名盤『Return to Forever』再聴
ECMでの録音、マンフレート・アイヒャーとの出会い、欧州ジャズとの触れ合い。このあたりが良かったのだろうか。チック・コリアは、自由度の高い硬派なモード・ジャズ〜フリー・ジャズへの傾倒から、リリカルでメロディアスなユートピア志向のサウンドをメインとした「クロスオーバーなエレ・ジャズ」に転身した。
Chick Corea『Return to Forever』(写真左)。1972年2月の録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (el-p), Joe Farrell (fl, ss), Stan Clarke (b), Airto Moreira (ds, perc), Flora Purim (vo, perc)。ジャズのアルバムの中で一番好きな盤を一枚だけ挙げよ、と言われたら、僕はこの盤の名を挙げる。僕にとっての「永遠の名盤」の中の一枚である。
フュージョン・ブームの先駆けとなった記念碑的名盤、と良く言われるが、それは違うだろう。フリー・ジャズによる、従来の「音楽の本質」の放棄の後、必然として現れた、新しいモダン・ジャズの観念に基づいた「音楽の本質」の追求の一つの成果が、この『Return to Forever』だろう。
それほど、この盤には、音楽の美しさ、音楽を演奏することの喜び、そして、音楽を愛でることの楽しみ、が溢れている。この盤の演奏内容は文句の付けようがない。フュージョン・ブームの先駆けといわれるので、ソフト&メロウなリラクシング系の癒し音楽を思い浮かべる方が多いと思うが、それはとんでもない誤解である。
この盤は全編に渡って印象的なフレーズ満載であるが、演奏の根幹は「骨太なメインストリーム・ジャズ」。ハード・バップな要素から、モード・ジャズからフリー・ジャズな要素まで、1972年の録音時点での「純ジャズ」の要素を包含し、クロスオーバーな8ビートに乗せて、演奏者全員が印象的なフレーズとリフをかましまくる。それはそれは素晴らしい技の応酬であり、目眩く印象的なフレーズとリフの嵐である。
全編に渡って、チックのフェンダー・ローズが美しい。これだけ、ハイ・テクニックに裏打ちされた、様々な美しい響きを伴ったフェンダー・ローズは「なかなか聴けない」。即興演奏ベースのフェンダー・ローズを演奏させたら、チックの右に出る者はいないだろう。
そのローズの音に絡む、スタンリー・クラークのウッド・ベース。重低音溢れ、ブンブンと唸りを上げる超弩級のベース音。しかし、チックのフェンダー・ローズに最適に絡んでいるので、全く耳障りでは無い。そのバックで、様々なパターン、音色のリズムを供給するアイアート・モレイラのドラム&パーカッション。スタン・チック・モレイラ、この3者のリズム・セクションの音は凄まじく美しい。
唯一無二、空前絶後な「フェンダー・ローズ」+「ビート&リズム」の上で、吹き上げられるジョー・ファレルのソプラノ・サックスとフルート、そして、 フローラ・ピュリムのボーカルは、舞い上がる様な飛翔感を持って、ユートピア的なサウンドの如く、ポジティブに明るく響く。
LP時代A面の1〜2曲目である「Return To Forever」〜「Crystal Silence」を聴いて、やっぱりジャズの演奏フォーマットって凄いな〜、と単純に感心する。LP時代のA面ラスト「What Game Shall We Play Today」を聴きながら、音楽ってジャンルじゃないよな〜、って強く思う。
LP時代のB面を占める、美しく躍動感溢れる名演・名曲「Sometime Ago 〜 La Fiesta」に至福の時を感じながら、ジャズを聴いていて良かったな〜、と再認識する。特に「La Fiesta」は素晴らしい。ジャズ曲の傑作の一曲である。
純ジャズの要素はもとより、フリー・ジャズ、フュージョン・ジャズ、ワールド・ミュージック、プログレッシブ・ロック、クラシック、などなど、チックがクールと思う音楽の要素がギッシリと詰まっている。それも、しっかりと整理され、しっかりとアレンジされているところがチックらしい。
基本的には、チックの生み出す音楽は「ぶれ」が無い。この『Return to Forever』には、チックの考えるジャズの全てが詰まっている。以降、チックはこの「チックの考えるジャズ」の中で展開されていく。圧倒的に幅広で奥行きのあるチックの音世界。そして、その成果の数々はジャズの音楽遺産の中で最高の部類にある。
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