ハンク・モブレーの転換点 『The Turnaround!』
ブルーノートの4100番台は、カタログ順に聴き進めていると意外と面白い。ジャズの多様化の時代、1950年代のハードバップが成熟し、そのハードバップな演奏に留まる者。逆に、ハードバップから新しい演奏トレンド、モード・ジャズやフリー・ジャズに進化する者、
はたまた、ジャズの大衆化に沿って、大衆のジャズに対するニーズに応えるべく、ファンキー&ソウル・ジャズにステップアップする者、それぞれ、苦心して、ジャズに対する新しいニーズに応えようとしているのが、実に見事に記録されている。
Hank Mobley『The Turnaround!』(写真左)。1963年3月7日(#2-3)、1965年2月4日(#1, 4-6)の2セッションからの収録。ブルーノートの4186番。
ちなみにパーソネルは以下の通り。1963年3月7日の録音は、Hank Mobley (ts) Donald Byrd (tp), Herbie Hancock (p), Butch Warren (b), Philly Joe Jones (ds)。1965年2月4日の録音は、Hank Mobley (ts), Freddie Hubbard (tp), Barry Harris (p), Paul Chambers (b), Billy Higgins (ds)。
1965年7月、LPでの初リリース時は全6曲。収録曲は以下の通り。
1. The Turnaround
2, East of the Village
3. The Good Life (Sacha Distel, Jack Reardon)
4. Straight Ahead
5. My Sin
6. Pat 'n' Chat
ちなみにCDリイシュー時、1989年のCDリイシューはLP時の収録曲のシークエンスに対応しておらず、1963年のセッションが省略され、1965年2月5日のセッションが収録された。これは酷い。
我が国では、2014年11月に限定SHM-CDでリリース。オリジナルのLPシーケンスに加え、『ストレート・ノー・フィルター』のCD版に収録されていた1963年のセッションの2曲、および1965年のセッションの残りのトラックで構成されている。この記事では、1965年7月、LPでの初リリース時の6曲シークエンスを前提に話を進める。
2曲目「East of the Village」と3曲目「The Good Life」が、クールなハードバップ志向。1963年3月7日の録音で、ドラムがフィリージョー。ピアノにハンコックがいるが、ドラムが「こってこてハードバップ」のフィリージョーだとモードに走る訳にはいかない。ただ、録音年が1963年だとすると、内容的には「手垢が付いた」と感じるところは否めない。
1曲目「The Turnaround」と、6曲目「Pat 'n' Chat」がジャズロック志向。アドリブにモードなフレーズが見え隠れ。4曲目「Straight Ahead」と5曲目「My Sin」がモード・ジャズ志向。モブレー固有のモーダルなテナーが聴ける。ただし、ちょっとやりにくそう。逆にフロントの相棒、ハバードは喜々としてモダールなフレーズを吹きまくっている。
タイトルの「The Turnaround」は「転換点」を意味するのか。とあれば、この盤は、モブレーの「転換点」を記録した番と解釈出来る。1963年3月7日のクールなハードバップ志向、1965年2月4日の録音のジャズロック&モード志向。この2つの録音の間にある「転換点」をこの盤で表現しているのか。
そうであれば、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンのアルバム企画力には脱帽。確かに、明らかに、この盤では、2つの「顔」のモブレーが確認出来る。
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