ハービーの謎『Dis Is da Drum』
ハービー・ハンコックのリーダー作の「落穂拾い」。当ブログでの、ハービーのリーダー作の記事のコンプリートを目指しているのだが、1980年代後半から、ポロポロッと何枚か、記事化されていないリーダー作がある。エレ・ハンコックについては2枚ほどのリーダー作が未記事化。その中の一枚を今回取り上げた。
ハービー・ハンコックは、1963年、マイルスのバンドに抜擢される。マイルスにはモード・ジャズの薫陶を得て大成長。しかし、エレ・マイルスの時代に入った時点で、エレピをアコピの様にしか弾けず(弾かず?)に、いわゆる「クビ」に。しかし、ハービーはマイルスが大好きで、マイルスの「エレ・ファンク」に追従。しかし、マイルスの真似をしたら、マイルスに怒られるので、ハービーは「Q(クインシー・ジョーンズ)」のエレ・ファンクをお手本に、ハービー流のエレ・ファンクで大活躍。
ハービーは、マイルスがそれぞれの時代の最先端で流行っていたジャズの演奏スタイルや、他の音楽ジャンルで流行っていたリズム&ビートをいち早く、ジャズに取り込んでいたのを踏襲して、先に挙げた「Q流のエレ・ファンク」そして「スクラッチ」のジャズ化にいち早く取り組んで、マイルスに大アピール。きっと、ハービーはもう一度、マイルスとやりたかったんやろなあ。でも、それは叶わなかった。
Herbie Hancock『Dis Is da Drum』(写真左)。1994年の作品。ちなみにパーソネルは、曲ごとにメンバーが色々入れ替わっているので、詳細は割愛するが、それぞれの曲で「鍵を握っている」メンバーは、Bill Summers (perc), Wah Wah Watson (g), Wallace Roney (tp), Bennie Maupin (ts), The Real Richie Rich (DJ and scratcher) 等々。そして、かなりの数のパーカッション、そしてボーカル。
リリース当時「ハービーのアフリカン・ネイティヴなビート、ヒップホップのビートのジャズ化」として、先進的なエレ・ジャズとして、相当にチヤホヤ好意的に受け入れられていた思い出がある。が、自分には、どうにも以前聴いたことのある、既出の「エレ・ファンク」に聴こえて、どうにも困ったことを覚えている。
既に1970年代から80年代前半で、ハービーのエレ・ファンクは「Q流のエレ・ファンク」なスタイルで確立されている。しかも、以前に「スクラッチ」を取り入れたエレ・ファンクでスベった実績があるので、今回、スクラッチの代わりに「ヒップホップ」を取り入れたのは、ちょっと無理筋だった様な気がしている。
冷静にこの盤に詰まっている「エレ・ファンク」を聴き直してみると悪くはない。水準以上である。しかし、アフリカン・ネイティヴなビートやヒップホップのビートを取り込んだことによる「化学反応」はあまり感じられない。どっちかと言えば、マイルスの「ビッチェズ・ブリュー」のリズム&ビートを洗練しクールにしたイメージで、それぞれのトラックに流れるリズム&ビートは、どちらかと言えば「温故知新」的な感じがする。
その「温故知新」な感じは、「マイルスの再来」と評されたウォレス・ルーニーのトランペットが入ったトラックで強く感じる。ルーニーのトランペットは「マイルスの再来」と言われるだけあって、マイルスの音に似通っているのだが、このルーニーのトランペットが入ると、そのトラックの音世界は、1970年代前後の「エレ・マイルス」を彷彿とさせるものに激変する。ルーニーのトランペットが入ったトラックが特別に映える。
この『Dis Is da Drum』の各トラックを聴いていて、もしかしたら、ハービーって、このトラックをバックにマイルスにトランペット吹いて欲しかったのではないか、と思ってしまう。それほど、この『Dis Is da Drum』の各トラックでマイルスのトランペットが鳴り響いたら、と想像すると、なんだかゾクゾクする。
しかし、このアルバムが制作された当時は、既にマイルスはこの世にいない。故に、この『Dis Is da Drum』の制作理由、存在意義がいまだに理解できずにいる。この盤の「アフリカン・ネイティヴなビート、ヒップホップのビートのジャズ化」は、ハービーならではの「マイルス・トリビュート」だったのかもしれない。謎である。
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