« 欧州フリー・ジャズの入門盤 | トップページ | ガーランドの面倒くさい編集盤 『Dig It!』 »

2023年8月 4日 (金曜日)

記念すべき E.S.T.のデビュー盤

現代北欧ピアノ・トリオの草分けであるE.S.T.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)は、スウェーデン出身。メンバーは、リーダーでピアノ担当のエスビョルン・スヴェンソン、ベースのダン・ベルグルンド、ドラムのマグヌス・オストロムで、1993年結成。

トリオ演奏の基本は、北欧ジャズの伝統的なピアノ・トリオの個性。耽美的でリリカル、クールな熱気、透明度の高い流麗なフレーズ、現代音楽を踏襲した硬質で前衛的な展開を、E.S.T.は、しっかりと踏襲している。

Esbjörn Svensson Trio『When Everyone Has Gone』(写真左)。1993年の録音。ちなみにパーソネルは、Esbjörn Svensson (ac-p, el-p, syn, Rhodes), Dan Berglund (b), Magnus Öström (ds)。記念すべき E.S.T.のデビュー盤。

ピアノ・トリオの個性は、基本的にピアノの個性に大凡は決定される。E.S.T.は、当然、リーダーのスヴェンソンのピアノの個性がポイント。スヴェンソンのピアノは、北欧ジャズの伝統的なピアノの個性をしっかりと踏襲している。弾きっぷり、弾き回し、音の響き、どれもが北欧ジャズの伝統的雰囲気をしっかりと保持している。

ただし、耽美的な度合いは軽い。カラッとしている。アドリブ展開では、米国ジャズのモード・ジャズ、1960年代から1970年代の新主流派のモード・ジャズの様な弾き回しが興味深い。
 

Esbjorn-svensson-triowhen-everyone-has-g

 
つまり、どっぷり北欧ジャズのピアノ・トリオ化はしていないところが、このデビュー盤の面白いところ。ただ、モーダルな展開なところも、米国ジャズよりタッチの透明度が高く、響きはリリカル。聴いていて、米国ジャズと間違うことは無い。

耽美的でリリカルな弾き回しは、ドライな「キース・ジャレット」。高速モードの弾き回しは軽めの「マッコイ・タイナー」。現代音楽を踏襲した硬質で前衛的な弾き回しは、ちょっと優しめの「チック・コリア」。そんな3人の先達ピアニストに影響を受けているところは感じるが、それぞれのエッセンスを吸収して、自らの個性に反映しているので、決して物真似には聴こえない。

北欧ジャズのコンテンポラリーな純ジャズ・トリオ。北欧ジャズの個性である「耽美的でリリカルな面」を強調すること無く、ドライに北欧ジャズの個性を下敷きにして、モーダルなジャズを展開する。演奏自体の精度はかなり高い。ベースのダン・ベルグルンド、ドラムのマグヌス・オストロムのリズム隊の息もピッタリ、静的に熱いリズム&ビートでスヴェンソンのピアノを鼓舞し、引き立てる。

デビュー盤にして、完成していた感のある E.S.T.。このデビュー盤における「スヴェンソンの北欧ピアノ・トリオ」をアルバムを重ねる毎に深化させていくことになる。しかし、その深化は、スヴェンソンがスキューバダイビング中の不慮の事故で亡くなる2008年6月14日で停止する。

このデビュー盤には、E.S.T.の原点の響きが溢れている。
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館 の更新状況》 更新しました!

 ★ AORの風に吹かれて 

  ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

 ★ まだまだロックキッズ    【New】 2022.12.06 更新

    ・本館から、プログレのハイテク集団「イエス」関連の記事を全て移行。

 ★ 松和の「青春のかけら達」

  ・四人囃子の『Golden Picnics
 

Matsuwa_billboard

★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。

★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。

東日本大震災から12年4ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。

Never_giveup_4 
  

« 欧州フリー・ジャズの入門盤 | トップページ | ガーランドの面倒くさい編集盤 『Dig It!』 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 欧州フリー・ジャズの入門盤 | トップページ | ガーランドの面倒くさい編集盤 『Dig It!』 »

リンク

  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。           
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  

カテゴリー