フレディ・ハバードのお蔵入り盤
ブルーノート・レーベルの有名なアルバムのカタログに、1500番台、4000番台、4100番台、4200番台がある。ブルーノートは几帳面なレーベルで、それぞれの「番台」のカタログで空き番や飛び番が無い。
それぞれの「番台」で、ちゃんと100枚、アルバムがアサインさている。しかし、理由が明確では無い、アルバムの内容の出来は良いのに、何故か「お蔵入り」になったアルバムがある。これが実に不思議な存在なのだ。
Freddie Hubbard『Here to Stay』(写真左)。1962年12月27日の録音。ブルーノートの4135番だが、録音当時は未リリース。1976年になって、ようやくリリースされている(写真右)。ちなみにパーソネルは、Freddie Hubbard (tp), Wayne Shorter (ts), Cedar Walton (p), Reggie Workman (b), Philly Joe Jones (ds)。リーダーのハバードのトランペットと、ショーターのテナーがフロント2管のクインテット編成。
この盤は先にご紹介した、理由が明確では無い、アルバムの内容の出来は良いのに、何故か「お蔵入り」になったアルバムの1枚である。カタログ番号もアサインされ、アルバム・ジャケットも決定され、ほぼ全てを仕上げながら、当時リリースされなかった盤。
パーソネルを見渡せば、当時所属していた、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの親分のドラムを、マイルスの1950年代の黄金のクインテットのドラマー、フィリー・ジョーに代えたクインテット編成。ハバード以下のメンバーは、当時の新主流派の主要メンバー。それではこの盤の演奏の志向は「新主流派=モード・ジャズ」かと思いきや、従来の手慣れたハードバップの演奏が展開されるから、ちょっと肩すかしを食らう。
フィリージョーに遠慮した訳でもないのだろうが、このハードバップの音はちょっと違和感が伴う。1950年代のハードバップの名演の数々の様に「熱く」ない。というか、悠然としていてクール。まるで、モード・ジャズを演奏する雰囲気とマナーで、ハードバップを振り返って演奏している感じがするのだ。
収録された楽曲も取り立てて共通項は無く、ジャム・セッションの時の様な「その時に思いついた様な」選曲。しかしながら、スタンダード曲の選曲は良い感じ。が、これらのスタンダード曲はモードで演奏して欲しかったなあ、と感じる。ハードバップ風に演奏しても良い感じなんだが、このメンバーではモードでの演奏を聴きたかった思いがする。
しかし、この「モード・ジャズを演奏する雰囲気とマナーで、ハードバップを振り返って演奏している感じ」でも、超有名スタンダード曲の「Body and Soul」は名演に値する。ハバードのクールな吹きっぷり、ショーターの新鮮なアドリブライン、ウォルトンのクールで小粋に揺らぐピアノ。1960年代の「ジャズの多様化」の時代に、新しい響きを宿したハードバップな演奏と解釈。
1962年当時、ジャズの多様化の時代、そして、この盤のメンバーの大半は新主流派でモーダルなジャズが得意。そんな時代とメンバーでハードバップをやったから、判り難いというか、理解し難いというか、当時のジャズの演奏トレンドに乗った個性が際立たないというか、恐らく、聴き手に強く訴求しないのでは、とブルーノートの総帥プロデューサー、アルフレッド・ライオンは判断したのかもしれない。
それでも、メンバー個々のパフォーマンスは水準をはるか超えている。これだったら、モード・ジャズをやれば良かったのになあ、と思う。アルフレッド・ライオンもそう思ったのでは無いか。やっぱり、皆、フィリージョーに遠慮したのかなあ(笑)。
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