名盤 『スペシャル•エディション』
歴代のファースト・コールなドラマーのレジェンドの一人、ジャック・ディジョネット。ディジョネットもリーダーとして優れたリーダー作を多数リリースしている。
ディジョネットのドラミングは「ポリリズム」。ファンクネスはかなり控えめで、品が良く切れ味の良い、クールなポリリズムが身上。1969年、帝王マイルスがディジョネットを見初めて、「ロスト・クインテット」でドラムを叩いたが、ツアーに出るのが嫌で、マイルスの許を辞した。それでいて、1983年、キース・ジャレットの下で「スタンダーズ」に参加。1985年からはツアーに出るのだから、意外とディジョネットは現金である。
ファンクネスはかなり控えめで、品が良く切れ味の良い、クールなポリリズムが身上なので、どちらかと言えば「欧州ジャズ」向けのドラミング。ということで、1976年に「ディレクションズ」というバンドを組んで、ECMデビュー。ECM
ではハウス・ドラマー的立場で、様々なジャズマンのリーダー作のサイドマンを務めている。
Jack DeJohnette 『Special Edition』(写真左)。1979年3月の録音。ちなみにパーソネルは、Jack DeJohnette (ds, p, melodica), David Murray (ts, b-cl), Arthur Blythe (as), Peter "Slip" Warren (b, cello)。デヴィッド・マレイのテナー・サックス、アーサー・ブライスのアルト・サックスの2管フロント、基本はピアノレスのカルテット編成。
サックス奏者デイヴィッド・マレイとアーサー・ブライスの才能を広く世に知らしめることになったディジョネットの「スペシャル・エディション」の初アルバム。79年3月、ニューヨークでの録音。アルバム・プロデューサーにはもちろんアイヒャーがクレジットされているが、実質、リーダーのディジョネットがプロデュースの凡そを担当していると思われる。
なぜなら、スペシャル・エディションの音は「ECMらしからぬ」音だからである。音としては、米国の限りなく自由度の高いモード・ジャズからスピリチュアル・ジャズ。フリーやアヴァンギャルドに傾くこともあり、欧州ジャズの個性の一つ、耽美的で透明度の高い音の要素はほぼ無い。ただし、録音は「ECMエコー」たっぷりの、どこから聴いてもECMジャズ。
冒頭の「One for Eric」は、エリック・ドルフィーのオマージュ的な演奏なんだが、この「エリック・ドルフィー」がこのアルバムのキーワードだと僕は睨んでいる。若手の優れものサックス奏者、マレイとブライスは、全編、限りなく自由度の高いモード・ジャズからスピリチュアル・ジャズ、時々フリーやアヴァンギャルドな演奏に終始するのだが、全曲、どこか、ドルフィーの音のニュアンスが見え隠れする。
ドルフィーのパフォーマンス、ドルフィーとコルトレーンのパフォーマンス、それらを1979年の時期にマレイとブライスがやる。「俺たちがやったらこんなに格好良く、切れ味良く、クールにやるぜ」なんていう、二人の心の声が聞こえてきそうな、硬軟自在、変幻自在、緩急自在なモーダルなパフォーマンス。
そんな若手の優れものサックス奏者達の「至芸」を聴いてくれ、と言わんばかりに、ディジョネットのドラミングは効果的にフロント2管を鼓舞し、効果的にサポートする。このアルバムでの、フロント2管の優れたパフォーマンスは、ディジョネットのドラミングに負うところが大きいと僕は感じている。
そして、そんなマレイとブライス、ディジョネットの「硬軟自在、変幻自在、緩急自在なモーダルなパフォーマンス」の底をガッチリ支えているのが、ピーター・ウォーレンのベース。ソロ演奏も良い出来だが、とにかく素晴らしいのはバッキング。ディジョネットがポリリズミックに自由にドラミングする中で、ウォーレンはリズム&ビートの「根っこ」をしっかりと押さえている。
素晴らしいメンバーでの、素晴らしいカルテット演奏。米国ジャズの様に熱くない、欧州ジャズ的に切れ味良くクールな「限りなく自由度の高いモード・ジャズからスピリチュアル・ジャズ、時々フリーやアヴァンギャルドな演奏」。唯一無二なモーダルなパフォーマンスは、やはりECMレーベルの下だからこそ出来た「音世界」なのだろう。今の耳で聴いても、新鮮な展開、新鮮な響き。名盤です。
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