切ない。

久しぶりに全編聴き直してみて、確かにこの『City Connection』は、フュージョン・ジャズの名盤だろう。フュージョン・ジャズの個性と特徴をしっかりと日野皓正の才能でリコンパイルして、「日野の考えるフュージョン・ジャズ」を確立している。
 
 

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2024年5月20日 (月曜日)

坂本龍一の「融合」ミュージック

月刊誌「レコード・コレクターズ」の 2024年6月号の特集が「フュージョン・ベスト100 邦楽編」。先月が「フュージョン・ベスト100 洋楽編」だったのだが、今月はさらにマニアック度が増して、我が国のフュージョンの名盤・好盤のベスト100。

早速、チェックしてみたが、さすがに、80%程度は聴いたことがある。しかし、残りの20%は聴いたことが無い盤で、フュージョンのアルバムについても「裾野が広いなあ」と再認識した次第。当ブログにて記事にしたアルバムは約半分弱だから、これは「いけない」。ベスト100の中で、聴いたはいいが、記事にしていないアルバムについて、さっそく記事化を進める。

坂本龍一『千のナイフ "Thousand Knives" 』(写真左)。1978年4月10日 – 7月27日、コロムビア1,2,4スタジオでの録音。ちなみにパーソネルは、坂本龍一(syn, vocorder, sequencer, ac-p, marimba), 松武秀樹 (computer Operation, syn-programming assistance), 高橋悠治 (ac-p), 山下達郎 (castanets), 渡辺香津美 (el-g), 浜口茂外也, Pecker (syn-ds), 浜口茂外也 (whistle), 細野晴臣 (finger cymbals) 。

故・坂本龍一の初リーダー作。シンセサイザーの多重録音による、ポップスからロック、エスニック音楽からエレ・ジャズを包含した、現代音楽志向のフュージョン・ミュージックである。単なるテクノ・ポップでも無いし、難解な現代音楽でも無い。キャッチーな旋律とアブストラクトでスピリチュアルな旋律が共存した、多国籍な異種格闘技風のフュージョン・ミュージック。

坂本については、このデビュー作では、膨大な種類のシンセサイザーを使用。ベーシックなリズム&ビートは、デジタル・シーケンサーMC-8を活用。シンセとシーケンサーのプログラミング&オペレーションについては松武秀樹が全面サポート。
 

22thousand-knives22

 
サイドマンについては、山下達郎がカスタネットを叩きまくり、渡辺香津美がエレギを弾きまくる、高橋悠治がアコピの連弾サポートをしている。リズム隊については、浜口茂外也とPeckerがシンセ・ドラムを担当、細野晴臣がフィンガー・シンバルで参加している。

冒頭のタイトル曲「千のナイフ」が衝撃的。出だしは、ヴォコーダーによる、毛沢東の「井岡山に登る」という詩の朗読から始まる。ここからして衝撃的。詩の朗読が終わって、恐ろしげな爆発音がして、耽美的で美しい「千のナイフ」の旋律が奏でられる。以降は、キャッチーで現代音楽的な響きを宿しつつ、クロスオーバー・ジャズ風のインスト・パーフォーマンスが展開される。硬派でアーティステックな、究極のジャンルレスなフュージョン・ミュージック。

この盤のベーシックなリズム&ビートを司る、デジタル・シーケンサーのピュン、ピョン、といったビート音や、ややダークな神秘性溢れるシンセのフレーズについては、思わず、ハービー・ハンコックのシンセとシーケンサーを活用した「プログレ・エレ・ファンク」の名盤『Crossings』や『Sextant』を想起する。

ところどころに、渡辺香津美のエモーショナルでスピリチュアルなエレギの即興演奏が入っていたり、シンセ・ドラムの浜口やペッカーの叩きっぷりは、どこかクロスオーバー・ジャズの8ビートを想起したりで、この硬派でアーティステックな、究極のジャンルレスなフュージョン・ミュージックの中に、ジャズな要素が見え隠れしたりして、聴いていてとても興味深い。

確かに、この盤に詰まったフュージョン・ミュージックの中に、エレ・ハービーの例の如く、ジャジーな要素がしっかりと横たわっている。そういう観点から、この『千のナイフ』を、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの範疇の音世界の一つとして聴いても違和感は無い。フュージョン・ミュージックは奥が深い。

今回の「レコード・コレクターズ」の特集「フュージョン・ベスト100 邦楽編」に、この盤が上がっていたので、当ブログでも、ジャズの要素を包含した、我が国のフュージョン・ミュージックの名盤の一枚として、取り上げさせて貰った。
 
 

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2024年5月19日 (日曜日)

A&Mレコードのナシメント

A&Mレコードの 3000 series のカタログを見渡していて、感心するのは「ミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)の存在である。

A&Mレコードは、ハードバップ時代から第一線で活躍してきたジャズマンを重用、一流ジャズマンで固めたリズム・セクション、そして、バックに豪華なジャズオケやオーケストラを配備して、「上質でコンテンポラリーなイージーリスニング志向のジャズ」を目指していた。

しかし、である。その傍らで、ジャズの本質の一つである「融合」をキーワードに、ブラジル音楽と「上質でコンテンポラリーなイージーリスニング志向のジャズ」との融合を図っている。しかも、「ブラジルの声」と言われるミルトン・ナシメントを起用して、である。これには、総帥プロデューサーのクリード・テイラーの慧眼として、今でも感心する。

Milton Nascimento『Courage』(写真左)。1968年12月、1969年2月の録音。A&Mレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Milton Nascimento (vo, g), Herbie Hancock (p), Eumir Deodato (org, arr, cond), Jose Marino (b), João Palma (ds), Airto Moreira (perc) がメイン・メンバー。ベースとドラムのリズム隊はブラジル系。そして、豪華なオーケストラがバックにつく。いかにもA&Mレコードらしいパーソネルである。

アルバムは、メジャーへのデビューのきっかけとなった「Bridges (Travessia))」で幕を開け、続くは「Vera Cruz」。温和なアコギとクールなストリングスに、ナシメントの澄んだボーカルが融合した、耽美的なワールド・ミュージック風の美曲に思わず耳を奪われる。
 

Milton-nascimentocourage

 
3曲目「Tres Pontas」と、ラス前「Catavento」は、軽やかで爽快なフルートが絡むソフトでライトなサンバ曲。4曲目「Outubro」と8曲目「Morro Velho」は、これもワールド・ミュージック志向の幻想的な幽玄な曲。祈るようなスキャットが印象的な、6曲目「Rio Vermelho」など、ミルトン・ナシメントでしかなし得ない、唯一無二の音世界が全編に渡って展開されている。

米国マーケット向けに、ブラジル音楽の「アク」を上手にすくい取った、デオダートの考えたアレンジが、クロスオーバー・ジャズっぽい雰囲気を醸し出している。

即興演奏という点では「ニュー・ジャズ」と捉えることができる。ブラジルの大地や風を感じさせる繊細かつ壮大な音世界については、もはや「ワールド・ミュージック」と捉えても良いかもしれない。しかし、このナシメントの音世界は、広く捉えて「ジャズ」である。

こんなジャンルレスの「融合」なナシメントの音世界を、A&Mレコードの「上質でコンテンポラリーなイージーリスニング志向のジャズ」として捉え、この様な、ブラジル音楽と「上質でコンテンポラリーなイージーリスニング志向のジャズ」との融合の成果としてアルバム化し、リリースしたA&Mレコードは、素晴らしい仕事をした、と今でも感心することしきり、である。
 
 

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2024年5月18日 (土曜日)

A&Mの作るボサノヴァ・ジャズ

A&Mレコードの 3000 series の諸作は、リーダーを務めるジャズマンについては、錚々たるメンバーである。ハードバップ時代から活躍してきたジャズマンが、こぞって、このA&Mレコードの目指す「上質でコンテンポラリーなイージーリスニング志向のジャズ」を実現する為に集ってきた。

バックを司るサイドマンも、ハードバップ時代からの一流どころが参加していて、若手のスタジオ・ミュージシャンにまじって、しっかりと存在感をアピールしている。皆、一流どころなので、テクニックは優秀、出てくるフレーズには歌心が溢れていて、演奏自体、内容があって、水準以上のレベルでのパフォーマンスを発揮している。当然、名盤、好盤の類のアルバムが目白押しである。

Walter Wanderley Set『When It Was Done』(写真左)。1968年12月の録音。A&Mレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Walter Wanderley (org, el-harpsichord), José Marino (b), João Palma (ds), Lu Lu Ferreira (perc) がメイン・メンバーで、バックにオーケストラが入っている。

ブラジル出身のオルガン奏者、ウォルター・ワンダレイのリーダー作、ボサノヴァ・ジャズの名曲集になる。ワンダレイといえば「ボサノヴァ・オルガンの第一人者」と言われる。ブラジル出身のオルガニストであるが故、ボサノヴァの本質を突いたオルガンを弾きまくる。
 

Walter-wanderley-setwhen-it-was-done  

 
ボサノバはムード音楽では無い、ボサノヴァの本質は「サウダージ(郷愁、哀愁)」にある、意外と硬派な音楽なのだが、その辺りをワンダレーは、しっかり踏まえて、硬派で甘さに流れない、正統派な「コンテンポラリーなボサノヴァ・ジャズ」を展開している。

