マイルスの『Dig』 再び
Miles Davis『Birth of the Cool』。邦題『クールの誕生』。1949年〜1950年録音。ギル・エヴァンスやジェリー・マリガンら、有能なアレンジャーの「アレンジ」の下、バリトン・サックスやフレンチ・ホルン、チューバを含む9重奏団の演奏を録音した。ビ・バップの熱いアドリブ合戦に対比して、「クール」と称された本作。このアルバムの根底に流れているコンセプトが「クール」。ジャズにおける「アレンジの力」を示した最初の作品だと僕は思う。
ビ・バップの演奏の弱点である、聴き応えのある展開〜アレンジ、アドリブにおけるバリエーション溢れるインスピレーションの部分を強化して、ビ・バップの次なる演奏トレンドである「クール」。聞き手側の立場に立った、ビ・バップの弱点を克服する演奏トレンドのコンセプトが「クール」であった。
Miles Davis『Dig』(写真左)。1951年10月の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Jackie McLean (as), Sonny Rollins (ts), Walter Bishop, Jr. (p), Tommy Potter (b), Art Blakey (ds)。まだ、マイルスがメンバー固定の自前のバンドを持つ前の頃の録音。
このアルバムに記録されたセッションは「ハード・バップの萌芽」を記録したものとされる。1951年と言えば、まだジャズの演奏のトレンドは「ビ・バップ」。ビ・バップは、最初に決まったテーマ部分を演奏した後、コード進行に沿った形でありながらも、自由な即興演奏(アドリブ)を順番に行う形式が主となる。テクニック優先のアドリブ芸を競うことが最優先とされた。
しかし、これでは演奏のメロディーや旋律の展開を楽しめない。いわゆる鑑賞音楽としてアーティステックな切り口を有しつつ、ポップス音楽として、多くの人々にも聴いてもらいたい。そういう欲求を踏まえて、ビ・バップの後を継ぐトレンドとして、ハード・バップが考案された(考案された、といっても、リハーサル的なセッションや録音を重ねた結果のことだとは思う)。
つまりは、ハード・バップにはビ・バップの自由さと、リズム&ブルースが持つ大衆性の両方が共存しているという訳。そして、そこに、前リーダー作『Birth of the Cool』、邦題『クールの誕生』で実験した、ジャズにおける「アレンジの力」を活かし、演奏曲のメロディーや旋律の展開を楽しみ、ロング・レンジのアドリブ展開で、奏者のテクニックと歌心を楽しむ、という「ハード・バップ」が成立していった、と僕は解釈している。
確かにそういう情報を基に、このマイルスの『Dig』を聴くと、なるほどなあ、と思う。1951年言えば、まだジャズのトレンドは「ビ・バップ」。そんな時代背景の中、この『Dig』の演奏は、確かにビ・バップでは無い。ビ・バップよりロングプレイなアドリブ展開の中に、旋律がもたらす雰囲気・味わいをしっかり織り込もうとしていることが良く判る。
ビ・バップよりも音数を少なくして、旋律がもたらす雰囲気・味わいを感じ取れる様にしつつ、テクニックは高度なものを要求するフレーズを紡ぎ出す。いきおいアドリブ部の演奏の長さは長くなる。そのロングプレイの中で、芸術性溢れるフレーズを展開為なければならない。テクニックと音楽の知識をしっかり持ったジャズメンでないと太刀打ち出来ない。
この『Dig』の演奏では、そんなハードバップのコンセプトを一生懸命に「実験」しているジャズメン達の様子がしっかりと記録されている様に感じる。なるほど、このアルバムに記録されたセッションが「ハードバップの萌芽」を記録したものとされる所以である。
さすがは「ジャズの革新性」を重んじるマイルス。既に1951年にして、ハードバップなコンセプトにチャレンジしている。もう一つのハードバップの萌芽の記録とされる、ブルーノートの名盤『A Night at Birdland』のライブ録音が1954年だから、如何にマイルスが先進性に優れていたか、が良く判る。僕はそういうマイルスが大好きだ。
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