バリサク炸裂のフュージョン盤
フュージョン・ジャズは、1970年代後半から1980年代前半までが流行期だったが、それ以降の時代でも、フュージョン・ジャズは切々と深化している。「時代の徒花」などという揶揄もあるフュージョンだが、優れた内容のアルバムも多くあって、僕は「フュージョン・ジャズ」という1つのジャズの演奏トレンドを肯定的に認めている。
Ronnie Cuber & David Sanborn『Pin Point』(写真左)。1986年の作品。我が国の「ELECTRIC BIRDレーベル」からのリリース。ちなみにパーソネルは、Ronnie Cuber (bs), David Sanborn (as), George Wadenious (g), Rob Mounsey (key), Will Lee (b), Steve Gadd (ds), Steve Thornton (perc), David Matthews (arr)。
バリサクのキューバー、アルトのサンボーンのフロント2管に、キーボードのリズム・セクション、そして、ギター、パーカッションが入ったセプテット編成。アレンジはデイヴィッド・マシューズが担当。
リリース年の1986年は、フュージョン・ジャズのブームは去って、純ジャズ復古が始まった時代。フュージョン・ジャズは成熟仕切り過ぎて、冗長で甘い、AOR志向のイージーリスニングなフュージョン盤が細々とリリースされていた、と記憶する。あの頃を振り返えると、「ああ、フュージョンも終わったなあ」と寂しく思ったことを覚えている。
皆がこぞって、純ジャズ復古に流れていく中、この盤のリリースに出会った。とにかく、ロニー・キューバーのバリサクが好きで、ディヴィッド・サンボーンのアルトが好きで、そんな2人がフロント2管を仕切るフュージョン盤である。聴く前から不思議とこの盤は、おざなりな「AOR志向のイージーリスニングなフュージョン盤」では無いと感じていた。
で、聴いてみると「当たり」。フュージョン・ジャズの「良き時代の良きサムシング」が横溢した、ばりばり硬派なフュージョン・ジャズが展開されている。メンバーもフュージョン全盛期の第一線を走り抜けてきた強者共ばかり。メンバーそれぞれが好調で、味とテクニック溢れる、力の入ったパフォーマンスが展開される。
もちろん、キューバーのバリサク(全曲参加)とサンボーンのアルト(1曲目「Two Brothers」と4曲目「Move It」のみ参加)は絶好調。なるほど、フロント管がきっちりキメるセッションは絶対に内容が良い。
特に、キューバーのバリサクがとても良い。低音のブラスの響きを轟かせて、時に捻る様に、時に軋むような、バリサク独特のエネルギッシュでクールなブロウを吹き上げる。あれだけ図体のでかいバリサクを駆使して、意外と速いフレーズを吹きまくっていくキューバーは迫力満点。
僕の大好きなスタンダード曲「On Green Dolphin Street」は、アレンジ、演奏共に素晴らしい出来。キューバーのソロは圧巻、マシューズのアレンジは、ライトな「ネオ・ハードバップ」で、意外と硬派で骨太な展開。最後がフェード・アウトで終わるのが惜しいが、この演奏は素晴らしいの一言。
バックの面々も好演につぐ好演で、ガッドのシャッフル・ビートなドラミングはとても小粋に響き、マウンジーのシンセはお洒落でご機嫌、リーのベースのスラップも格好良く、ヴァンドロスのエレギはフュージョンな響きが満載。
良い内容のフュージョン盤です。硬派でイージーリスニングに流れない、後のライトな「ネオ・ハードバップ」志向のエレ・ジャズで、アルバムに収録された全曲に、マシューズのアレンジがバッチリ効いています。
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