マイルス『Conception』再評価
マイルス・ミュージックの始まりを理解するには、『Birth of the Cool(クールの誕生)』と『Dig』をしっかりと押さえておく必要がある。
『Birth of the Cool(クールの誕生)』は、ビ・バップの熱いアドリブ合戦に対比した「クール」というコンセプトのもと、ジャズにおける「アレンジの力」を示したリーダー作だった。また、『Dig』は、ビ・バップの自由さとリズム&ブルースが持つ大衆性の両方が共存する「ハード・バップの萌芽」を記録したものとされる。
つまり、マイルス・ミュージックの始まりは、ポスト・ビ・バップ、つまり、ビ・バップの次の演奏トレンドを追求したもので、そのベクトルは、一つは「クールというコンセプトのもと、ジャズにおけるアレンジの力」を追求するもの、もう一つは「ビ・バップの自由さとリズム&ブルースが持つ大衆性の両方が共存する」、のちのハードバップを創生するもの。この二つのベクトル、二つの志向で、マイルスは「ポスト・ビ・バップ」を追求していった。
Miles Davis & Lee Konitz『Conception』(写真左)。この盤は、マイルスの「クールというコンセプトのもと、ジャズにおけるアレンジの力」に焦点を当てて、それに類するセッションの録音曲をギャザリングしたもの。つまり、『Birth of the Cool(クールの誕生)』の延長線上にあるコンセプトに基づいて編集されたアルバムになる。
ちなみに録音日と収録曲については、1949年6月21日は「Prezervation」(オリジナルは78rpm single)、1950年1月6日は「Intoit」(オリジナルは78rpm single)、1950年3月15日は「I May Be Wrong」「So What」(オリジナルは10"LP)、1951年3月8日は「Odjenar」「Hibeck」「Yesterdays」「Ezz-Thetic」、1951年3月13日は「Indian Summer」「Duet for Saxophone and Guitar」(オリジナルは10"LP)。そして、1951年10月5日の「Conception」「My Old Flame」は、他のアルバムに先に収録されていたものの再収録。
マイルスが、ビ・バップから離れて「ポスト・ビ・バップ」を追求し始めた1949年から1951年の間に、78rpm single、10"LPでリリースされた「クール」志向の演奏を12”LPに集めている。パーソネルは曲ごとに異なっているので、ここでは割愛するが、リー・コニッツ、スタン・ゲッツ、ジェリー・マリガン、ズート・シムズなど、米国西海岸ジャズ、もしくはクール・ジャズ志向のジャズマンがメイン。そこにマイルスがクールなトランペットで参入している。
そういう前提で聴くと、以前感じていた「違和感」は全く無い。東海岸ジャズではまだ存在しなかった、「クール」というコンセプトのもと、ジャズにおける「アレンジの力」を示したジャズ演奏がコンセプト。そこに中心人物の一人として、東海岸ジャズにおけるビ・バップの主要ジャズマンの一人であるマイルスがいる。これが「肝」なのだ。『Birth of the Cool(クールの誕生)』は、マイルスの一時の思いつきの産物では無かったことが、この盤の存在で良く判る。
以前、「この盤ほど、プレスティッジ・レーベルらしい盤は無いのではないか。やっつけの一発勝負の録音、フィーリングだけの録音時期の整合性を無視した「寄せ集めなアルバム編集」。この盤はそういう意味では凄い内容である」と書いたが、それは間違った評価である。この盤は78rpm single、10"LPでリリースされ散在していた『Birth of the Cool(クールの誕生)』の延長線上にある演奏を12”LPに集めた「優れもの」である。
この盤はマイルスをメインとした、「クール」というコンセプトのもと、ジャズにおける「アレンジの力」を示した演奏を集めた編集盤。プレスティッジ・レーベルお得意のフィーリングだけの録音時期の整合性を無視した「寄せ集めなアルバム編集」ではない。以前の間違った評価は取り下げる。この盤は、プレスティッジの総帥プロデューサー、 ボブ・ワインストックの「良い仕事」である。
《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館 の更新状況》 更新しました!
★ AORの風に吹かれて
★ まだまだロックキッズ 【New】 2022.12.06 更新
・本館から、プログレのハイテク集団「イエス」関連の記事を全て移行。
★ 松和の「青春のかけら達」
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
東日本大震災から12年7ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
« マイルスの『Dig』 再び | トップページ | マイルス『And Horns』再評価 »
コメント