新主流派の名演・名盤の1枚
1950年代から1960年代のブルーノート・レーベルはかなり「懐が深い」。1500番台からそんな傾向は出ていた訳だが、とにかく、その時その時に出現した、ジャズの「新しいトレンド&奏法」に長けたジャズマンをチョイスして、しっかりリーダー作を録音させている。4100番台を見渡すと、当時、ジャズの最先端を走るフリー・ジャズやモード・ジャズにもしっかりと対応しているから凄い。
Sam Rivers『Fuchsia Swing Song』(写真左)。1964年12月11日の録音。ブルノートの4184番。ちなみにパーソネルは、Sam Rivers (ts), Jaki Byard (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。新主流派の中でも先進的で尖ったテナーのサム・リヴァースがリーダー。ピアノに、これまた新主流派で尖ったジャッキー・バイヤード。ロンとトニーは新主流派のリーダー格。
サム・リヴァースの初リーダー作。リヴァースは、1923年生まれなので、40歳を過ぎての遅い初リーダー作になる。僕がリヴァースを初めて知ったのは、マイルスの『イルス・イン・トーキョー』でのサックス・プレイ。モーダルではあるが、かなり前衛的で、マイルスの下で限りなくフリーに走ったり、ちょっとだけアヴァンギャルドに傾いたり、当時として「かなりヤバい」サックス奏者だった。
そんなリヴァースの初リーダー作。収録曲は全てリヴァースの自作曲。メンバーは皆、新主流派。当然、出てくる音はモードなんだが、かなりヤバいモードである。とにかく、フリーか、と思う位の自由度の高いモーダルな展開、最低限、伝統のジャズの範疇には留まって、最低限の決め毎に従って演奏してはいるが、とにかく尖っている。それでも、今の耳には五月蠅くない、しっかりとしたモード・ジャズをやっているのだから、その力量たるや、目を見張るものがある。
バックのリズム・セクション、バイヤードのピアノ、ロンのベース、トニーのドラム、皆、喜々として、リヴァースの相当に限りなくフリーに近いモーダルな吹奏に追従している。バイヤードがカチカチ硬質なモーダル・フレーズを叩き出し、ロンの自由奔放なベースラインが蠢き、トニーが安全装置を外して暴走叩きまくり。それでも、しっかりと伝統のジャズの範疇に留まった演奏でまとめているのだから、このリズム隊の力量も凄いものがある。
何だか、とんでもない「モーダルな」内容の演奏の数々だが、フリーに走っても、アブストラクトに傾いても、ちゃんと伝統のジャズの範疇に着地するのだから、このアルバムは素晴らしい。当時の新主流派の演奏の中でも、とびきり硬派でとびきりカッ飛んだ内容のアルバムで、21世紀の今から振り返ってみると、この盤、新主流派の名盤の1枚として評価してよいかと思う。
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