ガーランドの面倒くさい編集盤 『Dig It!』
レッド・ガーランドは、1950年代、その人気は結構高かったと見えて、プレスティッジ・レーベルから相当数のリーダー作がリリースされている。しかも、1セッションでLPに収録出来ない位の曲数を録音しているので、当然、未収録の曲が出る。
それを寄せ集めて、リーダー作を編集してリリースする。これが実に扱いに困る。演奏傾向の違うものが混在していたりで、録音年月日を確認して、もともと、どのセッションに入っていたのかを突き止めて評価する必要が出てくる。
The Red Garland Quintet『Dig It!』(写真左)。1957年3月と12月、1958年2月の3つのセッションからの寄せ集め。ちなみにパーソネルは、Red Garland (p), John Coltrane (ts, tracks 1, 3, 4), Donald Byrd (tp, tracks 1, 4), George Joyner (b, tracks 1, 3, 4), Paul Chambers (b, tracks 2), Art Taylor (ds)。
1曲目「Billie's Bounce」と4曲目「Lazy Mae」が、1957年12月13日の録音。2曲目「Crazy Rhythm」が、1958年2月7日の録音。3曲目「CTA」が、1957年3月22日の録音。未発表音源としてはここまで。3曲目の「CTA」は、Art Taylor『Taylor's Wailers』に既に収録された演奏をそのままこちらに持って来ている。プレスティッジお得意の寄せ集めとはいえ、つきつめると、かなり「面倒くさい」。
この盤のサブタイトルが「with John Coltrane」。収録曲4曲全てにコルトレーンが頑張っているのかと言えば、そうでは無くて、2曲目の「Crazy Rhythm」にはコルトレーンはいない。3曲目の「CTA」にはコルトレーンはいるが、これはアート・テイラーのリーダー作からの「借り物」なので、純粋には4曲中、2曲しかコルトレーンはいない。これで、The Red Garland Quintetの演奏としてまとめて、しかもご丁寧にサブタイトルに「with John Coltrane」を付けるから、ますます判らない内容になる(笑)。
もともと、1957年12月13日の録音は「The Red Garland Quintet With John Coltrane And Donald Byrd」として録音。全5曲を録音しているが、そのうちの2曲をこの『Dig It!』へ収録、「Solitude」のみThe Red Garland Quintet With John Coltrane『High Pressure』へ切り売り。残りの2曲は未発表音源のまま。ベーシストはジョージ・ジョイナー。
1958年2月7日の録音は、そもそも「The Red Garland Trio」として録音しており、コルトレーンはいない。純粋なガーランド・トリオの録音。よってベーシストは、この録音だけポール・チェンバース。
1957年3月22日の録音は、もともと「Art Taylor's All Stars」として録音されており、このセッションのリーダーはアート・テイラーであり、ガーランドでは無い。しかし、録音記録を見てみると、同一日に「The Red Garland Trio」の録音が8曲あって、主に『Red Garland's Piano』の為のトリオ演奏だった。
が、その後、何故かコルトレーンが参加して、この「CTA」だけを録音しているみたいなのだ。そして何故か、この曲だけ『Taylor's Wailers』に唐突に収録されている。『Taylor's Wailers』が1957年のリリース。今回ご紹介の『DIg It!』は1962年のリリースなので、この曲だけコルトレーンが入っているので、コルトレーン人気に便乗して、ガーランドのリーダー作の中に混ぜ込んだみたいなのだ。
とにかく、サブタイトルに「with John Coltrane」が付いているので、あの伝説のガーランド・トリオ、ガーランド・チェンバース、テイラーをバックに、コルトレーンが吹きまくった盤かと思うのだが、中身はそうではない。そもそもタイトルに「Quintet(5人編成)」とあるので、フロント管として、コルトレーンともう1人の誰かがいるわけで、それはトランペットのドナルド・バード。
しかも、3曲目の「CTA」は「Quintet(5人編成)」の演奏では無く、コルトレーンのワンホーン参加の「Quartet(4人編成)」で、バックはガーランド・チェンバース、テイラーだが、リーダーはテイラー。しかも、テイラーのリーダー作『Taylor's Wailers』に収録済みの曲を、この『Dig It!』に再掲、使い回しをしている。
タイトルに偽りあり。いかにもプレスティッジ・レーベルらしい仕業なのだが、それぞれの曲の演奏自体は申し分無い。が、この盤をガーランドのリーダー作として捉えるには無理がある。聴いてみると、録音年月日毎にニュアンスや響きが微妙に異なる。セッションの中の同一録音曲とは思えないのだが、この収録曲毎の収録年月日を追ってみて、その理由が判った。
ジャズのアルバムは録音年月日が重要な要素として扱われるが、ジャズは即興演奏がメインであるが故、セッション毎にアレンジやニュアンス、響き、そして、その時点でのテクニックや志向が異なってくる。
そういう意味でジャズの録音を評価する上で、録音年月日が重要なのだが、このガーランドの『Dig It!』を聴いていると、録音年月日毎にニュアンスや響きが微妙に異なっていて、その重要性が良く理解出来る。これはプレスティッジ・レーベルの「セッション切り売り」の功績だろう。
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