『Round About Midnight』雑感
Miles Davis『'Round About Midnight』(写真左)。1955年10月26日、1956年9月10日の2セッションからの選曲。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), John Coltrane (ts), Red Garland (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。マイルス・デイヴィスの「1950年代の黄金のクインテット」である。
この盤は、その印象的なジャケットと共に「名盤中の名盤」とされる。しかし、ハードバップを楽しく聴ける、聴いて楽しいマイルス盤ではないだろう。この盤はマイルスの諸作の中で、かなりハードボイルドで、ストイックで、ロマンチックな面は皆無。純粋ジャズ者、ジャズが大好きな人たちにとっては、この盤を聴いて「いいなあ」と思うだろうが、ジャズ者初心者駆け出しの方には、ちょっと早いかな、とも思う。
この盤は「マイルスの考えるハードバップ」の最終形だと思っている。大手CBSレコードでの録音である。当然、十分なリハーサルは積めたと思う。演奏のまとまりは素晴らしい。そして、アレンジが素晴らしい。
この盤については、マイルスの大のお気に入りアレンジャー、「音の魔術師」と異名を取るギル・エヴァンスのアレンジを積極採用している。このギルの他にない、マイルス好みのアレンジがこの「マイルスの考えるハードバップ」の最終形を「大名盤」たらしめている、と感じている。
コルトレーンはまだまだ発展途上。力感溢れるブロウは、マイルスの美的感覚あふれるクールで繊細なトランペットと好対照だが、テクニック、フレーズ共に発展途上。故に、諸手を挙げて、この盤でのコルトレーンは最高、という訳にはいかない。
マイルスはソニー・ロリンズを採用したかったみたいだが、確かにそれは「グッド・チョイス」。しかし、プレッシャーのかかる本番にちょっと弱そうで、他のメンバーに気を遣ってしまう傾向のあるマイルスが、このセッションで、その実力を遺憾無く発揮できたかといえば、ちょっと疑問符が付く。
コルトレーンは「能天気」なところがあるので、リーダーがマイルスだろうが、レジェンド級のジャズ・ジャイアントだろうが関係なく、あっけらかんと実力以上のブロウを披露してしまうところがある。この盤ではその「能天気」な面が良い方向に出ている。つまり、コルトレーンは「ついていた」。
ガーランドはマイルスの要求通り「アーマッド・ジャマル」の様に弾く。マイルスは元々は、アーマッド・ジャマルのピアノを招聘したかったみたいだが、ジャマルはシカゴを離れることを嫌いマイルスとの共演は実現しなかった。やむなくガーランドのピアノをチョイスした訳だが、これはこれで「瓢箪からコマ」。ガーランドはガーランドのスタイルをマイルスの下で確立した訳で、ガーランドにとっては損のないマイルス・バンドへの参加だった。
ポール・チェンバースのベースとフィリー・ジョー・ジョーンズのドラムによる「リズム隊」は、バップなリズム&ビートを、ダンディズム溢れる、ダイナミックでクールなリズム&ビートに昇華させている。テクニックに走ることなく、シンプルにビートを刻みまくる。それも、マイルスの吹きやすく、である。この二人のリズム隊の招聘は「マイルス大正解」だった。
「マイルスの考えるハードバップ」の最終形な、この『'Round About Midnight』。大手CBSレコードとの契約、そして、この盤の録音を契機に、マイルスが「超一流」なトランペッターとして、ジャズのイノベーターとして、ジャズ界に君臨していく。そして、付いたニックネームが「ジャズの帝王」。そんなジャズの帝王が考えるハードバップの最終形がこの盤に記録されているのだ。
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