電子ハープシコードの音が、ちょっとチープな響きで気になるが、概ね、ワンダレイのキーボードについては、耳当たりは良いが、結構切れ味良く尖っていて、アルバム全体の雰囲気をグッと締めていて聴き応えがある。

バックのオーケストラは、あくまで、ワンダレイのキーボードの引き立て役。ベース、ドラム、パーカッションのリズム隊は、ボサノヴァのリズム&ビートを的確にワンダレイのキーボードに供給している。

演奏全体のリズム&ビートを含め、ボサノヴァ・ジャズとして破綻は全く無い。逆に、ボサノヴァのリズム&ビートに乗った、ワンダレイのオルガンは切れ味良く、真摯で迫力がある。決して、ムード・ジャズのオルガンでは無い。ワンダレイは「ボサノヴァ・オルガンの第一人者」と言われていたことを再認識する。

各曲毎のドン・セベスキーのアレンジも、ボサノヴァ・ジャズという特性を良く把握した、優れたアレンジで、アルバム全体の雰囲気をしっかりと引き締めている。

このワンダレイの『When It Was Done』は、A&Mレコードの「上質でコンテンポラリーなイージーリスニング志向のボサノヴァ・ジャズ」。さらに、ボサノヴァ・ジャズの名盤の一枚に上げても良い内容だと思う。
 
 

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2024年5月17日 (金曜日)

A&Mの ”カイとJ.J.” の名演

「K. and J.J. 」とは、ジャズ・トロンボーンの名手の二人、J.J.ジョンソンとカイ・ウィンディング。ハードバップ時代には「KAI & J.J.」というユニットを組んで、聴き心地の良いファンキー・ジャズの好盤を連発していた。その「KAI & J.J.」の再結成風のA&M盤。単なる「懐メロ同窓会」的雰囲気で終わるのではないか、という危惧を覚える。

K. and J.J. 『Israel』(写真左)。1968年2, 3, 4月の録音。A&Mレコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、J. J. Johnson, Kai Winding (tb), Herbie Hancock (p), Ross Tompkins (p, harpsichord), Eric Gale, Bucky Pizzarelli (g), Ron Carter, Richard Davis (b), Grady Tate (ds) がメイン・メンバー。ここにハープ入りの管楽器メインのジャズオケがバックに入っている。

が、聴いてみると、まず、カイとJ.J.のトロンボーンが「イケる」。しっかりとしたテクニックで、しっかりとしたブロウで、しっかりとしたピッチでトロンボーンを吹きまくっている。トロンボーンのブラスの鳴りがスピーカーから伝わってくるほどのブリリアントなトロンボーンの響き。このカイとJ.J.の好調な「本気トロンボーン」の吹奏を聴くだけで、この盤は「懐メロ同窓会」的な企画盤で無いことが判る。

もともと、A&Mレコードの音作りが「上質なイージーリスニング志向のジャズ」を目指しているだけあって、この盤でも、特に、ハープ入りの管楽器メインのジャズオケのアレンジが優れている。陳腐なところは全く無い。とても良く練られた、ドン・セベスキーのアレンジである。
 

K-and-jjisrael

 
演奏自体のアレンジも良い。収録曲を見渡せば、「"My Funny Valentine」「Django」などの人気スタンダード曲あり、「Israel」「Am I Blue」「St. James Infirmary」などの渋いスタンダード曲あり、どちらも、一捻りしたアレンジが優秀で、「上質なイージーリスニング志向のジャズ」として、絶大な効果を発揮している。

「上質なイージーリスニング志向のジャズ」を目指しているからと言って、演奏自体が聴き心地優先の甘々な演奏では全く無い。それぞれの楽器のパフォーマンスは、とても充実している。それぞれの楽器担当の「本気」を感じる。

カイとJ.J.のトロンボーンのユニゾン&ハーモニー、そして、チェイス。これが、どの曲でもバッチリ効いている。とにかく、トロンボーン独特のユニゾン&ハーモニーが前面に出てくる。これがどれもが印象的に耳に響く。カイとJ.J.のトロンボーンのソロも良い。充実した本気な吹き回しで、ダレたところは微塵も無い。本気で聴かせるジャズ・トロンボーン。

ハンコックのピアノもそこはかとなくファンキーで、カイとJ.J.のトロンボーンを引き立てる。伴奏上手のハンコックの面目躍如。ゲイルとピザレリのギター隊のリフ、カッティング、バッキングが小粋でこれまたファンキー。トロンボーンの柔らかな音色との対比が良い。

ロン、ディヴィスのベースはハードパップなウォーキング・ベースで、テイトの小粋で趣味の良いドラミングで、「上質なイージーリスニング志向のジャズ」のリズム&ビート支えている。

ハードバップ時代の「KAI & J.J.」の再結成盤。どうなることやら、と思いきや、当時の流行のど真ん中、ハードバップでファンキーでモダン、ジャズオケ+エレ楽器入りの「上質なイージーリスニング志向のジャズ」が展開されていて立派。とりわけ、カイとJ.J.のトロンボーンの、新鮮な「ハードバップ志向の力演」が印象に残る。
 
 

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2024年5月16日 (木曜日)

”A&Mのデスモンド” の傑作盤

故あって、A&Mレコードの3000 series のアルバムを聴き直している。A&Mレコードの3000 series の諸作は、クロスオーバー・ジャズの範疇だと思うが、それぞれのアルバムのパーソネルを見渡すと、大方、ハードバップ時代から活躍してきた一流ジャズマンを起用している。

ハードバップ時代から活躍してきた一流ジャズマンが、優れたアレンジに乗って、エレ・ジャズをバックに、ジャズオケをバックに、聴き心地の良い、聴き応えのある、イージーリスニング志向のジャズをやる。しかし、イージーリスニング志向だからと言って、聴くに優しい、甘々のジャズかと言えば、そうでは無い。

さすが、ハードバップ時代から活躍してきた一流ジャズマンである。それぞれの演奏のレベルは高く、一本しっかりと筋が通っている。意外と硬派な「イージーリスニング志向のコンテンポラリー・ジャズ」を展開しているから隅に置けない。特に、A&Mレコードの3000 series のアルバムを聴いてみると、それがよく判る。

Paul Desmond『Summertime』(写真左)。Paul Desmond (as), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Leo Morris = Idris Muhammad (ds) がコア・メンバー。ここに、曲毎にゲストが入る。主だったところでは、Mike Mainieri (vib), Joe Venuto (marimba), Airto Moreira (perc), ギターはリズム楽器に徹している。そして、ホーンがメインのジャズオケがバックに控える。アレンジは、Don Sebesky。

「Someday My Prince Will Come」や「Autumn Leaves」など、有名スタンダード曲が選曲され、レノン=マッカートニーの「Ob-La-Di, Ob-La-Da」のカバーがあったりで、これだけで、甘々のイージーリスニング・ジャズと判断して聴くのを止めてしまうジャズ者の方もいるだろう。
 

Paul-desmondsummertime  

 
しかし、聴けば判るが、有名スタンダード曲については、耳新しい、新鮮なアレンジが施され、手垢が付いた感じが全くない。そんな優れたアレンジの下、デスモンドの柔らかで硬派なアルト・サックスが、唄うが如く、囁くが如くの素敵なフレーズを吹き上げる。

レノン=マッカートニーの「Ob-La-Di, Ob-La-Da」のカバーだって、囁くが如くのテーマ部のアレンジも秀逸、アドリブ部については、メインストリーム・ジャズのど真ん中を行く、素晴らしいアドリブ・パフォーマンスを展開する。これは、イージーリスニング志向では全く無い。これは「純ジャズ」なアドリブである。

ラストの、これまた、有名スタンダード曲、タイトル曲の「Summertime」については、これが凄い。バックのリズム・セクションに、ハンコックのピアノ、ロンのベース、モリスのドラム。そこに、フロント1管で、デスモンドのアルト・サックス。そして、出てくる演奏は、ストイックな変拍子&モード・ジャズ。

ハンコックのモーダル・ピアノが迫力満点、そこに、ロンのベースが呼応するように追従する。モリス(イドリス・ムハンマド)のドラムが切れ味の良い変拍子を叩き出す。そこに、耳新しい、モーダルなアルト・サックスのデスモンドが吹きまくる。この『Summertime』は、立派な「メインストリームな純ジャズ」である。

全編に漂う雰囲気は「硬派なイージーリスニング志向のコンテンポラリー・ジャズ」、時々「メインストリームな純ジャズ」。収録曲の曲名見ると、ちょっと聴くのをためらってしまうかもしれないが、この盤、デスモンドの傑作の一枚だと思う。
 
 

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2024年5月15日 (水曜日)

”CTIレコードのロン” の隠れ名盤

ジャズ・ベーシストの「生けるレジェンド」であるロン・カーター。1970年代は、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの老舗レーベルであるCTIレコードに所属して、リーダーにサイドマンに大活躍。1970年代後半、ハービーの「V.S.O,P.」に参加、純ジャズに回帰するが、CTIレコードでの、クロスオーバー&フュージョン・ジャズのロンもなかなか良い。
 
