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2023年4月12日 (水曜日)

トランペッターのアヴィシャイ

21世紀に入ってからずっとECMジャズの快進撃が続いている。一時、現代音楽や現代クラシックの融合に傾倒して、即興演奏がメインではあるが、モダン・ジャズとはちょっと距離ができはじめた時期もあった。が、21世紀に入ってから、米国出身の実績あるジャズマンや中近東や東欧のジャズマンをリーダーとして登用したり、以前より、純「欧州」にこだわらない音作りになって以降、逆に新しいジャズの要素が強く出るようになって、ECMは現代ジャズを牽引する重要なジャズ・レーベルのひとつに返り咲いている。

Avishai Cohen『Into The Silence』(写真左)。2015年7月の録音。ECMレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Avishai Cohen (tp), Bill McHenry (ts), Yonathan Avishai (p), Eric Revis (b), Nasheet Waits (ds)。イスラエル・テルアビブのトランペッター、アヴィシャイ・コーエンがリーダーのフロント2管のクインテット編成。

ECM独特のエコーのかかったトランペットの音を聴いて、思わず「マイルス・デイヴィス」を想起した。スッと伸びた、やや「ひしゃいだ」様な、ブリリアントでクールな音色。ミッドなテンポで囁くように語りかける様な吹き回し。拡がりと奥行きと伸びのあるモーダルなフレーズ。アヴィシャイのトランペットは、マイルスのトランペットを、クラシックっぽく整えて欧州ジャズ化した様な音なのだ。これが実に「染み入る」。

演奏の基本はモード。モード・ジャズのECM版、欧州ジャズをベースにしたモード・ジャズ。リズム&ビートは柔軟。時々、スピリチュアルな響きも出てくる。欧州ジャズの下でのモード・ジャズなので、ファンクネスは皆無。フレーズのここかしこに、エスニックな雰囲気が漂う。いわゆる「イスラエル・ジャズ」の特質もしっかりと反映されている。
 

Avishai-coheninto-the-silence

 
共演のメンバーも皆、好演。特に印象に残るのは、ヨナタン・アヴィシャイのピアノ。モーダルなピアノで、音を拡げていく様なアルペジオな弾き回しは、どこか「ハービー・ハンコック」を、現代音楽的な硬質なフレーズを繰り出すところは「チック・コリア」を想起する。が、物真似では全く無い。ヨナタンのモーダルなピアノは、いかにも欧州ジャズらしくファンクネス皆無、マイナー調な哀愁感がドップリ漂う個性的な音。

ナシート・ウェイツのリズム・キープでなく煽るようにフィルをつぎつぎ入れてくる手数多いドラミングは、まるで「トニー・ウィリアムス」。欧州ジャズよろしくクールで透明度の高いトニー、といった風情の、クールで情感溢れる多弁なドラミングはとても印象的。演奏全体のリズム&ビートを取り回し、キープし、演奏全体の「底」をサポートするのは、エリック・レヴィスのベース。これまだ、このレヴィスのベースを聴いていると「ロン・カーター」を想起するのだ。

テナー・サックスのビル・マッケンリーはモーダルなテナーで、欧州ジャズ的なフレーズを吹き上げる。クールでモーダルで、時々エスニックなフレーズは、フロント管の相棒、アヴィシャイのトランペットの「影」の様に、アヴィシャイのトランペットを引き立て、魅力を増幅する。アヴィシャイのトラペットを良く理解したフロント管の相棒である。

現代のECMレーベルらしい音作りになっていて、欧州ジャズ、ECMジャズにおける「モード・ジャズ」といった、今までのECMレーベルに無い演奏内容が実にユニークかつ素晴らしい。この盤を聴いていて、21世紀に入って「ジャズのグローバル化&ボーダーレス化」が進んでいることを改めて実感した次第。良い内容のアルバムです。
 
 

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