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2023年9月 4日 (月曜日)

ショーターのエレ・ジャズの完成 『Joy Ryder』

『Phantom Navigator』(1987年)は、バックの演奏はフレーズはプログラミング、リズム&ビートは打ち込み中心。今の耳で聴いても、ショーター、これはやり過ぎやろ、と思う。ショーターのサックスを愛でるには最適の録音だったが、ジャズのパフォーマンスとして聴いた時、疑問符が付いたのは否めない。

Wayne Shorter『Joy Ryder』。1988年のリリース。ちなみにパーソネルは、Wayne Shorter (sax), Patrice Rushen (key), Herbie Hancock(syn), Geri Allen (p, synth), Nathan East (b), Darryl Jones (b), Terri Lyne Carrington (ds), Frank Colon (perc), Dianne Reeves (vo)。

基本はショーターのサックスのワンホーン・フロント、キーボード+ベース+ドラムのカルテット編成。パーカッションとボーカルが追加で参加して、サウンドに彩りを添えている。

さすが、ショーター、『Phantom Navigator』はやり過ぎた、と思ったのだろうか。楽曲、演奏の雰囲気は前作『Phantom Navigator』、前々作『Atlantis』と変わらないが、パーソネルを見渡すと、バックのメンバーのネーム・バリューが違う。当時のエレ・ジャズ、コンテンポラリーな純ジャズの有望新人から第一線で活躍する強者がズラリ。それも、さすがはショーター、一捻りも二捻りもした人選には感心する。

サウンド志向の基本はウェザー・リポート(WR)。それも、後期WRから「ザヴィヌルのサウンド志向」を抜いて、当時のジャズ最先端、マイルスなどが追求していた、コンテンポラリーでメインストリームなエレ・ジャズのサウンド志向を反映している。そこに、ブラジリアン、プログレ、コズミック、そして黒魔術。そんなショーターの嗜好が理路整然と反映されているとところは、前作、前々作と変わらない。
 

Wayne-shorterjoy-ryder

 
しかし、同サウンド志向の前作、前々作はバックの演奏はあくまで「ショーター好みのサウンドの雰囲気作り」な役割に止めて、ショーターのサックスだけが前面にでれば良かったのだが、この盤では、バックの演奏はバックの演奏として、その個性、特徴をしっかり発揮して、ショーターのサックスに相対している。つまり、グループの演奏全体のパフォーマンスで、ショーター・ミュージックが楽しめる内容に変化している。

ショーターのサックスの素晴らしさは変わらない。が、この盤ではバックの演奏の質とレベルが格段にアップしている。ショーター好みの響き、ニュアンスをメンバーそれぞれが理解して、それをメンバーそれぞれの個性の下で音にする。つまり「人」がバック演奏を務めて、その上にショーターのサックスが吹き上げられていく。

血の通ったエレ・ジャズとでも形容しようか。冒頭「Joy Ryder」から、ラストの「Someplace Called "Where"」まで、ショーターの個性が散りばめられた、上質のコンテンポラリーでメインストリームなエレ・ジャズが展開されている。

WRにおけるキーボード=ザヴィヌルの役割は、ラッシェンとアレン、そしてハンコックが分担して担当。WR時代に人選に苦労し続けたリズム隊、ドラムには、当時、有望若手の女性ドラマー頭角を現したテリ・リン・キャリントン、ベースは、後にストーンズのサポート・メンバーで名をあげるダリル・ジョーンズと、エレ・ジャズ・ベースの名手の1人、ネイザン・イーストが担当して、充実のパフォーマンスを繰り広げる。

『Atlantis』『Phantom Navigator』と続いた、ショーターなりの後期WRサウンド、いわゆるコンテンポラリーなエレ・ジャズの追求は、この『Joy Ryder』でピリオドを打つ。それほどまでに、バックの演奏を含め、当時として、最先端のコンテンポラリーなエレ・ジャズの記録がこの『Joy Ryder』に満載。逆に、この盤以上の内容を追求する必要がないくらいに、この盤の内容は充実している。

ショーターは、この『Joy Ryder』をリリース後、リーダー作については、1995年の『High Life』まで約7年間、沈黙する。
 
 

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