Ron Carter『Blues Farm』(写真)。1973年1月10日の録音。ちなみにパーソネルは、Ron Carter (b, arr, cond), Billy Cobham (ds), Hubert Laws (fl, tracks 1, 5 & 6), Richard Tee (el-p, ac-p, tracks 1, 4 & 5), Bob James (ac-p, tracks 2, 3 & 6), Gene Bertoncini (g, track 5), Sam Brown (g, track 3), Ralph MacDonald (perc, tracks 1 & 4-6)。

ロン・カーターのCTIレコードでのリーダー作の第一弾である。パーソネルを見渡すと、不思議なことに気が付く。フロント楽器を司るサックス、トラペットが無い。辛うじて、ヒューバート・ロウズのフルートが存在するだけ。ギターについてはリズム楽器に徹している。それでは、このセッションでのフロントは誰が担っているのか。実は、ロンのベースとロウズのフルート、この2人だけでフロント楽器の役割、楽曲の旋律を演奏している。

アレンジと指揮はリーダーのロン自身が担当しているので、このベースとフルートのフロントはロンのアイデアだろう。しかし、これが、冒頭のジャズ・ファンク・チューンであるタイトル曲「Blues Farm」で、その効果を最大限に発揮する。

ロンはアタッチメントをつけて、アコベの音を電気的に増幅して、旋律のソロに対応する。これが意外とファンキーな音色で、ジャズ・ファンクなビートにピッタリ。そして、ロウズのフルートのエモーショナルな吹き上げが、これまた、爽やかなファンクネスを振り撒いている。

バックのリズム・セクションは、コブハムのファンキー・ドラムに、ティーのファンキー・アコピ、マクドナルドのファンキー・パーカッション。この手練れのメンバーがジャズ・ファンクなリズム&ビートを叩き出す。これが実に良い雰囲気で、ブルージー&ファンク。後の伝説のフュージョン・グループのキーボード担当、リチャード・ティーのアコピのファンクネスが半端無い。
 

Ron-carterblues-farm

 
2曲目の「A Small Ballad」は、なんと、ボブ・ジェームスのピアノ(!)と、ロンのベースのデュオ。このデュオ演奏は、クロスオーバー・ジャズでは無い。これは純ジャズである。3曲目の「Django」は、MJQのジョン・ルイスの名曲だが、フロントをロンのベースが取り仕切り、この名曲の旋律をベース一本でやり通す。アコベでありながら、ピッチも合っていて、ロンのベーシストとしてのテクニックがかなりのものだということを再認識する。

そして、僕が愛してやまないのが、4曲目の「A Hymn for Him」。ロンの作曲。極上のファンキー・バラードである。冒頭、ロンがフロントを取り仕切るのは変わらないが、このロンのアタッチメントをつけて、アコベの音を電気的に増幅したアコベの音がなかなかファンキーでいい感じ。ソロでのテクニックの高さと相まって、意外と聴き応えのあるロンのベース。

そして、リチャード・ティーのアコピ(フェンダー・ローズ)の、こってこてファンキーでキャッチーなバッキング。そして、ファンクネス滴る、ソフト&メロウなソロ・パフォーマンス。ティーのベストに近いフェンダー・ローズのパフォーマンス。もう惚れ惚れするばかり。さすがティー、さすがフェンダー・ローズの名手。しみじみと染み入り、思わず、心にグッとくる。

そして、エモーショナルで流麗でファンキー&メロウ、テクニック極上、歌心満点のロウズのフルート・ソロに、これまたグッとくる。極上のフュージョン・ジャズの一曲がここにある。

5曲目の「Two-Beat Johnson」は、ライトでポップでファンキーでご機嫌な小品。ラストの「R2, M1」は、アーシーでビートの効いた、ライトなジャズ・ファンク。ボブ・ジェームスのちょっとアブストラクトなピアノ・ソロが、このジャズ・ファンクな演奏を俗っぽい演奏にしていない。意外と硬派な、クロスオーバー・ジャズ志向のジャズ・ファンク。このリズム&ビートの軽快さが、ロンの考えるジャズ・ファンクの個性だろう。

アタッチメントをつけて、アコベの音を電気的に増幅して、旋律のソロに対応するロンについては、とかく批判的な意見が多いが、この盤のロンのパフォーマンスを聴いて判る様に、アコベのピッチが合っている分には問題無い。どころか、ジャズ・ファンクのリズム&ジャズ・ファンクのビートにピッタリな音色は意外と効果抜群。

自分の耳で聴いてみて初めて判る。このロンのCTIレコードでのリーダー作の第一弾、意外と「隠れ名盤」だと僕は思っている。
 
 

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2024年5月14日 (火曜日)

ハービー・マンのヒット作ライヴ

ジャズの世界で、ソロ演奏にあんまり向かないフルートを専門楽器に、数々の名演を残した、ジャズ・フルート演奏家の一人がハービー・マン。

フルートという楽器は、音色が甘く、音の強弱・濃淡がつけにくくて、演奏の幅とバリエーションが限定されてしまう傾向にあり、ジャズの世界では、あんまり、ソロ演奏に向かない楽器。

ただし、フルートは、息をちょっと強く吹くことで、エモーショナルで、ファンキーな音色を出すことができる。この「エモーショナルで、ファンキーな」フルートの音色の特性を最大限に活かして、コテコテの「ファンキー&ソウル・ジャズ」で勝負したのが、ハービー・マンである。

『Herbie Mann at the Village Gate』(写真左)。1961年11月17日、NYのライブ・スポット「ヴィレッジ・ゲイト」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Herbie Mann (fl), Hagood Hardy (vib), Ahmed Abdul-Malik (b), Ray Mantilla (conga, perc), Chief Bey (african-ds and perc), Rudy Collins (ds)。冒頭1曲目の「Comin' Home Baby」にだけ、作曲者のBen Tucker (b) が追加で入っている。

この邦題『ヴィレッジ・ゲイトのハービー・マン』は、僕がジャズを本格的に聴き始めた1970年代後半、マンの圧倒的な「代表的名盤」とされていた。しかし、僕は、ジャズを本格的に聴き始めた頃は、担当楽器が「フルート」というだけで敬遠。このライヴ盤を初めて聴いたのは、1990年代に入ってから。代表的名盤というだけに、ワクワクしながらCDプレイヤーのスイッチを押した。

と、冒頭の「Comin' Home Baby」のイントロから「あれれ」。静かなベース・ソロから始まり、抑制の効いたドラムが加わる。出てくるリズム&ビートは、熱量は温和、雰囲気は爽やかなファンキー・ビート。録音年は1961年、まだ、ファンキー・ジャズの「ノリノリの娯楽性」は発展途上だった様である。

聴く前は、ホットでノリノリなコテコテのファンキー・ジャズをイメージしていたのだが、意外と大人しくて温和な、聴きやすくて爽やかなファンキー・ジャズが出てきたので、ちょっと戸惑う。
 

Herbie-mann-at-the-village-gate

 
マンのソロも、そこはかとなくファンキーではあるが、熱量は温和、雰囲気は爽やかで聴きやすいフルートを吹き進める。そう、この『ヴィレッジ・ゲイトのハービー・マン』に入っているファンキー・ジャズって、熱い演奏、思いっきりノリノリのコッテコテなファンキー・ジャズではなくて、どこか爽快感溢れる、聴き心地の良い、イージーリスニング志向のファンキー・ジャズでなのだ。

しかし、続く、有名スタンダード曲の「Summertime」におけるハービー・マンのフルートが凄い。演奏の雰囲気は、そこはかとなくファンキーではあるが、熱量は温和、雰囲気は爽やかで聴きやすいファンキー・ジャズなのだが、そんな爽やかなファンキー・ビートに乗って、マンのフルート・ソロが炸裂する。

特に、アドリブ展開におけるマンのフルートのパフォーマンスは絶品。マンのフルートの実力を遺憾無く発揮している。この「Summertime」の存在が、この盤をマンの代表作の一枚としている、と言い切って良いくらいの絶品パフォーマンス。

ラストの、これも有名スタンダード曲の「It Ain't Necessarily So」については、約20分弱の長尺ライヴ・パフォーマンスなんだが、真ん中あたりで、長々とベース・ソロが流れる。これが、音が小さくて、ベース音が聴き取り難く、ノリも良くない。

録音年は1961年なので、エレべはまだ一般的で無く、アコベ一本で、コッテコテなファンキー&ソウルフルなベース・ソロを展開するのは無理がある。この部分の冗長さが惜しい。ここはちょっと短く編集した方が良かったと思う。

この『ヴィレッジ・ゲイトのハービー・マン』は、マンの圧倒的な「代表的名盤」、ファンキー・ジャズの「代表的名盤の一枚」とされているが、マンのジャズ・フルートとしてのパフォーマンスが優れているが、ファンキー・ジャズとしては、ちょっと物足りなさが残る。

