『Coltrane Plays the Blues』 です。
以前から、コルトレーンは意外と「聴き手」のことは気にしていない様に感じている。バラード表現にしろ、シーツ・オブ・サウンドにしろ、モード・ジャズにしろ、どれもがコルトレーンが独自に考え出した「コルトレーン流」の表現であり、「コルトレーン流」の奏法であり、そのコルトレーン流の表現や奏法について、自らの「鍛錬」を最優先にリーダー作を吹き込んでいたふしがある。
『Giant Steps』は、コードチェンジとシーツ・オブ・サウンドを多用して、従来のコード奏法の限界を示した訳だが、聴き手のみならず、共演のジャズマンをも置き去りにして、コルレーンはシーツ・オブ・サウンドの「鍛錬」に勤しんだ。『My Favorite Things』では、ソプラノ・サックスの吹奏の「鍛錬」、『The Avant-Gard』では、先達のドン・チェリーと共演し、フリー・ジャズとアバンギャルド・ジャズの「鍛錬」。
『Coltrane Jazz』と『Coltrane's Sound』は、スタンダード曲を織り交ぜた、聞き手に寄り添った雰囲気のアルバムだが、それでも、モード・ジャズとシーツ・オブ・サウンドの「鍛錬」をしたたかに織り込んでいる。こうやって振り返ってみると、コルトレーンの「アトランティック・レコード」の時代って、自らの「鍛錬」のセッションの記録がメイン。コルトレーンって、聴き手どころか、レコード会社の意向(レコードの売上など)も気にしていなかった様だなあ。
John Coltrane『Coltrane Plays the Blues』(写真左)。1960年10月24日の録音。ちなみにパーソネルは、John Coltrane (ss, ts), McCoy Tyner (p), Steve Davis (b), Elvin Jones (ds)。ベースはスティーヴ・デイヴィスで、伝説のカルテットの一歩手前の陣容。それでも、このリズム・セクションは、コルトレーンの個性にしっかり対応していて、この時点での最高のリズム・セクションだろう。
「コルトレーンがブルースを演奏する」のタイトルから、コルトレーンが聴き手に寄り添って、極上のブルース演奏を聴かせてくれるのかな、と思うのだが、まず収録曲のタイトルを見て「これはちゃうな」、収録曲の作曲者を確認して「これは絶対に違う」。聴き手に寄り添う「ブルース集」であるどころか、モード・ジャズとコード・チェンジとシーツ・オブ・サウンドの「鍛錬」の一つとして、ブルース形式の演奏にチャレンジした記録である。
それぞれの曲の演奏を聴くと、マイナーブルースとメジャーブルースの交換とか、何だかかなり複雑なことをしている。詳細は割愛するが、ここでのコルトレーンは、自らの「鍛錬」と合わせて、ジャズのブルース形式の演奏の可能性についての「実験と研究」を進めている様な、学術肌の、もしくは求道僧の様な趣がある。
とにかく、ジャズとしてのブルース形式の演奏の集まりなんだが、それぞれの曲のニュアンスがユニーク。コルトレーンにしか出せないブルース形式の演奏表現で唯一無二。全曲ブルース形式の演奏なのだが、その演奏方法&表現はバラエティーに富んでいる。ブルース形式のジャズ演奏ばかりのアルバムだが、曲ごとにドラスティックな変化があって聴き応えがある。
ちなみに、この盤の全ての曲は1960年10月24日の「夜のセッション」での録音になる。同じ10月24日の「午後のセッション」に『My Favorite Things』の「Summertime」が演奏されているので、このブルース形式のジャズ演奏は『My Favorite Things』のアウトテイク集とされる向きがあるが、これは違う。
10月24日の「午後のセッション」は、スタンダード曲を含めたモード・ジャズの「鍛錬」で占められているが、10月24日の「夜のセッション」は、ブルース形式のジャズとコード・チェンジの「鍛錬」で占められている。「午後のセッション」と「夜のセッション」では演奏のテーマが異なる。この『Coltrane Plays the Blues』は、「午後のセッション」の「Mr. Syms」を除き、「夜のセッション」の演奏で統一されている。
『Coltrane Plays the Blues』は、基本、コルトレーンの考えるブルース形式の演奏の「鍛錬」の記録。しかし、その「鍛錬」の成果の演奏方法&表現がバラエティーに富んでいて、曲ごとにドラスティックな変化があって、意外とコルトレーンの考えるブルース形式の演奏を楽しめる内容になっている。もっと評価されても良い好盤だと思う。
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