欧州フリー・ジャズの入門盤
Enjaレーベルは、欧州フリー・ジャズに造詣が深い。共同設立者のホルスト・ウェーバーは、アパレル時代に日本の企業と仕事をしており日本のジャズにも精通していた為、日本のジャズ・ミュージシャンの作品も多く手がけ、日本でのライヴ録音も行っている。
1970年代、欧州フリー・ジャズに強いレーベルは、Enja(エンヤ)しか無かったと記憶する。「欧州フリー・ジャズを聴くなら、Enjaを聴け」が、僕が学生時代の合い言葉(笑)。
Albert Mangelsdorff『Live in Tokyo』(写真)。1971年2月15日、東京「新宿DUG」でのライヴ録音。ENJAちなみにパーソネルは、Albert Mangelsdorff (tb), Heinz Sauer (ts), Günter Lenz (b), Ralf Hübner (ds)。欧州ドイツのトロンボーンの鬼才、アルベルト・マンゲルスドルフとハインツ・ザウアーのテナーの2管フロント。ピアノレスのカルテット編成。
フリー・ジャズって、①音階(キー)から、②コードあるいはコード進行から、③ハーモニーから、④リズムから、の束縛から逃れたインプロのことで、この「束縛」から逃れておれば、調性音楽でも「フリー・ジャズ」として成立する。
本能の赴くまま、激情に駆られて、個人的に自由に吹きまくる、という米国でよくあるフリー・ジャズは、音楽として鑑賞するにはちょっと辛いものが多々ある。フリー・ジャズは、あくまで音楽として鑑賞することが出来る程度のものであって欲しい。
このマンゲルスドルフ・カルテットのフリー・ジャズは、音楽として鑑賞できる優れもの。確かにアブストラクトに展開するところもあるし、自由な吹きまくりテナーの咆哮もある。
が、それらはほんの少し、演奏全体のスパイス的なもの。この盤の演奏は、しっかりと秩序を守ったフリー・ジャズ。ビートは最低限ではあるが「ある」。その最低限のビートの下で、真の即興を志向し、それを実行している。
欧州のフリー・ジャズ、ドイツのフリー・ジャズやなあ、と思う。フリー・ジャズというか、自由度の相当高い即興演奏かな、とも思う。さすが欧州ジャズ。現代音楽志向の展開、現代音楽のジャズ化、現代音楽志向の即興演奏、そんな雰囲気。
マンゲルスドルフのトロンボーンも、ザウアーのテナーも、激情に駆られて熱くはならない。クールに熱い、静的な感情の高ぶりを、現代音楽志向の即興演奏で表現。どこか客観的に「醒めた」視点を持って、客観的に自らのフリーな即興演奏を愛でながら展開するような「クールに熱い」フリー・ジャズ。
我が国では、フリー・ジャズと言えば、オーネット・コールマン志向、いわゆる「通常のモダン・ジャズがやらないことをやる」フリー・ジャズ。若しくは、コルトレーン志向の「本能の赴くまま、激情に駆られて、個人的に自由に吹きまくる」フリー・ジャズ、いわゆる米国のフリー・ジャズがもてはやされてきた。
が、意外とフリー・ジャズと言えば、欧州ジャズ、ドイツ・ジャズなのでは、と思わせてくれる、マンゲスドルフの秀逸な「欧州フリー・ジャズ」の記録である。このライヴ盤を聴けば、欧州のフリー・ジャズの雰囲気を的確に掴めると思う。欧州フリー・ジャズの入門盤的位置づけのライヴ盤。
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最近話題にもならず、顧みられることもなくなったフリージャズ
「本能の赴くまま、激情に駆られて、個人的に自由に吹きまくる、という米国でよくあるフリー・ジャズは、音楽として鑑賞するにはちょっと辛いものが多々ある。」は同感
フリージャズやアバンギャルドジャズが好きで、30年以上聴き続けて僕からすると、もっと光を当ててほしい音楽
投稿: 瀧元 | 2023年8月 5日 (土曜日) 12時49分