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2023年11月10日 (金曜日)

ドミニク・ミラー『Vagabond』

晩秋の雨の一日。午前中からそぼそぼ降り始めて、夕方からは、まとまって降る雨。こういう日は家でじっとしているに限る。外は北風に変わって気温は下がるが、室内はまだ保温が良いのか、23℃と過ごしやすい。窓の外は雨に煙る、晩秋の雨の日の風景。こういう日に聴くジャズは「ECM」が良い。

そぼ降る雨。鉛色の空。こういう天候の日は欧州系のジャズが良い。秋の黄昏時の穏やかに輝く黄金色の光の様な、ブリリアントでリリカルで叙情的な音。どこか翳りがあって、マイナー調のジャジーな響き。水墨画の如く濃淡のある静的な音の広がり。こういう欧州系のジャズについては、欧州ジャズの老舗レーベル「ECM」に求めるのが一番。

Dominic Miller『Vagabond』(写真左)。2021年4月の録音。ECMの2704番。ちなみにパーソネルは、Dominic Miller (g), Jakob Karlzon (p, key), Nicolas Fiszman (b), Ziv Ravitz (ds)。 ドミニク・ミラーのギター一本がフロントのカルテット編成。ドミニク・ミラーにとって、ECMレーベルでの3作目になる。

ドミニク・ミラーはアルゼンチン、ブエノスアイレス出身。1960年3月生まれなので、今年で63歳。この『Vagabond』録音時は61歳。ベテランの域に達した、プログレッシヴなギターが身上のギタリスト。ミラーは15歳の頃にロンドンに移り住んでいる。

ミラーはロック・ギタリストでもある。フィル・コリンズ『バッド・シリアスリー』やジュリア・フォーダム『微笑みにふれて』などに参加。特に有名になったきっかけは、1991年、スティングのアルバム『ソール・ケージ』への参加。その後、現在まで、ミラーはスティングのツアー、レコーディングに不可欠なギタリストであり続けている。
 

Dominic-millervagabond  
 

しかし、このECMレーベルで、ニュー・ジャズなリーダー作もリリースしている。いわゆる「二刀流」である。ただ、ロンドン在住経験のある、いわゆるブリティッシュ・ロックの体現者なので、元々、英国ではジャズとロックの境目が不明瞭。ロック畑のミュージシャンがジャズを違和感なくやったり、ジャズ畑のミュージシャンがロックを平気でやったりする。恐らく、ミラーもそんな「ギタリストの一人」なんだろう。

冒頭、印象的な掛け合いから始まる「All Change」が、この盤の音世界を決定づける。音の雰囲気は、秋の黄昏時の穏やかに輝く黄金色の光の様な寂寞感。これはもう、ECMレーベルお得意のリリカルで叙情的な「ニュー・ジャズ」の世界。欧州ジャズを決定づける哀愁感。

そこにミラーの「くすんだ音色の哀愁感溢れる」印象的なギターがスッと入ってくる。そして、要所要所で、寄り添うようなヤコブ・カールソンのピアノとのインタープレイが繰り広げられる。ホットではない、クールで静的な熱気を孕んだ印象的な音の絡み。

今回は、スウェーデンのピアニスト、ヤコブ・カールソンとイスラエルのドラマー、ジヴ・ラヴィッツが参加。ベーシストは前回参加のベルギーのニコラ・フィズマンが継続。このリズム・セクションが唯一無二。

北欧、イスラエル、そして、欧州ど真ん中のリズム&ビートが効果的に融合した様な、欧州ジャズ風の「多国籍」リズム・セクションが独特な雰囲気を醸し出す。この「多国籍」リズム・セクションが、このミラーのリーダー作独特の音世界の個性を、さらに濃厚なものにしている。

全曲合わせてのアルバム全体の所要時間は32分程度と短いが、それぞれの楽曲の内容が濃いので、その短さは気にならない。従来のECMの音と比べると、やや仄かに明るく、躍動感に溢れている。そんな現代のECMの音が実に印象的。エレクトリックもアコースティックもどちらのギターも優れたパフォーマンスを提供する。現代のECMのギター好盤の一枚だろう。
 
 

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コメント

突然すみません。日本でドミニク・ミラーのファンサイトを運営している者です。検索をしておりましたらこちらのサイトがヒットしましたのでお邪魔させて頂きました。
まずは、『Vagabond』を聴いて頂き、また気に入って頂けたようで嬉しいです。

ドミニク・ミラーという人は正統派のJAZZファンではなく、今も彼自身、自分がJAZZをやっているつもりは全然ありません。ギターアルバムを作っているつもりすら無いです。

ただ、この人は恐らくここまで雑多に世界中の音楽を幅広く体得しているギタリストも少ないだろう、という人です。南米出身なので、ブラジルスタイルのギター、アルゼンチンのフォークロアから始まり、教会音楽、クラシック、母方のケルト音楽から始まって、後からエレキギターを始め、ジミ・ヘンドリクス、ジョン・マクラフリン、ラリー・カールトン、パット・メセニーが彼のヒーローでした。あとはグレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアの超ファンというのが変わっている部分かな?そういう「一風変わった引き出しの多さ」がマンフレート・アイヒャーの興味を引いたんでしょうね。(ECM側から彼にアプローチがあったんです)

カントリーはやや苦手ですが、それ以外は要求すればほぼなんでもやれるのが売りで重宝されてきた人なんですが、ECMに来てからは、それまでも彼が大切にしてきた「空間」と「メロディに込めたストーリー」というのものが研ぎ澄まされてきた感じがありますね。アコースティックの「音」そのものにこだわる人でもあるので、ECMに来る事ができて、本当によかったとファンは思っている次第です。ただ、アイヒャーは色々要求は厳しめのようですね。このアルバム、8曲(うち1曲は昔の曲)しか入ってませんが、ドミニクは32曲ほど準備していました。

ジヴ・ラヴィッツはイスラエル出身ですが活動拠点はNYで、主にヤーロン・ヘルマンやシャイ・マエストロ、トランペッターのアヴィシャイ・コーエンなどとやってて、ライブだと結構豪快にドラム叩きます。しかし、今回の録音でも非常に感じますが、とても内省的な音楽にマッチした深いドラミングをする人ですね。

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