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2024年3月28日 (木曜日)

ミンガスの名盤 『メキシコの想い出』

ベーシストがリーダーのアルバムは難しい。ベースという楽器自体、リズム&ビートと演奏のベースライン’を供給するのがメインの楽器なので、管楽器などの様に旋律を奏でるのが「得手」ではない。つまり、演奏する旋律をメインに、演奏の個性や特徴を全面に出すのが難しい。

それでも、ベーシストがリーダーのアルバムには、リーダーのベーシストの個性や特徴、テクニックを全面に押し出したアルバムもある。しかし、これは後が続かない。個性や特徴、テクニックを披露したらそれでお終い。次のリーダー作を同じコンセプトで作るわけにはいかない。もう一つのベーシストのリーダー作の傾向としては、そのセッションのリーダーとして、ベーシストの表現したいスタイルや音楽性をバンド全体で表現するというもの。

Charlie Mingus『Tijuana Moods』(写真左)。1957年7月18日と8月6日の録音。邦題『メキシコの想い出』。ちなみにパーソネルは、Charles Mingus (b), Clarence Shaw (tp), Jimmy Knepper (tb), Shafi Hadi (as, ts), Bill Triglia (p), Dannie Richmond (ds), Ysabel Morel (castanets, vo), Frankie Dunlop (perc), Lonne Elder (vo)。

トランペット、トロンボーン、サックスの3管フロントに、リーダーのミンガスをメインとしたピアノ・トリオのリズム・セクションのセクステットがメイン。そこに、ボーカルとパーカッションがゲストとして参加する。

総勢9名編成のバンド・セッションなのだが、とにかく音が分厚い。まるで、ビッグバンドの演奏を音を聴いているよう。そして、音の重ね方が独特。2〜3フレーズ聴いただけで、これはミンガス、と判るくらい特徴のある音の重ね方。この独特の音の重ね方で、ユニゾン&ハーモニー、そして、アンサンブルが奏でられるのだ。もうそこは絶対に「ミンガスの音世界」。このミンガスの音の重ね方が僕は大好きで、ジャズを本格的に聴き始めた頃から、折につけ、ミンガスのリーダー作は耳にしている。
 

Charlie-mingustijuana-moods

 
さて、この盤は、ミンガスがメキシコの都市、ティファナに傷心旅行をした時の経験を基にした楽曲で固めた「企画盤」。冒頭の「Dizzy Moods」の、フラメンコのコード進行を拝借しつつ、ちょっとすっとぼけた、それでいて、硬派で切れ味の良いアンサンブルは、もう既に「ミンガス独特の音世界」。そんなアンサンブルのバックで、ミンガスの重低音ソリッドなベースがブンブン唸りを立てて闊歩する。この1曲だけで、ミンガス・ミュージックここに極まれり、である。

2曲目の『Ysabel's Table Dance』は圧巻。収録時間は10分を超える大作だが、スパニッシュな響きのするカスタネットに続いて、フロント管がミンガス独特のマイナーな哀愁ユニゾン&ハーモニーがスッと入ってきて、ミンガスはフラメンコ・ギターの如く、アコベを重低音よろしく骨太に「掻き鳴らす」。アンサンブルからアドリブまで、バッチリ決まった、むっちゃ格好良い、至高のミンガス・ミュージックの「具現化」である。

全体にエキゾチックな香りを醸し出し、フラメンコのリズムやコード進行を拝借していたり、ミンガス流の「スパニッシュ・モードへの接近」が、このアルバムのそこかしこに感じられて、しかも、そんな音志向をベースにしたミンガスのアレンジも素晴らしいの一言。このミンガスのアレンジがアルバム全体を通じて一貫していて全くブレがない。この盤での、参加メンバーそれぞれのパフォーマンスの統一感は半端ない。

それぞれの楽器をフルフルに鳴らし、基本セクステットの演奏をまるでジャズ・オケの様に、分厚く豊かなアンサンブルで聴かせるアレンジとパフォーマンスは、ミンガス・ミュージックの真骨頂。ミンガス自身も「我が最高の作品」と自評する熱の入ったリーダー作。名盤です。
 
 

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