ブルーノートの音の「懐の深さ」
旧ブルーノートのカタログには「ライオンの狂気」と呼ばれるアルバムがある。ジャズの原風景である、アフリカン・ネイティヴな「リズム&ビートの洪水」がメインの内容で、アフリカ音楽の原風景、ジャズというよりは、今で言う「ワールド・ミュージック」なアルバム群である。
1554番・1555番の、Art Blakey『Orgy In Rhythm, Vol.1&2』(1957年3月録音)。その次に、ブルーノートの4004番・4005番の、Art Blakey『Holiday for Skins vol.1 & 2』(1958年11月9日録音)。ブルーノートの4097番の、Art Blakey『The African Beat』(1962年1月24日の録音)。1500番台、4000番台にそれぞれあるのだが、4100番台にも「ライオンの狂気」盤がある。
Solomon Ilori『African High Life』(写真左)。1963年4月25日の録音。ブルーノートの4136番。ちなみにパーソネルは、Solomon Ilori (vo, pennywhistle, talking drum, g), Coleridge-Taylor Perkinson (p, musical director), Jay Berliner (g), Hosea Taylor (as, fl), Ahmed Abdul-Malik (b), Josiah Ilori (sakara drum, cowbell), Robert Crowder (conga, shekere, cowbell), Montego Joe (conga), Garvin Masseaux (conga, xylophone, cowbell)。
アフリカン・ネイティヴなミュージシャンらしい、モダン・ジャズではほとんど見ない名前ばかりが並ぶ。ピアノもベースもアルト・サックス&フルートもアフリカン・ネイティヴ。ドラムやパーカッション、コンガ、カウベル、シロホン他、アフリカ音楽のリズム&ビートを司る打楽器がズラリと並ぶ。
出てくる音はもちろん、アフリカン・ネイティヴな「リズム&ビートの洪水」がメインの内容で、今で言う「ワールド・ミュージック」志向のダンサフルで躍動感溢れるもの。これがジャズか、と言えば、思わず「口ごもる」が、即興性を旨とした集団音楽という趣きはジャズと言っても良い、かとは思う。
音楽監督として、コールリッジ=テイラー・パーキンソンを別立てする念の入り様。アフリカ人の血の流れていない自分が、頭の理解だけで、アフリカン・ネイティヴな「リズム&ビートの洪水」がメインの「「ワールド・ミュージック」志向なアルバムをプロデュースしないところに、ブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンの「本気」感じる。
ジャズというよりは、アフリカ音楽の原風景、アフリカの土着音楽のリズム&ビートを聴いている様で、これはこれで僕は好きだ。「ワールド・ミュージック」志向のフュージョン(融合)音楽として、録音年の鑑みれば、先進的な内容と僕は評価している。まあ、これが当時、若しくは現代においても、セールス的に満足することが出来るか、と問われれば、応えは「No」。
売れないからと言って録音しないのでは無く、ジャズの大本の1つであるアフリカン・ネイティヴな「リズム&ビート」をメインとした「ワールド・ミュージック」志向のフュージョン(融合)音楽を記録したというところに、ジャズ・レーベルの老舗を運営していたアルフレッド・ライオンの矜持を感じる。
ちなみに、CDではボートラが3曲(1964年10月30日の録音)、「Gbogbo Omo Ibile (Going Home)」「Agbamurero (Rhino)」「Igbesi Aiye (Song of Praise to God)」が追加されている。この3曲については『African High Life』と同一の録音では無いが、内容的には、アフリカン・ネイティヴな「リズム&ビートの洪水」がメインの同傾向の音で、これを、もともとの『African High Life』の音と比べてみると面白い。
ちなみにパーソネルは、Solomon Ilori (vo, pennywhistle, talking drum, g), Coleridge-Taylor Perkinson (p, musical director) までは同じ、以下、Donald Byrd (tp), Hubert Laws (ts, fl), Bob Cranshaw (b), Elvin Jones (ds), Chief Bey, Roger Sanders, Ladji Camara, Sonny Morgan (conga, hand drum, perc)。
リズム隊以外は、当時のブルーノートのお抱えの売れっ子ジャズマンで固められていて、音楽監督もコールリッジ=テイラー・パーキンソン、もちろん、リーダーは、ソロモン・イロリなんだが、出てくる音が『African High Life』の音とはちょっと違う。
リズム&ビートはアフリカン・ネイティヴな「リズム&ビートの洪水」で同じなんだが、ドナルド・バードのトランペット、ヒューバート・ロウズのテナー&フルートのフロント2管の音がハードバップ・ジャズな音なのだ。ボートラの3曲は、アフリカン・ネイティヴな「リズム&ビートの洪水」がメインのハードバップ・ジャズという趣き。明らかにフレーズの音がモダン・ジャズしている。
しかし、ブルーノート盤として、正式にリリースしたは、先に録音された『African High Life』の録音であり、後の1964年10月30日の録音は、正式なアルバム化には至っていない。そういうところにも、ブルーノートの総帥ディレクター、アルフレッド・ライオンの、プロデューサーとしての、経営者としての凄みを感じるのだ。
『African High Life』はブルーノートの音作りにおける懐の深さの「賜(たまもの)」である。
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