出揃う「コルトレーンの音」の基本
コルトレーンは、1964年辺りから、モード・ジャズから、急速にフリー・ジャズ、そして、スピリチュアル・ジャズへと進化を遂げていった。1965年リリースのリーダー作には、もはやハードバップの欠片も無い。
それでも、ハードバップ時代の、ハードバップな吹奏のコルトレーンは絶品だった訳で、聴き手側からのニーズとして、「鑑賞音楽」としてハードバップなコルトレーンが聴きたい、というのは、いつの時代も聴き手からの共通のニーズだった。
John Coltrane 『Coltrane's Sound』(写真左)。1960年10月24 & 26日の録音。ちなみにパーソネルは、John Coltrane (ts, ss), McCoy Tyner (p), Steve Davis (b), Elvin Jones (ds)。今回聴いたのアルバムは、CDリイシュー時のボードラは除いて、オリジナルLPに準じたCDでの収録曲のみのバージョンになる。
ベースはスティーヴ・デイヴィスで、伝説のカルテットの一歩手前の陣容。それでも、この盤でのリズム・セクションは、コルトレーンの個性にバッチリ合っている。
この盤は1960年10月の録音。他に『Coltrane Plays the Blues』や『My Favorite Things』も同時期に録音している。この時期のコルトレーンは、6〜7月にドン・チェリーと『The Avant-Garde』を録音した反動からか、モード・ジャズと新しい楽器ソプラノ・サックスの「鍛錬」の時期。
演奏曲の曲調・曲想は、従来のハードバップ寄り。それでも、要所要所にモーダルなフレーズを織り込み、シーツ・オブ・サウンドをかましつつ、エキゾチックな音色のソプラノを試奏する。決して、過去のハードバップに依存しない、鍛錬〜進歩するコルトレーンを捉えている。
実はこの盤、他のアトランティック盤の中では地味な扱いをされてきた。この不気味なジャケが良くなかったのかもしれない。しかし、収録されたスタンダード曲も、コルトレーンの自作曲も演奏内容がとても良い。
まず、スタンダード曲の冒頭「The Night Has a Thousand Eyes」。邦題「夜は千の眼を持つ」。略称「ヨルセン」。モーダル中心の速いフレーズで、快調に飛ばすコルトレーン。従来のハードバップなアレンジに比べて、格段に自由度が高く、疾走感が溢れている。速いテンポのモーダルな吹奏はほぼ完成の域に達している、と感じる。
4曲目のスタンダード曲「Body and Soul」、邦題「身も心も」。バラードの新しい解釈〜アレンジが良い。コルトレーンのバラード吹奏はどれもが素晴らしい。この曲もその例に漏れず、素晴らしいの一言。タイナーのピアノも良い味を出している。コルトレーンのバラード吹奏は、バンド・サウンドとしても完全に「完成」している。
コルトレーンの自作曲も良い。2曲目の「Central Park West」。コルトレーンらしくない不思議な吹奏。ちょっとミステリアスにクールに吹き上げるコルトレーン。3曲目の「Liberia」は、ユニークで硬派なモーダル・チューン。速弾きモーダルな吹奏で、コルトレーンらしく、ちょっと捻れたフレーズ。ストップ&ゴーのアレンジも格好良い。
ラス前の「Equinox」はブルース。コルトレーンらしくストレートな調子のブルースで、粘っこくない。新しい感覚のブルース。ラストの「Satellite」はピアノレスのトリオでの演奏だが、コルトレーンが相当転調しながら、コルトレーン独特の捻れたフレーズを粛々とストレートに吹きまくる。
タイトルを直訳すると「コルトレーンの音」。この後、フリー・ジャズからスピリチュアル・ジャズに身を投じていくコルトレーンだが、「コルトレーンの音」の基本は、この『Coltrane's Sound』に、ほぼ完成したイメージで出揃っているのではないか、と感じている。振り返れば、コルトレーンの音を再確認したい時、確かによくこの盤を選んでいる。言い換えると一番「コルトレーンらしさが記録された」盤だと僕は思っている。
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