しかし、このライヴ盤はヒットした。そして、マンは、「エモーショナルで、ファンキーな」フルートの音色の特性を最大限に活かして、コテコテの「ファンキー&ソウル・ジャズ」を推し進めていく。
 
 

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2024年5月13日 (月曜日)

マンの傑作盤『Glory Of Love』

フュージョン・ジャズの源はどの辺りにあるのだろう。僕は、1960年代後半、A&Mレコードの諸作が、その源の一つだと思っている。

A&Mレコードは、元々は1962年にハーブ・アルパートとジェリー・モスが設立したレコード・レーベル。ジャズのジャンルについては、ファンキー&ソウル・ジャズのエレ化をメインに、当時、ポピュラーな楽曲のカヴァーなど、ポップでジャジーなフュージョン・ジャズの先駆けな音作りで人気を獲得した。

Herbie Mann『Glory Of Love』(写真左)。1967年7, 9, 10月の録音。ちなみにパーソネルは以下の通り。

Herbie Mann (fl), Hubert Laws (fl, piccolo), Ernie Royal, Burt Collins (tp, flh), Benny Powell (tb), Joseph Grimaldi (sax), Leroy Glover (p, org), Paul Griffin (p), Roland Hanna (org), Jay Berliner, Eric Gale (g), Ron Carter (b), Herb Lovelle, Grady Tate (ds), Teddy Sommer (vib, perc), Ray Barretto, Johnny Pacheco (perc), Earl May (b), Roy Ayers (vib)。

手練れの豪華絢爛なパーソネル。予算をしっかり充てた充実の録音セッション。出てくる音は、エレトリック&8ビートなファンキー&ソウル・ジャズ。アニマルズがヒットさせたポップス曲「The House of the Rising Sun」や、レイ・チャールズがヒットさせたソウル曲「Unchain My Heart」など、当時の流行曲を見事なアレンジでカヴァーしている。
 

Herbie-mannglory-of-love

 
ポップス曲のカヴァーと聞くと、イージー・リスニング志向のジャズか、と思うのだが、このマンのA&M盤は、演奏自体が実にしっかりしている。リズム&ビートは、切れ味良く、ジャジーでソウルフルでファンキー。このリズム・セクションのリズム&ビートはとても良く効いている。

そのジャジーでソウルフルでファンキーなリズム&ビートに乗って、ハービー・マンのソウルフルなフルートが、爽やかなファンクネスを湛えて飛翔する。「In and Out」でのヒューバート・ローズとのダイアローグはとても楽しげ。フランシスレイの「Love is stronger far than we」では、ムーディーなマンのフルートが印象的。この盤でのマンのパフォーマンスは素晴らしい。

当時のA&Mレコードのジャズについては「質の高いリラックス出来るBGM」がコンセプト。しかし、このマンのA&M盤はBGMどころか、イージー・リスニング志向のエレ・ジャズでも無い、ソウルフルでファンキーなコンテンポラリー・ジャズとして成立している優れた内容。

アルバム全体を覆う適度なテンション、切れ味の良いジャジーでソウルフルでファンキーなリズム&ビート。マンを始めとするソウルフルなフロント隊の演奏。この盤には、1960年代前半から進化してきた、ファンキー&ソウル・ジャズの成熟形を聴くことが出来る。ハービー・マンの傑作の一枚であり、最高傑作と言っても良いかもしれない。

クリード・テイラーの優れたプロデュースの下、アレンジも良好、録音はルディ・バン・ゲルダー手になる「良好な音」。この盤がほとんど忘れ去られた存在で、廃盤状態が長く続いている。実に遺憾なことであるが、最近、ストリーミングで聴くことが出来るようになったみたいで、これは喜ばしいことである。
 
 

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2024年5月12日 (日曜日)

アメリカン4の「契約消化」盤

キースのアメリカン・カルテット。『The Survivors' Suite(邦題:残氓)』を録音した時点で、グループとして終わっていた。続く、ライヴ盤『Eyes of the Heart(邦題:心の瞳)』では、もうカルテットの演奏としても終わっている。キースの曲をキースの指示通り演奏することに「痺れを切らした」レッドマンが、完全にキースのカルテットから離反した。

このアメリカン・カルテットの終焉を記録した2枚のアルバムは、ECMレーベルからのリリース。元々、アメリカン・カルテットは、インパルス・レーベル主体に録音を進めてきた。もうアメリカン・カルテットとしては終わっていたにも関わらず、インパルス・レーベルには、契約が残っていた。キースをはじめとしたアメリカン・カルテットのメンバーは、この契約消化のために、アルバム2枚分の演奏を残さなければならなかった。

Keith Jarrett『Byablue』(写真左)と『Bop-Be』(写真右)である。どちらのアルバムも録音は、1976年10月14–16日。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (p, ss, misc. perc), Dewey Redman (ts, misc. perc), Charlie Haden (b), Paul Motian (ds, perc)。「アメリカン・カルテット」再集結。記録によると、14-16日の間に、全19曲を録音している。いわゆる「アメリカン・カルテットのマラソン・セッション」である。
 

Keith-jarrettbyabluebopbe

 
それまでのアメリカン・カルテットのアルバムの収録曲は全て、キースが書いていたのだが、このアメリカン・カルテットの契約消化アルバムについては、キースだけでなく、メンバーそれぞれの自作曲を演奏している。例えば、『Byablue』は、全7曲中、キースの曲は1曲だけ、あとはヘイデンの曲が5曲、マーゴット(キースの妻)の曲が1曲。『Bop-Be』では、全7曲中、キースの曲は1曲だけ。レッドマンの曲が3曲、ヘイデンの曲が2曲、ジャズ・スタンダード曲が1曲。

それぞれのアルバムで、キースは1曲ずつしか提供していない。『Bop-Be』は、レッドマン、ヘイデン、キースの曲が混在。ピアノは全てキースが弾いているので、何とか、アルバムの音の一貫性は最低限保たれているが、アルバム全体の印象はバラエティーに富んだ印象。『Byablue』は7曲中5曲がヘイデンの曲なので、キースのアメリカン・カルテットの音というよりは、ヘイデンのリーダー作の様な雰囲気。

『Byablue』と『Bop-Be』、どちらのアルバムも、キースのアメリカン・カルテットの音世界と捉えることは難しい。それぞれの曲の出来は良いし、演奏自体のレベルは高く、内容もある。だが、アメリカン・カルテットとしての一体感、個性は薄まっていて、アメリカン・カルテットならではの演奏として印象に残るものは無い。やはり、この2枚、アメリカン・カルテットの「消化試合」やったんやなあ、と改めて感じた次第。実に残念なラスト2枚である。
 
 

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2024年5月11日 (土曜日)

ポップ・インスト・バンドの傑作

ザ・スクエア(1989年から「T-スクエア」)は、我が国が世界に誇るフュージョン・バンドの一つ。バンド・メンバーは自身を「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」と称している。

独特の「融合音楽」志向、独特のアレンジや引用・カヴァーは、米国フュージョン・ジャズを志向していない、我が国のフュージョン・ジャズとしても、ユニークな存在。ポップでキャッチーな音世界は、通常のフュージョン・ジャズではない、唯一無二の「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」としても、確かに違和感は無い。

THE SQUARE『うち水にRainbow』(写真左)。ちなみにパーソネルは、安藤まさひろ (g), 伊東たけし (as, lyricon), 和泉宏隆 (key), 田中豊雪 (b), 長谷部徹 (ds)。以上が「ザ・スクエア」。ゲストとして、仙波清彦 (conga), EVE (vo, "HELLO GOODBYE"), 伊藤広規 (el-b, "STINGRAY"), Nitta Group (horns, "HANK & CLIFF" 及び "黄昏で見えない")。

ザ・スクエアの「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」な個性が確立された盤が、前作『脚線美の誘惑』だと思うのだが、この『うち水... 』は、この前作で確立した「ポップ・インストゥルメンタル・バンド」な個性を、確固たるものとして踏襲した傑作である。

ザ・スクエアの個性である、独特の「融合音楽」志向、独特のアレンジや引用・カヴァーに関しては、1曲目の「Hellow Goodby」はレノン&マッカートニーの名曲のカヴァー、6曲目「黄昏で見えない」は松任谷由実(ユーミン)作曲、というところからも良く判る。
 

The-squarerainbow

 
「Hellow Goodby」は、インスト・ナンバーとして、かなり大胆なアレンジを施していて、ちょっと聴いただけでは原曲の雰囲気が感じられないくらい。しかし、フュージョン・インストとしては秀逸のアレンジ、秀逸の演奏になっている。ザ・スクエアの面目躍如だろう。

「黄昏で見えない」は、後にユーミンが歌詞を付けて、「幻の魚たち」と改題し、小林麻美がカヴァーしている。ボーカルの部分のフレーズをインストに置き換えての演奏になっているが、ザ・スクエアって、ポップス曲の歌唱のフレーズの「楽器での唄わせ方」が実に上手い。これも、他のバンドには見られない、ザ・スクエア独特の取り組みで、これも、ザ・スクエアの面目躍如と言える。

