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2024年4月 2日 (火曜日)

良好ハードバップなコルトレーン

1959年、プレスティッジ・レーベルから、アトランティック・レーベルに移籍したコルトレーン。移籍後、いきなり『Giant Steps』なる問題作を吹き込む。コルトレーン流のモード・ジャズ、そして、コルトレーンの十八番「シーツ・オブ・サウンド」に本格的に取り組んだセッションの記録。

しかし、コルトレーン流のモード・ジャズとシーツ・オブ・サウンドは、共演するジャズマンをシビアに選ぶ、そして、今までのジャズにほとんど無い位の耳慣れない奏法で、インパクトは大きいが、一般受けは悪かったらしい。アトランティック・レーベルとしては、アルバムの売り上げという点で困惑、次作については、もう少し、一般受けする内容のアルバムを欲したと思われる。

John Coltrane『Coltrane Jazz』(写真左)。1959年11月24日、12月2日、1960年10月21日の4セッションからの寄せ集め。ちなみにパーソネルは、以下の通り。1959年11月24日と12月2日のセッションが、John Coltrane (ts), Wynton Kelly (p), Paul Chambers (b), Jimmy Cobb (ds)。1960年10月21日のセッションが、John Coltrane (ts), McCoy Tyner (p), Steve Davis (b), Elvin Jones (ds)。

1960年10月21日のセッションは、2曲目「Village Blues」のみ。ベースはまだスティーヴ・デイヴィスだが、ピアノはタイナー、ドラムじはエルヴィン、コルトレーンの伝説のカルテット一歩手前のメンバーでの演奏。他の収録曲は、全て、1959年11月24日と12月2日のセッションのメンバーで演奏されている。このセッションのパーソネルは、マイルスの『My Prince Will Come』当時のリズム・セクションをそっくりそのまま借用している。

コルトレーンの個性を活かしつつ、一般受けする内容のアルバムを欲したアトランティック・レーベルの思惑を実現する為のメンバー集めは上手くいっている。軽いモーダルな演奏なら、このメンバーで絶対に大丈夫だし、シーツ・オブ・サウンドを要求しても、しっかり追従してくれそうなメンバーである。
 

Coltrane-jazz

 
そして、収録曲が、他ではあまり取り上げられていないスタンダード曲が3曲、残りの5曲はコルトレーンのオリジナル曲。コルトレーンのオリジナル曲は気を衒っていない、ハードバップの雰囲気を湛えた佳曲揃い。3曲のスタンダード曲と併せて、落ち着いてじっくりと聴くことができる、なかなか考えた選曲をしている。特に、他ではあまり取り上げられていないスタンダード曲3曲の塩素が秀逸。

冒頭「Little Old Lady」は、穏やかでゆったりとしたミッド・テンポの曲調、出てくるコルトレーンの吹奏は、しっかりリラックスした雰囲気で、朗々とブリリアントでストレートにテナーを吹き上げていく。こういう時のコルトレーンは無敵。歌心溢れるテーマの吹奏、そして、余裕のある、素晴らしい展開のアドリブ。ハードバップ・コルトレーンの真骨頂。

3曲目「My Shining Hour」は、軽快なテンポが実に映える。コルトレーンの個性溢れるテナーの吹奏が堪らない。7曲目の「I'll Wait and Pray」は、コルトレーンの「高音でハスキー」な個性的な音色が印象的なバラード。イントロ無しでストレートに吹き上げるコルトレーンは魅力満載。やはり、コルトレーンは、とりわけバラードの吹奏が素晴らしい。

コルトレーンのオリジナル曲も、このスタンダード3曲と並べて、その曲想、雰囲気、演奏内容ともに違和感がない。このアルバムはタイトル通り、ハードバップ時代の最良の「コルトレーン・ジャズ」が詰まっている、と感じる名盤。そういう点で、このアルバムは「レーベルの思惑を実現した」プロデュースの賜物であると言える。

ジャズ者ベテランの方々からすると、チャレンジしない、進化しないコルトレーンはつまらないかもしれないが、僕はこの盤のコルトレーンが好きだ。鑑賞音楽としてのジャズ、として考えると、このコルトレーンは絶対に「アリ」だと思うのだ。チャレンジする、進化するコルトレーンは確かに凄いと思う。でも、ハードバップな通常演奏のコルトレーンもその気になったら凄い。それを証明するセッションの記録である。
 
 

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