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2023年5月18日 (木曜日)

レジェンドだけど「元気なロン」

1950年代のハードバップ期から、ずっと第一線で活躍してきたレジェンド級のベーシストについて、振り返って見ると、ほとんどが鬼籍に入ってしまっている。2020年辺りで、現役でプレイしているレジェンド級のベーシストは「ロン・カーター(Ron Carter)」しか見当たら無くなってしまったようだ。

Ron Carter『Foursight - The Complete Stockholm Tapes』(写真左)。2018年11月17日、ストックホルムのジャズクラブ「Fasching」でのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Ron Carter (b), Jimmy Greene (ts), Renee Rosnes (p), Payton Crossley (ds)。テナー・サックスがフロント1管の、シンプルな「ワンホーン・カルテット」編成。

ロン・カーターは、このライヴ盤の録音時点で81歳。溌剌としたアコースティック・ベースを奏でていて素晴らしい。とても81歳とは思えないパフォーマンス。

ロンは、自身のリーダー作紐解くと、1960年代はリーダー作はドルフィー、マルとの『Where?』のみ。マイルスの下で「限りなくフリーなモード・ジャズ」を志向し、ベースの音は、いかにもモードな演奏に完全対応した様な、間と音の拡がりを活かしたもので、聴けば、これはロンのベースと直ぐ判るほどの個性溢れるベースだった。

しかし、1970年代、マイルスの下を去って独立すると、ほどなくCTIレーベルに移籍。フュージョン・ジャズをメインに活動を継続する。リーダー作の制作については、リーダーとして、ロンの志向するジャズをセッションで具現化する部分はまずまず良好な内容だったのだが、ロンのベースの音自体がいただけない。アンプで電気的に増幅し弦高の低いブヨンブヨンとゴムが伸びたように間延びした、しかも、ピッチが外れたベースの音で、聴くのが辛いリーダー作も多々あった。
 

Ron-carterfoursight-the-complete-stockho

 
1990年代、ブルーノート・レーベルに移籍して以降、ベースの効くに耐えない音が改善され、アコースティック・ベースの弦と胴の骨太な「鳴り」を活かした、ピッチのずれもかなり改善された、まずまずのベース音に修正されて、やっとまともに、ロンのリーダー作を鑑賞する気になった。誰かに指摘されたのかなあ、特に21世紀に入ってからは、安定して端正でロンの個性溢れるアコベで活躍している。

さて、このストックホルムでのライヴ盤に話を戻すと、ロンのベースの音は良好。演奏全体の志向は、過去のモード・ジャズを踏襲しつつ、新しいアレンジや響きを散りばめた「軽めのネオ・ハードバップ」な演奏になっている。大向こうを張ったハッとするような新鮮さはあまり感じられないが、絶対に過去のコピー、過去の焼き直しなモード・ジャズでは無い、どこか現代のモード・ジャズの響きをしっかり湛えた演奏は、意外と聴き応えがある。

他のメンバー、特に、これまたベテラン女流ピアニスト、リニー・ロスネスのパフォーマンスが充実している。そう、ロスネス、モーダルなピアノ、弾きまくりである。とっても溌剌として元気なパフォーマンスにはビックリ。往年のロスネスがここにいる。

サックスのジミー・グリーン、ドラムのペイトン・クロスリーも、あまり馴染みのあるジャズマンでは無いにしろ、当ライヴ盤でのパフォーマンスは大健闘だろう。良い雰囲気、良い感じでのパフォーマンスは聴き応えがある。

選曲も奇をてらわず、と言って、皆がとても知っている「どスタンダード曲」に依存することもなく、ロンの自作曲も交えて、ちょっと小粋なスタンダード曲をチョイスしているところも良い感じ。

現代の「軽めのネオ・ハードバップ」盤として、なかなかの内容の好盤です。録音当時、81歳のロンが元気にプレイしているところも好感度アップ。レジェンド級ジャズマンのリーダー作として、一聴の価値アリ、ですね。
 
 

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