スヴェンソンのソロ・ピアノ盤
北欧ジャズがずっと、お気に入りである。そして、突如、今年になって、北欧ジャズをしっかり聴き直そうと思い立った。米国ジャズから始まって、和ジャズ、欧州ジャズ、そして、最後に北欧ジャズ。ジャズを約半世紀、ずっと聴いてきたが、ようやく北欧ジャズを聴き直すタイミングになってきた。
北欧の純ジャズは一定の傾向がある。透明感のある音とエコー。ファンクネス皆無。クラシック音楽に根ざした正統なフレーズ回し。スピリチュアル&エモーショナルのバランス取れた情感表現。決して熱くならない、クールに盛り上がるエモーショナルな表現。耽美的でリリカル、情感溢れるフレーズ。北欧ジャズには独特の響きがある。これが良い。
Esbjörn Svensson『HOME.S.』(写真左)。2008年春の録音。ちなみにパーソネルは、Esbjörn Svensson (p)。北欧ジャズで有名なエスビョルン・スヴェンソン・トリオ(e.s.t.) のリーダー、スヴェンソンのソロ・ピアノ盤。
エスビョルン・スヴェンソンが、2008年6月14日、ストックホルム近くの小島で、スキューバダイビング中の不慮の事故で亡くなるわずか数週間前に、彼の自宅で録音されたソロ・ピアノ音源。スヴェンソンの急逝後、妻のエヴァ・スヴェンソンによって、ハードディスクの中から発見された未発表音源。
44歳での録音。天国からの贈り物。全9曲がオリジナル。それぞれの曲名がちょっと不思議なタイトルで、これって何だ、と思っていたのだが、資料によると、スヴェンソン本人が急逝した為、全ての曲のタイトルは決められていなかったので、宇宙が好きだった彼の想いを汲み、ギリシャ語のアルファベットにしたとのこと。なるほど。
硬質で力感溢れる打鍵、流麗な高速フレーズ。踊るように弾むタッチ、麗しい高揚感。内省的で静的、そして透明感溢れる響き。そして、フレーズの底に流れる「ジャジー&ブルージー」な感覚。耽美的でリリカル、それでいて力強く、強い意志を感じる、素晴らしいソロ・ピアノ。北欧ジャズの個性の全てを反映、包含したスヴェンソンのピアノは限りなく美しい。
「クールな熱気」ある弾き回しに思わず引き込まれる。スヴェンソン独自のメロディックな即興演奏。北欧ジャズを代表するソロ・ピアノのパフォーマンスの記録だろう。よくぞ発見されたと思う。
妻のエヴァ・スヴェンソン曰く「まるでエスビョルンの声が部屋の中に聞こえるようです。彼はまだ言いたいこと、伝えたいことがあるのです」。激しく合意する。久々に聴き応えのあるソロ・ピアノに出会った。
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