キット・ダウンズと再び出会う
21世紀のECMレーベルに録音するミュージシャンは「多国籍」。以前は北欧、ドイツ、イタリアがメインだった様に記憶するが、21世紀に入ってからは、範囲を拡げて、イギリス、東欧、中近東、そして、ジャズの本家、米国出身の若手〜中堅ミュージシャンの録音を積極的に推し進める様になった。
Kit Downes『Dreamlife of Debris』(写真左)。2018年11月、英ウェストヨークシャーのハダースフィールド大学「St. Paul's Hall」でのライヴ録音。ECMの2632番。
ちなみにパーソネルは、Kit Downes (p, org), Tom Challenger (ts), Stian Westerhus (g), Lucy Railton (cello), Sebastian Rochford (ds)。ピアノ&オルガンのキット・ダウンズがリーダーの、チェロ、ギター入り、ドラムのみ、ベースレスの変則クインテット編成。
Kit Downes(キット・ダウンズ)は、英国のジャズおよびクラシックの作曲家、ピアニスト&オルガニスト。 1986年5月生まれなので、今年で37歳になる中堅ジャズマン。英国では、ピアニストのジョン・テイラーが、1970年代以降、ポスト・バップなニュー・ジャズ志向のモーダルなピアノを展開したが、ダウンズはこの「ポスト・バップなニュー・ジャズ志向」のピアニストの1人になる。
英国のジャズと言えば、メインストリーム志向の純ジャズについては、ビ・バップ至上主義が長く続いて、どちらかと言えば、旧来のジャズの枠に留まった中間派ジャズを中心に発展した様に思う。しかし、21世紀に入って、急速にポスト・バップ志向、ニュー・ジャズ志向の展開が出てきて、ダウンズの様に、英国ジャズの枠を越えて、グローバル化に走るジャズマンも出てきた。
さて、この『Dreamlife of Debris』であるが、出てくる音は、従来の「英国ジャズ」の雰囲気は皆無。ECMジャズ志向の耽美的でリリカル、透明度が高く、音の拡がりと間を活かしたニュー・ジャズな音志向が強く出ている。
ピアノはリリカル、ファンクネスは皆無、音の透明度が高い欧州ジャズ志向の純ジャズ・ピアノが、変幻自在、硬軟自在に、音のエコーと拡がりと間を活かして、時に耽美的に、時にスピリチュアルに変化していく様には、思わず真剣に聴き耳を立てたりする。
このクインテット演奏でユニークなのは、ダウンズ自身が弾くオルガンの音とルーシー・レイルトンの奏でるチェロの音。このオルガンとチェロの音自体が、ECMジャズのニュー・ジャズ志向を増幅し、このオルガンとチェロの音の拡がりが、ECMジャズ志向の音世界に不思議な変化を醸し出す。
特にオルガンの音は、ECMジャズにとっては「不意打ち」に近いイメージなんだが、これはこれで良い感じ。ECMジャズにオルガン、これ「目から鱗」です。
どこか「アンビエント・ミュージック」を彷彿とするフレーズも満載で、ECMジャズの美意識そのものの音世界は結構、癖になる。当然、即興演奏がメインとなった展開で、クールで静的な展開ではあるが、時にフリーに展開する部分もあり、丁々発止とインタープレイを展開する部分もあり、欧州ジャズの秀作として、しっかりと楽しめる内容になっている。
これも「ジャズ」である。21世紀に入って、ジャズの裾野はどんどん広がっていく。
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