曲解続きのキャノンボールの個性
ファンキー・アルト・サックスの名手、キャノンボール・アダレイのリーダー作を振り返ってみると、デビュー当時は意外と恵まれなかったんやなあ、とつくづく思う。
初デビュー作は「サボイ・レーベル」からのリリースだったので、これは他のジャズマンとあまり変わらない。しかし、リーダー作2作目にして、いきなり大手レーベルである「エマーシー・レコード」と契約し、メジャー・デビューである。なんてラッキー・ボーイなんだ、と思われるかもしれないが、エマーシーから押し付けられたのは「ビッグバンドをバックにしたイージーリスニング志向のジャズ」。
次に押し付けられたのは「ストリングスをバックにしたイージーリスニング志向のジャズ」。とにかく「大衆受けする売れるジャズ」を余儀なくされた訳で、いわゆる「コマーシャルなジャズマン」の部類に位置づけられた。リヴァーサイド・レーベルに移籍して、ファンキー・ジャズ志向のアルバムを出したらこれが大ヒット。「コマーシャルなジャズマン」な印象に拍車がかかる。
Cannonball Adderley『Jump for Joy』(写真左)。1958年8月20 & 21日の録音。ちなみにパーソネルは、Cannonball Adderley (as), Emmett Berry (tp), Leo Kruczek, Gene Orloff (vin), Dave Schwartz (viola), George Ricci (cello), Bill Evans (p), Barry Galbraith (g), Milt Hinton (b), Jimmy Cobb (ds), Richard Hayman, Bill Russo (arr)。再び「弦オケ」をバックにしたジャズに立ち返っている。
この盤は、キャノンボールにとって、大手レーベル、エマーシーからの最終作になるのだが、エマーシーは最後まで、キャノンボールの資質と個性を読み違えた。最後まで「イージーリスニング志向の大衆受けする売れるジャズ」にキャノンボールをアダプトした。
確かにキャノンボールのアルト・サックスは、切れ味良く、音が大きく、フレーズが明確。楽曲の持つフレーズがクッキリ浮かび上がる様なアルト・サックスを吹く。
しかし、それはスモール・コンボでのアドリブ展開の時に最大限に活きる個性で、「イージーリスニング志向の大衆受けする売れるジャズ」で最大限に活きる個性では無い。
実際、キャノンボールは、火の噴くような激しい吹奏を封じて、甘いトーンで滑らかな吹奏に終始している。これは、ちょっとテクニックのあるアルト奏者だったら誰でも勤まるだろう。つまりは、エマーシーは、キャノンボールの資質と個性を見抜けなかった訳である。
ただ、この『Jump for Joy』では「弦オケ」のアレンジが甘くない。ホーンやストリングスのフレーズは意外とスリリングで、底が抜けた様な明るさは無い。意外と硬派でシビアなアレンジが施されていて、意外と聴き応えがある。アレンジはリチャード・ハーマンとビル・ロッソ。この盤では意外と「良い仕事」をしている。
バックのリズム隊についても、ピアノにビル・エヴァンス、ベースにミルト・ヒントン、ドラムにジミー・コブといった一流どころを投入していて、リズム&ビートはハードバップしていて、意外としっかりしている。だからこそ「弦オケ」が邪魔なんだよな〜。このリズム隊をバックに、キャノンボールがワンホーンで吹きまくった方が、ジャズ・ファンへの訴求度は高かった様に思うのだが、いかがだろう。
しかし、このエマーシー時代の「ストリングスをバックにしたイージーリスニング志向のジャズ」=「大衆受けする売れるジャズ」をメインにリーダー作を出し続けたという事実は、キャノンボールはコマーシャルなジャズマン、という「誤解」を、ジャズ・ファンに持たせてしまった。キャノンボールは決して「コマーシャルなジャズマン」では無い。硬派な正統派ハードバッパーだと思うのだが、どうにもいけない。
でも、この『Jump for Joy』については、キャノンボールは、バックが「弦オケ」だろうがお構いなし。ポジティヴで切れ味良く、音が大きくてフレーズが明確、テクニック優秀、歌心満載なアルト・サックスを吹きまくっていて、キャノンボールのアルト・サックスだけ取れば、この盤、全く問題無く聴ける。キャノンボールにだけ着目すれば、なかなかの「佳作」である。
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