前述の2曲、レノン&マッカートニー曲のカヴァー、ユーミン曲のフュージョン化、というだけで、「スクエアは俗っぽい」と敬遠する向きもあるが、他のアルバム収録曲、安藤まさひろをはじめとする、ザ・スクエアのメンバーの手になるオリジナル曲については、聴きやすい、キャッチーな歌心溢れるフレーズを持った佳曲揃いで、演奏はテクニック抜群のビートの効いた爽快感溢れるもの。優れたフュージョン・ジャズ曲満載で、俗っぽさは微塵も無い。

2曲目の「君はハリケーン」はテクノ・ポップっぽい曲調とアレンジなので、思わず「ニヤリ」。3曲目の「Sabana Hotel 」は爽やかな夏曲。8曲目の「カピオラニの通り雨」は安藤のアコギが印象的な名曲&名演。8曲目「Barbarian」は、スクエアお得意のフュージョン・ロックなインスト曲。唄うリリコンが格好良い。

ちなみに、曲名、ジャケなど、それまでのザ・スクエアのテイストとちょっと違う雰囲気なのですが、これって、実は、ユーミンの仕業。ユーミンは楽曲の提供(黄昏で見えない)のみならず、曲のタイトルの命名からジャケット・デザインまで、コーディネーターとして関与しているんですね。こういう切り口でも、ザ・スクエア独特の「融合」志向が見え隠れして面白い。
 
 

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2024年5月10日 (金曜日)

異種格闘技な「和フュージョン」

我が国のフュージョン・ジャズ・バンドの代表格が、「CASIOPEA(カシオペア)」と「T-SQUARE(T-スクエア)」(デビューから1988年までは「THE SQUARE」)。この2つのバンドが、我が国のフュージョン・ブームを牽引していた様に思う。

「T-スクエア」は、純国産フュージョン・ジャズの音作り。我が国の音楽シーンから引用される独特のアレンジや展開、他のジャンルとの融合のバリエーションが、米国フュージョン・ジャズには無い、我が国のフュージョン・ジャズ独特なものだった。

この「和フュージョン」独特の個性を音にしていたのが、当時の「ザ・スクエア」。この米国フュージョン・ジャズの音志向を忠実に踏襲しないところが好き嫌いの分かれ目で、この純国産な「和フュージョン・ジャズ」の音作りは認めない、という向きが当時にはあった様に思う。

が、今の耳で聴いてみると、この「ザ・スクエア」の音も、優れた内容のフュージョン・ジャズ、エレ・ジャズロックをベースとした、いわゆる「融合音楽」の一つで、例えば、カシオペアの音志向と比較しても、優劣はつけ難い、と僕は思っている。

THE SQUARE『MAGIC』(写真左)。1981年8-9月の録音。ちなみにパーソネルは、安藤まさひろ (g), 伊東たけし (as, lyricon), 久米大作 (key), 田中豊雪 (b), 清水永二 (ds)。以上が「ザ・スクエア」。ゲストとして、仙波清彦 (conga), 御厨裕二 (g), キャサリーン (vo), 金子マリ、タンタン、サンディー (chor), 中西ストリングス。特別参加として、タモリ(tp)。

ザ・スクェア名義の5作目のアルバムになる。このアルバムこそが、当時の「ザ・スクエア」の音志向の特異性、独特の個性を表している好盤だと思う。
 

The-squaremagic

 
音を聴けば、たちどころに判るが、まず、サックスになり変わって、フロントで大活躍するのが「リリコン」。このリリコンの活用、そして、シンセの積極活用が、当時、テクノ・ポップが流行っていた我が国のフュージョンらしいアレンジ。

冒頭のボーカル入り人気曲「IT'S MAGIC」は、キャサリーンのボーカルがとても可愛い、和風のディスコ・ミュージック。ビートがどう聴いても「和」している。そして、ボーカル&コーラスが、どう聴いても、当時のニュー・ミュージックの影響が感じられる。なんとか米国フュージョン風に、と工夫を凝らしているが、結果、どう聴いても、我が国のフュージョンらしい独特のアレンジが楽しい。

シンセ・ドラム活用や、リズム&ビートは、どう聴いても、当時、わが国で流行っていた「テクノ・ポップ」の影響が感じられる。なんせ、収録された曲の中にも、ラスト曲のタイトルが「かわいいテクノ」とあったりする。

ザ・スクエアの演奏のベースは、フュージョン・ジャズなので、この盤は、フュージョン・ジャズの最たるもの、エレなジャズロックに和風ディスコ、ニュー・ミュージック、テクノポップが融合した音楽成果と評価できる。異種格闘技が大好きだった「YMO」もびっくりである(笑)。それでも、フュージョン・ジャズの好盤として、このアルバムはまとまっているので、当時のザ・スクエアの力量たるや恐るべし、である。

そして、特別参加として、タモリさんが、7曲目「サンシャイン・サンシャイン」とラストの「かわいいテクノ」で、トランペットとバックグラウンド・ボーカルで参加している。これも異種格闘技のバリエーションの一つ、我が国ならでは「融合音楽」の成果であろう。

とにかく、今の耳にも古さを感じさせない、和フュージョン・ジャズの好盤として、十分、評価できる内容である。
 
 

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  ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

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2024年5月 9日 (木曜日)

第一期のピークの音『SUN SUN』

カシオペアは、結成時からリーダー兼ギタリストの野呂が書くオリジナル曲を中心に演奏してきた。バンドの方針なんで、良いも悪いも無いのだが、長年、その音楽性を継続してくると、演奏側からすると「慣れ」、聴く方からすると「マンネリ感」が芽生えてくる。カシオペアとて例外では無かった様である。

CASIOPEA『SUN SUN』(写真左)。1986年6月8日 - 6月29日、NYでの録音。1986年9月のリリース。ちなみにパーソネルは、ちなみにパーソネルは、野呂一生 (el-g), 向谷実 (key), 櫻井哲夫 (b), 神保彰 (ds)、 第一期カシオペア、伝説の4人。結成10周年記念アルバム。共同プロデューサーにカルロス・アロマーを迎えて、NYでの録音。

NY録音ということで、現地のスタジオ・ミュージシャンが多数、ゲスト・ミュージシャンとして参加している。主だったところとして、「サムシング・ロング」のリード・ボーカルで、ジョン・ウェイト(ベイビーズ、バッド・イングリッシュのボーカル担当)、「サン」のリード・ボーカルで、フランク・シムズがゲスト参加している。他のゲスト・ミュージシャンは知らない名前ばかり。

当時流行のサウンド採り入れた意欲作、という巷の評価ではあるが、良くも悪くも、明らかにアメリカナイズされたフュージョン・ジャズの音になっている。アメリカナイズと言っても、NY録音なので、東海岸系のフュージョン・ジャズの音志向である。NYらしいダンスビートを積極採用し、ドラムには深いデジタルリバーブが掛けられている。ん〜、時代を感じるなあ。
 

Casiopeasun-sun

 
特に、ボーカル入りの曲などは、フュージョン・ブームの最後の頃の、AORなのか、ソフト&メロウなブラコンなのか、良く判らないボーカル・チューンの音の傾向を踏襲していて、明らかに雰囲気が古くて、今の耳には「懐メロ」にしか聴こえない。バックでのカシオペアの演奏はカシオペアらしさを保っているが、もともとボーカルのバックに向く音志向では無いので、やっぱり、カシオペアのボーカル入りの曲はあまり好きじゃない。

インスト・バージョンは、アメリカナイズされているとは言え、演奏のそこかしこにカシオペアらしさが散りばめられているので、聴いていて飽きが来ない。さすがはカシオペアで、バンド・サウンドのクオリティはしっかりと維持している。が、野呂中心のソング・ライティングが、そろそろ「慣れ」と「マンネリ」になりかけている傾向が見え隠れしている。

結成10周年記念アルバムとして、せっかくのNY録音だった訳だが、共同プロデューサーにカルロス・アロマーを迎え、当時流行のサウンド採り入れたという割には、それまでのカシオペア・サウンドに新しい音志向と魅力を加えることが出来たのか、といえば、ちょっと首を傾げざるを得ない。

断っておくが、カシオペアの演奏、サウンドは、ほぼ成熟していて、きっちりと当時の水準を保った、充実した演奏内容である。ただ、バンド・サウンドとして、新しい何かが付加されていない、という点が気がかりだ、ということ。

この盤を聴いた当時、次にカシオペアはどこに行くのだろう、と不安になったことを覚えている。そんな気持ちを抱えながら、この『SUN SUN』を聴いていた1986年である。
 
 

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2024年5月 8日 (水曜日)

ライヴ名盤 『CASIOPEA LIVE』

CASIOPEA(カシオペア)。世界に誇る、我が国の老舗フュージョン・ジャズ・バンド。1977年に結成。1979年にデビュー。2006年に全ての活動を一旦休止。6年後の2012年、CASIOPEA 3rd(カシオペア・サード)の名義で活動を再開、2022年7月からは、CASIOPEA-P4(カシオペア・ピーフォー)に名義を再々度変更して活動を継続している。

