ショーターの異質なエレ・ジャズ 『Phantom Navigator』
ウェザー・リポート(WR)を解散させ、ソロ・デビューしたウェイン・ショーター。ソロ・デビュー盤『Atrantis』では、サウンド志向のベースはWR、具体的に表現すると、後期WRから「ザヴィヌル志向」を消して、当時のジャズ最先端、マイルスなどが追求していた、コンテンポラリーでメインストリームなエレ・ジャズの音志向を反映した。
この盤はさすがショーターといった盤で、コンテンポラリーでメインストリームなエレ・ジャズをバックに、ショーター独自のモーダルなフレーズ、展開を散りばめ、ショーターのサウンド嗜好が理路整然と反映した、全面的にショーターの作曲と、ショーターのサックスの音を聴くアルバムに仕上がった。
Wayne Shorter『Phantom Navigator』(写真左)。1987年の作品。パーソネルは曲毎にメンバーを選定しているので、ここでは割愛する。楽器を見渡すと、キーボード系はシンセサイザーを大々的に導入し、プログラミングを積極活用。リズム&ビートもほぼ全面打ち込み。そんなデジタルな演奏をバックに、ショーターがサックスを吹きまくっている。
まるで、ザヴィヌル主導のWRのサウンドを、全てシンセサイザーやコンピューターに置き換えて、WRでやるなら、これくらいのレベルのことをやらないと、とでも言いたげなショーターのデジタルチックなアプローチ。この盤も、つまるところ、全面的にショーターの作曲と、ショーターのサックスの音を聴くアルバムなのだ。
コンピューターのビートを積極導入し、曲によって多重録音による一人サックス・アンサンブルを披露。加えてヴォーカルも披露するという、大はしゃぎのショーター。WR時代、ザヴィヌルにサウンド志向において主導権を握られたストレスを、この盤で一気に解消しているような、そんなデジタルチックな内容。
ショーターのサックスが素晴らしいので、この盤はしっかり聴き通すことが出来る。が、バックの演奏はあくまで打ち込みであり、キーボードなどのアドリブも譜面にきめ細やかに書かれたものを、プログラミングにて打ち込まれた人工的なもの。バックがデジタルチックな分、ショーターのサックスのアナログな魅力が引き立つので、それはそれで効果的かな、とも思うが.....。
2曲目「Mahogany Bird」だけが、アコースティックっぽさを前面に出した演奏になっている。ピアノはチック・コリア、ベースはジョン・パティトゥッチが特別参加。ビートは打ち込みだが、チックとパティトゥッチのお陰で、しっかり純ジャズな雰囲気をキープしているのはさすが。ショーターのスローで流麗なソプラノが一層映えているのも、チックとパティトゥッチのお陰。今の耳で聴くと、この曲の存在が凄く効いている。
時代の流行に合わせた、そんな時代の最先端のジャズの音だとは思うが、この音作りが根付くことはなかった。やはり、ジャズは「人」がメインで演奏されるべき音楽なんだろう。この『Phantom Navigator』を聴いていて、つくづくそう思う。
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