タイナーのモード・ジャズの帰還
マッコイ・タイナーが、1970年代を駆け抜けたマイルストーン・レコードから、コロンビア・レコードに移籍した訳だが、このコロンビアでリリースした2枚のアルバム『The Legend Of The Hour』(1981年録音)、『Looking Out』(1982年録音)は酷い内容のアルバムだった。
『The Legend Of The Hour』は、何故かラテン・ジャズをベースにした中途半端なフュージョン志向のアルバム。硬派でモーダルなメインストリーム志向のタイナーの面影すら無い。何を求めているのか、何を訴求しているのか全く判らないアルバムになっている。初めて聴いた時、この盤がタイナーのリーダー作とは直ぐに信じられなかった。それほど、酷い内容の落ち込みようであった。
『Looking Out』は、さらに迷走を深め、ヴォーカルをフィーチャー。共演メンバーも、カルロス・サンタナ、スタンリー・クラーク等、完全にフュージョン・ジャズ志向のメンバーで固めて、タイナー自身もシンセサイザーを弾いたりする迷走ぶり。この盤については、前作の迷走ぶりに拍車をかけた、何を狙って、何を表現したかったのかが、全く理解出来ない内容であった。
Mccoy Tyner『Dimensions』(写真)。1983年10月の録音。ちなみにパーソネルは、McCoy Tyner (p, syn), Gary Bartz (as), John Blake (vln), John Lee (b), Wilby Fletcher (ds)。迷走に迷走を重ねたコロンビア・レコードを早々に去り、この盤は、Elektra/Musicianからのリリースになる。メンバー的には、ゲイリー・バーツ以外、知らない名前ばかりが並ぶ。ふと、不安になる。
冒頭の「One For Dea」を聴いて、ホッとする。1970年代のタイナー節、タイナーの音世界が戻って来ている。「ワールド・ミュージックと融合した」タイナーのモード・ジャズが戻って来た。見れば、唯一、タイナーの作曲。タイナーからすれば「戻って来たぞ」と宣言したかったのだろう。この曲の音志向は、絶対に1970年代のタイナーである。
2曲目以降はタイナー作の曲は無いが、ヴァイオリンを入れたり、2曲目「Prelude to A Kiss」はピアノ・ソロ、4曲目「Just In Time」はピアノ・トリオと演奏の編成に変化を持たせていて、どの演奏編成にしても、タイナーのモーダルでパーカッシヴなピアノの個性が引き立つようにアレンジされている。いやはや、タイナーのピアノが、タイナーの音世界が戻って来た良かったなあ、とこの盤を聴いて、つくづく思った。
ちなみに、ジャケット裏面には、各曲の紹介をタイナー自身が書いている力の入れよう。しかも、最後に「I wish you many hours of good listening(何時間も楽しくお聴きいただければ幸いです)」と記して結びとしている。
「タイナー・リターンズ」。タイナーの帰還。本作は当時として、タイナーの自信作だったのだろう。ジャケットは平凡だが、確かに内容の濃いリーダー作。ジャケットは気にせず、一度は手に取って聴いて欲しい佳作である。
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