カシオペアのデビューが、僕がちょうどジャズを本格的に聴き始めた頃で、デビュー・アルバムからずっと、リアルタイムにその活動、アルバムのリリースを聴いてきた。バカテク集団でありながら、テクニックに頼ること無く、キャッチーなフレーズを連発、アレンジが秀逸で、インストナンバーは聴き応え十分。デビュー・アルバムから、CASIOPEA-P4名義のアルバムまで、ずっと聴き親しんで来た。

『CASIOPEA LIVE』(写真左)。 1985年4月27日、東京・両国国技館でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、野呂一生 (el-g), 向谷実 (key), 櫻井哲夫 (b), 神保彰 (ds)。 第一期カシオペア、伝説の4人のライヴ・パフォーマンスの記録。『THUNDER LIVE』、『MINT JAMS』に続く通算3作目のライヴ・アルバム。
 

Casiopea-live

 
このライヴ盤を聴き直すのは久しぶりなのだが、やはり、カシオペアはライヴが良い。独特なテンションを伴った稠密で整った演奏も良いのだが、熱量、疾走感、ダイナミズム溢れるライヴ演奏はさらに良い。櫻井のベース、野呂のエレギ、向井のキーボード、そして、神保のドラム。とにかく、テクニックの「圧」が凄い。そして、フレーズに漂う「歌心」がキャッチー。テクニックとパフォーマンスが、ライヴにて「映えに映える」。

冒頭、ベースのイントロから入る「Down Upbeat」が途方もなく格好良い。6曲目からラストの9曲目まで、「Looking Up」〜「Eyes Of The Mind」〜「Asayake(朝焼け)」〜「Galactic Funk」の怒涛の流れが凄まじい。一糸乱れぬ途方もないバカテク、フレーズに漂うキャッチーな歌心、疾走感とダイナミズム。第一期カシオペアの真骨頂なパフォーマンスが素晴らしい。

この第一期カシオペア、この4人のパフォーマンスが、僕のカシオペアの音の原体験になっている。このライヴ盤に収録された全9曲、カシオペアのベスト盤と捉えても良い、カシオペアの音世界を彷彿とさせる秀曲の数々。これぞ、カシオペアのサウンド、という感じのパフォーマンスの記録。カシオペアのライヴ名盤の一枚です。
 
 

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2024年5月 7日 (火曜日)

アメリカン・カルテットの終焉

聴くたびに思うのだが、キース・ジャレット率いる「アメリカン・カルテット」って何だったんだろう。モードからフリー、スピリチュアルから、アフリカン・ネイティヴなビートから、アーシーでフォーキーなアメリカン・サウンドから、キースのやりたかった音をごった煮にした音世界。キースは一体、何を表現したかったのか。

Keith Jarrett『Eyes of the Heart』(写真)。邦題「心の瞳」。1976年5月、オーストリアのブレゲンツのコルンマクルト劇場でのライヴ録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (p, ss, misc. perc), Dewey Redman (ts, misc. perc), Charlie Haden (b), Paul Motian (ds, perc)。

キースの「アメリカン・カルテット」の最後のライヴ録音盤である。ECMでのスタジオ録音盤の『The Survivors' Suite(邦題:残氓)』の録音の一ヶ月後のライヴ録音になる。このスタジオ録音盤の「The Survivors' Suite」の充実度から期待値が高まるライヴ盤だが、たった一ヶ月で雰囲気はガラッと変わっている。

このライヴ盤の冒頭、妖し気な雰囲気のアフリカンなパーカッションから始まり、そのパーカッションのビートに乗って、レッドマンのテナー・ソロが始まる。レッドマンらしからぬ、耽美的でメロディアスでノーマルな展開のテナーが沁みる。キースは感動を示すうめき声を出す。すると、レッドマンはソロを終えるといなくなってしまう。

しかし、ここから、キース、ヘイデン、モチアンの極上のトリオ演奏が始まる。レッドマンの存在の有無に関係なく、明らかにキース独特の音世界を色濃く宿したトリオ演奏が展開される。このトリオ演奏がなかなか秀逸で、後のスタンダーズ・トリオの音世界を想起させる素晴らしさ。
 

Keith-jarretteyes-of-the-heart

 
この「Eyes of the Heart」の演奏を聴くと、当時、キースが、カルテット内部で問題を抱えていたことを示唆してくれる。もはや、アメリカン・カルテットのグループ・サウンドとしては成立していない。LP時代の「Eyes of the Heart」の後半、パート2に入って10分が経過しても、レッドマンは帰ってこない。キース・トリオの極上演奏は続く。

そして、レッドマンが帰ってきて、再び、極上のテナー・ソロを吹き上げるが、トリオは意に介することなく、演奏をほどなく終える。ラストは息絶える様に、唐突に「パタリ」と終わる。もはや、聴衆に向けての「聴かせる音楽」の質が明らかに低下している。

そして、ラストの「Encore (a-b-c)」は、8ビートに乗った、アーシーでライトなゴスペルチックな響きを宿した明るい演奏。ここでは、レッドマンがテナー・サックスを吹く中、キースがソプラノ・サックスで乱入。テナーのレッドマンを差し置いて、キースがこれまた極上の、スピリチュアルなソプラノ・サックスを吹きまくる。

レッドマンの立つ瀬がない。レッドマンが割り込んでくるが、キースは意に介さない。レッドマンのテナーはらしくない、耽美的でメロディアスでノーマルな展開のテナーのまま、吹くのをやめる。

このライヴ盤を聴いて、キースが、このアメリカン・カルテットでやりたかったのは、「キースの考えるスピリチュアル・ジャズ」では無かったのか。そして、それは、レッドマンの考えるスピリチュアル・ジャズでは無かった。

ものこのライヴ盤のセッションの中では、レッドマンの居場所は無かった。キースとしても、自分の目指すスピリチュアル・ジャズに追従しないテナー・マンと一緒に演奏する訳にはいかない。

このライヴ盤のセッションでは、アメリカン・カルテットは既に終わっている。恐らく、前作『The Survivors' Suite(邦題:残氓)』を録音した時点で終わっていたのだろう。もはや、このライヴ盤には、キースのアメリカン・カルテットの残骸しか残っていない様に感じる。但し、演奏内容は充実している。キースの次なるステップを暗示する音がそこかしこに漂っている。
 
 

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2024年5月 6日 (月曜日)

アメリカン・カルテットの「陽」

今までのキースのアメリカン・カルテットの評価って、どうなんだろう、と思うことがある。同一日、同一メンバーによる2枚のアルバム、『Death and the Flower』と『Back Hand』。

『Death and the Flower』は、我が国では大受けで、スイングジャーナルでゴールド・ディスク賞まで受賞している。しかし、『Back Hand』については、全くの低評価。しかし、ちゃんと聴いて見ると、『Back Hand』も十分に内容のある秀作だと僕は思っている。

Keith Jarrett『Back Hand』(写真左)。1974年10月9–10日の録音。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (p, fl, perc), Dewey Redman (ts, musette, perc), Charlie Haden (b), Paul Motian (ds, perc), Guilherme Franco (perc)。キースのアメリカン・カルテットの6枚目のアルバムになる。

冒頭「Inflight」。アーシーなキースの個性全開。アーシーでアフリカンなフレーズを振り撒いて疾走するキースのピアノ。それに追従する、これまた疾走感溢れるモーダルなレッドマンのテナー。そんな疾走するフロントの音のベースを抑え、リズム&ビートをキープする、ヘイデンのベースとモチアンのドラム。

自由度の限りなく高いモーダルな熱い演奏が繰り広げられるのだが、途中から、徐々にフリーに傾いていく。フリーの突入するのかな、と思いきや、また、自由度の限りなく高いモーダルな熱い演奏に戻る。全編、疾走感溢れる演奏に圧倒される。キースのアメリカン・カルテットの真骨頂。

2曲目の「Kuum」では、雰囲気はガラッと変わって、キースの吹くフルートがフリーな唸りをあげ、アフリカンなパーカッションが入っていたと思いきや、今度はレッドマンの吹くミュゼット(17世紀から18世紀にかけてフランスの貴族階級の間で大流行したバグパイプ)が怪しい音色とフレーズでフリーな演奏に参入する。バックのリズム&ビートは、アフリカン・ネイティヴなパーカッションの響き。キースのアメリカン・カルテットでしか聴けない音世界。
 

Keith-jarrettback-hand

 
3曲目の「Vapallia」は、自由度の限りなく高いモーダルなバラード。キースのピアノとレッドマンのテナーが織りなすインタープレイが美しい。極上の耽美的でリリカルでスピリチュアルなフレーズの応酬は、聴いていて惚れ惚れする。この透明度の高いキースのピアノって、どちらかと言えば、ヨーロピアン・カルテット仕様の様な気がする。

ラストのタイトル曲「Back Hand」は、8ビートに乗って、キース流のジャズロック風。根明な躍動感溢れるリズム&ビートに乗って、キースのピアノがどこか少しファンキーに根明に、アメリカンで陽気なジャンプ風のフレーズを弾き進めていく。キースのイメージネーション豊かな長尺のアドリブ展開が見事。

バックでヘイデンの捻れたウォーキング・ベースが唸りをあげている。モチアンの自由度の高い、ポリリズミックなドラミングも見事。この演奏もキースのアメリカン・カルテットでしか聴けない、ならでは、の演奏である。

