マイケルの考えるエレ・ジャズ
マイケル・ブレッカーを聴きたくなった。マイケルが白血病で急逝したのが、2007年1月。57歳の早すぎる逝去だった訳だが、当時、とても驚いた。人生の中間点の50歳を過ぎて、マイケルのテナーには円熟味が増し、スタイル・フレーズ共に、マイケルならではの個性を揺るぎないものにした矢先の逝去だったので、実に残念な思いをしたことを記憶している。
Michael Brecker 『Now You See It... (Now You Don't)』(写真左)。1990年の作品。ちなみにパーソネルは、曲ごとにメンバーを入れ替えて録音しているので、主だったものだけ列挙する。Michael Becker (ts, EWI, key, drum programming), Joey Calderazzo (ac-p), Jim Beard (syn, key), Jon Herington (g), Victor Bailey (b), Jay Anderson (b), Omar Hakim (ds), Adam Nussbaum (ds, cymbals), Don Alias, Milton Cardona, Steve Berrios (perc) etc.
パーソネルを見渡し、プロデュースがドン・グロルニックということから、当時の先端を行く、メイストリーム志向のコンテンポラリーなエレ・ジャズだと予想できる。実際、聴いてみると、確かにこの盤に詰まっている演奏は、パーソネルが曲毎に代わっているとはいえ、硬派でクールな、メイストリーム志向のコンテンポラリーなエレ・ジャズで統一されている。
マイケルは「コルトレーンのフォロワー」と十把一絡げに評価される傾向にあるが、マイケルのテナーはコルトレーンとは全く異なる。ストレートな吹奏はコルトレーンと同じだが、これって、1950年代のハードバップ時代以降、サックスの吹奏は皆、ストレートがスタンダードになっている。これはもはや、モダン・ジャズ・テナーの標準であって、コルトレーンの専売特許ではないだろう。
つまり、ストレートなテナーの吹奏だけを捉えて、コルトレーンの後継とか、コルトレーンの物真似とかと評価するのは違う、ということ。マイケルの音楽性、テナーのフレーズの創りなど、コルトレーンとは全く異なる。この『Now You See It... (Now You Don't)』を聴いても、マイケル独特の個性と才能が良く判る。
この『Now You See It... (Now You Don't)』を聴いていて思うのは、マイケルは、復活後のエレ・マイルスの音楽性に影響を受けていたのではないか、ということ。リズム&ビートが、1980年代エレ・マイルスのリズム&ビートにどこか似ている。ファンクネスの濃度が薄いのと、重量感が軽減されていて、アーバンで洗練されたリズム&ビートだが、どこかエレ・マイルスの雰囲気を感じる。
そういう感覚で、マイケルのテナーのフレーズを聴いていると、どこかマイルス風のところが見え隠れする。マイルスのトランペットから、尖ったところ、切れ味の鋭いところを差し引いて、力感溢れクールではあるが、ソフト&メロウな味付けをしつつ、ブレッカー・ブラザーズ仕込みの、アーバンで乾いたファンクネスを宿したフレーズ。
このリーダー作には、マイケルのやりたかった音世界がぎっしり詰まっている。1作目はワーナー、2-3作目はインパルスと大手レコード会社からのリリースだったので、どこかアルバムの売り上げを気にさせられて、聴き手に迎合している音世界が気になったのだが、今回のリーダー作はGRPに移籍してのリリースなので、マイケルはグロルニックと組んで、やりたいことを存分にやった感じが濃厚。マイケルならではの音世界がこのアルバムに確立されている。
この『Now You See It... (Now You Don't)』を聴いて、マイケルのテナーが、コルトレーンのフォロワー、だとか、コルトレーンの物真似だとか評価する向きは、恐らく、この盤をしっかり聴いていないのだろう。
コブハムのバンドで、ブレッカー兄弟でジャズ・ファンクをブイブイ言わせ、兄弟自ら立ち上げたブレッカー・ブラザーズでフュージョン・ファンクを確立した、力感溢れクールではあるが、ソフト&メロウな味付けをしつつ、アーバンで乾いたファンクネスを宿したマイケルのテナー。
そんなテナーを前面に押し出した、硬派でクールな、メイストリーム志向のコンテンポラリーなエレ・ジャズ。そんなマイケル・ブレッカーの音世界を確立した、内容の濃いリーダー作。秀作です。
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