The Paris Concert -Edition One
ビル・エヴァンスの「Warner Bros.〜Elektra」時代のリーダー作、ビル・エヴァンスの生涯最後の一連のリーダー作を聴き直している。
Warner Bros.に移籍したエヴァンスは既に50歳を迎え、過去のイメージを踏襲し、それまでのエヴァンス者の聴き手を安心させ満足させるリーダー作をリリースし続けた。僕はこの時点でエヴァンスは過去の人になってしまったなあ、と残念に思ったものだ。そして、1980年9月15日、51歳で他界した。
逝去後、追悼盤の位置付けで幾枚かのリーダー作がリリースされた訳だが、その中で、新しいエヴァンスのイメージを記録した、いわゆる「ラスト・トリオ」のライヴ音源のリリースが衝撃的だった。
Bill Evans『The Paris Concert -Edition One』(写真左)。1979年11月26日、パリの「L'Espace Cardin」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Marc Johnson (b), Joe LaBarbera (ds)。ビル・エヴァンスの「ラスト・トリオ」のライヴ音源。リリースは、エヴァンス逝去から3年ほど経ってから、1983年になってのリリースだった。
この「ラスト・トリオ」については、当時はまだインターネットも何も無い時代、完全に情報不足で、この「ラスト・トリオ」の存在がどんなものなのか、さっぱり理解できないまま、このLPを手にした覚えがある。そして、聴いてびっくり。
それまで、僕は、エヴァンスは「耽美的&内省的」なピアニストだと理解していて、このライヴ音源での、ハード・ボイルドなバップな弾き回し、ダイナミズム溢れる展開にびっくり。音の重ね方、音の響きは従来のエヴァンスの「ジャジー&ブルージーな哀愁感&寂寞感を濃厚に醸し出すもの」ままなんだが、以前に無い、とても外向的なパフォーマンスにびっくり。
そこに、マーク・ジョンソンのベースとジョー・ラバーベラのドラムが絶妙に絡み、寄り添い、インタープレイを仕掛ける。これがほんと絶妙で効果的で、エヴァンスのピアノ・パフォーマンスを強力に引き立てるのだ。
このトリオ・パフォーマンスは、今までのエヴァンス・トリオには無かった、新しい、さらに大きくステップアップした新しいイメージの「ラスト・トリオ」の強烈なパフォーマンスだった。
今では、ビル・エヴァンスの本質は「バップ・ピアノ」で、ハード・ボイルドなバップな弾き回し、ダイナミズム溢れる展開には違和感は無い。しかし、これだけ、スカッと突き抜けた様な「外向的なパフォーマンス」には、今の耳にも新鮮に響く。新しいビル・エヴァンスのピアノ展開を感じさせる、オープン・マインドな、外へ外へ訴求する「外向的なパフォーマンス」は魅力満載。
ビル・エヴァンスがハードボイルドにバップ・ピアノを弾き回しリードして、そのピアノに「たおやかに、しなやかに」対応するベースとドラムのリズム隊。それまでのエヴァンス・トリオに無かった展開。
それまでの「三者対等、三者一体となったインタープレイ」から、エヴァンスが「外向的なパフォーマンス」で一歩前へ出て、ベースとドラムが「たおやかに、しなやかに」反応する「新しいトリオ・アンサンブル」。
このライヴ音源には、新しい形のエヴァンス・トリオが提示されている。よく、ファースト・トリオ(スコット・ラファロ、ポール・モチアン)との比較が話題になるが、エヴァンス自身、生前のインタヴューで、このラスト・トリオが、自らがリーダーの「最高のレギュラー・トリオ」と明言している。僕も客観的に比較してそう思う。この後、エヴァンスが逝去してしまったのが、実に惜しまれる。この「ラスト・トリオ」のパフォーマンスをもっと聴きたかった。
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