聴き終えて、この『Back Hand』は、キースのアメリカン・カルテットの「陽」の部分、同一日、同一メンバーによる『Death and the Flower』は、キースのアメリカン・カルテットの「陰」の部分。そう、『Back Hand』と『Death and the Flower』と併せて、アメリカン・カルテットの音世界の全貌を捉えることができる。

米国では、この『Back Hand』については、高い評価を与えられている。我が国では評価が低い、もしくは、アメリカン・カルテットの好盤として、そのアルバム・タイトルが挙がっているのを見たことが無い。

「陽」と「陰」、どちらも優劣つけ難い内容のはずなんだが、たまたま2枚のアルバムに分かれただけで、評価が大きく変わるとは不思議なことである。これって、LP2枚組のアルバムでリリースされていたら、『Back Hand』に収録されている演奏について、我が国での評価はどうなっていたのだろう。
 
 

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2024年5月 5日 (日曜日)

モンティの「愛のプレリュード」

Monty Alexander(モンティ・アレキサンダー)。1944年6月6日生まれ。ジャマイカ系アメリカ人のジャズ・ピアニストである。ジャズ・ピアニストのスタイルとしては オスカー・ピーターソンの直系とされる。テクニック抜群、力強いタッチ、スケールの大きい弾きっぷり、下世話な位判り易い展開。さしずめ「細めのピーターソン」といったところだろうか。

鑑賞に耐えるレベルで止まってはいるが、笑える位にピアノを饒舌に弾きまくる。恐らく、ピアノ・トリオの代表的名盤を輩出したピアニストの中では、かなりの饒舌の部類、というか、一番饒舌ではないかと思う。が、ジャマイカ生まれというルーツの影響か、モンティのピアノには、カリビアンな心地良いフレーズと明るいスウィング感が同居していて、饒舌な弾き回しに聴きやすさ、楽しみやすさをプラスしている。

Monty Alexander『We've Only Just Begun』(写真)。1971年12月1日、NYでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Monty Alexander (p), Eugene Wright (b), Bobby Durham (ds)。

モンティの7枚目のリーダー作。MPSレーベルに移籍しての第一弾。ベースにブルーベック・カルテットで活躍していたユージン・ライト、ドラムに、ピーターソン・トリオで活躍していたボビー・ダーハム。さすが、MPSレーベルの下での、充実のパーソネルである。

冒頭の有名スタンダード曲「It Could Happen To You」のモンティのスピード感溢れる弾き回しに、一瞬、唖然とする。冒頭部分だけ、有名スタンダードのメロディーの引用があるのだが、ピアノの低音の打鍵を合図(?)にトリオが疾走する。豪快にダイナミックにスイングするモンティのピアノ。ピーターソンもビックリの迫力。
 

Monty-alexanderweve-only-just-begun

 
面白いのは、バリバリ弾きまくって3分ほど、急に、マイルスの有名曲「マイルストーンズ」の引用が始まり、演奏全体がモード・ジャズに早変わり。そして、このモーダルな展開においても、淀みのない、バリバリとモーダルなフレーズを弾きまくるモンティ。この疾走感溢れるモーダルな弾き回しについては、他に追従を許さない、饒舌な弾き回しのモンティの真骨頂。

4曲目のタイトル曲「We've Only Just Begun」は、邦題「愛のプレリュード」。カーペンターズのヒット曲で有名なんですが、冒頭、スローなピアノのみのイントロが続き、お馴染みのフレーズが出てこない。テンポが上がって、疾走感溢れるビートは陽気なボサノバ。

そして、やっと、お馴染みのフレーズが出てくるのですが、もう原曲のしっとりとしたバラード・チックな雰囲気の微塵も無い。陽気な疾走感溢れるビートに乗った「愛のプレリュード」(笑)。アドリブに入ると、モンティの豪快だが陽気で爽快感溢れる弾き回しが清々しい。

ラストにヘンリー・マンシーニ作曲の「Love Story Theme」、邦題「ある愛の詩」が、ボサノヴァ・ビートに乗って演奏されているのもユニーク。この甘々のマイナーなバラード曲、ジャズ化すると、皆、ほとんど「コケる」のですが、このモンティ・トリオの演奏は意外と純ジャズ化されている。特に、原曲のコード進行をしっかり踏まえつつ、アドリブ展開するモンティのいマージネーションとテクニックには感心する。

モンティのピアノの個性と特徴をしっかり捉えた好盤。MPSレーベルからのリリースだからか、音も良い。エンターテインメント優先なモンティのピアノなので、我が国では一部では「ゲテモノ扱い」されているが、素性はしっかりした、バップなピアノの弾き手である。タッチも良好、歌心も良好。モンティ・アレキサンダー再評価である。
 
 

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2024年5月 4日 (土曜日)

Azymuth『Light As A Feather』

ブラジリアン・フュージョンの雄、未だに愛され続ける人気グループ「アジムス」。現代においても、レアグルーヴ、サイケ、ヒップホップなど様々なシーンからリスペクトされている唯一無二の音世界。ソフト&メロウなフレーズに、スペーシーな音の広がりとサイケデリックなブレイクダウン、ライトなファンクネスを忍ばせつつ、しなやかでソリッドにうねるようなグルーヴは独特の個性。

Azymuth『Light As A Feather』(写真左)。1979年の作品。ちなみにパーソネルは、José Roberto Bertrami (key, syn, vo,perc), Alex Malheiros (b, g, vo), Ivan Conti (Mamão) (ds, syn), Aleuda (perc)。オリジナル・メンバーのトリオ+パーカッションの編成。アジムスがワールド・ワイド契約締結の下、米国音楽シーンに進出した記念すべきアルバムである。

爽快感、軽快感溢れる、ブラジリアンな8ビートのグルーヴ感が独特の感覚。このグルーヴ感が「アジムス」の独特の個性だった訳だが、米国進出に向けて、ブラジリアンな雰囲気を少し後退させて、当時流行の米国フュージョン・ジャズの味付け「ソフト&メロウ」な面を明快に前面に押し出している。かつ、シンセサイザーを活かしたギミックなビート音を含め、リズム&ビートもしっかりとメリハリを付けている印象。
 

Azymuthlight-as-a-feather
 

それでも、アジムスの基本的な音世界はしっかりとキープされていて、ソフト&メロウなフュージョン・ジャズ独特の音作りのバックで、スペーシーな音の広がり、ライトなファンクネスを忍ばせつつ、しなやかでソリッドにうねるようなグルーヴを醸し出した音世界は「アジムスの独壇場」である。シンセのギミックな使い方は明らかに米国向け仕様。どこか懐かしい響きが愛おしい(笑)。

どの曲もオールドなフュージョン・ジャズ者の我々にとっては印象的なものばかりだが、やはり、まずは4曲目の「Fly Over The Horizon = Vôo Sobre O Horizonte」だろう。1977年の作品の、Azymuth『Aguia Não Come Mosca』に収録されていたものの米国向け再録音版なのだが、これが一番印象的。なぜなら、当時のNHKのクロスオーバーイレブンのオープニングで流れていた「あの曲」なのだ。どっぷりと懐かしさに浸れる名曲・名演である。

6曲目の「Jazz Carnival」は、ワールドワイドなヒットとなったディスコ・フュージョン曲。これもまた懐かしい。この辺りは「ブラジリアン・ジャズ・ファンク」の名盤としても評価できる切り口だろう。

懐かしさが先行する Azymuth『Light As A Feather』だが、今の耳にもしっかりと訴求する、聴き直して新しい音の発見もあるフュージョン・ジャズの名盤。これだけ、筋が一本通った、意外と硬派な音作りのフュージョン・ジャズはそうそう無い。フュージョン・ジャズを語る上で、避けて通れない名盤として僕は評価している。
 
 

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2024年5月 3日 (金曜日)

最後の録音リアタイのリーダー作

『The Flip』のリリースにて、ブルーノートを離れたハンク・モブレー。『The Flip』の録音は1969年7月12日。それから2年7か月、モブレーは短命のコブルストーン・レーベルにリーダー作を吹き込む。しかし、このリーダー作が、録音リアルタイムでリリースされた最後のモブレーのリーダー作になってしまった。

Hank Mobley『Breakthrough!』(写真)。1972年2月22日の録音。ちなみにパーソネルは、Hank Mobley (ts), Charles Davis (ss, bs), Cedar Walton (p, el-p), Sam Jones (b), Billy Higgins (ds)。リーダーのモブレーのテナーと、デイヴィスのソプラノ&バリトン・サックスの2管フロント。バックは、ウォルトンのピアノ、ジョーンズのベース、非銀子のドラムの当時、流行のど真ん中を行く活きの良いリズム・セクション。

まず、このリーダー作は全編、ハードバップで埋められている。それも、1972年という、その時代の音楽背景を踏まえたハードバップ。ロックやソウルの台頭に煽られた、ポップで根明な、聴いてノリが良く判り易いハードバップ。しかも、全6曲中、ブルーノート時代は作曲の優れた才能を活かして、アルバム全曲中、ほぼモブレーの自作曲で埋められていたのに、この盤では、モブレーの自作曲は2曲のみ。収録曲から感じるモブレーの個性はグッと薄まった。
 

