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2024年4月30日 (火曜日)

「モブレーのジャズ」のポップ化

ハンク・モブレーは、ハードバップ・ジャズの中では中堅をなすテナーマンで、その歌心溢れるテナーで人気のジャズマンである。初期の頃は、バリバリのハード・バップを演っていたが、 1960年代に入ると、ジャズ・ロックやモード・ジャズの時流に乗って、ジャズ・ロックあり、ボサノバあり、モード・ジャズあり、と変幻自在の演奏を繰り広げるようになる。

Hank Mobley『Hi Voltage』(写真左)。1967年10月9日の録音。ブルーノートの4273番。ちなみにパーソネルは、Hank Mobley (ts), Jackie McLean (as), Blue Mitchell (tp), John Hicks (p), Bob Cranshaw (b), Billy Higgins (ds)。

リーダーのモブレーのテナー、マクリーンのアルト、ミッチェルのトランペットがフロント3管の重厚なセクステット編成。なお、この盤では、アルフレッド・ライオンが引退し、プロデューサーがフランシス・ウルフに交代している。

1965年リリースの『The Turnaround!』から、ジャズロックに手を染め出したモブレー。録音年は1967年。ジャズの多様化の時代から、ロックやソウルの台頭から、ジャズ人気が下降線を辿り出した頃。

ロックやソウルを意識したクロスオーバーなジャズに適応して、ジャズ人気を維持する必要があった。モブレーがジャズロックに手を染めたのも、そんな時代の要請からの動きで、仕方のないことだと思っている。

この『Hi Voltage』でも、冒頭の1曲目のタイトル曲「High Voltage」は、コッテコテのジャズロック。2局目以降は、根明でポップなハードバップ、という収録曲の並びの傾向は『The Turnaround!』から変わっていない。

「High Voltage」はジャズロック・ナンバー。若きリズム隊が8ビートに乗りに乗る。ヒックスのピアノは躍動感溢れ、ヒギンスのドラミングは熱気をはらむ。そんなリズム&ビートに乗って、まず、ファンキーなトランペットのミッチェルがノリノリで吹きまくる。
 

Hank-mobleyhi-voltage

 
マクリーンはちょっとピッチの外れた独特の音色で、8ビートに関係なく、エモーショナルなアドリブ・フレーズを吹きまくる。そして、モブレーも、8ビートを気にすることなく、どこかモードに近い、不思議なフレーズのアドリブを展開する。マクリーンとモブレーの存在が、この曲を完璧なジャズロックにしていない。不思議なジャズロック・ナンバーに仕上がっている。

2曲目以降は根明でポップなハードバップなナンバーがずらりと並ぶ。ハードバップといっても、モブレーのテナーのアドリブ展開は、モード風の吹き回しが主体で、根明でポップなモーダルなナンバー、と言い換えても良いかもしれない。根明でポップな曲調なので、聴き始めはモード・ジャズな感じがしないのだが、モブレーのソロが出てくると、これってモードとちゃう? と思って聴いている。

3局目のモブレー作の美しいバラード曲「No More Goodbyes」でも、どこかポップな雰囲気色濃く、モブレーのフレーズは、実にシンプルで平易で判り易い。ハードバップ全盛期の新しいフレーズや表現方法への挑戦、創意工夫な面は全く無い。悪く言えば「イージーリスニング風」。聴き易いジャズ、という観点では、10年後のフュージョン・ジャズの「ソフト&メロウ」を先取りしていた、とも言える。

5曲目の「Bossa De Luxe」はモブレー作のボサノバ・ジャズなナンバー。これは先にリリースしてヒットした「Recado Bossa Nova」の二番煎じ。但し、この曲はモブレーの自作で、曲の内容はなかなかのもの。作曲能力に長けるモブレーの面目躍如である。

この『Hi Voltage』は『The Turnaround!』からの流れを汲む、モブレーのジャズの「ポップ化」の延長線上にあって、バラエティに富んだ曲が並んだ、バランスの取れた内容のアルバムになっている。

聴き易いフレーズを採用し、当時の流行のロックやソウルの雰囲気を取り込んで親近感を覚えてもらいたい、という、「モブレーの考えるジャズのポップ化」の成果がこの盤に詰まっている様に僕は感じる。
 
 

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