Hank-mobleybreakthrough

 
しかも、ブルーノート時代の後半、必ず冒頭を飾っていた「ジャズ・ロック」な曲は見当たらない。やはり、ブルーノート時代の後半のモブレーのジャズロック曲は、アルバムの売り上げを目論み、ジャズ人気の維持を狙ったものだったのだろう。しかし、ブルーノートを離れて、モブレーはジャズロックには手を染めていない。

モブレーのテナーはストレートに、軽くモーダルに、ハードバップなフレーズを吹きまくる。バックのリズム・セクションは、ウォルトンのピアノがモーダルな展開でバッキングしているのだが、モブレーは気にかけず、ハードバップ時代のコード展開に則ったアドリブ展開で吹きまくる。やはりモブレーの本質はハードバップだったのだろう。従前の中音域中心の歌心溢れる流麗な、基本モーダルなフレーズは全く変わっていない。

迫力あるモブレーのブロウと、ウォルトンのモーダルなピアノが魅力の佳作。まだまだ元気なモブレーだが、この盤を最後に、録音リアルタイムのリーダー作のリリースは途絶える。ヘビースモーカーだったモブレーは肺に問題を抱え(テナー奏者としては致命的)、1970年代半ばに引退を余儀なくされる。加えて、引退後はホームレスの問題も抱えることになる。そして、1986年5月30日、肺炎にて55歳で逝去する。あまりに早過ぎる逝去であった。
 
 

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2024年5月 2日 (木曜日)

モブレーのブルーノート最終作

ブルーノートでの初リーダー作が、1955年3月録音のブルーノートの5066番『Hank Mobley Quartet』。以来14年間で、録音リアルタイムでリリースされたリーダー作が17枚。ほぼ1年に一枚のペースでリーダー作をリリースし、サイドマンでの参加も多数。今回、ご紹介するアルバムは、ブルーノートのハウス・テナー奏者の位置付けだったモブレーのブルーノート最終作である。

Hank Mobley『The Flip』(写真左)。1969年7月12日の録音。ブルーノートの4329番。ちなみにパーソネルは、Hank Mobley (ts), Dizzy Reece (tp), Slide Hampton (tb), Vince Benedetti (p), Alby Cullaz (b), Philly Joe Jones (ds)。モブレーのテナー、リースのトランペット、ハンプトンのトロンボーンが3管フロントのセクステット編成。

パーソネルを見ると面白い。フロントが、モブレーのテナー、リースのトランペット、ハンプトンのトロンボーン。ハードバップ時代を彩った一流ジャズマンが大集合。加えて、ドラムがこれまたハードバップ時代のファースト・コール・ドラマーのフィリー・ジョー・ジョーンズ。ピアノとベースはちょっと無名の人たちだが、今回のパーソネルは「ハードバップ同窓会」の趣である。

内容を聴いてみると、収録曲の曲調の展開は、1965年リリース『The Turnaround!』から続いてきた、冒頭の1曲目はコッテコテのジャズロック、2局目以降は根明でポップなハードバップ、という収録曲の並びの傾向は変わらない。
 

Hank-mobleythe-flip

 
冒頭の「The Flip」はジャズロック志向。モブレーのテナー、リースのトランペット、ハンプトンのトロンボーンのフロント3管が、ピンプルで判り易い「熱い」パフォーマンスを繰り広げている。フィリー・ジョーのドラミングが、ジャズロック志向の演奏をハードバップに染め直している。ジャズロック志向のハードバップ・ナンバーと聴いても良いかもしれない。

2局目「Feelin' Folksy」、4局目「18th Hole」、ラストの「Early Morning Stroll」は、根明でポップなハードバップではあるが、明るい曲調のアレンジの中、フロント3管のパフォーマンスは、モードの影も形もない、あくまでハードバップ。モブレーのテナーもこの盤では、モード風のアドリブ展開を封印し、リースのトランペット、ハンプトンのトロンボーンと足並みを合わせる様に、硬派でハードバップなアドリブを展開している。

3曲目の「Snappin' Out」は、ジャジーなマイナー・コード+ラテン調で演奏されるボサノバ・ジャズな演奏。冒頭のジャズロック志向と同じ、ロックやソウル・ファン向けに迎合したコマーシャルな曲かと思いきや、この曲でもフィリー・ジョーのドラミングがハードバップしていて、硬派なブルーノート仕様のボサノバ・ジャズに仕上げている。

このセッションでモブレーはブルーノートを離れることになる。ブルーノート最後のリーダー作は、ハードバップ懐古な内容。但し、懐メロでは無い。昔のパフォーマンスをなぞることもない。あくまで、1969年時点での最新イメージのハードバップ。

特に、フィリー・ジョーのドラムが効いている。モブレーは、従前からの中音域中心の歌心溢れる流麗な、ハードバップなテナーをブイブイ言わせている。1969年という時代背景をしっかり反映した、良質のハードバップ演奏がこの盤に詰まっている。好盤です。
 
 

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2024年5月 1日 (水曜日)

ジャズのポップ化を硬派に進める

確か、1965年リリースの『The Turnaround!』から、ジャズロックに手を染め出したモブレー。ジャズロックに加えて、ポップなハードバップにも取り組み出したモブレー。巷では、硬派なジャズ者の方々中心に「軟弱なモブレー」「ダサいモブレー」などと、すこぶる評判がよろしくない。

しかし、モブレーは、ロックやソウルを意識したクロスオーバーなジャズに適応することでジャズ人気を維持する為、「コッテコテのジャズロック」と「根明でポップなハードバップ」に音楽性の舵を切った。しかし、モブレーのサックスのパフォーマンスについては、従前の中音域中心の歌心溢れる流麗な、基本モーダルなフレーズは変わらない。

ジャズロックに加えて、ポップなハードバップに取り組むモブレーを聴いて、商業主義に身を売ったとか、俗っぽくなったとか言われるが、それは作曲とアレンジ面の切り口であって、モブレーのテナー奏者としてスタイルは変わっていない。そう意味では、モブレーは生涯、ブレの無いテナー奏者だったと言える。

Hank Mobley『Reach Out!』(写真左)。1968年1月19日の録音。ちなみにパーソネルは、ちなみにパーソネルは、Hank Mobley (ts), Woody Shaw (tp, flh), George Benson (g), LaMont Johnson (p), Bob Cranshaw (b), Billy Higgins (ds)。フロントに、モブレーのテナーに加えて、若きウッディ・ショウのトランペットとジョージ・ベンソンのギターが入っている。

1曲目のタイトル曲『Reach Out I'll Be There』は、R&Bグループ 'Four Tops" のヒット曲のカバー。4曲目「Goin' Out of My Head」は、Little Anthony & The Imperialsのヒット曲のカバー。
 

Hank-mobleyreach-out

 
いわゆるソウル・ミュージックの人気曲のカバーで、アレンジはコッテコテのジャズロック。どちらの曲もアレンジはポップでクールでヒップ。バリバリのモダン・ジャズでは無いが、意外と硬派で一本筋の通ったパフォーマンスは、決してポップなイージーリスニングなどでは無い。

モブレーのソロは、ソウル・ミュージックのカバーにしては意外と硬派。判りやすさを前提にした、シンプル過ぎるフレーズがメインだが、どこかモーダルな展開を忍ばしていて、普通のジャズロックにおけるアドリブ展開のフレーズとは響きと流れが全く異なっている。加えて、ぶっ飛んだ弾きまくりなベンソンのギター・ソロも、そんなモブレーに追従し、同じく、どこかモーダルな展開を忍ばしていて、聴いていてなかなかに興味深い。ブリリアントなショウのトランペットも同様で、その辺りはバンド全体として統一感がある。

カバーの2曲以外のモブレーの自作曲「Up, Over and Out」「Lookin' East」「Good Pickin's」の演奏がなかなか硬派でハードバップな演奏。アレンジが「根明でポップ」な分、誤解され易いのだが、バンド全体、かなり「イケてる」ハードバップをやっている。モブレーのテナー、ベンソンのギター、ショウのトランペット、フロント隊のフレーズは切れ味、疾走感良く、ポップでモードな展開でアドリブを突き進む。

そして、バックのリズム・セクションも意外と好調。ジョンソンのピアノは「根明でポップ」で歯切れ良く、クランショウのベースは「根明でファンキー」、ヒギンスのドラムは躍動感溢れる、「根明で柔軟なリズム&ビート」を叩き出す。このセッションのフロント隊の雰囲気にピッタリの意外とご機嫌なリズム・セクションである。

「コッテコテのジャズロック」と「根明でポップなハードバップ」路線を突き進むモブレーだが、聴きやすさ、親しみやすさ優先ではあるが、アドリブ展開など、硬派に一本筋が通っていて、決して軟弱なジャズには陥っていない、と僕は思う。そして、アレンジも「根明でポップ」な分、誤解され易いのだが、爽快感と疾走感溢れる良好なアレンジで、決してダサいジャズには陥っていない、と僕は思う。
 
 

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